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2017年の漫画ベスト108作品

2017年に刊行された漫画の中で、面白かった・価値があると思った作品をランキング形式で羅列しました。漫画選びの参考になれば幸いです。

この記事は2018年1月3日に脱稿しました。約32,000文字です。全文無料です。

順位の基準の傾向としては、2017年に完結して最終巻が出た漫画をやや優遇したいという点と、ジェンダーおよびセクシャリティその他の所謂ポリティカル・コレクトネスを意識したいという点はあります、が、基本的には個人的に面白かったかどうかです。ジャンプ漫画については本誌連載分まで読んでいます。序盤は批判的な言及もしていますが、50位くらいからは特にオススメしています(最後に2017年のワーストも載せています)。

読んでいる漫画の量は年間600冊くらいなので名作でも抜けもあると思います。これが面白いよ、という作品があれば是非ご教示ください。

2016年のオススメの漫画まとめ ベスト40作品」も1年前に書きました。結構かぶってます。


108位 葦原大介『ワールドトリガー』既刊18巻

108位にしていますが、はっきり言って1位です(いきなり)。この順位にしたのは、18巻は2017年に刊行されているものの、残念ながらジャンプ本誌で連載休止中だから。それでも記事の中で最も目立つ位置にしたかった。

多彩にして魅力的なキャラ、汎用の武器を使用して複数人数の報告・連絡・相談による連携と戦術で戦うという強さのインフレが抑制されたバトル漫画のスタイル、トリオン体によるダメージの描写のしやすさとベイルアウトによるキャラの再度の使い方、極めて安定した作画などなど、バトル漫画として非常に斬新であり、最高だと思っています。一番人気のカップリングが謎というくらいにキャラが多彩かつ関係性が多様なのも良い。個人的には風間隊・那須隊・香取隊・ガロプラが好きですが、いや、全部好きですよ!

初読の人はまず4巻まで、そして7巻まで、更に10巻まで、そこから一気に18巻まで読んでください! 本当にオススメしてます。葦原先生の回復を心より願っております。

107位 堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』既刊16巻

キャラの多さや個性の設定は良いとは思うのだけれど、戦闘描写がしばしば「限界を超える」ことに終止してしまうのと、敵(ヴィラン)の描写があまり深くないのと、人気はあるんだろうけれど爆豪のキャラについていけないというあたりは不満ではある。治崎はカッコ良かったのに、もう少し上手く使えなかったのかなぁと思ったり。でも梅雨ちゃんとかトガちゃんとかトゥワイスとか個々のキャラは好きですし、少年バトル漫画の中心の一つになる作品だとは思っています。

106位 田中相『LIMBO THE KING』既刊2巻

所謂「漫画読み」ウケするバディものSFとしてクオリティの高さは感じる。ただ、設定がどうしても複雑なのと、それをルネというか作者が独占して小出しにする感じがして、個人的にいまいちのめり込めない。『新世紀エヴァンゲリオン』からそうだけど、限られた個人にしかできない重要作戦なのにほとんど説明無しで本番にぶっこむって組織としてどうなんですかね…。それでも、面白さを感じないわけではないというか、やはり上手いなぁとは思っています。

105位 大今良時『不滅のあなたへ』既刊5巻

『聲の形』は賛否両論あれど全体的には価値のある作品だったと思うけれど、本作は、ちょっと何をしたいのか、何をやっているのか、どこに向かうのかがよくわからない。漫画の表現能力が卓越しているだけに、圧倒的な表現能力で意味と目的のわからないものを描いている、という感じがして、なんというか勿体無い。フシが構築していく人間関係も旅を続けて(身体に取り込んではいるものの)リセットされていくのも勿体無い。個々の描写の「すごさ」や「上手さ」は感じるし、価値のある漫画なのだとは思うけれど…。

104位 横田卓馬『シューダン!』既刊1巻

ジャンプ本誌での掲載順はずっと最後尾の方だし、確かにそこそこのチームで少年少女サッカー漫画をやりたかったのか、成長した後のサッカー漫画をやりたかったのか、男子チームの中に入る女子という状況をメインとしたかったのか等々、描きたいことが判然としないまま進んでしまったし、サッカーという競技なので試合ごとにキャラがどうしても非常に多くなってしまうという面もあって全体的に目的の分からない漫画に見えてしまうけれども、メインキャラはしっかりしているし、かわいい。あと横田卓馬先生のジャンプ愛は都度都度の小ネタで強く感じる。個人的には応援しています。

103位 高浜寛『ニュクスの角灯』既刊3巻

高浜寛にしてはエグくない…とは思うけれども、明治初期の社会設定で少しずつ外国語を含めた教育を受けるという描写自体は好きです。モモさんはややどうでもいいとして、美世と大浦慶と岩爺は好きです。

102位 諫山創『進撃の巨人』既刊24巻

マーレ編が冗長過ぎる…。超有名作品を長期連載してきていて、ある意味で「別の漫画」を描きたい欲求の消化なのかもしれないけれど、裏設定レベルでもいいのでは。最終的に完結してから価値が出るのかもしれないし、公式が考察同人誌と考えればそれはそれで味があるけれど。あと「便衣兵」という表現が出てきたり、「東洋から来たヒィズル国の人」が差別をせずに優しかったりと、そこはかとなく危うい描写が出てきたり…。でもまぁ、本作らしい表情表現自体は、やっぱり好きです。

101位 桜井画門『亜人』既刊11巻

純粋な「佐藤さんカッコいい漫画」になっている。とにかく「にこやかな初老の男性がめっちゃ強い」というフェティシズムを強く感じるし、そのフェティシズムはある程度わかるけれど、それ以上は特に無い。序盤は人間社会と亜人の融和とかもう少しやるのかと思ったんだけどなぁ。11巻に入間市民体育館が出てくるので入間市民147,000人は読んでもいい。

100位 石田スイ『東京喰種トーキョーグール:re』既刊13巻

キャラも多彩で面白かったのだけれど、ここ最近は作者の悪ノリが酷すぎる。作者自身が旧多二福になればいいってもんじゃねぇぞ。11巻の「このあと政は滅茶苦茶斬られた」とか、12巻の唐突に濃厚なセックス描写とかまではともかく、13巻の金木vsジューゾーはあまりにも酷すぎる。そこまで構築してきた面白さで100位としていますが、『:re』13巻に関しては怒っていい。赫子の有利不利とか既に関係なく、戦闘はほとんどゴリ押しになってるし…。ジューゾーとか真戸暁とか平子丈とか宇井郡とか、個々のキャラは好きなだけに、なんとも勿体無い。あとずっと思ってるけど、本作は作中にもっとふりがなをつけるべき。

99位 雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。』既刊1巻

1話と2話はセンセーショナルにするために重々しい要素を使っている感じで微妙だったけれど、4話の「よく生きる」の相手への理解の仕方は非常に良かった。倫理の先生として「論破」を中心とするのではなく、相手の話を受け止めたり、意外なほどの柔軟性を持っていたりするあたりは良い。

98位 渡辺航『弱虫ペダル』既刊53巻

まず2年目を描けたこと自体は部活漫画として賞賛したい。内容としてはどうしても1年目の繰り返しになるし(特に呉南)、もはやセルフパロディなんじゃないかというくらい「ゴール前の接戦→回想→各自の背負う想い」のパターンが決まってきてしまっているのも事実。とはいえ、それでもなお、そんな批判をねじ伏せるだけの力のある作品だとも思っています。3年目に段竹が活躍するまで読みたい。

97位 KAITO『青のフラッグ』既刊3巻

ゲイやレズビアンなのではないかという要素を入れてはいるけれど、全体的にはやや旧来型の青春物語かなと。でも、やはりまだ本作くらいの描き方でも価値はある。複数作品でそれぞれに描かれるからこそ、多様性や悩みは見えてくると思うから。

96位 橋本智広、三好智樹『中間管理録トネガワ』既刊6巻

面白いのは面白いのだけど、本作も『1日外出録ハンチョウ』も『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』も『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』も、そりゃ営利企業としては売れるものを出すだろうけれど、出版社が直接やるにはなんか原作とキャラの食いつぶしだとも思ってしまう。麻薬のようなものというか。しかしまぁ、そこは仕方がないか…。

95位 上原求、新井和也『1日外出録ハンチョウ』既刊2巻

相対的にではあるけれど、『中間管理録トネガワ』よりもこちらの方がグルメ漫画要素もあってちょっと好き。でもこういう原作ありきのネタ同人誌的なものを公式に評価するのは、なんだろうな、二次創作への嫌悪を内面化しているのかもしれないけど、微妙に抵抗あるのよな…。

94位 宮原るり『僕らはみんな河合荘』既刊9巻

下ネタ満載の恋愛漫画だし、童貞ネタとかいちいち鬱陶しいくらいではあるけれど、その中心である麻弓さん自身は何故か漫画のキャラとして好きなので、一応ランクイン。宇佐と律先輩は、まぁどうでもいいです。9巻のAmazonレビューが異様に高評価なのはなんなのか…。律先輩が宇佐を好きになる要素とかあったかな…。本作の主人公は麻弓さんです。

93位 たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』既刊8巻

あまり描かれてこなかった元寇、それも対馬という目の付け所は良い。輝日姫が主人公にあっさり惚れるあたりは漫画として雑だと思うけれど、元軍も一枚岩ではないという点や、もし元寇まで生きていたら100歳くらいになるあの歴史上の人物を登場させるというケレン味もあって、そこそこの面白さはある。

92位 小沢としお『Gメン』既刊15巻

形式的には普通の不良漫画。雑な下ネタが多かったり、女性キャラがしばしば人質になったりするあたりは今でもあまり良くない意味で変わらないとは思うけれども、露骨にオタクな肝田が不良連中と仲良くやっていたり、所謂オネエではないゲイのキャラを主人公が真っ向から擁護するあたりとかは意外性があって良い。

