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『スマ見の4コママンガ劇場』で珠玉の4コマをまとめ読みしよう

 以前に旧ススメWebで紹介したスマ見さんのマンガが『スマ見の4コママンガ劇場』シリーズとして Kindle の電子書籍になっています。Twitter でのコママンガをまとめたもので、現在までに全5巻が出ており、すべて無料で(Kindle Unlimited でなくても無料で)読むことができます。

 スマ見さんのファンとしては、ぜひみなさんにも珠玉の4コマを読んでいただきたい、ということで、この記事では私が独自に5つの観点を設定し、それぞれ2本、合計10本を選り抜きで紹介したいと思います。

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高解像度な『あるある』

タッパー洗う時のスピード感がお気に入りの子供

4巻8ページ

 スマ見さんのマンガの面白さの根幹は、何といってもネタに対する解像度の高さでしょう。直接的な『あるある』ネタでは、説明されれば確かに分かる、でも言われるまでは思いつきもしなかった着眼点が数多くあります。私のお気に入りはこのタッパーの一本。自炊で作り置きをしている人であればこのネタ自体は理解できるところ、そこに「スピード感」があると示すところがスマ見さんのスゴさ。何気ない日常の中にある気づきがマンガにインパクトを与えています。

最近はだいたいこんな感じ

5巻22ページ

 こちらは情報化&スマホ社会における人間の行動を巧みにとらえた一本。勢いよく流れていく画面と「素朴なやる気は蒸発していく」という言葉が、情報に流されてしまう生き方を生々しく描き出しています。果たしてオムレツを作って食べたかったのか、それとも実はオムレツという情報を摂取したかっただけなのか、そんなことまで考えてしまいます。

テレビゲーム系

RPGの世界で流れてるACのCM

1巻28ページ

 テレビゲームを題材としたネタはスマ見さんの十八番のひとつです。ドラクエや FF のような JRPG でお決まりの節約プレイングも、スマ見さんにかかればギャグマンガに。これ続けたら宿屋が潰れるんじゃね?と想像したことは誰もがあるかもしれないけど、その想像をそれらしい CM として描き出す点がスマ見さんの上手さ。現実世界とゲームの世界のギャップが笑いを誘いつつ、もしかしたら本当にこんな CM があるかもしれない、とも思わせるワザが光ります。

隠しブロックを設置する業者

5巻16ページ

 スーパーマリオシリーズを彷彿とさせる世界には謎の業者が。作業員のセリフの掛け合いがいかにも未熟者と職人気質なエンジニアのそれで、ホントにこんな業者がいるのかも、と思わせる説得力があります。宙に浮かぶブロックの点線もシュール。見上げる視点では三点透視で描かれている細かさもナイスです。

カードゲーム系

カードショップが好きすぎる生徒

3巻31ページ

 テレビゲームだけでなくカードゲームのネタもあります。雑居ビルにあるカードショップへ階段を上がっていくときのワクワク感、わかりみが深い。「学校の階段をカードショップに」するという謎が解けていく4コマにはえも言われぬカタルシスさえ感じられます。先生には伝わらなくても、オレはお前のことを理解しているぞ。具体的なタイトルが初期のトレカブーム世代を直撃している点もステキ。

例えが全部カードゲームの人

3巻3ページ

 この少年は本当にカードゲームが好きなんだろうなあ。「プレイマットの折り目に置かれたカードのように〔…〕不安定」なんてフレーズ、実際のカードゲーマーでもなかなか出てきませんよ。しかもそれをここでは直接的な『あるある』として示すのではなく、人間の感情に添えるところがまた巧妙です。

人間らしさ

『人の心を理解するロボット』にこだわりすぎている博士

4巻40ページ

 スマ見さんの解像度の高さは、『あるある』だけでなく、『人間らしさ』とは何なのか、ということにまで踏み込みます。こちらは「人の心」ってそういうこと!? とツッコミを入れたくなりつつ、描かれているシチュエーションが分かりすぎて、そうかもしれない、と思ってしまう一本。ちゃんとパッケージされていれば生肉に洗剤がかかることなんてない、という論理だけでは片付けられない、心の機微を巧みにとらえています。

アンドロイドが紛れ込んでる街

2巻26ページ

 何気ない日常の風景と取るに足らない着眼点から緊張感ある展開へとつなげる奇怪なこのマンガを、スマ見さんはどのように発想したのだろうか。この観点を持たないことを理由に人間ではなく「アンドロイドなのか…?」とするあたり、先のロボットと博士の一本とあわせて、スマ見さんの人間観が見え隠れする4コマでもあります。

友情・親愛

入学初日

3巻44ページ

『人間らしさ』の中でも友情や親愛はちょくちょく描かれるテーマの一つです。この4コマで特筆すべきは花山薫とスケッチブックの類似性ではなく、それを提示した相手と友情を結びたくなる情動の描写でしょう。これを含む一連の友情マンガに通底しているのは、くだらないことを言い合える関係こそが友だちだ、という観念のように私には思えます。

掃除当番の二人

5巻13ページ

 親愛を描いたものでは、この掃除の時間の女子と男子の一本が、私のお気に入り。こういうちょっとしたところに胸キュンする気持ち、わかりすぎる。「全然キレイに入らな」くても構わないどころか、「このまま2人でどこまでも後ずさりたい…」とするところには詩的な情感さえ感じられます。

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 以上、『スマ見の4コママンガ劇場』シリーズからの紹介でした。スマ見さん、現在もご自身のツイッターで定期的にマンガをアップされてますし、最近では連載終了後にあまり動きがなかった「散歩する女の子」アカウントの方にもぽつぽつと投稿があるんですよね。引き続き楽しみな作家さんです。

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 旧ススメWebで2021年に書いた記事です。


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