所沢市議会の会派制度を点検する
前置き
所沢市議会の会派再編 (2024年4月1日)
先日、所沢市サイトの新着ニュースに、所沢市議会の会派構成等の変更に関する発表があった。石本、末吉議員の会派は単に名称が変わっただけだが、赤川、長岡議員は新会派を結成し、また斉藤(か)、神戸議員は既存会派に合流する形となった。
少し調べて見ると、2024年3月21日に開催された広報公聴委員会の会議録に次のような記載があった。要は、これまでは所沢市議会で運用してきた、いわゆる一人会派をなくし、無会派(言葉を選ばずに言い換えれば「その他」)として扱うようにしていく、ということである。
赤川、長岡、斉藤(か)、神戸議員の4人はいずれもかつては一人会派で、さらに会派名に政党名を掲げていた。しかし一人会派がなくなって無会派扱いとなれば、政党名を掲げることができなくなってしまう。そうなるよりは会派名に政党名を残したい、ということで今回の会派変更が行われたように見える。事実、この4人に関する新しい会派にはいずれもそれぞれの政党名が並列して掲げられているし、赤川議員や神戸議員もそういった旨のツイートをしている。
一人会派に関するこの運用変更は、赤川議員や神戸議員のツイートによれば、代表(者)会議で決まったとのこと。また、この代表者会議は傍聴ができない、いわゆる秘密会とのことだ。
なお、前述した2024年3月21日の広報公聴委員会の会議録中には「令和4年1月20日の広聴広報委員会」(過去の委員会)の話題も挙がっているものの、同会議録中の記載を見る限り、過去の委員会では単に「表記の方法等の議論があ」っただけで、一人会派だ無会派だの話題はなかったように読める。
所沢市例規集における会派運用の明記はわずか
さて、今回の件で興味がわいて所沢市の例規集を調べたところ、例規中に「会派」と書かれている例規は次の5件だった。
所沢市議会基本条例
所沢市議会議員政治倫理条例施行規程
所沢市議会政務活動費の交付に関する条例
所沢市議会政務活動費の交付に関する条例施行規則
所沢市議会議員のハラスメントの防止等に関する要綱
これらの条例のうち、会派に関する基本的なことは議会基本条例にいろいろ書かれているだろう、と私は期待した。しかし、実際には第5条に次のことだけ書かれていた。確かに基本だが、あまりにも基本のキだけに留まりすぎてやしないか、という印象を受けた。
「例規集に記載がないなら、一人会派の扱いなどはどこで規定されているのか?」というのは自然な疑問だろう。私の所沢市議会に関する知識の限りでは、いわゆる「議会運営に関する申し合わせ事項」で規定されているはずだ。会議録検索システムで「申し合わせ 申合せ」で OR 検索すれば、そのような事項の存在が確認できる。
議会運営に関する申し合わせ事項は公開されていない
例によって前置きが長くなってしまったが、ここからが本題だ。
私が今回の件では問題だと思ったのは、議会運営に関する申し合わせ事項が公開されていないように見える(この記事を書いている時点で市のサイトを「議会運営に関する申し合わせ事項」で検索しても何もヒットしない)ことだ。議会内に閉じた話なので、議員間の合意でルールを定めること自体が失当などとは言わない。しかし、そのルールが市民に公開されていなければ、今回のようなことがあったときに『何がどうしてそうなった?』のか議員から説明がないことにはよく分からないし、説明があったとしてもそれが本当なのか検証が難しい。果たして、そのような市議会は『市民に開かれた市議会』と言えるだろうか?
そこでこの記事では、会派制度の運用に関する主な話題が、所沢市の例規集にどの程度明記されているかを点検してみようと思う。以下、単に「法」というときは地方自治法を指す。
おさらい ― そもそも会派とは何か
会派とは、議会基本条例第5条第2項にもあるように「政策を中心とした同一の理念を共有する議員で構成」する議会内のグループであって、政党とは区別されている。政党はより広範な社会において結成され、また構成員に議員以外も含むのに対して、会派は範囲が議会内に、そして構成員が議員に限られる点が特徴である。無党派の議員が会派を結成することも何らおかしなことではないし、時には党派を超えた議員が結成することもある。
会派の人数・表示
所沢市議会では今回の運用変更で一人会派がなくなった。新しい会派はいずれも2人以上で構成されているので、人数要件は2人以上ということなのだろう。
会派の名称は市議会ホームページや市議会だよりなどの公文書に表示される。これも新しい運用では会派に所属しない議員は「無会派」と呼称、表記されることになった。
これら二点について、例規集での明記は見つけられなかった。したがって議会運営に関する申し合わせ事項で規定されているものと私は推測する。
会派と政務活動費
法第100条第14・15・16項は自治体議会における政務活動費の扱いを定めており、会派または議員に対して政務活動費を交付することができるものとしている。ちなみに、地方自治法における「会派」の記載はこの第100条第14・15項のみである。
所沢市における政務活動費の交付対象や手続きなどは、「所沢市議会政務活動費の交付に関する条例」および同条例施行規則が定めており、議員に対して交付するものとしている。その上で、政務活動費の一部を、議員2人以上で構成する会派の共用費に充てるために使用することができるものとしている。
