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【第8回】松永天馬の歌詞深読みゼミ「Darling/西野カナ 」

アーバンギャルド松永天馬の歌詞深読みゼミでは、J-POPの歌詞を題材にしながら、歌詞の深読みを行なっていきます。
スペシャカレッジ通信 串田

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課題曲「Darling/西野カナ」
作詞:Kana Nishino

「Darling/西野カナ」の歌詞はこちら

串田

きゃりーの「芸能界は汚い」発言に関してどう思われますか?

松永

本人がどう思ってるのはさておき、
ああいう発言によって結果的に、
きゃりーさんがドキュメンタリーになっていくといいますか。
本人達は意識してないけど、
スター性のある人は、
起こってしまった出来事を無意識に物語化できるというか。

串田

きゃりーって自分自身に文脈性をつけるタイプではないと思ってたんですが、
ここでぐっとドラマチックになってきましたよね。

松永

いわゆる中田ヤスタカ型のアイコンで、感情が表に出ない、
かなりフラットなキャラクターとして出て来たと思うんですけど、
ここに来てエモい瞬間がでたのが良かった。

串田

綾香さんとかが持ってる文脈性。
ディーバ系アーティストが持っているもの。

松永

あーいう文脈を作るのは、
どちらかというとヤンキー系のアーティストの特権だと思うんですよね。
きゃりーはそういうタイプでもなかったし、
アイドル的な文脈があるのかというとそういうものもない、
かなりフラットな立場だったと思うんですが、
根底にあるヤンキー成分が出たかなと。

串田

確かに。
東京二十三区生まれではないですしね。
原宿が地元ではない。
というか、地元が超都会で、
わかりやすく都会的なことをしまくる人ってあんまりいないですよね?

松永

やっぱりお洒落って、東京の人間より、
地方の人が都会的なものとかお洒落にコンプレックスを持ってくるから成立するというか、
そういう人こそお洒落になるというか。
「群馬県出身のデザイナーが多い」って聞いたことがありますけど。

串田

(笑)
本当かよ!

松永

北関東は、東京にあこがれてるけど、
近づけそうで近づけないっていう距離感なんですよね。
僕も東京出身ですけど、
お洒落はからきしダメで。
やっぱり首都圏近郊から来た子の方が、
ギラギラしてるしオシャレッツしてますよね(笑)。

串田

確かに、
ショップ店員とかはそういう出身が多そう。
きゃりーも本当はそういうマインドの持ち主なところはありますもんね。
多分。

松永

そうそう!

串田

女性ミュージシャンはしかし大変ですね。
いろいろあって。

松永

女性ミュージシャンは人生のイベントが色々多いじゃないですか。
男性は独身で過ごした場合かなりシンプルなもんですが、
女性は社会や近親者からの無言の圧力ってところも含めて、
結婚、妊娠、出産、子育て、離婚、介護とか、
そういった人生のイベントがどうしてもついてくると思うんですけど、
我々は女性アーティストのファンになると、
そのイベントも一緒に体験しなければならない。

串田

男性もイベントはあるけど、
それがドラマチックに作用するかというと、
あまりされない場合は多い。
女性アーティストはドラマチックに映る。

松永

僕の世代…三十代前半の椎名林檎直撃世代から見ると特に、
彼女はデビューから今に至るまで劇的な変化を遂げてますね。
ファースト「無罪モラトリアム」セカンド「勝訴ストリップ」の林檎の方が楽曲の中毒性は強いと思いますが、
初期衝動のキャラクターを脱皮して、
洗練させる方向に行ったんですよね。
歌詞も情動的な方向から、人工的な方向に行った。
あれはやっぱり彼女なりの自覚があったからでしょうね。
10代20代の感性が、子供を産んだことによって変わりゆくことを自覚して、
キャラクターを意識的に変えて行った。
東京事変を見て、知人が「非常にドイツ的だ」と言ったんですよ。

串田

おー。

松永

神経質なまでに作り込まれていて。
東京事変は、
椎名林檎が自分をソフィスティケートさせて行くために始めたプロジェクトだなって気がして。

串田

ある一定以上になった時の変化は当然ありますよね。
僕が思うのは、木村カエラさん。

松永

結婚&出産を経てますからね。
だけどその変化が逆に、
ポップアイコンとして彼女を不動のものにしている。

串田

では、強引に本題に入りますが(笑)
女性アーティストを語る上で、
今外せない存在が西野カナ。

松永

僕のような西野カナさんに詳しくない人間は、
会いたくて会いたくて震える」のイメージが強い訳ですよ。
あの歌は今の若者の密着型の恋愛をわかりやすくしましたよね。
速水さんの「ケータイ小説的。」でも語られてましたけど、
着うた系は携帯で音楽を聴取することを前提としてるし、
携帯を使ったコミュニケーションを前提とした歌になりがちだったんですよね。
「会いたくて会いたくて震える」っていうのは、
5分相手から返信が無いといらいらする現代っ子の心情を表してますよね。

