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CINEMORE magazine|『不死身ラヴァーズ』松居大悟監督 【Director’s Interview】

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今回は、漫画家・高木ユーナの同名コミック『不死身ラヴァーズ』を映画化した松居大悟監督監督のインタビュー記事をお届けします。


松居大悟監督の最新作『不死身ラヴァーズ』は、漫画家・高木ユーナの同名コミックの映画化。初めて原作と出逢った時からずっと主人公の二人に強く惹かれていたという松居監督は、10年以上前に一度映画化を試みるも、残念ながら企画は頓挫。それでも諦めきれずに企画を復活させ、今回ついにその願いを叶えることが出来た。「この10年で積み上げてきたものをすべて捨てて挑みました」と言う松居監督は、いかなる思いで本作に向き合ったのか。話を伺った。


『不死身ラヴァーズ』あらすじ
長谷部りのは、幼い頃に“運命の相手”甲野じゅんに出逢い、忘れられないでいた。中学生になったりの(見上愛)は、遂にじゅん(佐藤寛太)と再会する。後輩で陸上選手の彼に「好き」と想いをぶつけ続け、やっと両思いになった。でも、その瞬間、彼は消えてしまった。まるでこの世の中に存在しなかったように、誰もじゅんのことを覚えていないという。だけど、高校の軽音学部の先輩として、車椅子に乗った男性として、バイト先の店主として、甲野じゅんは別人になって何度も彼女の前に現れた。その度に、りのは恋に落ち、全力で想いを伝えていく。どこまでもまっすぐなりの「好き」が起こす奇跡の結末とは――。

10年前は通らなかった企画


Q:10年前に頓挫した企画を復活させたとのことですが、今回はなぜ映画化出来たのでしょうか。

松居:『アフロ田中』(12)でデビューした後、自分がやりたいものを色々と企画開発し提案していて、この作品は最初にやりたいと思った企画でした。当時はお金が集まらずに断念したのですが、自分がまだ新人だったこともあり、脚本の内容に対してキャストが集まらないことも大きかった。その後自分も成長して中堅となり、ある程度自分のやりたいことをやれる立場になれたのかなと。もちろん見上愛さんと佐藤寛太くんとの出会いも大きいですが、もし10年前に二人に出会えていたとしても、これを作ることが出来たかどうかは分かりません。

Q:これまで色んなプロデューサーに「『不死身ラヴァーズ』どうですか?」と提案していたものの、なかなか実現することはなかったそうですね。

松居:そうですね。最近ようやく「どうやら松居は恋愛モノも撮るらしい」と認識されてきたのですが、最初の頃は「青春や学生といった“10代を撮る人”」というイメージが強かった。また、単純に興行として勝ち筋が見当たらなかったのでしょうね。

Q:松居監督に撮ってほしいジャンルのイメージが、プロデューサーたちの中で固定されていたと。

松居:そう、僕はそれがずっとコメディだったんです。デビューしてしばらくはコメディが続きましたね。

『不死身ラヴァーズ』©2024不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社


Q:今回企画を復活させるにあたり、今では古くなった表現をアップデートされたとのことですが、具体的にどんなところを変更されたのでしょうか。

松居:主人公の男女の設定を原作と入れ替えました。見上愛さんに主役をやって欲しいという大きな理由に加えて、男が「好きだ!」と何度もめげずに追いかけていくことは、今の時代にあまり合っていない気がしたんです。「好きなことが正義」という原作の疾走感とまぶしさはあったのですが、誰かと誰かが恋に落ちて両思いになることのみを正解としているわけではない。一人で生きていく幸せだって絶対にあるし、契約関係を結ばなくても良い。もちろん相手が異性じゃなくても良い。色々と多様化している今だからこそ、そこに対しての風通しの良さのようなものは意識しました。

Q:原作だと、青木柚さん演じる田中(りのの友人)はめちゃくちゃモテる役でしたね。

松居:原作では会うたびに彼女が変わっているイケメン田中というキャラクターでしたね。男女入れ替えることによって田中の役も女性にしようかと思いましたが、りのと田中が女性同士だと大事なことをすぐ話してしまうのではないかと。それで、大事なことはあまり明言しない腐れ縁の幼馴染で、まったく恋愛の匂いがしない役として、青木柚くんにお願いしました。

見上愛、表情の魅力


Q:見上愛さん、佐藤寛太さん、そして青木柚さんの関係が絶妙でしたが、バランスを重視された部分などあったのでしょうか。

松居:見上愛さんと佐藤寛太くんの二人が軸になっていますが、自分は二人とお仕事するのは初めてでした。今回は自分にとってちょっと遠くなってしまった題材にチャレンジすることもあり、その二人以外は、顔馴染みのメンバーにして安心しておきたかった。青木柚くん、前田敦子さんに神野三鈴さん、そして大学の友人たちなども信頼するメンバーにお声がけして、とにかく真ん中の二人を輝かせようと。そこは計算した上での布陣です。主役二人の芝居以外のことで悩みたくなかったのもありますね。

Q:オーディションの時には、見上さんの周りをグルグル回って本人の顔を色々とご覧になったそうですね。

松居:見上さんのお芝居を見てると、「横顔はどう見えるのだろう?」とか「ちょっと下から見たらどうなるんだろう」とか、この人の場合どういう表情をどこから見れば良いのだろうと気になったんです。全部が違って面白いし、もうちょっと見てみたい感じもある。見上さんの色んな芝居を見てみたいなと。気づいたら自然と椅子から立たされて、グルグル見させられた感じでした。

『不死身ラヴァーズ』©2024不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社


Q:見上さんはクールビューティで美しいイメージがありましたが、この映画では表情が多彩で面白い顔もたくさんあって驚きました。

松居:そこがすごく魅力的で、自分も現場で驚きが大きかったです。このセリフならこういう芝居をするのかなと思うと、全然違う芝居をし始めて、それが見ていてワクワクする。そんなふうにして「りの」を追いかけるように撮っていた感じがあります。特に中学生の時のパートはどう撮ればよいか悩んだところもあったのですが、彼女のお芝居を見たら「ああ、こう撮れば良いんだ」と教えてもらった感じもありました。


この記事の続きは、CINEMOREサイトにてご覧いただけます。
▶︎ 漫画を映画にすること
▶︎ 初期衝動みたいなものを見つめ直したい


監督/共同脚本:松居大悟

1985年11月2日生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。12年、『アフロ田中』で長編映画初監督。枠に捉われない作風は国内外から評価が高く、活動は多岐に渡る。「バイプレイヤーズ」(TX)シリーズを手掛けるほか、J-WAVE「RICOH JUMP OVER」ではナビゲーターとして活躍、20年には自身初の小説「またね家族」を上梓。映画『ちょっと思い出しただけ』(22)は、男女のほろ苦い恋愛模様が多くの観客の共感と反響を呼び、大ヒットを記録。ファンタジア国際映画祭2022で部門最高賞となる批評家協会賞、第34回東京国際映画際にて観客賞とスペシャルメンションを受賞した。


『不死身ラヴァーズ』

5月10日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
©2024不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社


取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

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