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フードデリバリーのLegal Design~出前館/楽天デリバリー/dデリバリー/Wolt/menu/Chompy編~

前回の記事ではUber EatsのLegal Designをご紹介したため、同じフードデリバリー業界で活躍する出前館、楽天デリバリー、dデリバリー、Wolt、menu、ChompyのLegal Designを考えてみようと思います。実は各社異なる戦略を取っており、様々なパターンがあるため、フードデリバリーに利用するユーザー、店舗、配達員の方々にはぜひ知っておいていただきたいなと思います。
(前回の記事は以下よりご高覧ください。)

おさらい:Uber EatsのLegal Design~完全仲介型~

Uber Eats Legal Design図解【フードデリバリー】

Uber EatsのLegal Designを簡単におさらいしておくと、Uber Eatsはユーザ/店舗/配達員のそれぞれの契約を仲介する情報プラットフォームの立場(上図の赤色矢印がUber Eatsを当事者とする契約を表します)となり、それぞれのマッチングを行い、手数料を取得するという設計になっています。したがって、商品の販売や配達に関して、Uber Eatsが契約上の当事者になることはなく、これに基づく権利義務を持つことはないと利用規約上記載されています。

便宜上、このようなLegal Designを「完全仲介型」と呼ぶことにします。

出前館のLegal Design~配達代行-再委託スキーム~

出前館 Legal Design図解【フードデリバリー】

これに対して、出前館の契約関係を図に表すと上記のとおりとなります。Uber Eatsの「完全仲介型」と異なる点は、出前館と配達員の関係です。

ユーザは、出前館上で注文を行うことで、各店舗と直接、販売・配達業務委託契約を締結します(ここまではUber Eatsと同じです)。これに対して、店舗は、自前で配達を行うか、出前館に配達代行を依頼するかを選択することができます。そして、後者を選択した場合、店舗は出前館との間で配達代行契約を締結し、出前館は配達員に対して、配達業務を再委託する形式で、業務を発注します。
つまり、配達員は、店舗とではなく、出前館と契約を締結していることになります。この場合、配達員が配達途中で事故等を起こした場合、出前館が店舗に対して責任を負う形式になります。(ただし、利用規約上の責任制限規定は置かれています。)

便宜上、これを「配達代行-再委託型」と呼んでおきましょう。

以下、根拠となる条項を念のため列挙しておきます。

出前館利用規約
第8条 注文情報の受け付け
1.利用者が当サイト上、当サイトの加盟店に対し注文行為(以下、「取引」といいます。)を行い、当社がその注文情報を受け付けた場合、当サイト上にて、注文を受け付けた旨を表示し、その表示をもって受け付けを完了とします。なお、受け付けの完了に加盟店の承認が必要な取引の場合は、加盟店が承認し、受け付け完了メールの送信をもって受け付けを完了とします。
第19条 免責事項
4.利用者の当サイトでの加盟店との取引は、全て利用者と、加盟店との間で行っていただくものです。したがって、万一取引に関してトラブルが生じた際には、利用者と加盟店との間で解決していただくことになります。
出前館規約(自社配達・配達代行利用共通版)
第1条(総則)
2.本規約は、第2章 配達代行請負に関する規約(以下「配達規約」という)において、甲、乙、及び配達代行者間における配達業務に関し、基本的事項を定めるものとする。なお、自社配達加盟店の場合、配達業務に関
する権利義務関係は原則として発生しないものとする。
第2条(定義)
5.「配達代行者」
乙(注:加盟店)が加盟店サービスにおいて受注した物品の配達代行業務を甲(注:出前館)より受託している甲所定の業者をいう。
第 32 条(対応業務)
配達代行者は、乙が加盟するモール並びに情報提供サイト(以下「出前館」という)を通じて発注者(以下「お客様」という)から受注した商品(以下「商品」という)の配達代行業務について乙より甲が請負うものを再委
託として甲より請負う
ものとする。

楽天デリバリーのLegal Design~店舗自前配達型~

楽天デリバリー Legal Design図解【フードデリバリー】

楽天デリバリーは、Uber Eatsの「完全仲介型」でもなければ、出前館の「配達代行-再委託型」でもなく、店舗が直接配達員と契約し、楽天デリバリーはマッチングも行わない、いわゆる「店舗自前配達型」です。したがって、楽天デリバリーに対応している店舗は全国の大手チェーンが多い特徴があります。
今年の3月までは「楽天デリバリープレミアム」というサービスがあり、配達員のマッチングも行っていたようなのですが、当面休止する旨のリリースが出ていました。