串田

もう5分というか、なんというか。

松永

昔の方が今よりも恋愛に距離があったと思うんです。
電話で連絡しようにも固定電話しかなくて、
まず彼女の家に電話してもお父さんがでるわけじゃないですか。

串田

そうですね。
当然、その心情を歌う。

松永

井上陽水の「断絶」なんてまさにその世相を歌ってますけどね。
近所で女の子とデートしてたらお父さんが出てきて文句つける歌ですけど、お父さんの文句がサビ(笑)。
つまり、昔は親という難関を突破しないと娘とデートできなかった。
セーフティネットが働いていたというか。
でも今は、みんな携帯電話を持ってて、
「会いたくて会いたくて震える」から5年たった今では、
LINEというものがあって、
「既読がついたらもうすぐにでも返信しなければならない」という時代になって。
遠距離恋愛から近距離恋愛でもなく、
最前ゼロズレ恋愛というか。近い。近すぎる。

串田

西野カナさんは、
LINE的な社会に対しての導入ではあるとは思いますよね。
メールがメインだけど、
どんどん距離が詰まって行く時代の感じ。

松永

もう感覚を楽しむというか、
相手からくるまでの数分感を歌ってた歌ですよね。
そして、今回の「Darling」ですが。

串田

きましたね。

松永

「会いたくて会いたくて震える」以外のイメージが
かなり出てきてるんだなって印象を持ちまして。
まず詞の前に声質の話になっちゃうんですけど、
西野カナさんがゼロ年代の着うた系と圧倒的に違うのは、
「歌詞が聞き取りやすい」ってこと。

串田

(笑)
確かに!

松永

歌詞が聞き取りやすいっていうのは、
彼女のような共感系の歌詞を書く人にとっては結構重要ですよ(笑)
一昔前の着うた系はボイトレ歌いというか、
力んでいて、メッセージより技術が前面に出過ぎている印象。
でも西野カナの声は適度に乾いてリラックスしてる。
浜崎あゆみも一番最初は詞が聴き取りやすかったんですけど、
最近はやたらビブラートを効かせるというか、
演歌というか。
あれで歌詞がぼやけた気がするんですね、個人的には。
そして西野カナは良い意味で、普通の女の子の感性も持っている。
普通の大学生活や、社会人生活、
日常をフラットに切り取った客観的な歌詞を書けるんですよね。

串田

確かに。

松永

そうなんですよ。
自分自身の西野カナっていう
キャラクターをある程度コントロールしてると思うんですよね。
一番最初は加藤ミリヤと共に、
ギャル演歌の騎手みたいな言われ方してましたが。

串田

でもギャル演歌の感じって感じなくないっすか?
もう。

松永

確かに。
情念よりも客観性が勝ってる。
メンヘラ度が下がったというか(笑)

串田

うーん、
今回の曲とかもな。

松永

だから、今回の「Darling」を聞いて思ったのは、
会いたくて会いたくて震えてたあの子も、
手首の傷なのか、心の傷なのかを隠して、
今はそれなりに幸せに暮らしているのかなと。
大学のサークルで知り合った男性と同棲とかしていて。
彼はもちろん危険なホストとかではありません。
一般企業に勤める健康な二十代半ば。
2人とも大学を卒業して、同棲生活も二年目ぐらい。

串田

確かに、
全然一般的。
いわゆるいい感じの2人。

松永

ここで注目すべきは、
彼が「靴下を裏返しにして寝てしまう」ってとこなんですけど。
これってお父さんですよね、言うなれば。
ファザコンとまでは言わないとしても、
お父さん的なものを彼に感じてると思うんですよね。
あとは、抜け殻って言葉が出てくるんですけど、
「今日もあなたの抜け殻を全部集めなきゃ」ってとこなんですけど。

串田

タオルをそのままソファーに置いちゃったり。
新聞をそのまま置いちゃったり。

松永

雑誌のページを開きっぱなしにしておいちゃうような。

串田

あるある。

松永

ここで、
彼のキャラクターを表すものとして、
いくらでもロマンチックな表現は出来るのに、
あえて靴下の描写をしてるのがポイントですよね。
……西野カナさんは匂いフェチだと思うんですよ。

串田

(笑)
確かに、
ここまで色々ある抜け殻の中で、
靴下だけを持って来た理由。

松永

よく女の人で、
彼氏の脱ぎ捨てた靴下を拾って、
匂いを嗅いでから洗濯かごに入れるって話を聞くんです。

串田

あー、多いですよね。

松永

女性の方が匂いフェチが多いんです。
っていうのは理由があって、
男性は遺伝子レベルで、感覚が視覚情報に偏りがちなんですが、
女性は視覚だけじゃなくて、
嗅覚とか味覚とか触覚とか色んなところから情報を得てきている。
これをわざわざ書いてしまう西野カナさんは、
彼氏の靴下の匂いを嗅いでいる匂いフェチなんだなって。

串田

悪くない。
僕西野カナ好きだ。
でもギャル感なくなってきましたね。
今回の曲なんて特に。

松永

そう。
誰にでも当てはまる可能性がある。
主人公は「変わり者同士」って言ってるんですね二人のこと。
でも正直、めっちゃ普通だし。
よっぽど「会いたくて会いたくて震える」時の恋愛の時の方が、
異常だし、彼氏も危険そう。
まーでも、未婚なんで、
同棲期間の長いカップルは結婚できなくなるって言いますから、
また「会いたくて会いたくて震える」フェーズがまた戻ってくるのかなと。

串田

なるほど。
っていう西野カナさんですね。

松永

絶対匂いフェチ!

串田

そこなんだ(笑)

松永

間違いない!


次回に続きます。

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