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第10回「いじめ認知件数の減少は“見えにくさ”増加の表れでもある~“ネットいじめ”6年前の2.4倍に」

<いじめ認知の減少・文科省の分析は・・・>

2021年10月13日、文部科学省は、2020(令和2)年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」を発表した。

小・中・高校と特別支援学校でのいじめ認知件数は51万7163件で、前年度に比べて15.6%減った。2014(平成26)年度以降、認知件数の増加が続いていたが、2020(令和2)年度は大幅な減少となった。

いじめ10回①

 (文科省資料より)

 いじめ重大事態の件数も514件で、こちらも前年度723件に比べて3割ほど(28.9%)減少した。

いじめ③

 (文科省資料より)

これらの減少傾向について文科省は、主な理由として以下を挙げている。

●新型コロナの影響で生活環境が変化し、児童生徒の間の物理的な距離が広がったこと
●日常の授業におけるグループ活動や学校行事、部活動など様々な活動が制限され、子供たちが直接対面してやり取りする機会やきっかけが減少したこと
●年度当初に地域一斉休業があり、夏季休業の短縮等が行われたものの、例年より年間授業日数が少ない学校もあったこと
●新型コロナウイルス感染症拡大の影響による偏見や差別が起きないよう、学校において正しい知識や理解を促したこと
●これまで以上に児童生徒に目を配り指導・支援したこと。
 
前回(第9回・2021年10月1日)書いた通り、2013年の「いじめ防止対策推進法」の制定後、いじめの積極的な認知がそれなりに進み、わずかながらもいじめの発生自体は減る傾向にあるが、昨年度で言えば、新型コロナの影響で子どもたちの物理的な接触機会が減ったことが大きいのだろう。
しかし、物理的な接触が減るのは教育的意義からしても推進すべきこととは言えない。様々な活動の制限は子どもたちが得られるはずだった学びの機会や経験が減少したとも言え、この方向で行けば減る…と、前向きに捉えることはできない

<ネットいじめ増加・いじめはますます見えにくく>

いじめの認知件数が15.6%減った一方で気になるのは、ネットいじめ(SNSいじめ)の増加だ。コロナ禍で物理的な接触は減ったものの、ネット上での接触が相対的に増加、その中で様々なトラブルが発生しているとみられる。
「パソコンや携帯電話などで、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」の件数は1万8870件、6年前の2014(平成26)年から増え続けていて、2.4倍になった。しかもこれらは表面化した件数で、氷山の一角なのかもしれない。
いじめ認知件数の減少は、物理的な接触が減ったからだけではなく、いじめがネットの世界へ潜り込み、ますます見えにくくなっている=認知しにくくなっているため、という可能性がある。

もともといじめは見えにくいものだが、「ネットいじめ」は教員たちにとってはさらに見えづらいやっかいな存在だ。

グラフ_パソコンや携帯電話などでいじめ

(文科省資料より)

東京都町田市の小6女児いじめ自殺でも、タブレット端末が使われていた。チャット機能で「うざい」「きもい」「死んで」などと書き込まれていたという。

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(亡くなった女児)

文科省も「生活環境や行動様式が大きく変化し、発見できていないいじめがある可能性にも考慮し、引き続きいじめの早期発見、積極的な認知、早期対応に取り組んでいくことが重要である」とも指摘し、ネットいじめ増加などへの懸念を示している。

<見えにくい“ネットいじめ”への対応強化を>

ネットいじめは、“空間”的には学校の敷地内ではなく、“時間”的には下校後や休日にも頻発しうる。そんなSNS上のいじめをどう早期に認知し、早期に対応するのか。保護者や教職員たちには、難しい課題が突きつけられている。
ただでさえ多忙な教員たちからは困惑の声が次々とあがっている。「SNSいじめへの具体的な対応策が思い浮かばない」、「学校内での友人関係がベースになっているとはいえ、広がりすぎた子どもたちのコミュニティの全てを見回るのは不可能」、「閉鎖的なアカウントで行われれば、ネットパトロールにも引っかからず見つけ出しにくい」など。
確かに、複数のTwitterアカウントをもつ子どもも少なくない。匿名や仮名のやりとりまで把握するには無理があり、パスワードで守られたやりとりはチェックすることさえできない。
では、どうしたらいいのか。専門家は「それでも大人(教職員や保護者)たちは、ネットいじめで傷ついた子どもたちの日常の“変化”に気づくことはできるはずだ」と言う。また、日常の学校生活や家庭の中で、困ったことは“困った”、イヤなことは“イヤだ”と訴えやすい環境づくりも大切だという。
いじめを抑制する上で大切なのは、子どもたちが大多数の“傍観者”のままでいるのではなく、“行動する傍観者”になってもらうことだが、そんな役割を果たす子どもたちを育むための予防教育も大切だ。先の教員の言葉にもあった通り、ネットいじめも「学校内での友人関係がベースになっている」。大人たちよりもネット上でのやりとりに近いゆえ、彼ら“行動する傍観者”の存在がますます重要になる。

今回発表された文科省の調査報告では、自殺した小中高校生は415人にもなり、調査開始以来最多となったことも衝撃を与えた。前の年の317人から100人近く増えた。「うつ病など病気の悩み・影響」が増えているのが特徴で、文科省の協力者会議はコロナ禍で両親のステイホームが増えたことなどで家庭環境が変わったことが影響したのではないかと分析している。そして、小中学校における不登校の児童・生徒も19万6127人と前の年から8.2%増えた。
コロナ禍による子どもたちのストレスは大きい。人と人との距離が広がる中、不安や悩みを相談しにくくなった子どもたちがいる。子どもたちの不安や悩みが従来とは異なる形で現れたり、それらを子どもたちが一人で抱え込んだりするケースもある。そのことがネットいじめや、不登校・うつ、そして自殺にもつながっている。今後も一層の目配りと心配りが必要だ

川上敬二郎さん (1)

川上敬二郎 TBS報道局「報道特集」ディレクター

ラジオ記者、報道局社会部記者、「Nスタ」・「NEWS23」ディレクターなどを経て現職。2003年4~6月「米日財団メディア・フェロー」(アメリカ各地で放課後改革を取材)。2005年、友人と「放課後NPOアフタースクール」を設立(2009年にNPO法人化)。著書に『子どもたちの放課後を救え!』(文藝春秋・2011年)など。2019年6月「ザ・フォーカス~いじめ予防」をOA。ご意見・情報提供は「報道特集」ホームページより。