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一寸先に杖

 生きている限り、何が起こるかは分かりません。どれだけ注意を払おうが、事件事故に巻き込まれる可能性がゼロになることはありません。未来を予知するなどもってのほかです。この世で最も信頼できる予言と言われる、明日の天気予報ですら、その精度はまちまちです。

 そのため、人々はさまざまな保険を利用しています。医療保険は、病気やケガの際に診察代や治療代が一部保障され、火災保険では、盗難や文字通り火災の際に家財などが保障されます。他にも、生命保険に車保険、家具や携帯電話についている保証期間というのも保険の一種です。

 すべて万が一の時のために、掛けておくと安心が得られるものばかりです。しかし、いいことばかりでもありません。契約金を支払っているにも関わらず、保障が履行されなかったり、保険金を目当てにして、意図的に命を絶ったり。契約するときには、慎重になる必要があります。

 2008年、とある国で、男が保証会社を立ち上げました。その保障内容は実に曖昧で「よくわからないがあなたのなにかをお守りします」というのが契約の文言でした。

 そんな馬鹿げた売り文句、誰も契約なんかしないだろう、という予想に反して、起業してからわずか数日余りで、なんと9万ドル以上の契約を結ぶに至ったのです。人間というのは、とことん保障という言葉に弱いようです。

 もちろん、保障内容が明確でないため、男は逮捕され、会社はすぐに倒産を余儀なくされました。世界でも有数のユニークな詐欺事件として、当時は大きく取り上げられました。

 しかし、この事件、実は世に出ていない続きがあります。なんと契約をした被害者のほとんどが契約金の払い戻しを求めなかったのです。また、一部の被害者家族は、契約は履行された、家族も新規で契約をしたいと申し出たというのです。

 予想に反する擁護の声に、男は大きく減刑されたそうですが、10年以上たった今、彼の行方は分からなくなってしまったそうです。余談ですが、彼が会社を立ち上げたアイスランドという国は、2008年の恐慌を経て、世界で最も治安が良く、経済成長も目覚ましい国家のひとつです。

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