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氷上の格闘技、NHLのトレンドに迫る

アメリカの4大リーグには、NFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)、MLB(野球)、NHL(アイスホッケー)があります。2月11日にアメリカ最大のスポーツイベントとも呼ばれるスーパーボウルが行われ、翌週2月18日には全面LEDのコートで話題を呼んだNBAのオールスターが開催されました。そして、MLBは3月20日にワールドツアーの一環として韓国で開幕戦を行います。大谷翔平選手、山本由伸選手が所属するドジャースとダルビッシュ有選手、松井裕樹選手が所属するパドレスという対戦カードで日本人選手が多数出場する可能性があることから、日本国内でも注目が集まっています。
他リーグと比べると日本ではあまり馴染みがないNHLですが、本記事ではここ数年のNHLのビジネス面におけるトレンドを中心にご紹介します。


リーグフォーマット

まず、リーグのフォーマットについて整理します。リーグはEastern、Westernという2つのカンファレンスに分かれ、カンファレンスごとに2つのディビジョンに分かれています。1ディビジョンには8チームずつ所属しており、NHLは合計32チームで構成されています。全32チームのうち、カナダに7チームがあるという点は、他の4大リーグにはない特徴*となっています。

*カナダに本拠地を置くチーム数 NFL:0チーム、MLB:1チーム、NBA:1チーム

例年10月から4月にかけてレギュラーシーズンが行われ、その後プレーオフが4月から6月にかけて行われます。ウインタースポーツというイメージが強いアイスホッケーですが、実は初夏まで行われているのです。
約半年に渡るレギュラーシーズンを勝ち抜いた各カンファレンスの上位8チーム、両カンファレンス合計16チームが、NHLの王者決定戦であるスタンレーカップへの出場権を獲得します。スポーツベッティングが盛んで、スタンレーカップ出場権に関するオッズ表をNHL公式アカウントが投稿することもあります。


NHLでは毎年元旦に行われるウインタークラシックが名物として知られており、リーグ戦中の1試合にすぎないにも関わらず、お祭りのような盛り上がりを見せます。普段は屋内リンクで試合が行われますが、ウインタークラシックの試合に限ってはなんと屋外スタジアムで行われます。NFLかMLBの球場で行われることが多く、ここ2年はMLBの球場*で開催されており、2024年はT-Mobile Park(シアトル・マリナーズ本拠地)で行われ47,313人の観客を集めました。

*2022年:Target Field(ミネソタ・ツインズ本拠地)、2023年:Fenway Park(ボストン・レッドソックス本拠地)


放映権事業

先ほどお伝えした通り、NHLにはカナダを本拠地とするチームが7つあります。カナダの国技であるアイスホッケーの競技熱は同国内で非常に高く、NHLでは1つの試合に対してアメリカとカナダそれぞれの放送局が独自に番組を制作しています。これは他の4大リーグにはない大きな特徴で、同じ試合であってもアメリカの放送局が放送する番組とカナダの放送局が放送する番組とでは全く雰囲気が違うものになります。
現在、カナダ国内の放映権はロジャーズ・コミュニケーションズが保有しており、2014-15シーズンから52億カナダドルの12年契約を結んでいます。アメリカでは2021-22シーズンからESPNとTNT*の2社共同による7年契約が締結されています。

*Turner Network Television:ワーナーブラザーズディスカバリー傘下のワーナーブラザーズディスカバリーネットワークが運営

スポンサー事業

コロナ禍は縮小したものの、この数年で事業規模を拡大させているのがスポンサー事業です。直近の2022-23シーズンではNHL全体(リーグ・チーム合わせて)のスポンサー収入が対前年比+21%の約14億ドルになりました。

Forbesが出している2022-23シーズンのスポンサー事業に関するレポートでは、下記のデータが紹介されています。

NHLのチーム平均収入:2億100万ドル(対前年比+8.6%)
NHLの32チームのスポンサー収入の合計:10億8,000万ドル(対前年比+16.5%)
NHLのリーグスポンサー収入の合計:3億2,300万ドル(対前年比+17.8%)

Forbes

4シーズン前である2018-19シーズンと比較し中長期的に見ると、チームスポンサー収入は36%の伸び率であるのに対してリーグスポンサー収入は55%の伸び率となっており、リーグのスポンサー事業が大きく成長していると言えます。他の4大スポーツと同様にアナリティクス系企業や、スポーツベッティング事業者、テック系企業といった顔ぶれがリーグスポンサーとして名を連ねるようになりました。余談ですが、日系関連企業としてはHonda USAが唯一NHLのスポンサーになっています。

NHLのリーグスポンサー事業でユニークな点は、そのスポンサー区分にあります。これまでにお話した通りNHLはカナダでも非常に人気があるリーグであるため、グローバルスポンサー、アメリカ国内限定のスポンサー、カナダ国内限定のスポンサーという区分が存在しています。両国の商圏の違いもあり、様々な企業が名を連ねています。

また、チームスポンサー事業が成長した大きな理由としては、新しい広告枠の解禁が挙げられています。各チームに対して、2021-22シーズンにはヘルメット広告枠、2022-23シーズンにはユニフォーム広告枠の販売が解禁となりました。GlobalData社のリサーチによると、ヘルメット広告による収入は年間9,122万ドル、ユニフォーム広告は3,220万ドルと推定され、新たな売り上げを生み出しています。


新しいパートナーシップ

NHLは2023年3月に新しいパートナーシップに関するリリースを発表しました。


こちらのSNS投稿は、2024-25シーズン(来季)からFanatics社がNHL全チームのユニフォームサプライヤーになるという内容で、10年契約という期間の長さも含めてNHLファンから大きな反響を呼びました。
Fanatics社はこのパートナーシップの発表以前も20年に渡って関係性を構築していました。
当初はファン向けのアパレルやグッズ販売といった領域から、ファン向けオーセンティックジャージの制作と販売、そして全チームへのユニフォームサプライという発展を遂げてきました。
来シーズンのユニフォームのタグはもちろんのこと、今後のFanatics社とNHLの関係性についても要注目です。

今後NHLはどうなるのか

4大リーグの1つに挙げられるNHLですが、ここ最近はアメリカ国内でのMLS(サッカー)人気が高まり勢力図が変わるのではないかと言われています。

著者作成(Forbes公開データ参照)

これまで述べてきたように、NHLは時代に合わせた動きを取り事業拡大を続けています。資産価値や売上といった指標は他のリーグよりも規模が小さいですが、年間成長率の数字からはまだまだ伸び代があることが分かります。MLSと比較しても、全ての項目においてNHLが上回っていることが分かります。これまで何度か述べてきたようにNHLは伝統的にカナダでの人気が高く、またアメリカのユタ州で新規参入を目指すと表明をした実業家が出てくるなど、カナダ、アメリカの両国でのこれからの動きが楽しみなリーグです。

今後もNHLの動きをチェックしていきますので、ぜひ皆さまも注目してみてください。

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