91位 衿沢世衣子『うちのクラスの女子がヤバい』全3巻

タイトルで若干敬遠していたけれど、思春期特有の無用力を持ちながらきちんと優しい青春物語をしていて、思った以上に良かった。SF(少し不思議)の学園モノとして気軽に楽しく読める。

90位 山田参助『あれよ星屑』既刊6巻

戦後の焼け跡とそこでたくましく生きる人々、というだけであれば様々に描かれてきたことではあるだろうけれど、本作はその絵柄もマッチしていて上手く説得力を感じさせる。あの父親のようなクズは、しかし、少なからずいたんだろうなぁとも思う。

89位 佐々木陽子『タイムスリップオタガール』既刊2巻

タイムスリップするオタガールという状況設定そのものだけで目の付け所は充分良い。1巻は少々重苦しいなぁ…と思っていたけれど、大人になってから振り返ってみれば子供の頃の限定されたコミュニティの狭さなんてたいしたことではない、ということが滲み出ていて、そういう面でも面白さはある。

88位 伊図透『銃座のウルナ』既刊4巻

これも「すごいことが描いてあると思うのだけれど僕にはよくわからない」枠。白井弓子『WOMBS』を読める人ならば読みこなせるのではなかろうかと思いますが(僕には読めませんでした)、僕にはちょっとどう捉えればいいかが判断つきません。SF的な軍隊(女性部隊)の中での女性同士のセックスとか、単に演出上のものでしかないのか、もう少し深読みできるのか。人の批評を聞きたい漫画。

87位 桑原太矩『空挺ドラゴンズ』既刊3巻

普通にクオリティが高く面白い漫画。とはいえ斬新さがそこまであるわけでもなく、物語上の目的も明確なわけでもない。気軽に読んで面白い、という意味では漫画らしい漫画ではあった。自分でも何を言っているのか不明瞭だけど、評価に困りつつ評価したい漫画。いや、本当に「普通に面白い」の中の上位でも下位でもなく普通の方。

86位 池辺葵『プリンセスメゾン』既刊4巻

池辺葵の漫画は優しくてかわいくて詩的なのでとても良い。ただ、本作は家(マンション)を買うというのが中心となっているけれど、今の日本で収入の総多くはないであろう単身の人がマンションを買うというのはかなりリスクが高いんじゃないかな…と思ってしまう(これは男女問わず)。そういう意味で本作は良い漫画であるにも関わらず、不安な生々しさを感じながら読まざるを得ない。

85位 森田るい『我らコンタクティ』全1巻

序盤はどういう進め方をするか迷っていた感じもあるけれど、後半でロケットを飛ばそうとするあたりからはきちんと面白く、クライマックスのカウントダウンは純粋に感動した。新進気鋭の映画監督に低予算でいいから映画化して欲しい感じの漫画。恋愛オチにしないあたりも良い。

84位 板垣巴留『BEASTARS』既刊6巻

どうしても『ズートピア』と比較してしまうものの、それに決して負けないだけの力量を持った漫画…と評価していたけれど、5巻から展開が一気に安っぽくなってしまったような。優しい物語ではあり得ないということ自体は良いにしても、囚われた女の子を救いに行く展開や、かなり漫画的に定式化された恋愛、ルイの立場の放棄なんかは、あー、そっちに行っちゃうのか、という感じ。恋愛とマフィアを使わずに学園内の社会だけでも面白くできたと思う(というか実際面白かった)んだけどな…。

83位 白井カイウ、出水ぽすか『約束のネバーランド』既刊6巻

『このマンガがすごい!』1位。心理戦と情報戦を駆使したジャンプの新しい看板でもあり、脱獄編のテンポの早さと緊張感は突出して良かった。シスターの意外なほどのキャラの良さや、「内通者は君だったんだね」のあたりの天才キャラ同士での話の早さは圧倒的と言っていい……のだけれども、これも脱獄後が良くなくて、エマもレイも単に流されているだけでグダグダなのがな…。最近のジャンプ本誌での唐突な移動展開はちょっとツッコミどころが多すぎる。エマも弓の扱いとかどこで覚えたんだっていう。人間同士の心理戦が面白い漫画で、「鬼」の存在をどう描くかだけが不安だったけれど、まさにその不安が的中してしまった感じ。本作には『進撃の巨人』みたいな戦闘を求めているわけじゃないんですよ。ノーマン早く帰ってきて…というのが率直な思いです。あとママとシスターは百合。

82位 室井大資、岩明均『レイリ』既刊4巻

戦国時代の中心時期であるにもかかわらずややマイナーな部分を突いてきた漫画。レイリの強さは漫画的かもしれないけれど、作品から感じる空気は冷たく、岩明均作画ではないし輪切りもないのに確かに岩明均を感じる。武田勝頼が愚鈍に描かれていので勝頼ファンの人は注意。

81位 迂闊『日々是平坦』既刊1巻

平凡な学園モノながら、男女が結構仲良くやっているあたりが良い。恋愛は序盤の2人に任せておくとして、高校生のしょうもないとも言えるようなノリも気軽に楽しく読める。ふじょしキャラが露骨なキモオタみたいな描き方ではなく普通にいるあたりも、現代を感じるなぁと。

80位 つくみず『少女終末旅行』既刊5巻

チトとユーリのかわいさよりも、『クロノ・トリガー』の未来のような文明崩壊後の世界を戦車で練り歩くというその状況設定だけで琴線に触れる人もいるのではなかろうか。これはもう雰囲気だけでも勝ちですね。

79位 渡辺ツルヤ、西崎泰正『神様のバレー』既刊14巻

バレー戦略漫画としては確かに面白く、選手ではなく監督(実際にはコーチ)を中心とした漫画というのも(『ジャイアント・キリング』などはあるけれど)まだまだ斬新ではある。ただ、主人公である阿月コーチがあまりにも圧倒的すぎて、ゲームや物語のすべてが一瞬の不覚もなく阿月の掌の上という構造自体はあまり好ましくない。完璧と言っていいほどのチートに近い。とはいえ、14巻の幸大学園が関係ない試合に関しては普通かつ逆説的にスポーツ漫画として面白かったです。

78位 アサイ『木根さんの1人でキネマ』既刊4巻

1巻時点では尻の作画に異様な情熱を感じるお色気中心の漫画かなぁと思っていたけれど、2巻の『マッドマックス 怒りのデスロード』の話から3巻までは急激に面白くなった。ただ、4巻はちょっと微妙だったかも…。これもまた女性オタクを描く漫画ではあるので、そういう点で見るのも面白い。

77位 星崎真紀『魔法のリノベ』既刊2巻

リノベーション会社の営業ウーマンの労働漫画として、ベーシックではあるものの面白い。野崎ふみこなんかもそうだけれど、少し前の少女漫画を描いていた人のこういう労働漫画は結構好きです。絵は確かに若干の古さを感じるけれど、取材して構築した物語は、やはり読む価値があると思っていますよ。リノベーションをするにしても夫婦・家族の誰のどの思惑が重要か、そういう見極めはあるよなぁと上手く思わせてくれます。

76位 佐々大河『ふしぎの国のバード』既刊4巻

宣伝には「古き良き日本文化」とか書いてあるけど、実際には宿泊事情も良くないし、貧農も多い明治期の日本をイザベラ・バード(当時47歳)の目で異国として見ていて、なかなかに面白い。綺麗なところばかりではない、どころか、かなり汚い日本を見ることができる。そりゃそうだよなぁ。

それにしても何故エンターブレインの漫画は絵でわかるのか…。エンターブレイン漫画家養成講座でもあるんだろうか…。

75位 麻生みこと『そこをなんとか』既刊13巻

弁護士の労働漫画として面白いし、勉強にもなる。作者のノリも好き。ただ、本作で選ぶ男がそれかぁ…という思いは正直ある。『天然素材でいこう。』で少女漫画としてはかなり珍しいタイプの物議を醸すラストを描いた作者なので今後も展開にはよるんだろうけれど、なんというか、恋愛要素は必要なかったのでは、という気持ちが拭えない。麻生みこと先生なら人畜無害な良い男とか描けそうなものだけどなぁ。でもそこ以外はだいたい面白く読んでます。

74位 ペトス『亜人ちゃんは語りたい』既刊5巻

亜人種系の萌え漫画、というだけではなく、現代日本にその要素を持ち込むことによってマイノリティを見る目線を、ときには科学というフィルターを良い意味で通しながら、きちんと考えることができるように作られた漫画で非常に評価しています。気軽な萌え漫画としてでもこういう漫画を読んで、あぁ、いろんな人種が社会の中にいて、それぞれに不便さがあったり寂しさがあったりするのかもなぁ、と少しでも思うことのできる優しい人が増えると良いと思っています。

73位 よしながふみ『大奥』既刊15巻

正式な評価はおそらく完結してからになるけれど、しばしば名君ではない、それどころか暗君ですらあった将軍たちをほぼ男女逆転で描き切った手腕はさすがの一言。アイデアと要所の描きたい部分だけで済ませるのではなく、きちんと積み重ねるのは本当に偉業だと思いますよ。完結してからまたまとめて読みたい。3巻の春日局の言い放った「それは戦のない平和な世のことです」の重みはいまだにある。

72位 増田里穂『スタンドバイミー・ラブレター』全1巻

少女漫画の主題が恋愛になることは別にいい。その同じ主題の中、しかも比較的近い絵柄でも、確かな上手さを感じることはできる。本作も少女漫画の枠内での空気感が非常に秀逸で、古典的でありながら現代的でもある、別冊マーガレット系の守り続けてきた強さを感じる。増田里穂は『フミキリ、君の手、桜道。』の時点から上手かったし、今後も期待しています。

71位 山口つばさ『ブルーピリオド』既刊1巻

東京藝術大学を目指す漫画。美術に詳しくはないけれど、ある種の業界モノとして面白く読める。上には上がいる、それこそ天才がうじゃうじゃいる業界というのもあるんだなぁ、と、何の才能もない側としては思う。あと、にこやかな美術の先生が『亜人』の佐藤さんっぽい。

