見出し画像

ワクワクリベンジ読書のすすめ~『戦争と平和 第四部第四篇』トルストイ著~

「不幸」がナターシャと公爵令嬢マリアの絆を深くする。
そして、それが幸福への礎となる。この章の後半にみるひとつの関係性である。
 
そもそもアンドレイ公爵の死の前の数日間が、ナターシャとマリアを結び付けた。アンドレイ公爵が亡くなったあとは、まるで戦友の如く、悲しみを分ちあう。
さらにナターシャの弟ペーチャの戦死。
ナターシャを気づかうマリア。そしてマリアに心のよりどころを求めるナターシャ。
ここに二人の関係性は、友情から愛情へと高まる。
まさにこの章におけるハイライトであるように思う。
(引用はじめ)
その日から公爵令嬢マリアとナターシャのあいだに、女同士にしかみられない、あの熱烈な、しかも柔和な友情が固まった。彼女たちはたえず接吻をくりかえし、やさしい言葉でいたわりあい、そしてほとんどの時間をいっしょにすごした。(中略)彼女たちのあいだには友情よりも強い感情が生れた。それはたがいに相手がいなければ生きてゆけないような特殊な感情だった。(新潮文庫P330)
(引用終わり)
 
そしてこの章には、ナターシャとピエールの新しい愛の深まりも。
お互いに好意を持ちながらも、アンドレイ公爵との関係から正直な気持ちをどう表現していいのか悩み葛藤する。そしてお互いに執拗に自分自身を責める。
この二人の愛の橋渡しに、公爵令嬢マリアの果たす役割は大きい。
そもそも彼女は、ナターシャとピエールの言動から二人の心の奥底を見抜いていた。
(引用はじめ)
彼女はナターシャとピエールの愛と幸福の可能性を見ていた。そしてこのはじめて彼女の頭に浮かんだ考えが、彼女の心を喜びでみたしていたのである。(P412)
(引用終わり)
すばらしい人間観察力。
そしてその後、二人の葛藤と本当の気持ちを理解し、新しい愛のつながりを支えようとする卓越したカウンセリング力。
 
マリアは関係性を深める潤滑油的存在と言える。それが、この作品をより魅力的にしていると考える。
一見地味ではあるが、名前からしてマリアは「愛」の象徴であるようにも感じた。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?