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2021年10月24日放送「風をよむ~パウエル元国務長官の死」

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パウエル元国務長官(2001年)「我々のテロとの戦いは今後も続く。何か成功したとしても、新たな課題が生まれ、後退を強いられるという現実を認識しなければならない…」

2001年の同時多発テロ以降、テロとの戦いに追われたアメリカ。そこで、鍵となる役割を担った政治家コリン・パウエル元国務長官が亡くなりました。84歳でした。

死因は新型コロナによる合併症。ワクチン接種は終えていましたが、多発性骨髄腫の治療で免疫機能が低下していたと報じられています。

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バイデン大統領「パウエル氏は親愛なる友人で愛国者であり、偉大な軍の指導者の1人であり、大変な良識をもった人物だった」

バイデン大統領は、ホワイトハウスなどに半旗を掲げるよう指示。彼を国務長官に任命したブッシュ元大統領も、「多くの大統領が彼の助言と経験を頼りにした」と、その功績を讃えたのです

黒人として初めて国務長官を務めたパウエル氏。その半生はまさにアメリカの栄光と衰退を象徴するものでした…。

1990年8月、イラクのフセイン政権がクウェートに侵攻。この時、史上最年少52歳で制服組トップとなる統合参謀本部議長に就任したパウエル氏が多国籍軍を指揮します。

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そして1991年1月から、わずか1か月余りで湾岸戦争に勝利。「世界の警察官」としての、超大国アメリカの威信を世界に知らしめたのです。

パウエル統合参謀本部議長(当時)「今、世界におけるアメリカの役割は増加している。自由世界のリーダーとして、我々は、精力的にリーダーシップを発揮しなければならない」

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そして、高い名声を得たパウエル氏は2001年、ブッシュ政権で国務長官に就任。しかし、それからまもなく…

アメリカを襲った、9.11同時多発テロ。

ブッシュ大統領(当時)「全ての国は、決断しなくてはならない。我々の側につくか、テロリストの側につくか…」

「テロとの戦い」を宣言したブッシュ元大統領は、アフガニスタンへの侵攻後、イラク・フセイン政権への軍事行動に傾きます。攻撃を強く主張したのは、チェイニー元副大統領やラムズフェルド元国防長官ら、新保守主義、いわゆる“ネオコン”と呼ばれる強硬派でした。

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チェイニー副大統領「重大な脅威が積もり積もっている。何もしないと脅威が近づくだけだ。手遅れになるまで我々は待てない」ラムズフェルド国防長官「イラクは特殊な国で、フセインは恐ろしい独裁者だ」
 
片や穏健な保守主義を志向し、同盟国や国連を通した国際協調を重視するパウエル氏は、こうしたネオコンと激しく対立。

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しかし、CIA=アメリカ中央情報局などの諜報機関が、イラクが「大量破壊兵器」を保有しているとの情報を入手。それに動かされる形でパウエル氏は国連で演説を行ったのです。

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パウエル国務長官(2003年2月5日)「私が述べることは確実な情報源によって裏付けがとれています。イラクはさらなる大量破壊兵器の製造を隠そうとしているのです」

この演説で世論は戦争に大きく傾き、国連の安保理決議のないまま、アメリカはイラク戦争に突入したのです。しかし…

イラク戦争の理由とされた大量破壊兵器の存在…。しかし、その事実はありませんでした。

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パウエル氏は2期目のブッシュ政権に参加せず、国務長官を退任。彼は、国連演説を「人生の汚点。当時も今も心苦しい」と語ったのです。

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パウエル氏(2005年7月)「私たちは大量破壊兵器が保有されていると考えていました。しかしそれは間違いでした」

その後、イラクでは、過激派組織「イスラム国」が誕生し、現在もその残党による混乱が続きます。

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またアフガニスタンからは、8月、アメリカ軍が撤収。タリバン政権が復活し、国際社会から厳しい批判がアメリカに向けられたのです。

分断を憂えていたパウエル氏は、共和党員でありながら、去年の大統領選では、民主党のバイデン氏を支持。

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またトランプ氏の発言がきっかけとなった、今年1月の連邦議会乱入事件に対しては、「今、必要なのは、きちんと批判できる政治家だ。議員の皆さん、今こそ本物のアメリカ人になってもらいたい」と、発言しました。
 
批判を向けられたトランプ氏は、19日、パウエル氏の死に対して、こうコメントしています。

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トランプ氏「彼は多くの間違いを犯したが、ともあれ安らかに眠るように!」

対テロ戦争から20年後のパウエル元国務長官の死。その間に進んだアメリカの衰退と分断を、どう捉えたらいいのでしょうか―

 

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