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第4回「コロナで心配ないじめの増加」

<コロナ禍でいじめ増加?>

前回はいじめが増加している現状や、子どもたちの学校生活でいかにいじめが身近になっているか=「いじめの一般化」について触れた。
そして今、この増加傾向に拍車をかけるのではと心配されているのが、新型コロナに起因するいじめだ。背景には、コロナ休校やコロナ対応での様々なストレスがある。学校全体をストレスが覆い、子どもたちだけでなく、保護者や教職員のイライラも静かに募っている。

<9割の教職員「いじめ増える」>

教職員の悩み共有サイトを運営するNPO法人「教育改革2020『共育の杜』」(以下、「共育の杜」)が東京都や大阪府など7都府県を中心に7月10日~26日、インターネットで国公私立小中高校の教職員ら学校関係者およそ1200人にアンケート調査したところ、「今後、いじめが増える可能性が高い」と思う人が9割(88.7%)に上った。

いじめnote4回引き画

8月21日、「共育の杜」は文部科学省で記者会見を開き、教職員の勤務実態についての調査結果を発表した。会見には行けなかったが、その取材映像を確認し、後日直接、関係者から実情を聞いた。

<教職員の疲労やストレスも背景に>

今、多くの教職員たちが、学習の遅れを取り戻すことと感染予防に追われる日々を過ごしているという。例えばある教師は、朝いつもより1時間早く出勤して、換気のため教室の窓を開ける。登校してくる生徒が家庭で検温してきたかをチェックし、忘れてきた生徒に学校で検温する。
急ぎ足になりがちな授業では、感染予防のため、子ども同士の触れ合いも促せない。これまで褒めていた子どもたちの“教え合い”や“学び合い”にも、「近づき過ぎ!何度言ったら分かるの!!」という言葉が出てしまう。そんな状態では、教員と子どもたちの信頼関係も築きにくい。
するとどうなるか。疲労度の高い教員から順に、子どもの話をちゃんと聞けなくなってくる。「先生あのね・・・」と声をかけてくれた子どもに「ごめん、ちょっと密だから離れよう」と冷たくあしらってしまい自己嫌悪に陥った教員もいる。
アンケートでも、疲労やストレスなどで「子どもの話をしっかり聞けなくなる」と感じている教員は33.7%に上った。時間的・精神的な余裕を失くしつつあるという。記者会見で元中学校教員の藤川伸治理事長は、「子どもの話がちゃんと聞けないと、悩みを先生はキャッチできない。だから子どもたちはさらにイライラする。そのイライラをまわりの人たちかモノにぶつける。友だちにぶつける際に、いじめが起こる」と述べた。先生の疲れ⇒話を聞けない⇒イライラが募る⇒いじめ発生・・・。そんな負の連鎖があるという。

いじめnote4回藤川さん

(「共育の杜」藤川伸治理事長)

<秋以降さらに心配なこと>

会見に同席した横浜市立日枝小学校の住田昌治校長のところにも全国から多くの教職員らの悲痛な声が届いている。それによると、些細なことが原因でケンカになるなど様々なトラブルが学校再開後に増えているという。

いじめnote4回住田校長

(横浜市立日枝小学校 住田昌治校長)

さらに今、秋の行事や授業の準備に加え、児童・生徒の不安による荒れへの対応、目標が設定できない中で低下する学校生活へのモチベーションの底上げ、引き続きの感染症対策・PCR検査・陽性時の対応、児童・生徒の問題行動に対する聞き取りや保護者への対応など、教員たちの働く学校現場の状況は、7月のアンケート調査時より悪化しているという。
教員が疲れ果てて様々な事案への対応が困難になり、休み始めている学校もあり、住田校長は「いじめは、子どもの安心安全が守られていないところで起こる」と懸念を強めている。

<教職員「残業が増えた」4割超>

全日本教職員組合も25日に記者会見を開いて学校現場の現状に危機感を表明した。全国の小中高校の教職員らおよそ4000人に7月下旬~8月末に調査したところ、新型コロナの影響で一斉休校となり、その後、再開した教職員の4割以上が「残業が増えた」と答えたという。

<7割の子ども・ストレス訴え>

子どもたちへのストレスも調査で明らかになってきた。国立成育医療研究センターが6月~7月にかけて「コロナ×こどもアンケート」を実施し、全国の7~17歳の子どもたち981人と保護者5791人にインターネットで調査したところ、7割(72%)の子どもが何らかのストレスを抱えていることが分かった。

コロナ×こども本部(第4回)

