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ウォルマートがもつ競争力の源泉とは

こんにちは。
サイゼリヤに行った時にいつも「ロボット猫が料理を運んでくれないかなー」と期待しているtkです(体感1/10ぐらいの確率でしかこない🐱)

今日も読書録になりますが、経営やマーケティング関連で示唆を得られる本があったのでご紹介します。


『私のウォルマート商法 全て小さく考えよ』

ウォルマートの創業者サム・ウォルトンが1992年に無くなる直前に書かれた自伝。1962年にウォルマートを出店してから世界最大規模の小売チェーンになる過程が綴られています。

「ごく普通の人でも、非凡なことを成し遂げられる」

一商人として小売業に入ったサム自身とウォルマート従業員(アソシエートと呼ばれる)が他に類を見ない企業成長を実現した物語です。

ウォルマートがとった戦略について、ポイントをピックアップしてご紹介します。

従来の商慣習に従わず、最善を探す

ベン・フランクリンのフランチャイズ制度に従って店を経営することで、多くのことを学ぶことができた。それは素晴らしいシステムで、店を経営するためのノウハウが極めて効率的に組み立てられていた。(中略)
最初はほかに良い知恵もないまま、マニュアル通りにやっていたが、すぐに自分で実験を始めた。それが今も昔も変わらぬ私の流儀である。

サム・ウォルトン

ウォルマートを創業する前、大手百貨店 JCペニーに就職したのがサムと小売業の出会い。貯めた資金でベン・フランクリンのフランチャイジー店舗を買い、経営する過程で彼は独自に実験をはじめました。

  • メーカーからの直接仕入れ
    元々ベン・フランクリン経由で取扱い商品の80%を仕入れるルール(年末にリベートが得られる)があったが、手数料が高いため独自に安い卸値の会社を探した。

  • 個人のブローカー(仕入れ代行業者)も活用
    ある商品をブローカー経由で
     「1ダース2ドル50セントで仕入れて、3枚1ドルで販売」から「1ダース2ドルで仕入れて、4枚1ドルで販売」に。

安く仕入れて、安く売る。
1ドルでも多く顧客の節約を実現して、ウォルマートを足を運び続けてもらうのが、サムが一貫してつらぬいた考えでした。

常に低価格で顧客に還元する考えは、EDLP(エブリデイ・ロープライス)として広く知られています。

Point
💡既存の慣習にしばられない
💡 一定数販売できれば総利益が大きくなると考え、小売業の仕入れ&販売の発想を転換させた

徹底したストアコンパリゾン(他店調査)

ほかの店に行って、競争相手を視察しろ、とサムは何度もいったものだ。「あらゆる競争相手を研究しろ。欠点は探すな。長所を探せ」1つでも何かを得たら、視察対象店に入る前よりそれだけ前進したのだ。私たちは他人の間違いには興味はない。正しいことに興味があるのだ。そして、どんな店でも1つはいい事をしているものだ。

チャーリー・ケイト(ファイエットビル店の在庫係、のちウォルマートの店長)
  • 旅行中にはどんな小さな小売店でも立ち寄る(家族旅行中でも)

  • 通り向かいにある同業者の店舗にも毎日行き、商品や価格をチェックする

サムは「価格戦略」「物流最適化」「商品の重点販売方法」を積極的に他社から学びました。

先行している他社の本部に乗り込んで、そこの社長からノウハウを聞きこみ自分の知識にしたほど。

ウォルマート各店の店長には毎週 「一番の売れ筋」をレポートに書かせ
「何を、どれぐらい、どう販売して売れ筋とするか」商いの意識を現場に叩き込みました。

後にサムは「ディスカウントストア上位100社のうち、76社が消えた」ある記事(1976年)を引き合いに業界から消えた店の要因を、
「お客を大切にせず、店に気を配らず、応対マナーを心得た指導員を置かなかったからではないか」と分析しています。

Point
💡 競争を意識して、他社研究を徹底した
💡 「売れた」結果ではなく「売るための」商いをする意識を現場に植え付けた

じゅうたん爆撃型多店化作戦

出店立地確保の基本戦略は、これからも拡大しつつある都市郊外に目を向け、そこで人口が増えるのを待つべきだと考えている。小さな町から出発しても、人々が店の前を車で通りかかってウォルマートを知るようになり、お客となってくれるのだ。

サム・ウォルトン

大手のKマートが大都市に展開する中、ウォルマートはすきまを狙った出店でエリアを獲得。都市に直接出店するのではなく「都市を包囲するように出店し」「都市化が店舗のエリアまで及ぶのを待つ」戦略をとりました。