70位 おがきちか『Landreaall』既刊30巻

最近になってようやくタイトルである「ランドリオール」という言葉が出てきた…。ベーシックなファンタジー要素を持ちながら、同時に貴族-平民の階層の違いや感覚についても意識的に描かれていて、いまもって先進的。個人的には12~13巻のアカデミー騎士団のあたりが一番好きでした(そういう人は多いと思う)(主人公不在の話であるにもかかわらず一番面白い)。あのあたりは『ワールドトリガー』っぽさがある。キャラを活かして物事に取り組む、良い漫画です。

69位 紙魚丸『惰性67パーセント』既刊3巻

エロネタ漫画。個人的にあまり評価する系の漫画ではないはずなのだけど、畜生、面白く読めてしまう。しかしまぁこういうラッキースケベ漫画を読むと、なんというか、もう双方の合意のもとでセックスすればいいのでは、などと極めて短絡的に思ってしまうのだった。紙魚丸先生自体、元々エロ漫画の人で、そういうの上手いわけだから。

68位 松浦だるま『累』既刊12巻

緊張感の途絶えない名作。あの口紅は最中唯一の超常現象として謎のままでもいいような気もするけど、上手く話を続けているなぁと思っています。超常現象を一つ入れるだけでここまでの話を構築できるという良い一例でもある。好きなキャラは天ヶ崎先生です。

67位 マキヒロチ『いつかティファニーで朝食を』既刊12巻

仕事と恋愛と食事と生活と、(例えば鳥飼茜の漫画に比べれば)比較的明るい作風ではあるけれども、その中でも悩みも戸惑いもある。何故かAmazonレビューの評価は高くなかったりするけど、個人的には今でも良い漫画だと思っています。こういう作品も複数あってこそ、その一角として良いと思える。

66位 マキヒロチ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』既刊5巻

東京近郊の様々な土地を紹介する漫画。強引さはもう気にしてはいかん。しかしこれ東京に住んでないとわからないのでは…とは思うものの、色々と気にせずに街を見ることに特化した漫画だと思えば面白く読める。マキヒロチのノリも好きなんですよ個人的に。

65位 おくら、橋井こま『そらいろフラッター』既刊1巻

セクシャルマイノリティを描く漫画の一つとしてランクインさせたい。これも複数ある作品のうちの一つ、様々なパターン、様々な人を見るものとして読んで欲しい。能代くんの戸惑いは、しかし、誠実だと思う。戸惑いは当然ある、わからないこともある、そうだとしても、姿勢としてトライアンドエラーがある、ヘテロセクシャルであればそんな苦労もないのに、というのはその通りだとしても、様々な段階の一つとして、価値のある漫画ではあると思う。

64位 倉薗紀彦『地底旅行』全4巻

ジュール・ヴェルヌ原作。原作は未読だけれど、そうであるからこそ古典的なアドベンチャーでありながら新鮮な気持ちで素直に楽しめました。古典のコミカライズというとカキワリ的な学習漫画レベルになりがちだったのも昔の話で、今では現代的な漫画の技法でこれだけ面白く描けるんだなぁと。物語的にはハンスの存在がチートではあるものの、確かに地底世界がありそうだという夢を見させてくれる。150年前の人もこれは熱狂しただろうなぁ。

63位 こしのりょう『銀行渉外担当 竹中治夫』既刊8巻

表紙が分かりづらかったけれど90年代の銀行員漫画。社長や会長やヤクザを巻き込むような話でケレン味は多すぎるけれども、なんだかんだ面白い。児玉誉士夫か誰かをモデルにしてそうな「裏社会の大物」に頼りすぎなところはあるものの、そこは物語的にご愛嬌としましょう。こういうサラリーマン漫画もある。

ちなみに銀行員担当者漫画としては個人的には小山田容子『ワーキング・ピュア』をオススメします。こちらは2007年でやや古いものの新入社員研修に使える出来で、労働漫画の金字塔だと思う。

62位 馬田イスケ『紺田照の合法レシピ』既刊5巻

くだらねぇ……けど、思わず笑ってしまうので僕の負け。グルメ漫画がやたらと増えてきた中で、いろんなインパクト重視と小ネタがあるなぁと。食べ物も実際に作れそうで料理漫画としても参考になる。ネタ的には細かいヤクザ的替え歌もいいけど、各話の最後にあるFACE BOKKOの見切れている側が一番面白い。

61位 織田涼『能面女子の花子さん』既刊3巻

出オチ漫画と侮るなかれ、極めてインパクトの強い花子さんが人間的にちゃんといい人で社会生活ができているというのが良い。能面を外したら美人、とかいうありがちな話でもないのもポイント高い。能面であっても、いや、能面であるからこそ、花子さんは素敵な人だと思いますよ。

60位 高野ひと深『私の少年』既刊4巻

タイトル的にショタ的なフェティシズム漫画かなぁとも思っていたけれど、思った以上にきちんと社会生活を含めて描いてあって、誠実な漫画でした。比較的大きな会社に勤めている聡子が真修の父親に名刺を渡すことで少し信用される描写とか、実に生々しいなと。真修の父親も作中ではネグレクトしている悪役っぽくも見えるけど、ギリギリで、あれも社会人ではあると思うよ…。

59位 池辺葵『ねぇ、ママ』全1巻

絵の可愛らしさ、間の取り方、端々に見える冷たさと優しさを兼ね備えた漫画。僕はママ(母親)という存在を強く心に残す方ではないのだけれど、様々な意味でのママを上手く描いている。泣いてもいいような落ち着いたところでゆっくりと読みたい漫画。

58位 池辺葵『雑草たちよ大志を抱け』全1巻

こちらは学校の青春もの。池辺葵の絵の方向から、漫画的な美人やイケメンという形式にならずに読むことができる。池辺葵の漫画は短くても良いものばかりなので、どれか一つ読んで欲しい。合う人は確実にいると思うし、そういう人は、きっと優しい。

57位 大月悠祐子『ど根性ガエルの娘』既刊3巻

一時期話題になった作品として。壮絶な話だとかセンセーショナルな煽りはできるのだろうけれど、むしろそういう宣伝その他の外側の声を無視して、「個人的な話」として捉えたい(そして「個人的なことは政治的なこと」なのだ)。親も、家族も、救いではない。そういう人も確実にいる。この作品の場合は父親が有名人だけれど、そうでなくても、こういう父親も母親も、世の中にはいるはずだ。人によってはフラッシュバックを起こすかもしれない。

56位 あきづき空太『赤髪の白雪姫』既刊18巻

クオリティの高さで言えば随一。絵も綺麗で、服も異世界風ではあるもののオシャレで、キャラクターも誠実である。ただ今年は白雪の出番が少なめだったのでこの位置。ゼンも悪い人ではないのだけど、個人的には労働者としての白雪が一番好きです。まさかのヒロインが仕事上で転居を伴う転勤をする王国物ファンタジー。そんな漫画そうそうないぞ。漫画的なキャラとしてはオビが好き。とはいえ、その2人にくっついて欲しいとかではないです。今の関係性で充分尊い。

55位 森高夕次、アダチケイジ『グラゼニ 東京ドーム編』既刊13巻

おじさん好みのプロ野球漫画ではあるけれども、凡田夏之介は確かに応援したくなるくらいのキャラと実力だなぁと思う。給料の話を明確に意識した稀有な労働漫画として面白く読んでいます。あと、その都度の試合に負けてもいいスポーツ漫画というのも部活漫画ではなかなかできないスタイルでもある。勝ち負けは気軽に捉えていいと思うんですよね、給料は下がるけど。

54位 山田芳裕『へうげもの』既刊24巻

最近完結したらしいので総合評価は来年になるだろうけれど、従来の歴史モノとは違う「数寄」を中心として描き切ったのは確実に評価されるべきだろうと思う。戦国時代の流れと概要は複数作品で何度も見ているけれど、この人物をこういう人に描くのか、という驚きは毎度ある。千利休の切腹がまさに圧巻すぎて、朝鮮渡航のあたりで少しダレたけれど、全体的にはずっと面白かったと思います。

53位 山田胡瓜『AIの遺電子』全8巻

いつの間にか完結していた。手塚治虫や藤子不二雄を継ぐと言っても過言ではない一話完結の適度なSFと社会の融合を描いている。最終的な須堂先生(モッガディート)の母親の話がわかりづらくてこの順位にしているけれど、個々の話自体はSFの状況を利用して上手く考えさせるようにできている。ただ、「人権団体」への露骨な皮肉とか、おそらく作者は所謂冷笑派っぽいところはあるだろうなとも思うけれど…。そういうところがなければもっと順位は上げてました。

52位 沙村広明『波よ聞いてくれ』既刊4巻

純粋にさすが沙村広明。状況設定や人物相関も必然性はないし、ラジオである必要性すらないとしても、会話のやりとりの軽妙さは絶妙。ただそこに人間がいるというだけで、沙村広明は会話を広げることができる。『無限の住人』にはあまりなかった(『おひっこし』にはあった)別の才能だよなぁ。その場に関係のないネタがどんどん出てくるという才能に関しては東村アキコとか丹羽庭とかと比肩するものだと思う。

51位 荒川弘『百姓貴族』既刊5巻

今年初読。北海道の農業エッセイ漫画として充分に面白い。これもまた労働漫画の一つでもある。しかしまぁ、この大変さを見ると、就労人口が減るのも致し方ないのかもしれない…とも思ってしまう。漫画としては楽しんで読みました。

50位 カエリ鯛『腐男子社長』全1巻

キャラ設定からインパクトは強いものの、全体的にはBLネタ薀蓄漫画。外見だけで言えばある意味白ハゲ漫画なのかも。でも日々の中に様々な楽しみを見出すことができるというのは良いことだなと思っています。社長も良い人ですし。ただ、話自体はそれぞれ面白いものの、本作でも「ホモ」呼びがデフォなのが辛い。そこさえなければ…。単行本特別収録の「目が見えなくなった話」は、本人にはもちろん辛い症状だったのだろうけれど、面白く読めました。

