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2024-02-17: スペースオペラとモデルガンの思い出

父が突然、四挺の拳銃を自宅に持ち帰ってきた。

私が小学生の頃の話だから、四半世紀近く昔の話である。

無論、いずれもモデルガンなのである。
しかし、鈍く輝く金色のダミーカートが綺麗に装填されたそれらは、我が家の玩具箱に刺さっていた安価な小児向けエアガンとは一線を画していることくらい、幼い私にも理解できた。

コルトガバメント、ワルサーP38、S&W M13 FBIスペシャル、コルトパイソン。
実に渋いラインナップである。当時、M92Fやシグプロのような拳銃を好んでいた私には、それらがいささか大時代的な骨董に感じられた。

全て実物が現存しないため、記憶を頼りに推測するに、タナカワークスやマルシンあたりの非発火式である。カートを分解した記憶はないので、おそらくであるが。

して、これらの出処である。
父曰く、会社の同僚から譲り受けたのだという。仮にA氏と呼ぶ。

A氏は不幸な病気から体が不自由になり、病床の人となってしまった。
面倒見の良かった父は、A氏が好んでいた映画関連の本を携えて都度見舞い、その返礼としてモデルガンを受け取ったそうだ。
しかし何故モデルガンか。

ともあれ、精巧なモデルガンは一転、子供の玩具に成り果て、きっと大事に磨かれていたスライドなどは瞬く間に傷だらけとなった。
厳しい環境下で不遇に空撃ちされ続けたため、次第に機構は劣化し、ガラクタへの坂道を転げていった。

父はまた、A氏に貸与していた映画関連の本を持ち帰ってきていた。
恐らく、別冊宝島のムックか何かだと記憶しているが、定かでない。たまにネットで古書検索しているが、記憶に合致する本はいまだ発見できていない。

活字が好きだった私は、おそらくA氏と同じようにムックを端から端まで睨むように読んだ。
スペースオペラという言葉はその時初めて知ったし、フラッシュ・ゴードンや、そのエロパロであるフレッシュ・ゴードンなんてのも、妙に脳裏にこびりついている。
幼少期の記憶力というのは侮れない。

数年後、A氏は若くして逝去されたと父から聞いた。
モデルガンはいつのまにか、掃除好きな母に全て処分されてしまったし、ムックなど言わずもがなである。

私はA氏の本名を記憶していない。
ただ、モデルガンのグリップの硬さや、撃鉄を起こす触感は今も覚えている。
ムックに掲載されていた、ヘタウマなイラストレーターの挿絵を、A氏もきっと眺めただろう。

あのモデルガンを、もっと大切にすれば良かったとたまに思う。
せめてこの記憶は、私が死ぬまで大切にするつもりです。

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