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挿入する女

平山町という何もない街に、三十路手前くらいの美しく気品のある女が引っ越してきた。

街の男は、皆、内気で、その女に会釈をする勇気もなく、ただ後ろ姿をながめたり、どんな生活をしているのか想像して楽しんだ。

もともと平山町には女が少なく、過疎化がすすみ、男達の女への苦手意識もすごいものだった。

さて、女は

入れる、入る、注ぐ、蓄える、しまう、活ける、もらう、食べる

という、中に入れるというニュアンスに近いものを

全て『挿入する』

という言葉で表現するという癖があった

女は平山町のコンビニエンスストアで働いていたので

商品を袋に挿入しますか?

ストローを挿入しますか?

はしを挿入しますか?

という感じだった。

普通であれば注意される言葉づかいだったが

この平山町のコンビニエンスストアの店長は

町でも一番気が弱く

この女に何も言えないでいた。

美しい顔立ち、白く透明な肌、桜のような色の唇からこぼれる

『挿入する』

という言葉は

この街、最大のアトラクションとなった。

美しい女の、色気と違和感のある言葉を男達がこぞって聞きにくるのだ。

なかでもバナナを一本だけ買うと

「袋にバナナを挿入しますか?」

と女が言う。

「‥バナナを挿入しますか?」

という言葉は人気があり、バナナは常に品切れ状態だった。

ふさで売っているバナナは女が何も言わずに袋に挿入してしまうのでまったく売れなかった。

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