ここで同条例第5条第3項の「議員2人以上で構成する会派」の箇所は、会派の人数要件というよりはむしろ、単に会派共用費の使用条件を定めていただけと読む方がよさそうに見える。つまり、一人会派があったときで考えても、その構成員は1人だけなのだから、「共用」も何もないよね、というだけの話である。
会派と議会活動
会派と議会運営委員会
議会運営委員会は法第109条第1項および第3項で規定されている委員会で、議会の運営に関する事項などの調査や審査を行う場である。
所沢市の例規では議会委員会条例の第4条が議会運営委員会の設置根拠となっており、定員が12人であることは明記されている。
ただ、この12人を各会派からどのように選ぶのかは、例規には明記されていないように見えた。2024年2月20日時点の議会運営委員会の名簿には一人会派の議員はおらず、2人以上の会派の議員のみがいるように見えた。となると、あとは各会派の人数に応じた数の委員を選んでいるのではないか、と私は推測した。ただ、荻野議員のブログには3人以上の会派との旨の記載がある。そうなると2人会派の議員が委員にいることには他の理由があるのかもしれない。
会派と常任委員会
議会運営委員会は法第109条第1項および第2項で規定されている委員会で、議会の運営に関する事項などの調査や審査を行う場である。
所沢市の例規では議会委員会条例の第1条および第2条が議会運営委員会の設置根拠となっており、5つの委員会とその定員が定められている。また、第2条第1項では「議員は、少なくとも1の常任委員となるものとする」との規定があるので、議会運営委員会のように少数会派の議員が完全に蚊帳の外になってしまうことはなさそうに見える。
ただ、各委員会の定員内での会派構成比については、やはり例規には明記がなさそうに見える。2024年2月20日時点の議会運営委員会の名簿を見る限り、各会派の人数が多少なりとも勘案されているものと私は推測する。
会派と代表者会議
いわゆる代表者会議は各会派の代表者によって構成される会議体で、議会の審査または運営に関して協議や調整を行うための場である。赤川議員や神戸議員が話題にしていたのもこれである。
私の理解では、設置根拠は法第100条第12項と各自治体の会議規則である。
同項の規定による場は、総務省サイトに掲載されている「地方自治月報 第59号」の「(PDF) 法第100条第12項の規定による協議又は調整を行う場に関する調」に、平成30(2018)年4月1日現在の各自治体における一覧が記されている。埼玉県内の他市では、例えば川口市は同項を根拠に「各会派代表者会議」を設けているようだ。
ただ、所沢市議会会議規則においてこのような場として明に定められているのは、代表者会議ではなく、広聴広報委員会である。
例規集を「代表者会議」や「会派 代表」で検索しても、所沢市議会の代表者会議あるいはそれに相当する会議体に関する記載は見つけられなかった。もしかしたら、これも申し合わせ事項なのかもしれない。
また、代表者会議に出席できるのは3人以上のいわゆる「交渉会派」だけというのは、神戸議員のツイートや荻野議員のブログを見る限りはそうなのだろう。ただ、これも例規集には明記が見当たらなかった。
会派と代表質疑・代表質問
大きな市の議会や都道府県議会などでは、議員個人の質疑や質問とは別に、会派の代表者による代表質疑や代表質問の制度が設けられていることがある。
所沢市議会はそもそもこういった制度がないように見えるので、この記事では深入りしないでおく。
会派とその他の話題
会派の記載順序
議決結果などにおける会派の記載順序は左から右へ多数会派から少数会派の順になっているように見えるが、これも例規集ではやはり明記がない。
会派と議席(の場所)
議会の議席はこれまで、同じ会派の議員同士が距離的に近くなるように整えられてきたように見えるが、これも例規集での明記は見当たらない。
赤川、長岡議員は既にたまたま近いが、斉藤(か)、神戸議員はお互いに離れているし、また新しく同じ会派になった他の議員とも離れている。もしかしたら次の議会で、議席の再調整が行われるかもしれない。
その他にもこまごま
会派を結成する際の届出とか、会議録署名議員の選び方とか、開票立会人の選び方とか、他にも会派が関係しそうな話題はいくらでもありそうである。
おわりに
所沢市議会における会派制度の運用は、例規集にわずかしか明記されていないことが分かった。議会と議員を監視する市民の立場からすると、この状況はちょっといただけない。
何も議会基本条例などの硬性な法規として今すぐ明記せよと言っているわけではない。まずは申し合わせ事項のままで構わないから、とにかく文書として市議会サイトで公開してほしいのだ。他市の事例を見ると、横須賀市議会では「議会運営委員会申し合わせ事項」や「横須賀市議会先例集」といった文書を議会サイトに掲載しており、決して不可能ではないことが分かる。それに、文書として公開することによって市民の議会に対する知識が深まる効果も考えられる。
ささいなことかもしれないけど、こういう営みも『市民に開かれた市議会』に向けた議会改革のひとつだと私は思っている。そして改革は一日にしてならず、コツコツとした積み重ねが大事だ、とも。議員の方々の地道な活動に期待して、この記事を締めたいと思う。