「コロナ×こどもアンケート」第2回 調査報告書はこちら
「コロナ×こどもアンケート」第2回 調査報告書 教育機関向け資料はこちら

ストレス反応(第4回)

(「コロナ×こどもアンケート」第2回調査報告書 教育機関向け資料より)

「最近集中できない」「すぐイライラする」と答えた子どもは全体では3割近くに上った。「自分のからだを傷つけたり、家族やペットに暴力をふるうことがある」という自傷や他害の行動は9.0%。特に高校生のストレスが高く、例えば「最近集中できない」高校生は58%で、30%前後の小中学生を大きく上回った。
そして子どもの22%が「コロナになった人とは、コロナが治ってもつきあうのをためらう(あまり一緒には遊びたくない)」と考えていて、こちらは年代別では小学校の低学年が32%で最も多かった。また40%の子どもは「コロナになった人とは、コロナが治っても、あまり一緒には遊びたくない人が多いだろう(付き合うのをためらう人が多いだろう)」とも答えている。

コロナになった人とは(第4回)

(「コロナ×こどもアンケート」第2回調査報告書 教育機関向け資料より)

<コロナでいじめ発生>

報告書では「コロナに関連した差別や偏見(スティグマ)が、こどもたちの周りにも少なからず押し寄せている」と指摘している。このような差別や偏見は、いじめの温床にもなる。
この調査では、コロナに関連して「自分がいじめられている」という子どもは1%、「いじめではないが、友だちとの関係に悩んでいる」という子どもも8%いた。
既に新潟県では「コロナいじめ」が発生したことが確認されている。今月3日、新潟県教育委員会は、新潟市を除く県内の公立学校で3月~8月に少なくとも8件の「コロナいじめ」があったと公表した。感染拡大のあったエリアを訪れた児童や生徒が「コロナ」や「コロナウイルス」と呼ばれた。コロナと関係ないのに数日間休んだだけで、または咳をしただけで「コロナだ!」と言われた。医療従事者の子どもが差別的な言葉を浴びせられた。このようなコロナに関連した様々な事例が報告されているという。「加害者は、かなり敏感になって反応したのかもしれないが、からかいでは済まされない」と県の担当者は言う。

児童生徒の皆さんへ(第4回)

 (「新潟県いじめ対策ポータル」より)

文部科学省も夏休みが明けるのを前に(8月25日)、大臣メッセージとして「すでに感染した人達が心ない言葉をかけられたり、扱いをされたりしているという事例が起きています」と注意を促し、正しい科学的知識をもとに差別や偏見を防ぐよう求めている。

新型コロナに関する差別や偏見の防止に向けた文科相メッセージはこちら

<コロナ禍のもとでのいじめ予防>

「コロナ×こどもアンケート」の調査を担当した国立成育医療研究センターの半谷まゆみ研究員(小児科医)は、コロナによるいじめの発生について「これまで何か他のことでストレスを発散していた子どもたちがコロナ禍でできなくなり、いじめることでストレスを発散している。一方、例えば持病のため頻繁に鼻をかむ子どもが“コロナいじめ”にあうのではと不安に駆られている。子どもには残酷な面もあるから“ソーシャル・ディスタンスだ!”と言って離れることもある。その上、学校では普段マスクを着けているので表情が見えにくい。先生と子ども、子ども同士、コミュニケーションが取りにくく誤解も生じやすい。お互いの変化に気づきにくい点にも注意が必要で、その分、先生方はしっかり不安の声に耳を傾けてもらいたい。家庭では親も子どものイライラを注意しがちだが、子どもも理由があってイライラしていると理解して、やはり話を聞いてあげてほしい」と訴える。

半谷まゆみ研究員(第4回)

半谷まゆみ研究員(小児科医)

<次回は「いじめの流動化」>

こうして子どもたちの学校生活の中で「一般化(日常化)」が進むいじめは、コロナ等、そのときどきの世相も反映している。そして実はもう一つ、いじめの現状を表すキーワードがある。それが「流動化」だ。

川上敬二郎さん (1)

川上敬二郎 TBS報道局報道番組部ディレクター

ラジオ記者、報道局社会部記者、「Nスタ」・「NEWS23」・「報道特集」ディレクターなどを経て現職。2003年4~6月「米日財団メディア・フェロー」(アメリカ各地で放課後改革を取材)。2005年、友人と「放課後NPOアフタースクール」を設立(2009年にNPO法人化)。著書に『子どもたちの放課後を救え!』(文藝春秋・2011年)など。2019年6月に「ザ・フォーカス~いじめ予防」をOA。現在、続編を取材中。