低価格でいい口コミが得やすいビジネスの強みが、この出店戦略でもハマります。

  • 小さな田舎町では都市部より口コミが広がりやすく、広告費を抑えても集客が拡大しやすい

  • 顧客から米国各地に住む友人や親族にもウォルマートの名前が口コミで伝わり「自分の町にも出店してほしい」と期待が広がった

Point
💡 競合が手薄なエリアで顧客を獲得していった
💡 特定エリアへの多店舗出店は拠点からの配送コストも下げる。低価格路線の強みを活かせる出店方式であった

小さく考える - シンク・スモール

わが社は小さく考えることで、これほどの大規模になったからである。私たちは田舎町の商人であり、現在の業績を胸を張って誇れるのも、店長や時間給で働く店員が、勤勉と良い応対マナー、それに物流センターのスタッフとのチームワークによって、一店一店で日々努力してきたからである。

サム・ウォルトン

出店店舗が増え "大企業化" することは、顧客の需要に対して反応が鈍くなるリスクもあります。

  • 個々の店舗で起きていることに目を向ける

  • 顧客にあいさつし、手助けを申し出ているか

この点をサムは重視して店舗の状況を店長 / バイヤー / 配送ドライバー / アソシエートとの会話で常に把握していました。

サムがルイジアナ州のある店舗を視察したとき、入店時にカートを手渡して挨拶する男性がいることに気付きました。

それは店舗が「万引きを防ぎにくい問題」に対して「お客に手助けでき良い印象を与えつつ、万引きも防げる」とあるアソシエートの提案で店舗が独自に設けたポジションでした。

※ウォルマートではカート渡しや未清算商品の受け取り、返品の受け取りなどを入り口にいる挨拶係(グリーター)がサポートしてくれる。

お客が 10 フィート(約3メートル)以内にやって来たら、お客の目を見て挨拶し、「何かお手伝いし ましょうか」と尋ねると約束してほしい

このルールを作り、店舗の反発もありながらも1年以上かけて他店にも展開。
 "挨拶係" はその後他社も採用するようになり、例えばコストコも導入しています。

入店時に買い物かごを持たせるのは購買金額にも影響があり、マーケティングでは「買い物かご効果」として知られています。

また、サムは組織面でも「必要な仕事へのスリム化」にも気を払いました。

会社が成長するとどうしても「重複する業務部門」や「不要となる業務部門」が生まれる。健全な成長のために、サムはこの問題に絶えず向き合っていました。

社内に問題が生じると、それを修復する方法を見つけようとするのが人情だが、そうした方法はほとんどが、新たな役職を付け加えるだけである。肝心なのは、問題の根源に遡ることであり、時には、犯人を狙撃する必要もあるのだ。

デビット・グラス(ウォルマート2代目CEO)

Point
💡 本部主導で大企業的な画一指示ではなく、1つ1つの店舗に合わせた取り組みを推奨した
💡 組織発展のため、業務部門のあり方に常に向き合った

最近のウォルマート

2018年には125年の歴史を持つ米シアーズ・ホールディングスが経営破綻。
2005年に統合していたディスカウントストアのKマートと共に、経営悪化の理由を「店舗への投資を怠った点」と下記では解説されています。

一方でウォルマートは店舗・Eコマースともに積極的な技術投入を続けています。全米小売業協会がまとめた「2024年版 世界の小売企業トップ50」レポートではウォルマートが1位。

実店舗や配送拠点ではAIを活用した効率化を推進。
何度かチャレンジ失敗で人力に戻したりしつつも、積極的な投資を続けています。

2024年5月17日に発表された2024年2〜4月決算では純利益が前年比3倍に。ECや高所得者層の取り込みも堅調。

現CEO ダグ・マクミロンはウォルマートで「時給6.5ドルのトラックの荷下ろしの仕事」からキャリアをはじめ、CEOにまで上りつめました。

自分の仕事をきちんとこなし、良いチームメイトになり、新たな課題の解決を手助けすること。

ダグ・マクミロン(ウォルマート 現CEO)

シンク・スモールの考えが、サム・ウォルトン亡き後も企業文化として根付いていることが競争力の源泉だと、インタビューからも感じます。

あとがき

本書『私のウォルマート商法 全て小さく考えよ』に見られる経営哲学はamazonのジェフベソスも参考にしたと知り、手に取ってみました。

出店戦略やEDLP(エブリデイ・ロープライス)が成功要因として語られることもありますが、大元にはサムや従業員(アソシエート)の身の回り(それが10フィートほどでも!) を大事にしている姿勢があると学びました。

文庫で語り口も軽快なので、分量は多めですがサクサクと読み進められました。経営・マーケティング以外にも米国小売業の歴史も知ることができるので、小売業に興味がある人にもおすすめです。


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