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ヘルシンキサウナ紀行②Sampasauna: 人民の人民による人民のためのサウナ

不死鳥はサウナでした

これほどまでに底知れぬ愛を感じるサウナは他に存在しない。人民の、人民による、人民のためのサウナである。

Sampasauna。その歴史は2011年に地元の人々が放り捨てられたサウナストーブを見つけたことから始まった。当初は「煙突とのこぎり」以外の材料は全てゴミ捨て場で見つけるか、寄付で賄うかしてサウナ小屋を作ったらしい。

しかしながら無許可の建設だったため、ヘルシンキ市がこのサウナ小屋を取り壊してしまう。せっかく作り上げたものの行政の力の前に敗れ去ったSampasauna。もはや為す術なしか!?

いやいや、こんなことで諦めるヘルシンキ市民ではない。彼らは2013年末に市と土地のリース契約を結び、正式な形でサウナを再度建設する。これで順風満帆かと思いきや、その後もならず者によるサウナの破壊や火災などに見舞われ、その度に再建をしているのである。

そして2021年6月には、もともとサウナ小屋のあったSompasaariで建物の建設工事が進んだことを受けて移転を余儀なくされ、Hermanniに新たなサウナが爆誕した。これが現存するのSampasaunaである。現在は3つのサウナ小屋から構成されており、「神殿」「礼拝堂」「柱」という名称。2024年までには、Hermanniでも建設工事が進むことから、また別の地へ移転する必要があるとのことだ。こいつ、不死鳥である。

とてもおごそかな入り口
サウナ小屋たち

さらに驚くべきことに、サウナは完全無料だ。正式なスタッフが常駐しているわけではない。地元の方々がボランティアで薪を持ち込み、薪を割り、薪を焚べ、サウナストーブの火を灯し続けている。さらに、市とのリース契約に必要な費用など必要な維持管理費は、地元の方々を中心にしたメンバー会員の会費によって賄われている。自らお金を出し、自ら働いているのである。

ローカル民のロウリュは梅雨前線

無料だからと侮るなかれ。これだけサウナ愛の溢れる彼ら彼女らが作ったサウナである。そのクオリティも最高峰であった。

私が訪れたのは平日の15時過ぎ。このタイミングでは全3サウナのうち1つが利用可能な状態であり、残り2つは温めている途中だった。それでもすでに10人ほどの人がいる。観光客は私を含めて3人で、他は地元のご老人たちだ。

ここにはロッカールームなどはない。屋外で着替えて、木でできた物入れか、ベンチの下などに荷物を置く。

手作り感溢れるロッカー
荷物かけとベンチ

なお、HPには水着不要との記載があるが、少なくとも私が行ったタイミングでは、地元の方々も含めて全員が水着を着用していたので注意が必要だ。もちろんシャワー室もない。ちなみにホームページには、塩分濃度低いから海で身体洗えるぜよ、と書いてある。

早速水着に着替え、サウナをいただく。入り口の扉の真横にはサウナストーブが鎮座しており、温度は90度程度だ。少し詰めて座ると8人が入るくらいのサイズだろう。

サウナストーブの真横に座った人がロウリュをするのがここの流儀だ。私が入室したタイミングでは、歯が5本くらいしかないおじいさんが1分に1度程度の勢いでロウリュをしていた。狭いサウナ室にロウリュの音と蒸気が充満する。

熱い。日本であれば「ロウリュは10分に1度」とでも注意書きがあるところだが、そんなルールは存在しない。熱い蒸気が降り切ってくれば、またすぐに彼がロウリュをする。それを他のローカル民も楽しんでいる模様だ。

5本歯のおじいさんが退室すると、その横に座っていた、プーチンを15歳くらい加齢させたようなおじいさんがサウナストーブ横に移る。これでやっと一息かと思いきや、彼がマニュアル連続ロウリュを始めるのである。

1杯、2杯、3杯。5本歯おじいさんのすぐ後の、老プーチンによる追いロウリュである。熱い。私以外の唯一の観光客だったインド人2人が退出する。4杯、5杯。いや熱い。タイムズ・スパのオートロウリュを2連チャンで食らったような熱さだ。さすがの私も、そろそろ止めてくれと心の中で思う。6杯、7杯、8杯。いやそれは拷問だ。十字架に貼り付けられたまま草加健康センターの爆風ロウリュを喰らい続けているようだ。

退出を志すも忘れるなかれ。扉の真横にサウナストーブがいるのである。扉を開けるには、立ち上がって、この灼熱のロウリュの蒸気を全身で受ける必要があるのだ。甘えなど許されない。

この業火を潜り抜け勢いよく扉を開けて外に出ると、5本歯のおじいさんが、タバコを吸いながら大笑いして話しかけてくる。フィンランド語だから何を言っているかはわからない。きっと「老プーチンはいつもああなんだ。クソ熱いだろ。早く海でチルしな」とでも言っているのだろう。

そう、Sampasaunaも海でクールダウンできる。5月末の日中であっても、バルト海は冷たい。体感的にはサウナセンターの水風呂と同じ程度(14度くらい)だが、海の深さと波の心地よさが冷却能力を助長している。煮えたぎり分散しかけた身体が、急速に1つに戻る感覚を覚える。

僕らの水風呂、バルト海

休憩場所はベンチが何台かと、海のすぐそばに休憩椅子が置いてある。私はベンチに座って煙草を吸った。一緒にサウナに入っていた巨漢の若いフィンランド人が隣に座って、フィンランド語で何かを言われる。煙草が欲しいのか、と英語で尋ねながらアメリカで買ったアメリカン・スピリットを見せると、彼は頷いた。

名前がダメだ、ここで吸うべきは決してアメリカン・スピリットじゃないなと思いつつも、彼はそのアメスピをとても幸せそうに煙を味わっていた。よくSampasaunaに来るのかと英語で尋ねると、”Sauna, Sea, Swim!!!”と彼は笑顔で答えた。それでいいのだ。

私がこうしている間にも、地元の方々はサウナ室のストーブに薪を焚べている。彼らにとって金銭的な報酬があるわけではない。ただ愛のみがなせる術なのだ(なお、準備ができたばかりの2つ目のサウナ室は100度でした。薪サウナなので、温度は時々刻々と変化するものと思料)。

まとめ

サウナーを自認する方々に置かれては、ヘルシンキに行ったらmust goです。大地真央さんに「そこに愛はあるんか」と問われれば「愛しかありませんでした」と答える代物です。サウナ室も高温ですし、これは時と場合によるかもですがロウリュも超高頻度なので、クオリティももちろん期待いただいて大丈夫。

基本情報

  • 名称:Sampasauna

  • HP: https://www.sompasauna.fi/

  • 料金: 無料

  • 営業時間: オフィシャルには24時間無休365日、となっていますが、サウナ小屋に火が灯る15時以降くらいがいいと思います(日によるとは思う)

  • 事前予約: なし

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