49位 小林有吾『アオアシ』既刊11巻

Jユースのサッカー漫画。しばらくの間チームの仲が異様なほどに悪くて、少年スポーツ漫画に慣れていると非常に殺伐とした漫画だと思っていたけれど、10巻の試合あたりから(まだ仲が良いわけではないものの)協力してサッカーをすることできていて急激に面白くなった。例えば『キャプテン翼』あたりと比較して、リアルスポーツ漫画として面白い。

48位 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』既刊9巻

独特な言語感覚を持つ、じわじわくる系のジャンプ漫画だと思っていたけれど、ちゃんとバトル漫画としても面白いという謎の漫画。「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」とか、センスの塊だと思う(家父長制はこの際関係ない)。2017年はもう煉獄さんの存在に尽きる。「うまい! うまい! うまい!」とか相変わらず本作らしいわけのわかんねぇキャラだなぁと思っていたら、なんか信じられないくらい立派な人だった。煉獄さんはカッコよかったよ…。本作はいずれアニメ化するんじゃなかろうかと思ってます。鼓の鬼とかアニメで観たい。

47位 あずみきし『死役所』既刊9巻

後味が悪かったり感動したりのブレさせ方が上手い。1話完結の中で方向性が決まっていないからこそ、先入観無しで上手く読ませてくれる。無茶苦茶面白いかというとそこまででもないかもしれないけれど、中堅どころで継続的に読みたくなるという意味では良い漫画。このくらいの漫画があるというのは、文化の成熟だなぁと思ったりします。

46位 鳥飼茜『地獄のガールフレンド』全3巻

終わり方は微妙だったけれど、強いインパクトは残した。鳥飼茜はこういった現代に生きる女性の姿を描くのが上手い。漫画とフェミニズムという意味では確実に取り上げられるべき漫画。ただ、所謂処女厨の鹿谷の存在は狂言回しだったのかもしれないけど、明らかに要らなかったんじゃないかな…。いや、現実に存在するゴミ野郎を描くか否かで言えば、鳥飼茜は描く方なのだろうけれど…。

先生の白い嘘』は購入してはいますが辛すぎて途中から読めていません。相当に気力と体力があるときに読みます…。でも、あれは、僕からは言及できないと思う…。

45位 高浜寛『エマは星の夢を見る』全1巻

ミシュラン調査員の漫画で、労働漫画としても読める。評価する方もされる方も大変だよなぁと。高浜寛の描く女性の笑い方はとても好きです。フランスの調査員が日本を賞賛するのを日本の漫画家が描くというのは微妙な危うさも感じるけれど、全体的に好きな雰囲気の漫画だったのでそこは不問とします。

44位 金城宗幸、荒木光『僕たちがやりました』全9巻

実にヤンマガ的な漫画で、それぞれのクズな生き方を描いている。ずっと罪を引き摺るという意味ではドストエフスキー『罪と罰』に匹敵する…はずはないし、本来あまり評価したいタイプの漫画でもなかったのだけれど、しかし、面白かったのは認めざるを得ない。いや、本当に面白かった。畜生ッ。終盤のパイセンの言う「生きてんねんからしゃあないやろ?」の重みは、確かにあった。そしてラストのその瞬間のあの表情も、本作を上手く締める。

何気にSEALDs(シールズ、未来のための公共)の不快なパロディみたいな団体(ヤールズ)が出ていて、そりゃまぁ不快だったのだけど(当アカウントは基本的にSEALDsの活動を支持しています)、こういう漫画に取り上げられるくらいには社会的に影響あったんだなぁとは思った。

43位 沙嶋カタナ『咲くは江戸にもその素質』全5巻

しばらく前に完結していたけれど最終巻が出たのが2017年だったので取り上げたい。ふじょしと江戸時代という組み合わせが上手く機能していて、インターネットも同人誌も専門用語も何もないところからその素質と気持ちを模索していく姿は、実に良かった。倫理的に危ういのではと思えるようなところでも、まぁ江戸時代だしな…と思える構造にもなっている。あと単純に女の子たちがかわいい。BLというか当時で言えば衆道を主眼としているけれど、これはこれで作品としては百合なのではとも思う。

42位 羽海野チカ『3月のライオン』既刊13巻

妻子捨男のあたりは羽海野チカが悪役を描くのが苦手すぎる上に物語的にも楽勝すぎて結構酷いと思っていたのだけど、13巻の面白さが格別だったのでここにランクイン。展開について色々と言われたりもするらしいですが、僕は、将棋シーンが多い方が好きですね…。

41位 竹内友『ボールルームへようこそ』既刊9巻

序盤はそれほど面白くないけれど、3巻の天平杯から急激に面白くなる。9巻はかなり意識的に百合でした。絵は非常に流麗で、本当に美しい。何気に競技ダンスの男性優位についても意識的に言及してあるのも良い。

ちなみにアニメ版は、キャラデザインはよかったもののダンスアニメなのに動きがなさすぎてあまり面白くなかったです。さすがに『ユーリ!!! on ICE』を観た後だと動きのなさが辛すぎる。漫画の方が動いてるというか躍動感があると思いますよ。

40位 珈琲『のぼる小寺さん』全4巻

ボルダリング(クライミング)を題材としながら小寺さんを見るフェティシズム漫画かなと思っていたけれど、終盤はきちんとスポーツ漫画としても面白かったです。実際小寺さんはかわいいし応援したくなる。三島衛里子『高校球児ザワさん』と合わせて読むといいかも。フェティシズムにも見えるけれど、やや男性向け女子スポーツ漫画の一つの描き方ではあるんだろうなとも思う。何気に社会性を回復していく梨乃ちゃんの描写も良かったです。

39位 七尾ゆず『おひとりさま出産』既刊5巻

作者を応援したい漫画という意味では本作が一番です。作者はその言葉は使わないし、作風が明るいので陰鬱にはなっていないけれど、本作で徹底して描かれているのはまさに現代日本の「貧困」の話だと思う。臨月になるまで、しかも夜遅くどころか朝まで働かなければならなかった状況は、本当に大変だったと思う。漫画としても面白いので(ダメな男性も登場するよ)、是非買ってあげてください。

38位 まちた『おはようとかおやすみとか』全5巻

『甘々と稲妻』『LOVE SO LIFE』『学園ベビーシッターズ』等々、子育て漫画も様々な種類はあるけれど、本作もそれらに劣ることのないクオリティで、なおかつ全5巻できっちりと完結させていて、良い漫画でした。恋愛関係にしないあたりも高評価。子供たちが少し優しすぎるかもしれないけれど、漫画としてはそれでいいとも思う。何気に和平くんも結構アッパークラスのサラリーマンだよね…(家も広いし定時に帰ったりもできるしぶっちゃけお金ありそうだし)。

37位 速水螺旋人『大砲とスタンプ』既刊7巻

兵站軍というミリオタ心をくすぐる漫画。絵柄もかわいいし全体的にコメディ調ではあるけれど、ときおり生々しいキャラや戦争の状況が出てきて、一筋縄ではいかない重みも感じる(特に6巻のラスト)。軍隊の中とはいえ、ある意味では『総務部総務課山口六平太』あたりと同等の労働漫画でもある。主人公自身そうであるように女性キャラが結構多く活躍しているのも良いところ。マルチナもアーネチカもラドワンスカさんも好きです。個人的にはキリール大尉にはなれないので、マンチコフみたいな立場でありたい。

36位 灰原薬『応天の門』既刊8巻

菅原道真と在原業平のバディもの。藤原基経を知っているか知らないかくらいのあまりメジャーではない時代を扱いながら様々な史実の人物を登場させていて、どういう人だったかを調べながら読むと更に面白い。道真の科学的な目線と、時代的な限界の描写も良い。そりゃ狂犬病とか現代でも治療は難しいよね…。平安時代の権力闘争とか、有名ではない人物との絡みとか、歴史モノの面白さも充分にあってオススメしています。

35位 菅野文『薔薇王の葬列』既刊8巻

陰鬱ながら綺麗な作画や両性具有の要素もあって耽美先行の少女漫画かなと先入観を持っていたけれど、惣領冬実『チェーザレ 破壊の創造者』と同等の非常に重厚な歴史ものでした。次回に繋げる各話の引きが漫画的にややわざとらしいことを除けば非の打ち所がない名作。薔薇戦争の知識があるとより面白く読めると思う。リチャード、ヘンリー六世、マーガレット等々がそれぞれに感じているように、テーマの一つに広義の「性嫌悪」があって、セクシャリティの面でも読み応えがある。何気にウォリック伯とエドワード(ヨーク)がかなり意識的に闇のBLだったりもするし…。歴史書や小説ならともかく、ウォリック伯(リチャード・ネヴィル)がこれほど描かれる漫画は世界中探してもないんじゃなかろうか。個人的にはバッキンガム公とマーガレット王妃が好きです。

34位 中川海二『ROUTE END』既刊3巻

特殊清掃員が主人公の、殺人サスペンスもの。特殊清掃の深い話があるわけでもないし、サスペンスとして突出しているというわけでもないとも思うのだけれど、バラバラ殺人などを扱うわりには必要以上に扇情的な演出にはしておらず、絵も素朴ながらに安定しているので、その温度の低い作風全体が上手くマッチしている。登場するキャラもじわじわと人間性を見せていて好感が持てる。そうであるからこそ、3巻の展開は辛いというか寂しかったなぁ…。どちらかと言えば所謂漫画読みウケしそうな漫画ではあるけれども、必要以上にセンセーショナルではないが故に取り上げられることがそれほど多くないように思えるので(まぁめちゃコミックのweb広告みたいな無駄に扇情的な取り上げ方は好きじゃないけど)、こういうときこそオススメしたい漫画。あと3巻の巻末にある「百万円のチンコを持つ男」が気になってしょうがない。誰だよ。朝基まさし『マイホームヒーロー』とは近いながらに別の意味で、どこかトボけた味もある良い漫画。

