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【イベントレポート】オンライントークイベント『SFプロトタイピングで描き出す、下水道と都市の未来』を開催 (後編)

このレポートは「【イベントレポート】オンライントークイベント『SFプロトタイピングで描き出す、下水道と都市の未来』を開催 (前編)」の続きです。

次に選ばれたのは、『気候変動の悪化により、主要都市が水没した世界』というカード。気候変動の悪化で都市が水没してしまった世界において、人々のライフスタイルはどのように変わるのでしょうか。

小野「下水道は地下から地上に上がっている可能性もあると思います。もっと丈夫で、でもやわらかくて、絶対に下水が漏れ出さない新素材でつくれたとしたら。それが空中にはりめぐらされているけど、景観を乱さないことも可能なのではないでしょうか。さらに、下水処理の過程で出るエネルギーを補給するためのライフラインになっているとか。下水処理に留まらず色々使えるといいですよね。」

地下がダメなら、地上に出てしまえばいいじゃない!たしかに私自身も下水道がなぜ地下になければいけないのか、あまり考えたことがありませんでした。もちろん、臭いが気になるから地下に埋めた方がよいなど、色々な理由があるかもしれません。しかし、小野さんが言うように、もし未来の技術力があれば、下水道はもう地下にいる意味はなくなるかもしれません。現在は下水道が地下に埋まっていることもあり、人々に認知や理解がされにくいというデメリットがありますが、地上に美しい下水道が浮いていて、かつ私たちにエネルギーを供給してくれる存在になれば、見方が180度変わりそうです。

最後に選ばれたのは、『都市のミラーワールドが構築された世界』。ミラーワールドとは、現実の都市や社会のすべてが1対1でデジタル化された世界のことです。身近な例でいうと、地理的な情報をデジタルに置き換えている『Google Earth』もその一つです。

伊藤「下水で検出されたコロナウイルス濃度を検知し、感染者を推定する技術があるようです。PCR検査は一部の人しか受けられませんが、それよりは汚物をデータサイエンスした方がよいと。排泄物をモニタリングすることで人々の健康状態が分かるようになる。」
小野「人に知られてしまうのはちょっと……という方もいそうですよね。」
伊藤「便のデータを使うことが許可制になるかもしれませんね。個人の許可を得られればデータを使用できるようになる。データを使用することができれば、人間にとって“便”益になる。この家はちょっと便がおかしいとなれば、もしかすると未病の発見につながるかもしれません。下水道を使って人々の営みをデータ化することで、汚物を流す以外の下水道の意義が出てくると思います。」

下水道には多くの人の排泄物が流れていきます。それを“汚いもの“として決めつけるのではなく、むしろ下水道から人々の健康状態を観察することで、コロナウイルスのような大規模な感染症の感染拡大などを防ぐことができる。下水道から得た情報で人々の健康状態を映し出すという意味では、これも一種のミラーワールドということができるかもしれません。

最後に、『都市ではなく、自律分散型のコミュニティ単位で生活するようになった世界』、『気候変動の悪化により、主要都市が水没した世界』、『都市のミラーワールドが構築された世界』の3つカードから1つを選び、さらに内容を深めていきます。
選ばれたのは、『気候変動の悪化により、主要都市が水没した世界』。このカードに対して9つの問いを投げかけることで、この世界に住む人々の生活を深く想像していきます。

キャプチャ

▶9つの問い

問い①:「いまは常識ではない、この都市での日常風景は?」
小野「例えば下水道管は空中に浮遊していて、それがエネルギーのタンクのように機能しているとします。人々はそのタンクにつなぐことで、車を走らせるためのエネルギーを確保しているとか。どこからでもエネルギーを確保できるようになっている世界というのはどうでしょう。」


問い②:「この世界の下水道(と都市インフラ)のいまとは異なる点がどこ?」
小野「街に馴染むように、もっと可愛くなっているんじゃないですか。あとは先ほど話をしていたように、下水道は巨大なインフラとしてではなく、個人やある程度まとまった集団で所有するものになっているかもしれません。自浄自洗のような考え方が根付いていそうです。」

伊藤「ドローンみたいに浮いている可能性もありますよね。天空にあるユートピアが実は下水道管でできていたみたいな。夢の島的なね。」

問い③:「この都市における満たされない人々の欲望は?」
伊藤「夢の島ではきれいな水が噴水のように溢れていて、水は飲めるし、シャワーも浴びられる。でも実は、それは下水道によって処理されている水であると。水不足が続く世界では、そんな夢のような島を求めて人々が押しかけるかもしれません。」

