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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『戦争と平和 第三部第一篇』トイルストイ著~

場面・登場人物がいろいろ変わる章だった。
戦時色が強まりロシア全体のナショナリズムが高まるとともに、前の章で婚約破棄問題を起こしていたナターシャの心の葛藤を中心に、登場人物の心の動きが事細かく書かれていた。
 
個人的に、ナターシャの動向は気になって仕方ない。
結局、ナターシャは今でいう自律神経失調症になったのではないかと考える。
精神医学の進んでいない当時、精神疾患はそう簡単に回復(寛解)するものではなかっただろう。
ナターシャは薬を処方されたようだが、今日でも薬物療法はより慎重にならなければならない。
重要なのは、自分自身の中に答えがあるということ。そもそも人には「よくなる力」がある。それを対話の中からどう引き出すか。それが回復のポイントとなる。
この作品の中では、ピエールがそうしたカウンセラー的な存在であるように思う。もっともピエールにはナターシャに対する愛情もあるようだが。恐らくこの点は今後深まりをみせるだろう。
 
さらに「薬より歌と宗教(祈り)」ということ。
あるカラオケ会社の、大学との調査研究で、歌(カラオケ)はストレス緩和に大きな効果があるということが科学的にも証明されている。
「あたしまた歌のお稽古をしようと思いますのよ」「これもやはり修業のひとつですもの」(新潮文庫P147)。
こうした言葉がナターシャから出るということは、回復に向かっていると思って間違いない。
そして「宗教(祈り)」。遠藤周作の『沈黙』にもあるように、祈っても神は何もしてくれない。
ただナターシャの場合は、単なる悔い改めではなく、自己の内面を見つめ直そうとしている。このことがやがて自分の認知の歪みに気づくこととなり、あるべき方向へ自らを導くように思われる。
 
不思議なのは、ピエールがフリーメーソンに入り、マリアも強い信仰心をもつ。そこにナターシャが悔い改めの気持ちから宗教に目覚める。
もしかすると、『戦争と平和』の背景には「宗教」というキワードが隠されているのかもしれない。
そこは今後に期待する。
ひとまずは、ナターシャは回復に向かうだろう。


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