33位 青桐ナツ『あめつちだれかれそこかしこ』既刊5巻

前作『flat』(全8巻)が素晴らしかったが故に最初は本作の価値がよくわかっていなかったのだけれど、改めて虚心坦懐に読んでみると、じわりと本作の良さがわかってきた気がする。青司はおとなしい子かと思えばわりと怒っているし、年男さんも納戸さんももう少し上手くできないのかと思ったりもしたけれど、元々誰も完璧ではない、その中でコミュニケーションを取ることを描いていると考えれば、ギャーギャー言いながらも通底した優しさを感じる物語ではある。個人的にはカレンさんのキャラが非常に好きです。5巻の最初の話とか、何とも言えず素晴らしい。『flat』の長谷さんなんかもそうだけど、恋愛的に照れるわけではないキャラクターを描ける人というのは意外とレアなので、青桐ナツはそういう方向の漫画も描いていって欲しいなとも思う。

32位 野田サトル『ゴールデンカムイ』既刊12

日露戦争後の歴史とその人物、北海道、アイヌ、グルメ、ヒグマ、土方歳三、網走監獄、ハイテンションなギャグや名画の小ネタ、ぶっ飛んだキャラたち、冒険活劇等々をすべてごった煮にしながら、すべての要素についてちゃんと面白いという尋常じゃない漫画。既に各方面から高い評価を得ている漫画なので僕から言うことは多くはないのだけれど、本作は、杉元が(もちろん年下の女性である)アシリパさんを「アシリパさん」って呼び続けるのが何より素晴らしいですよね。相棒としての敬意がとても良く伝わる。個人的には尾形が好きです。

31位 飯田『給食の時間です。』全3巻

小学校の給食を題材にした漫画。いろんな立場の子供がいるということ、悪いことをしたと思ったら謝るということを含めて、シンプルでありながら非常に優しく教育的で、羅川真里茂『赤ちゃんと僕』と同様に学習漫画としての価値もある。道徳の授業(というのが学校教育として好ましいかどうかは別としても)に使ってもいいんじゃなかろうか。こういう漫画は定期的に描かれ続けていて欲しい。大人たちが「論破」とかいうくだらない遊びに興じてしまう現代日本であるからこそ、特にそう思う。

30位 荒達哉『ハリガネサービス』既刊18巻

チャンピオンのバレー漫画。超人スポーツ(例えば『黒子のバスケ』)とリアルスポーツ(例えば『ハイキュー!!』)で言えばそのちょうど中間くらい。総合的に言えば『ハイキュー!!』が1000点だとして800点くらいだけれど、同じ競技の違う漫画を読むというのもなかなか乙なものでして。バレーという競技は5人対5人なのが漫画として描けるキャラの人数的にちょうどいい。試合展開もきちんとドキドキできるし、露骨に嫌なキャラが出てくるわけでもないし、チームとしての優しさもあるし、戦術もこれまでに会得したものと新しい技の組み合わせを上手く使っていて、超人スポーツ漫画なだけには決してなっていない。ジャンプ漫画ではないため、良い意味で安定して描けている感じはする。4巻になるまでタイトルである「ハリガネサービス」もどういうものなのか出てきませんし。ただ、高校少年スポーツ漫画に対する「その目線」で言うとですね、ボーイズがラブしてる要素は、あまり感じないかな…。いや、雲類鷲叡と上屋敷は完全にリバだったけれど…。そこは置いといて、絵もクリアできれば、きちんと面白く読めるスポーツ漫画ですよ。

29位 平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』既刊3巻

地下アイドルオタ漫画。単純に平尾アウリの絵(特に目の描き方)とややシュールなオタネタが好きです。本作は平尾アウリの女の子に対する愛が全面的に伝わってくる。本作で好きなキャラというか推しは、えりぴよさんです…。すみませんね女オタオタみたいなこと言ってて…。あとは眞妃とゆめりが特に百合なのも良い。ある種の業界ものとしても安心しながら読める良い漫画。

28位 九井諒子『ダンジョン飯』既刊5巻

所謂漫画読み的には既にマストみたいになっているけれど、確かにそれだけの価値は充分にある。『赤髪の白雪姫』とかと同様に、シンプルにクオリティが高いというのはこういうことなんだろうなぁ。本作は死に対する価値観なんかがそうであるように、そこはかとなく冷たさを感じるのも良い。5巻でキャラが増えてきたけど、今後も期待して読みます。タデの太ももがかわいい。あいあーい。あと、マルシルとチルチャックはおねショタだと思っています。

27位 ヤマシタトモコ『違国日記』既刊1巻

ひばりの朝』以降のヤマシタトモコはSF(少し不思議)やファンタジックな特殊設定、あるいは『スニップ,スネイル&ドッグテイル』のような実験作をいくつも模索していたものの、いずれも必ずしも成功していなかったように思うけれど(個人的には『さんかく窓の外側は夜』も雰囲気BLというだけでそれほど評価してません)、本作でまたヤマシタトモコの最大の味が出せる日常ものに帰ってきてくれた感じ。正直かなり嬉しい。ヤマシタトモコの描く無意味な会話と言い淀みのコミュニケーションは漫画界全体でも良い意味で独特なので、それがあるだけでも、ヤマシタトモコだ! って思える。やけに詩的とも思える言い回しも、場合によっては鼻につくのだけれど、薄い雰囲気を持つ本作では上手く機能している。漫画としては独特のコミュニケーションを積み重ねながら3人で餃子を作る話は特に良かったです。ある意味では意味のないやりとりの積み重ねでキャラを見せる技法が遺憾なく発揮されている。絵がめっちゃ上手いという人ではないと思うのだけど、平尾アウリと同じでヤマシタトモコの目の描き方は好きです。ヤマシタトモコのヤマシタトモコたる所以を改めて見ることができて個人的には満足でした。なんかヤマシタトモコについて書くときはヤマシタトモコという文字列を使いがちだな。ヤマシタトモコは概念。

26位 本田『ガイコツ書店員 本田さん』既刊3巻

既刊3巻なのか全3巻なのか。書店員の労働漫画として秀逸。お仕事ネタも大変ながらに面白いし、同僚の人達がなんだかんだ言いながら優しいのも良い。外見が特徴的なので強調されていないけれど、意外に女性労働者漫画と見ることもできる。3巻のおまけ漫画はわりと闇の面が出ている気がする。個人的にはアーマー係長が好きです。

25位 田亀源五郎『弟の夫』全4巻

セクシャルマイノリティと接する目線という意味ではさすがの一言。「思わず」思う偏見と一歩待つことの描写も誠実で、非常に平易でありながら、まさにきちんとまとめて描かれるべきだった漫画の一つ。僕の職場で所謂LGBTに関する研修があったときにも推薦図書として提示されていました。「LGBT入門」なんて意味不明な言い方をするものではないけれど(レズビアンもバイセクシャルもトランスジェンダーも出てくるわけではないし、それ以外の性自認も多々あるわけで)、広い意味で今までに接してこなかった「異質と思ってしまう相手」に対する態度を考える漫画としては、やはり価値があるということは間違いない。偏見に対する運動はしばしば二歩前進一歩後退なのかもしれないし、例えば同性婚というものだって婚姻制度自体の問題に疑義を向けないものだったりもするのだけれど、それでも、本作は前進の一歩ではあると思っています。

24位 横田卓馬『背すじをピン!と』全10巻

競技ダンス漫画。様々な意味でジャンプとしては珍しく、主人公が優勝するくらい強くなる漫画ではないというのもそうだけれど、本作はつっちーが誠実な男子だというのが意識的に描かれていたのが良い。ジャンプの新たな主人公像を示したとも言える。熱い戦いの方は土井垣先輩たちで充分楽しめましたし。終盤がやや消化試合だったのと、途中からわたりさんの影が若干薄くなっていってしまったところはあれど、全体的には中堅のジャンプ漫画でありながらも良い特徴を出すことのできていた非常に良い漫画だったと思っています。好きなキャラは金龍院さんです。金龍院さんは丸くてカッコいいぞ。

23位 伊藤悠『シュトヘル』全14巻

西夏文字というマイナーな要素と時代を主題としながらこれほどの物語を構築することができたのは、やはり賞賛に値する。シュトヘルのブチャラティ状態は強引すぎるとか、そもそもスドーというか現代日本は必要なかったんじゃないかとか思わないでもないけれど、こまけぇこたぁいいんだよ。本作も歴史を調べながら読むと更に面白い。キャラの立場としてはハラバルが好きです。例えば横山光輝『伊賀の影丸』の阿魔乃邪鬼と近い、独立した強キャラというのは良い。もちろんシュトヘルとユルールの関係性も尊い。

22位 信濃川日出雄『山と食欲と私』既刊6巻

登山及びグルメ漫画。個人的に登山には興味はないけれど、自分の知らない趣味を見るというのはやはり面白い。登山の肉体的な苦労があるからこそ、簡易的(とはいえ一工夫ある)ご飯もより美味しそうに見える。自分がやらなくても追体験できる漫画。また、女性と趣味を描く漫画でもあり、周囲からの目線や話したくもないのに話しかけてくる男性など、その面での苦労も描いてある。『茜色のカイト』はあまり良い漫画ではなかったけれど、信濃川日出雄もこういう素直に面白い漫画を描くようになったんだなぁと感慨深かったりする。

21位 渡辺ペコ『1122』既刊2巻

不倫もの、と言ってしまうと単純化し過ぎだろうと思われる。広い意味での双方の合意(とそうであっても感情的に合意できないこと)を持った夫婦の関係性を問い直す物語になっている。ともすれば確かに不倫ものなだけに終わるかもしれないけれど、そこは渡辺ペコの手腕に期待したい。『にこたま』がそうであったように、モヤモヤが残ることはあってもいい。読者全体を納得させようとしなくてもいい(それはおそらく不可能だ)。ただ夫婦の「正しい」形は決まった形では存在しないということは、わかるようになると思う。セックスに限らず、夫婦あるいは家族を構成する要素についての目線もきちんと担保されている。しかしまぁ、現状では男性側が誠実ながらに身勝手であるとも思えてしまうけれど…。