問い④:「この世界の価値を最も享受する人は?」
伊藤「先ほど便益の話をしていて、みんなの便はみんなの利益であると。汚物や汚水は共同の資源であって、しかも人間が生きているかぎり尽きることがない。お金があるないに関係なく、汚物は人々の共有資源“コモンズ”としてすべての人が享受しているかもしれません。」

小野「汚物やデータを必要に応じて分配し、社会に還元するシステムもできそうですね。」

問い⑤:「この世界で価値を享受できずに取り残される人は?」
伊藤「取り残される人でいえば、自分の意思で便を提供できない人でしょうか。例えば赤ちゃんとか。でも提供できないはずの赤ちゃんの便が一番価値があり、高額で売られる可能性もありますよね。」

小野「赤ちゃん以外だと、下水道があらゆるもののエネルギー源となっている場合、それにアクセスできない人も取り残される人として考えられそうです。」

問い⑥⑦:「この物語の主人公は?」「この物語ではどのようなドラマが起こる?」
小野「地上が水没し人々が空中で暮らすようになった世界で、地上でたったひとつ残ったトイレを整備する整備士の話を書いてみたいですね。今は整備士の方が地下に潜って修理をしていると思いますが、それが変わるんじゃないかと思います。」

問い⑧:「この日常が生まれるきっかけとなった出来事は?」
伊藤「都市が水没してしまうというネガティブなきっかけがある一方で、先ほど話したように『下水道でデータがとれる』といったポジティブなきっかけもあるんじゃないでしょうか。」

問い⑨:「この物語の後、どのような世界が待ち受けている?」
伊藤「きれいなものと不浄なものの境界がなくなりそうですよね。こっちがきれいでこっちが汚いといっていたら生きていられなくなる世界が来ると思います。」

カード記入後

▶9つの問い(記入後)

汚いものときれいなものの境がなくなった世界において、下水道は『車などのエネルギー源』、『すべての人に平等にあたえられた共有資源“コモンズ”』、『きれいな水があふれ出る夢の島』など、現在の汚いというイメージはなくなっているかもしれません。

本レポートはここでおしまいですが、みなさんもSFの力を借りて、下水道を交えた未来の世界観を発想してみてください。

今後も今年度の東京地下ラボの様子をnoteにアップしていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!


■登壇者プロフィール
伊藤 直樹 (いとう なおき) さん
1971年静岡県生まれ。早稲田大学卒業。NIKEのブランディングなどを手がけるW+K Tokyoを経て、2011年、未来の体験を社会にインストールするクリエイティブ集団「PARTY」を設立。現在、クリエイティブディレクター兼CEOを務める。WIRED日本版クリエイティブディレクター。京都芸術大学情報デザイン学科教授。2023年4月開校予定の私立高等専門学校「神山まるごと高専」カリキュラムディレクター。アートを民主化するThe Chain Museumの取締役。スポーツ観戦をDXするStadium ExperimentのCEO。アート作品に日本科学未来館の常設展示「GANGU」、森美術館「未来と芸術展:2025年大阪•関西万博誘致計画案」など。受賞歴はグッドデザイン賞金賞、メディア芸術祭優秀賞、カンヌライオンズ金賞など国内外で300を超える。
小野 美由紀 (おの みゆき) さん
1985年東京都生まれ。“女性が性交後に男性を食べないと妊娠できない世界になったら?“を描いた恋愛SF小説『ピュア』は、早川書房のnoteに全文掲載されるや否やSNSで話題を呼び20万PV超を獲得した。最新作は80年代の架空のアジアの都市を舞台にした『路地裏のウォンビン』〈U-NEXT〉。著書に銭湯が舞台の青春小説『メゾン刻の湯』〈ポプラ社〉、エッセイ『人生に疲れたらスペイン巡礼』〈光文社〉など。
■WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所とは
WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所は、SF作家と未来を構想するコンサルティングサービスを提供する研究機関です。世界で最も影響力のあるテクノロジーメディア『WIRED』の日本版とクリエイティブ集団PARTYが協働し、2020年6月に設立されました。コンサルティングサービスを企業に提供するほか、プログラムの基盤となるワークショップやメソッドの開発、「WIRED.jp」などのメディアを通じた「SFプロトタイピング」に関する情報発信を行なっています。