短編小説 『初恋』

桜の花が満開に咲いていた高校の入学式…

新しい環境の下、期待に胸を膨らませながら早々と教室に入り、席順が書かれている場所へと移動した。

そんな折、隣の席に女子がスッと座ってきた。私は思わず2度見してしまった。

『なんと輝かしい人なんだろう…』

早速、お互いに簡単な挨拶を交わし、趣味や好きなアーティストの話で盛り上がった。共通点も多く、仲良くなるのに時間はそう掛からなかった。

いつも彼女の周囲には沢山の女子が集まっていた。そして、いつも笑顔だった。

その時すでに、私の心の中では決心が付いていた。『勇気を出して告白しよう』と…

桜の花が殆ど散っていた頃であった。

そして、桜の木の下で、初めての告白をした。

結果は『ゴメンナサイ』だった。

理由としては、『まだ知り合ったばかりだし、人とお付き合いする事はまだ考えてない』との事であった。

私は途方に暮れ、明日からどうやって顔を合わせるのかを心配していた。

しかし、ここで私は勉学に没頭して彼女を見返してやろうと思い、英検2級の勉強を始めた。

常に参考書を見ていれば余計な詮索もされないし、英検も取得できるので一石二鳥だと考えた。

やがて、期末テストが終わり、席替えとなった。私は前列で、彼女は後列だった。

淋しいという思いよりも、寧ろ楽になった気がした…

さらに時が経過し、銀杏の葉が神々しい季節になった頃、文化祭の準備が始まった。

ここでも私は彼女を避ける為に、男子ばかりの製作係に希望を出した。彼女は買い出し係だった。

とにかく彼女の事を忘れる為に遅くまで居残り、製作に没頭した。

没頭し過ぎた事もあり、しばしば私の作品を他学年の先輩や先生までもが覗きに来ていた。

すると突然、背後から『凄いね』と聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

間違いなく彼女の声である。

流石に、この状況では無視出来ない状況だ。英検の参考書を見ている時とは状況も異なるし、ここで無視したら私は最低野郎確定だ。

私は『有り難う』と振り返る事無く、短い言葉で返答した。

しかし、これまでとは何かが異なる。まだ彼女が背後にいる気配がした。

気付かない振りをして更に数時間の作業に没頭していたら、見廻りの先生から『下校時間だぞ。もう帰れよ〜』と促された。

下校のチャイムにさえ気付かない位の集中力だった。

すっかり陽も落ち始めようとしていた頃、スクールバスの停留所に並んでいる生徒も2〜3人しかいない状況だった。

そしてバス停に近付いて行くと、何とそこには彼女が立っていた。

2人共『えっ』と声が重なり合った。

彼女は忘れ物を取りに学校へ戻っていたとの事だった。

そして、バスの発車時間までには、まだ十分な時間があった。

私『ちょっとイイかな?』

彼女『うん』

私『ここじゃなんだから、あっちまで行こうか』

彼女『うん』

とにかく私は彼女を避けていた事を謝罪しなければならないと思った。

私『あのさぁ、フラれた腹いせで、今まで避けてしまってたけどゴメン。悪かった。』

彼女『ううん、私も悪いもん。』

私『正直に言うけど、まだキミの事が忘れられないんだ。もう一度言うけど、付き合ってくれない?』

彼女『こちらこそ宜しくお願いします』

私『…』

言葉が何も出てこなかった。

そして、確実に心臓の大きな鼓動と音を感じた。同時に、空を飛んでいるかの様な爽快感に包み込まれた。

そして、2人でバスに乗り込み、乗り換え駅近くの公園まで行き少し話をした。

辺りは既に暗くなり、街灯と月がやんわりと夜空に浮かび上がり、公園のベンチと2人の影だけが地面に映し出されていた。

私には、どうしても聞きたい事があった。

私『あのさ、なんで今回はオッケーしてくれたの?』

彼女『桜の木の下で告白してくれた時の事、覚えてる?』

私『うん、覚えてる。殆ど花が散っちゃっててさぁ、オレも散ったけどっ…』

彼女『あの頃はどんな人かも分からなかったし…でも、時間が経って、色々と考えてたら気になってきて…』

私『でも、今日は生い茂った銀杏の木の下で告白したらオッケーになったんだよね。何でかなぁ…』

彼女『何でかな〜』
彼女『何〜でか』
彼女『🎸なーんでか…』
彼女『🎤な〜んでかっ』

彼女『それはねっ…』

彼女『木(気)が変わったから』

私『ジャンジャンっ』

(完)

※オチ以外は事実です。

年配しか分からないネタです

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