20位 坂井恵理『ひだまり保育園 おとな組』既刊2巻

漫画とフェミニズムという観点で読める作品。Twitterでしばしば見る夫や社会に対する抗議も色濃く反映されている。保育園の話ではあるけれど、そもそも保育園に入れない待機児童とその親の大変さも描かれたり、様々な意味で無責任な男性への目線も極めて厳しい。2巻で言われる「他人事かよ」の重みは圧巻と言っていい。もし男性が本作を読んで「思わず反発して論破したくなる」ようであれば、その思考回路自体を自分で問い直すべきだと思う。無論、社会構造の問題でもあり即座に直せるわけではない部分も多いだろう、けれど、そこで感じてしまう論破欲とエクスキューズの矛先を向けるべきなのはどこなのかは、今一度意識するべきだろう。本当は男性にこそ読んで欲しい漫画、と言ってしまうのがレビュー的には正しいのかもしれないけれど、しかし、やはり現状では厳しいのかもなぁ…とも思わざるを得なかったりする、そういうバランスを上手く突いた漫画。

19位 安堂維子里『バタフライ・ストレージ』既刊2巻

今まで詩的な感性と描写でコアな人気を博してきた安堂維子里の描くハードボイルドSFアクション漫画。新境地で成功しない人もいるけれど、本作はアクション描写も上手く、安堂維子里の新たな魅力を遺憾なく発揮している。宣伝が少ないせいか評価を見かけることが少ないのだけれど、所謂漫画読み的にこういうのをこそ取り上げたいまさに隠れた名作。クオリティも高いし、宣伝さえ上手くやれば『ダンジョン飯』の4分の1くらいの売上はあっていいと思うんだけどなぁ。人が死ぬと蝶になる社会という設定や、死局という組織のケレン味など、設定だけでも面白い。個人的には身長192cmでムキムキの既婚女性である荒井班長が好きです。

18位 朱戸アオ『リウーを待ちながら』既刊2巻

日本国内でペストが発生したら…という漫画。演出自体は日本のテレビドラマや映画と近似しているけれど、アルベール・カミュ『ペスト』が下敷きになっていることもあって、重厚な話に仕上がっている。本作も「次に来る漫画」的な観点から取り上げたい。ペストが蔓延した街の対応や、周囲からの偏見の描写も実に日本的。『シン・ゴジラ』あたりが好きな人にもオススメできる。実際かなり高い確率でそのうち実写映画化するんじゃなかろうか。

朱戸アオはこれまでも『Final Phase』『ネメシスの杖』など同様の医療系サスペンスを描いてきていて、誠実な女性医師と飄々とした男性のバディものという形式は毎回同じだけれど、いずれも面白く読める医療系サスペンスなのでどれか一つでもオススメしています。

17位 堀尾省太『ゴールデンゴールド』既刊3巻

刻刻』がそうだったように、展開的には非常に地味でありながら、本当にじわじわと面白い。フクノカミという非現実的な存在を描いていながら、瀬戸内海の田舎の風景や福山方面の広島弁や田舎の島の閉鎖性などを織り交ぜたリアリティが半端ない。2巻のチンピラの描写が異様なほど上手かったりする。こういうファンタジーの描き方もあるんだと思わされる。1巻冒頭で福山駅前のアニメイトが出てきたりするので、その辺に住んでいる人にもオススメしますよ(範囲の狭い勧誘)。

16位 竹良実『辺獄のシュヴェスタ』全6巻

16世紀の神聖ローマ帝国の修道院で行われる復讐もの。終盤若干駆け足かつ強引なところはあったものの、メインキャラについては描き切っている。ラストのあの井戸の中での見開きは最高のカタルシスがあった。欲を言えばクリームヒルトとハイデマリーとジビレと「見渡す者」についての描写はあと一歩欲しかったかな…。とはいえ、エラの意志の強さは、安心して読めると同時に圧巻の一言(だからこそ初めてカボチャを食べたときのエラの表情なんかも漫画的に共感できるし面白い)。5人の仲間が揃って生活を模索していく4巻の雰囲気は最高に好きでした。女性キャラがほとんどでもあるので、ある意味では本作も敵味方合わせて一つの百合だとも思う。個人的にはコルドゥラさんが好きです。『魔法少女まどか☆マギカ』のマミさんに勝るとも劣らないくらい、コルドゥラさんは素敵な先輩キャラでしたよ…。やったね♡♡

15位 おりもとみまな『ばくおん!!』既刊10巻

僕にしてはわりとまさかの高順位だけど、意外なほどに面白いんですよこれが。バイクに興味がある訳じゃないし、『けいおん!』のパロディでしょって思うかもしれないけれど、何気に漫画としては『けいおん!』よりもずっと面白く読みました(アニメ版はさすがに劣るけど…)。バイクあるあるネタも色々と織り交ぜてあって知らないながらに面白く読めるし、北海道や九州の旅行ネタも紀行漫画として楽しいし、9巻のレースも来夢先輩を見る千雨ちゃんの場面は思った以上に漫画としてガチだったりもする。男が出てこないわけではないけれどほとんどが保護者なのでヘテロセクシャルな恋愛をぶっちぎっているのも良い(ただし下ネタは多々ある)。個人的には恩紗ちゃんが好きです。純粋にかわいい。異論は認めてもいいけど認めません。恩紗ちゃんかわいい。

14位 柏木ハルコ『健康で文化的な最低限度の生活』既刊5巻

生活保護を扱う漫画。個々のケース、個々の人生によって本当に一筋縄ではいかないということが通底されていて、実に誠実な漫画でもあると同時に、本作も一つの新人労働者を描く労働漫画として見ることもできる。5巻の半田さんが義経にかける言葉は、労働者として非常に救いになる。生活保護を知るにあたって非常に重要な漫画でありながら個々のケースによるということもあるためか所謂リベラルな人でも深く言及することの少ない(難しい)漫画だけれど、もっと積極的に言及されるべきだとも思う。良い意味でも悪い意味でも、漫画だからこそ言及できることもあるはずだから。

柏木ハルコはなんかやたらと唇の分厚いキャラを描く人という印象だったけど(実際本作でも相変わらず唇は分厚いけど)、これほどまでに誠実に取材をしながら重要な漫画を描くようになったのだなぁと感慨深い。何気に『ブラブラバンバン』の頃から読んでます。

13位 町田粥『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』全1巻

ふじょし以外の女性オタク漫画として雰囲気も良く面白い。設定的な出オチだけでなく描かれているあるあるネタは、僕からすれば他ジャンルの話ではあるけれども、充分に面白く読める。マキさんの気持ちもマミちゃんが作者の考える救いであることもとてもよくわかる気がします。信頼関係があるオタクのツッコミ方とかも良い。止まっていたジャンルの新規展開が良いものであるとは限らないという話なんかもオタクの心を突いていると思う。ハイテンションでもなければ恋愛もなく、単にオタクが話をしているだけであっても充分に面白い漫画に仕上げることができるという一例でもある。

12位 ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』全11巻

不老のオキナガという存在を設定しながらその都度の日本社会に溶け込ませたり溶け込めなかったりすることを行政の面からも見る視点のあるゆうきまさみらしい漫画。広義のファンタジーを入れながらも行政的なリアリティも出すという意味ではもちろん『機動警察パトレイバー』もそうだし、『シン・ゴジラ』あたりのテンションにも近いと思う。異質な存在を入れながら社会自体はそのまま存在するという手法は、ペトス『亜人ちゃんは語りたい』や九井諒子の初期作品でもあったことだけれど、もっと広まっていって欲しいとも思う。SFによって可視化されることというのは確かにある。オキナガの存在は関係なくても、6巻の扇情的な週刊誌の作り方に対する異議も価値観的に良い。ミステリーとして深く考える物語ではなくても、確実に良質なサスペンスではあるし、綺麗に完結した漫画なのでオススメしています。

11位 南勝久『ザ・ファブル』既刊12巻

実にヤンマガ的な殺し屋漫画だし、個人的にあまり好きではない形式なはずのチートな主人公無双漫画でありながら、何故か異様に面白い。説明しがたい複雑な面白さというか、最も単純な意味での面白さというか。最強の殺し屋でありながら日常に降りてきているあたりが良いのかな。最初はわりと横柄だった主人公も、だんだんと大阪に馴染んできたのか何故か温和な性格になってきているのもいい感じ。池辺葵の漫画や『おはようとかおやすみとか』のような優しい子育て漫画や『弟の夫』のようなセクシャルマイノリティを描く漫画を好む側としては我ながら意味不明な気もするけど、それでもなお面白く読めるんだからすごい、というのが正直な感想。6巻のキックボクサーの人とか、12巻の鈴木とか、微妙なところで良識のある人もいるのが好きです。

10位 船戸明里『Under the Rose』既刊10巻

絵の美しさもさることながら、今まで読んできたすべての漫画の中で最も文学に近いと思う。時代的に考えても非常に良識的でリベラルなキャラであるアーサー・ロウランドがしかし同時にすべての元凶でもあるところ、ミス・ブレナンのあまりにも辛い被害と歪んでくる認知、10巻で明示されたとおり深刻な精神病(統合失調症)でありながら時代及び状況的に満足な治療を受けることができず一見して「悪役」になってしまうアンナなど、これが漫画かと思うくらいに深い。作者は価値観を含めてすべてわかって描いていると思う。これは「信頼できない語り手」の話であって、立派なアーサーが苦労する話とかそんな単純なものではない。10巻を読んでなおアンナを悪者だと思える人とは友達になれないと思う。関わる女性すべての認知を狂わせるロウランドの屋敷は、闇そのものである。身分制度の中のコミュニケーション不全や、子供であるからこそ微妙に分かれるグレゴリーとアイザックの差など、論じるべき点は様々にある。同時代を描いた森薫『エマ』と対になる作品であると同時に、確かに漫画として名作である『エマ』さえも凌駕した高度な文学作品として賞賛したい。ウィリアムはクズです。そしてアーサーもまた、クズです。

