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短期の成功よりも長期の持続性を大事にする「ロングターム証券取引所」

チャーリーです。
1年間、ビジネス誌「THE21」で連載した内容を特別に公開許可いただいたので、1つずつ記事にすることにしました。

この記事では、短期の成功よりも長期の持続性を大事にする「ロングターム証券取引所」という枠組みについて紹介します。

ロングターム証券取引所とは
ロングターム証券取引所の5つの原則

ロングターム証券取引所

これまでの上場システムは「短期成功主義」だった

2020年9月、米国でロングターム証券取引所(LTSE)が営業を開始しました。

LTSEは、他の証券取引所のように企業の短期的な業績を重視するのではなく、長期の持続性を重視する、まったく新しい証券取引所です。

短期主義的投資家の圧力を排除し、企業が長期投資家との関係を重視した経営を行なうことを目的としています。

創設者は、ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだすマネジメント手法を提唱した『リーン・スタートアップ』(邦訳は日経BP)の著書として知られる起業家のエリック・リース氏。

LTSEのアイデアはこの著書に示されており、2016年に実現に向けてプロジェクトが開始。2018年11月にSEC(米国証券取引委員会)に登録申請し、2019年5月に承認されました。

リース氏がLTSEを立ち上げた背景には、米国で上場企業の数が減っていることが関係しています。

従来の証券取引所に上場すると、四半期決算ごとに投資家からの厳しい目にさらされるため、企業は短期成功主義にならざるを得ません。

これでは長期的な研究や開発がしにくい。長期的な視点で企業の価値を向上させたくても、従来の上場システムがそれを難しくさせているため、上場企業が減少しているのです。この課題を解決しようとするのがLTSEの試みです。

なお、LTSEに上場するには従来の証券取引所と同じような上場基準も満たさなければならないため、他の証券取引所よりも審査が厳しいと言えます。

米国にはLTSEを含めて16の証券取引所がありますが、他の証券取引所との重複上場も認めています。

長期的持続性を実現するためLTSEが掲げる「5つの原則」

LTSEは、長期持続性を重視するという目的を達成するために、上場する企業に求める「5つの原則」を掲げています。

まず、「ステークホルダー」については、株主以外にも様々な人たちに配慮することを求めています。ESG(環境・社会・ガバナンス)に与える影響も考慮する必要があります。

「戦略」は、年単位、10年単位で成功を図り、長期的な意思決定を重視しなければなりません。

経営者の「報酬」は、通常は短期的にでも利益を上げるほど高額になりがちですが、LTSEでは長期的なパフォーマンスと整合させなければならないとしています。

「取締役会」は長期的な戦略の策定や監督をしなければなりません。「投資家」については、長期保有株主との建設的な対話を求めています。

LTSEの思想は素晴らしいと思います。しかし、株の長期保有を促すために構想していた、保有期間が長いほど議決権が増える仕組みは、当局の承認を得られませんでした。創業者の議決権が大きくなりすぎるなどの問題点が指摘されたからです。今後の動向に注目したいと思います。

図解:チャーリー
取材執筆:桃山透

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説明は以上です。

こちらの記事は、PHP研究所が発行しているビジネス誌「THE21」で2021年1月号から12月号まで連載していた「図解で深掘り!時事ワード」の内容を掲載したものです。本記事が掲載された号は以下です。

誌面に掲載するフォーマット上、図解は2枚ずつ掲載しています。

本来は2枚じゃなくもっと枚数をふやして図解すべき内容もあるなと思いつつ、誌面の制限に従い、いったん全て2枚ずつでまとめるフォーマットで揃えています。

今回、日をあける形で記事の掲載を許可いただいたので、少し時間が経過しているものもありますが、ご了承ください。また、記事中にもし間違いなどありましたら直しますので、教えていただけると嬉しいです。

これらのテーマについて記事にしていきます。

  • サステナビリティー・リンク・ボンド【公開済】

  • TESLAの炭素クレジット【公開済】

  • パリ協定【公開済】

  • COVAXファシリティ【公開済】

  • ロングターム証券取引所【公開済】

  • 選択的夫婦別姓

  • 規制のサンドボックス

  • 10兆円大学ファンド

  • インパクト加重会計

  • オリンピックのビジネスモデル

  • 東証市場再編

なぜこれらのテーマなのか?と聞かれると、その時々で気になっているテーマだったから、ということで選定基準はかなり属人的です。

振り返ってみれば、大きな枠組みの変化や、面白い仕組み、取り上げるべきイシュー、そういったテーマを選んでいた気がします。もともとの連載のリクエストとしては、時事的な話題をなんらか図解して紹介してほしいということだったので、時事的であることだけ縛りがあります。

掲載した記事は以下のマガジンに入れていきますので、今後の記事が気になる方はぜひフォローしてみてください。

以上です。

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