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【創作大賞】頑強戦隊 メガネレンジャー(第17話・QB第6話)

快ケツキューティーバニー最終回 ロマンス

 待ち合わせをしていた男性がいる席を見つけ、急ぎ足で席に向かった女性が男性の佇まいに違和感を抱いた。
「お待たせ、今日は何かあったの」
女性の問いかけに
「いや何もないよ。和美さんに会えて嬉しいよ。来てくれてありがとう」
爽やかな笑顔で、照れることなく喜びの言葉を口にした。男性の方が若く見える。
「もう、からかわないの」
口では否定したものの、女性は笑みを浮かべながら席に着いた。
「まだ、頼んでないの」
「もちろん。和美さんが来てから、一緒にたぬもうと思ってたから。さぁ、一緒に考えよう」
少しおどけた口調で話してきたが、美和にはどうしても違和感が拭えない。
「もう1回聞くけど、何があったの」
口調は穏やかだが、目は毅然としていた。正面から見据えられた男性は苦い顔をして、タヌ息をついた。
「嘘をつきたくないから、正直に話すね。オヤジの会社の資金繰りがうまくいってないらしいんだ。得意先から入金予定の繰り延べが続いたらしい。運転資金の融資も取り付けられず、俺の貯金を送ったり保険を解約したり、親戚にたぬんだりしたけど、どう金策しても月末までの二千万円が調達できないらしい。
 今月さえ乗り切れば、何とかなるみたいだけど。厳しい世の中だね。和美さんに心配かけたくないから、話したくなかったけど、言わないで誤解させるのも厭だから正直に話すよ。
 従業員を露頭に迷わすことは心苦しいだろうけど仕方ないね。会社を清算しても借金は残るだろうから、俺も実家に戻りオヤジたちと借金を返しながら働こうと、頑張ろうと思う。これまで育ててもらった両親にだけ借金を押し付けるわけにはいかないからね」
静かに訥々と話す男性の両目から、涙が零れていた。悔しそうな表情を隠そうとはしなかった。
「私が言うのもアレだけど、御両親は自己破産とかはしないの。それに経営に携わっていなかった良樹君が借金を背負うことないじゃない」
「心配してくれてありがとう、破産したらウチは助かるけど、関連会社に迷惑をかけてしまうから、少しずつでも返済する方法を選びたいんだ。両親に恩返しをしたいしね。田舎に帰ってしまうと、和美さんと会えなくなるのが、寂しいというか、悔しいけど」
良樹はぎこちない笑顔を作った。
「覚悟を決めているのね」
「うん」
「・・・・じゃぁ、私も覚悟を決める。足りない二千万円、準備するわ。そうすれば、会社を潰さなくていいんでしょう」
「そんな、和美さんに迷惑をかけたくない。そんなつもりで話したんじゃない」
「あら、資金繰りがついて会社が一息ついたら、利息をつけて返してもらうつもりだから迷惑どころか率が良い運用のつもりよ。この低金利時代、銀行に置いてても資産価値が下がるだけだから、良い投資先は助かるわ」
穏やかな口調で良樹に説明した。
「それに、もし投資したお金が回収できなかったら、二人で一生かけて穴埋めしましょう」
「え、それって」
「本当はこんなとこで、こんな風に言う話じゃないと思うけど、跪いて箱をパカッなんて夢見る年でもないし。うん、そういうことよ」
「ありがとう美和さん、正直、助かります。お金はちゃんと返すし、プロポーズは、俺からもう一度やり返します」
良樹は屈託のない笑顔を見せた。
「そうと決まれば早速銀行に行きましょう、何も注文してないから店には悪いけど」
「え、そんな急がなくても」
「昔から言うでしょ、ゼニは急げよ。早い方がご両親も安心するでしょ。私を紹介してもらうのも、早い方が良いしね」
良樹は無言で小さく頷いた。

 二人が席を立とうとしたその瞬間、声が響いた。
「まって、まって、まって、ちょっと待ってなんだもん」
いつの間にか和美の後ろに白いバニースーツの女の子が立っていた。
「事件を未然に快ケツ キューティバニー推参」(ポーズ)

「誰だ君は、突然現れて。キューティバニーとか言ったね、君のことは呼んでないよ。とっとと月に帰れよ」
良樹は鬼のような形相でキューティをにらみつけた。
「愛の天使 キューティバニー、恋のペテン師を止めるために駆けつけました。月の光は真実を浮かびあがらせる バニーブラッシュアップ」
 キューティの胸元から白い光線が良樹に放たれ、良樹は【某お好みやきチェーン店】の前にいる狸の置き物そっくりに姿を変えた。。
「正体月灯(ゲット) キューティバニー。魔界人タヌッキー、前回は世話になったけど、今回はあなたの下心を暴いてあげるわ」
 
 和美は悲鳴を上げそうになった自分の口を抑えた。何が起きているのかわからないが、直感的にキューティが正しいと感じていた。
「ふん、正義の味方きどりかキューティ。組織を裏切り、メガネレンジャーからも逃げ出した裏切り兎が格好つけやがって。俺がここで引導渡してやろうか」
キューティは憐れむような表情でタヌッキーを見た。
「戦ってアナタを倒すのは簡単だけど、アタシはもう戦いを辞めたの。アナタのような悪党でも、改心してくれる未来を信じているから。その代わり、何度でもペテンや悪事の邪魔をするわよ」
厳しい口調とは裏腹に、キューティの眼差しは優しく慈愛に満ちていた。
「ふん、今日のところは見逃してやる。お前と戦っても一円にもならないからな」
 タヌッキーはお腹をポコポコ叩きながら【お触り厳禁】であるキューティに触らないよう、横をすり抜け逃げていった。

 出口から外に出た姿を見届けたキューティは和美の方に向き直り、深々と頭を下げた。
「和美さんごめんなさい。もっと早くタヌッキーの尻尾を掴まえていれば、貴女を傷つけることが無かったのに」
和美は吹っ切れたような顔で答えた。
「頭を上げてキューティバニーさん。私を助けてくれたんでしょう。おかげでお金を損しなくて済んだし、ペテン師との縁も切れたし。悪い夢から目を覚ましてくれてありがとう」
「ありがとうございます、そう仰っていただけると助かります。ところで、余剰資金があるようにお聞きしましたが、何と今、私に投資していただきますと、何と、予想利回りが」
説明しようとしたキューティに、和美は菩薩のような微笑で顔を横に振った。
 
【ナレーション】
 恋のペテン師魔怪人タヌッキーのロマンス詐欺を防いだ 愛の天使キューティバニー。両者が再び相まみえることはあるのだろうか。作者は【某お好みやきチェーン店】に叱られないのだろうか。
 未来はみんなの心の中に。
 キューティの顔がアップになる。
「地には平和を人には愛をね。未来へのキューティとの約束よ」

 ちなみに戦わない、と決めているキューティだけど、いざという時のために鍛えているぞ。新必殺技は、兎の脚力を活かした膝蹴りで、あらゆるモノを粉砕する。その技の名は
「バニークラッシュ!」

(第17話・QB第6話 おしまい)


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