9位 鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』既刊3巻

セクシャルマイノリティを描く作品は複数出てきたけれど、『弟の夫』が平易な理解を感じさせるのと対照的に、本作は周囲にある程度の理解がある、理解(誤解)があってしまっている中での2歩目に進んでいる。2巻の自分自身のことでありながら「なんにもわからん」という感覚は分類されたセクシャリティや「LGBT」という言葉では捉えきれない広い意味でのクエスチョニングを感じさせるし、3巻での善意の誘いに対する不信感も確かに描かれるべきものだった。3巻での「だったら主張せずに黙ってろよ!」というのも、ただ単に自分には異質な人間がそこにいる、それだけで「主張している」ように見えるという異性愛規範(ヘテロノーマティビティ)の吐露であるように思う。3巻の時点では物語が重苦しくなっているのもあって心が辛くなるけれど、今後もどう描くかは見ていきたいと思っています。

セクシャルマイノリティを見る目線の2歩目となる作品という意味では、小池みき『同居人の美少女がレズビアンだった件。』も名著なのでオススメしています。

8位 大童澄瞳『映像研には手を出すな!』既刊2巻

2017年登場の新星といえば本作だと思う。アニメーター漫画は最近でもいくつかあるけれど、高校生アニメ製作漫画でありながら最も面白い。会話の端々というかむしろ前面に出るオタクっぽさも心地よく、ゆうきまさみ『究極超人あ~る』を継ぐ作品なんじゃないかと思う。ある意味では男子に比べるとどうしてもやや珍しいガチの女子部活漫画でもあり、百合じゃないけど百合。恋愛とか明らかにしなさそうなのも良い。個人的には金森さんのキャラと造形がとても好きです。金森さんがいることで、アニメは絵を動かせばいいというだけのものではないことも担保されるし、重層的な構造にできている。アニメーションとしてのアニメにして欲しいと同時にして欲しくなくもある漫画。

7位 影待蛍太『GROUNDLESS』既刊7巻

速水螺旋人『大砲とスタンプ』も好きだけれど、ミリオタ漫画として最も好きなのは本作。小規模な局地戦の中の詳細な作戦描写や、限られた物資と人員の中でどう動くかが描かれていて、『ワールドトリガー』が平均80点のキャラで構成されているとするならば、本作は平均30点の人員でどうにかしなければならないという感じ。個人制作ではあるだろうけれどデジタル作画技術の向上が巻を追うごとに著しく、最新7巻の迫撃砲の雨を抜けて突撃するシーンは非常に迫力があった。映画よりも漫画好きとして贔屓目を含めて言うならば、『プライベート・ライアン』のオマハ・ビーチと同等の迫力とさえ思う(さすがに言い過ぎかもしれないが)。7巻ではシュバーハンの強烈な督戦と叱咤激励も、それまでのギャップと相まって戦場の恐ろしさを感じさせる。スナイパー無双なところはあるけれど、未読の方はまず一区切りとなる3巻まで読んで欲しい。

6位 かっぴー『左ききのエレン』全10巻

2017年の労働漫画の最高峰。最初は絵のインパクトもあって「ヘタウマで描くサブカルの広告業界話ですかね…」と侮っていたけど、読んでみると非常に価値のある話でした。アーティストとしてのエレンの話よりも、サラリーマンとしての光一の話の方がずっと好きです。6巻37話「会社はお前を育てちゃくれない」からはサラリーマン漫画として秀逸で、天才と再度交わることになる9巻のオーディションが本作のクライマックスであるように思う(9巻は全体的に素晴らしかった。「ツイッター社を破壊する!」とかすごく好き)。作中では必ずしも全肯定はされなかった言説かもしれないけれど、沢村さんが言う「定時をめざせ」は、電通その他で労働問題がいまだにある現代だからこそ再度傾聴に値する。沢村さんは良いメンターでしたよ…。どうしても熱いクリエイターの話に持っていかざるを得ない漫画でもあったけれど、それを取り巻く労働者と天才との対比を含めて、本作はオススメしています。

5位 古舘春一『ハイキュー!!』既刊29巻

5位にしていますが、はっきり言って1位です(2回目)。スポーツ漫画としては今まで読んできた中で全体的なクオリティとしては最高峰。本作は本当に連載の積み重ねを大事にしているなぁと思う。冴子さんの白鳥沢戦での悔しさを反映した和太鼓応援もそうだし、日向が手本にするのがまさかの、まさかの松川一静だったりする。29巻のまっつんショックはマジで衝撃的だった。ジャンプ読んで朝から泣きましたよ。どんだけキャラを活かす漫画なんだよっていう。ジャンプ本誌連載分まで言えば、木下に対する残酷さと間違いない活躍も圧倒的な良さを感じる。一つの試合、一つの巻で言えば21巻の白鳥沢戦の決着が今でも最高だと思っているけれど(1シーンで言えば17巻の及川徹の👈)、今でもクオリティを落とすことなく非常に面白い漫画であり続けていると思っています。何気に全然休載しないのもすごい、けど、たまには休んでもいいんですよ古舘先生とジャンプ編集部…。今後も変わらず応援しています。

4位 丹羽庭『トクサツガガガ』既刊11巻

4位にしていますが、はっきり言って1位です(3回目)。特撮に限らないオタクとそれを取り巻く状況のあるあるネタ、きちんと納得できる教訓、適度なオチ、女性同士の仲の良さと恋愛があってもいいけれど必要以上にそこに重きを置かない感じなどなど、毎回素晴らしい出来だと思っています。漫画の手本にしてもいいんじゃないかというくらい。キャラの性格もそれぞれ違いながらに良いし、手書き文字で小さく書かれる小ネタやツッコミも雁須磨子の漫画と同等以上の良さを感じる。価値観的にも他の趣味の人を貶すこともなく、本当に現代的。何気に会社員漫画でもあって風邪を引いたら休んでもいいとか、生活者として無理にきちんとした手料理を毎日作らなくてもいいとか言ってくれるのもとても良い。本作はもう良いところだらけですよ。非の打ち所の少なさと面白さの融合はここにある。譬え話で相手を説得をするという形式で言えば、『トクサツガガガ』は『新約聖書』です。『トクサツガガガ』は聖書(大事なことなので)。少なくともこの記事を読む気があるくらいのオタク心のある人全員にオススメします。

3位 こざき亜衣『あさひなぐ』既刊24巻

女子薙刀漫画。既に小学館漫画賞を受賞したり映画にもなったりして充分な評価を得てはいるけれど、本作のほとんどは19~21巻の二ツ坂高校vs國陵高校のためにあったんじゃないかとも思う。特に21巻の東島旭vs一堂寧々は、本当に真っ直ぐに描かれてきたスポーツ漫画の頂点そのものだと言っても過言ではない。まさにクライマックスを作り上げたという意味で絶賛しています。批判点がないわけではなくて、序盤は画鋲を使った特訓とか防具をつけない練習とか危険なものもあったし、指導者の迷いを含めた良さで言えば『ハイキュー!!』の方が個人的には上であるとも思うけれど、男子に比べて比較的レアな女子スポーツ漫画としてこれほど重厚な話を作り上げたという意味ではやはり賞賛したい。本作の良さは、例えば『黒子のバスケ』が当然のようにBLであるのと似た意味で、百合ではないけれど明らかに百合でもあるというところにもある。特に國陵高校の関係性は圧倒的でした。23巻の「私たちはチームだった。こういうチームだった」の境地は、國陵高校ファンとしては最高のカタルシスがある。24巻でも戸井田奈歩と島田が尋常じゃなく百合だったりする。特に好きなキャラは一堂寧々と三須英子です。一堂寧々の頑なさは本当に徹底していて、21巻に至るまで所謂ツンデレみたいに安売りしなかったのが良かった。キャラの強度で言えば牛島若利に匹敵すると言っていい。あと三須さんは18巻の「三須英子の野望」回が最高で、これだけで『ワールドトリガー』の柿崎隊と同等の価値がある。団体戦であっても1対1の試合形式の漫画ではあるけれど、意外に負けてもよいとも言える状況がある漫画であるからこそ、試合結果がどうなるのかわからないという緊張感が保たれている(これは『ハイキュー!!』のような1年間のトーナメント部活漫画だとなかなかできない)。強くオススメしています。

2位 ユペチカ『サトコとナダ』既刊2巻

イスラム教徒(ムスリマ)のナダと日本人のサトコがアメリカで暮らす漫画。異文化を知るという意味でも面白いし、なにより2人の仲がとても良くて描写全体が優しさに包まれているのが素晴らしい。自分の知らない文化に接する態度を非常に優しく感じさせてくれるので学習漫画として中学~高校くらいで読むのも良いと思うし、学習漫画的でもありつつ、そこはかとなく感じる寂しさを含めた物語としても素直に秀逸。特に28話「あなた」の「文化を知りたいのはもちろんだけど 私は ナダ あなたを知りたいの」という表現は、異文化コミュニケーションでありながら、同時にコミュニケーションの最高の態度だとも思う。何度も読み返して泣いてしまいました。相互理解の前にお互いを「論破」することを主眼とする現代日本人の馬鹿げた風潮なんかよりも、本作で描かれる態度の方がずっとずっと必要であるように思う。ツイ4で連載中なので、是非読んで欲しい漫画です。

