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シェアを意識してニュースを読むと偽情報に騙される!?~ソーシャルメディアがフェイクニュースを助長するワケ~

ソーシャルメディアは今や私たちの生活に欠かせないものとなりましたが、同時に、フェイクニュースが広まる場としても知られています。ソーシャルメディアがユーザーの「真偽を識別する能力」に与える傾向を分析した論文「The social media context interferes with truth discernment」によると、シェアを意識してニュースを読むと真偽の判断力が低下してしまうことが指摘されています。

本記事ではこの論文について解説をしつつ、ソーシャルメディアとフェイクニュースの関係性について理解を深めていきたいと思います。

要約

  • 「シェア」することを意識してニュースを読むと、真偽の判断力が低下する。

  • ニュースの「正確性」を意識させることで、真偽の判断力が向上する。

背景

近年、ソーシャルメディア上で「フェイクニュース」が拡散されることに対する懸念が高まっています。政治やCOVID-19に関する偽情報がSNSを通じて広がり、社会に悪影響を及ぼしていると指摘されています。このような状況で、ソーシャルメディアの設計やユーザーの行動様式が、偽情報に惑わされやすくなる心理状態を生み出している可能性があるという仮説が提起されています。そこで、ソーシャルメディア上での「シェア」を意識させることで、人々の真偽を見抜く能力がどのように変化するかを明らかにします。

「シェア」による影響を分析

研究チームは、3,157人の米国人を対象にして、COVID-19や政治に関するニュースヘッドラインの正確性を判断するテストを行いました。被験者は以下の3つのグループに分かれ、異なるテストが行われました。

  • Accuracy:ニュースの正確性のみを判断するグループ

  • Accuracy-sharing:正確性の判断をした後、そのニュースをシェアするかどうかも選択するグループ

  • Sharing-accuracy:最初にシェアするかどうかを決め、その後に正確性を判断するグループ

その結果、シェアを考慮した2つのグループでは、真偽を識別する能力が著しく低下しました。特に、シェアを先に考えた3番目のグループでは、真偽を判断する力が35%も低下したことが明らかになりました。

グループ別の正確性の識別力

「シェア」する心理

なぜこのような結果になったのでしょうか。研究チームは、ソーシャルメディアでの「シェア」を意識させることで、人々の注意が正確性から逸れ、他の動機(例えば注目を集めたい、面白がりたいなど)に惑わされてしまうためだと考えています。

つまり、ニュースの内容の真偽よりも、それをシェアすればどうなるか、といった問題に意識が向かってしまい、真実を見抜く力が低下してしまう可能性があるのです。ソーシャルメディアはユーザーに、そうした真理から遠ざかる心理を生み出させている可能性があります。

ニューストピック別の影響

さらに、被験者の政治的な党派性(共和党支持か民主党支持か)によって、シェアを意識することが正確性判断にどの程度影響するかを検証しました。COVID-19に関するニュースを使用した実験では、共和党支持者ほどシェアを考慮することで真偽を見極める力が低下する結果が出ました。一方で、政治的な話題になると、共和党・民主党支持者に関わらず、シェアを意識することで同程度に真実判断力が低下しました。政治的対立が絡むと、両者ともシェアを意識することによって正確性判断が歪められてしまうと考えられます。

党派性別の識別力

解決策

また、正確性を尋ねなかった場合(sharing)と尋ねた場合(accuracy-sharingとsharing-accuracy)で、どのような違いがあるかを検証しました。ニュースの「正確性」を意識させることで、ニュースに対する真偽の判断力が向上することを発見しています。つまり、常に正確性を意識し続けることが、ソーシャルメディア上の有害な偽情報から身を守る鍵となるのです。

正確性を意識させた時の識別力

まとめ

ソーシャルメディアはユーザーのコンテンツへの関わり方として「シェア」を中心に据えた設計となっているため、結果としてユーザーの真偽判定能力を低下させフェイクニュースのを拡散に寄与しています。シェアを意識したまま情報に接すると真偽の判定能力が低下してしまうので、まずは正確かどうかを意識して情報に接することで、フェイクニュースの影響を抑えることができるでしょう。そのためにはソーシャルメディアプラットフォーム側の対応も重要であり、ユーザーに対して常に正確性を意識するよう促す機能を導入するなどしてフェイクニュースの抑制に積極的に取り組む必要があります。

■「TDAI Labについて」
当社は2016年11月創業、東京大学大学院教授鳥海不二夫研究室(工学系研究科システム創成学専攻)発のAIベンチャーです。AIによる社会的リスクを扱うリーディングカンパニーとして、フェイクニュース対策や生成AIの安全な利用法について発信しています。