1位 小野ハルカ『桐生先生は恋愛がわからない。』全5巻

当アカウントの2017年の1位としては本作を選びたい。恋愛感情を持たない人を描く漫画という意味では大瑛ユキオ『ケンガイ』(全3巻)も秀逸だったけれど、本作はセクシャルマイノリティに関する用語をきちんと使いつつ現代日本で言われる偏見に真っ向から立ち向かっていて、セクシャリティを描く漫画としては最先端だったと思っています。(それ自体が常に悪いわけではないものの)流行りにすらなっている「LGBT」という言葉だけでは捉えきれないアセクシャルやクエスチョニングという立場をきちんと描く漫画が現れたというのは本当に進歩だと思う。「漫画とセクシャルマイノリティ」については以前もTwitterで書いたけれど、本作は2016~2017年の記録として燦然と輝く金字塔ですよ。漫画としても普通に面白くて、絵もかわいいし(というかヘテロセクシャルの男性として言ってしまいますが桐生先生の造形は正直言ってものすごく好きです)、編集の岩城さんに対して嫌がらせしたくなるシーンとかもギャグ漫画的によくわかる。恋愛感情と物語の行方自体も上手くまとめたと思っています。明確に示さないとわからないということを含めて、こういう漫画はもっと出てきて欲しい。本当にありがとうございました。


2017年に読んだ漫画の総評としては、広義の百合が強かったなという印象。『あさひなぐ』『サトコとナダ』『トクサツガガガ』『辺獄のシュヴェスタ』『映像研には手を出すな!』『咲くは江戸にもその素質』あたりは、もちろん相互に恋愛関係ではないけれども、しかし百合だったと思っています。BLについての捉え方も同様だけれど、個人的には恋愛関係よりも尊いその関係性があると思っている方です。



ここからはおまけです。2017年に読んだ漫画の悪い方を少々。そんなのわざわざ書くなと言われるかもしれないけど、好きではないものも示してこそ個人を写す鏡となるとも思っています。

ワースト5位 地球のお魚ぽんちゃん『男子高校生とふれあう方法』全1巻

シュールギャグをやりたかったのだろうけれど、1mmも笑えなかった。そこそこ笑えるシュールギャグ漫画ってちゃんと考えて作られてるんだな…と改めて思わされる。

ワースト4位 窓ハルカ『漫画として現れるであろうあらゆる恋のためのプロレゴメナ』全1巻

こちらも最も単純な意味で全然面白くない。「サブカル」ってこういうのだったかなぁ。これを評価する自分がカッコいいと思える界隈もあったりするのかもしれないけど、そういう迂遠なカッコよさは僕はもう求めないなぁとも思う。

ワースト3位 ONE、村田雄介『ワンパンマン』既刊14巻

悪い意味での悪魔合体というか、ジャンプ的なヒーロー物に対する皮肉というかアンチテーゼと、村田雄介の流麗な作画を合わせることによって、極めて空虚な話になってしまったように思う。どちらか単体であればいいのだろうけど、出オチ以降のパターン化があまりにも酷い。まぁ結局サイタマがどうにかするんでしょっていう、インスタントなカタルシスにしかならない。サイタマ以外のキャラも基本的に無駄になることがわかっていて戦っているわけで、感情移入も何もない。単なる軽い皮肉として機能させるべきだったと思うんだけどなぁ。なんで作画が無駄に重厚なのか。

ワースト2位 大場つぐみ、小畑健『プラチナエンド』既刊7巻

六階堂さんだけはカッコいいものの、頭脳戦でもないしメトロポリマンもガキみたいな思想でしかないし主人公に魅力もない。『DEATH NOTE』の複雑さもないし、子供を殺したりと扇情的な風を装っているけれど空回りしているだけだし、小畑健の綺麗な絵もあのダサいスーツを描きたかっただけにしか見えなくなってくる。そこそこ以上に人気を出せるはずのコンビなのに勿体無いとしか言いようがない。

ワースト1位 柳本光晴『響~小説家になる方法~』既刊8巻

チートキャラが暴力と説教をする話。それ以上でもそれ以下でもない。なろう系で芥川賞と直木賞を同時に受賞する展開を書けばこういう風になるんじゃないですか。まぁこれは「小説家になる方法」という題名を信じた僕も悪いんだろう。本作は「そして響は外道マンになる」とかそういうタイトルだったら違う目線で見ることもできたはず。マンガ大賞という評価とのギャップがあったのもあって、2017年のワースト1位とします。


更におまけ。2017年に刊行されたわけではないし時期を外しているけれども個人的に読んで面白かったものを少々。

完結5位 雁須磨子『かよちゃんの荷物』全2巻

kindleで新装版が上下巻で出ていたので再読。女性の日常漫画としては素晴らしい出来。かよちゃんもそうだけれど、本作の主人公はひとみちゃんでもあったりするんじゃないかとも思う。必ずしも意味のないやりとりという意味ではヤマシタトモコと同様でありながらまた別の意味で雁須磨子の味でもあると思っています。

完結4位 髙橋ヒロシ『クローズ』全26巻

完結3位 髙橋ヒロシ『WORST』全33巻

こちらは2作品合わせて。不良漫画の金字塔の一つでもある。武装戦線のカッコよさは圧倒的で、そりゃまぁ惚れるよねっていう。何気に主人公のいない世代が好きです。ゼットン世代とか。本作が最も異質なのは、2作品と関連作品60巻以上を合わせても、女性キャラが一切出てこないところ。そういうメソッドもあるんだ…と逆に驚嘆する。いちいち女性が人質にさせられたりしないのでそういう意味では安心して読める。60巻以上ある漫画で女性がまったく出てこないとか、ギネスに挑戦できるんじゃなかろうか。全体的に普通の漫画としても面白く読めました。

完結2位 漫画版『うみねこのなく頃に』全50巻

以前も一度読んでいたけれども再読。原作ではミステリーだと思ってプレイした人が多かったからか完結しても評判が良くなかったようなのだけれど、漫画版はトリックや「犯人」についての描写もかなり明示してあって、納得感は充分にある。『うみねこのなく頃に』は漫画版でこそ読むべきなんじゃなかろうか。ケレン味はありすぎるところもあるけれどそれぞれのエピソードの作画も良く(特に夏海ケイ先生は非常に上手い)、最後の手品エンド⇔魔法エンドについても、それまでこれでもかというくらい露悪的だった物語を踏まえた上で驚くほどの人間賛歌を持ってくる手法は、改めて読むからこそ心に染み入るものがある。うみねこなんて評判よくないでしょ、と思っている人こそ漫画版で読み直して欲しい。

完結1位 荒川弘『鋼の錬金術師』全27巻

2017年に初めて読んだけれど、超人気作品だった理由がわかる圧倒的な面白さ。少年漫画としての非の打ち所の少なさで言えばトップクラスどころでなく本当の意味でのトップではなかろうか。僕から言うまでもないくらい最高にオススメしたい漫画。絵の安定感、物語の重みと整合性、伏線の回収、キャラの魅力、バトル漫画としての強さのバランス、少年漫画らしい熱さ、そして作中の思想信条とジェンダー観、そのすべての要素に於いて、どれほど低く見積もっても90点を下回ることない、完璧なバランスと言っていい漫画だと思う。現代の少年漫画はこれを超克しなければならないのか…と思うと、とんでもねぇバランスを持った作品を残したよなぁと。例えば『ワールドトリガー』のバトル描写や、『弱虫ペダル』の気持ちを乗せた描写などで、局所的には勝てるかもしれない、けれど、総合力で言ったら本当にハガレンは圧巻でした。


おわり。

ンアー、疲れた。まさかの30,000文字以上書いてしまった。こんな分量になるとは思ってなかったし、そもそも2017年内に書き終われよって話でもあるんですが、そこはまぁ致し方なし。35位までは2017年内に書いてたんですよ…。実質的に執筆したのは4日間くらいですが、体裁を整える作業も意外に大変だった。編集者の人はすごいなぁと改めて思う次第です。図版が一切ないのもどうかと思うし(なんだかんだ視覚に訴えるのはSNSに於いて重要なのも知ってはいる)、引用権の範囲内でいくつか足したいとも思うのだけど、気力があればということで。

この場を借りてついでに言っておきたいこととしては、僕は日本共産党支持者ですということ……まぁそれはわりとどうでもいいんだけど、あとは、漫画村は非常に良くないということですね。なんかユーザーが増えちゃうからその名前を出すなって風潮もあるらしいのだけど、あれはダメだってことは名指しで言うべきだと思っていますし、出版社及びインターネット社会総出で潰すべきだと思っています。人によっては炎上とか得意なはずでしょう。僕は上記の全作品をkindleで買って電子書籍で読んでいるけれど、小中学生に限らず社会人に至るまで漫画=無料みたいな風潮になっていて、マジで馬鹿げていると思うし、それには断固として反対したい。知らない方が情弱とか言ってる馬鹿はどうにかならんのか。相応の課金あるいは徴収ができるようにするべき、というか違法な漫画閲覧サイトは(サーバーが海外だとかいったくだらないエクスキューズは関係なく)単純に潰すべきですよ。僕が見聞きする範囲でも、本気で洒落になってない。インターネットは違法行為のためにあるものではない。こういうのは社会人としてちゃんと言って対処していかなければならないことですよ。必ずしも出版社でなくてもいいとしても、漫画を作る人にお金が入らないというのは文化の死だ。万引きをしないとか立ち小便をしないとかいったことと同じ話、同じ倫理観です。

あとはまぁ、電子書籍の発売日(配信日)が紙の本よりも遅いというのはどうにかなんねぇのかな…。『ゴールデンカムイ』なんかはようやく同日発売になったけど、『きのう何食べた?』なんか次の巻が出たときに前の巻が電子書籍になるので10ヶ月遅れという尋常じゃない状況になっている。あと中小出版社だといまだに電子書籍対応していない。益田ミリの漫画とか良いものがいっぱいあるのに非常に勿体無いなぁって思ってます。



この記事のスペシャルサンクスは夢子さんに贈りたい。この方の影響で上記のうち15作品・150冊くらい読んでます。本当にお世話になりました。


長々と書きましたが、単純にブックガイドになれば幸いです。ありがとうございました。

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