なお、dデリバリーは、オンラインで公開されている利用規約からは、おそらく楽天デリバリーと同じく「店舗自前配達型」と思われるのですが、出前館と業務提携をし、運用を委託しているため、「配達代行-再委託型」の可能性もあります。

では、新進気鋭でマーケットを拡大しているmenu, Wolt, Chompyはどうでしょうか。

WoltのLegal Design~配達業務請負型~

Wolt Legal Design図解【フードデリバリー】

Woltは、これまでとまた異なり、ユーザから配達の依頼を受け、Woltが契約する配達員に対して、これを直接委託するスキームにしています。つまり、ユーザは店舗との間では売買契約しか締結しておらず、ユーザに対する配達の責任は店舗ではなくWoltが負うことになります。(ただし、配達員との間の規約や店舗との間の規約がオンラインでは手に入らなかったため、これはユーザに公開されている利用規約からの解釈となる点はご了承ください。)

以下に根拠となる規定を記載しておきます。

ユーザサービス利用規約
3.2. (略)パートナーが本注文を受注し、Woltがパートナーに代わって注文確認書をユーザーに提供した時点で、ユーザー又は団体ユーザーとパートナーとの間の売買契約は成立します。Woltは、パートナーに代わってユーザーに領収書を提供します。パートナーが本注文を受注し、ユーザーに注文確認書が提供された時点で、商品購入についてのパートナーとの間の売買契約に加え、ユーザー又は団体ユーザーとWoltとの間で、Woltサービスを通じてユーザーが発注したデリバリーサービスについて法的拘束力のある契約が成立するものとします。
3.3. (略)Woltは、パートナーによる売買契約の適切な履行について、ユーザーに対して一切責任を負わないものとします。Woltは、本利用規約で定められた本注文に基づき、ユーザーが注文したWoltのデリバリーサービスの履行について責任を負うものとします。

menu/ChompyのLegal Design

menu Legal Design図解【フードデリバリー】

上記の通り、menuはUber Eatsと同じく「完全仲介型」です。Uber Eatsの利用規約類は英語をもとに作成されているため若干難解な箇所もありますが、menuの利用規約はUber Eatsと同じスキームを比較的平易な日本語で説明しています。以下、いくつか根拠となる条項を記載しておきます。

利用規約
2.2. (略)当社は、会員が出店者の提供する商品を注文するシステム及びそれに付随するサービス(会員が出店者に対して支払うべき商品代金およびデリバリー商品の配送料(以下、総称して「商品代金等」といいます)を、出店者を代理して受領することを含みますが、これに限られません)を提供するにとどまり、商品に関する売買契約(デリバリー商品の提供を目的とする場合においては、商品の配達にかかる合意を含むものとします。以下同じ)は、会員と出店者との間で成立するものとし、当該売買契約に関しては、全て会員と出店者間の自己責任とし、当社は一切責任を負わないものとします。
5.7. (略)配達パートナーは、出店者によるデリバリー商品の配達および付帯・関連するサービスの提供を目的として、出店者から直接その委託を受けるものです。
附則 menuデリバリープラットフォームサービス 利用規約
1.3.「menu配達パートナー」とは、配達パートナーとして本サービスに登録する者であって、本サービスを利用することにより、ユーザーへのデリバリー商品の配達その他付帯するサービスの提供をデリバリー出品者から直接受託する者をいう。

さらに、Chompyも、Uber Eatsやmenuと同じく「完全仲介型」でした。

Chompy Legal Design図解【フードデリバリー】

こちらも利用規約で根拠となりそうな規定を記載しておきます。

Chompyクルー利用規約
第1条(定義)
9.「配達サービス取引」とは、Chompyパートナーが飲食物提供取引に基づき、調理した飲食物を当該飲食物提供取引に係るユーザが指定した配達先に当該飲食物を配達する業務をChompyパートナーがChompyクルーに対して委託する取引をいいます。
第2条(本サービスの概要)
1.本サービスは、ウェブブラウザ又は本アプリその他の方法を通じて、Chompyパートナーの提供する飲食物の注文が行われ、当該飲食物の配達(飲食物を受領しにきたユーザーに当該飲食物を交付することを含む。)を依頼するためのシステムや情報をユーザーに提供するサービスです。当社は、Chompyクルーに対し、Chompyパートナーとの配達サービス取引のマッチングの機会を提供します。本サービスを介して行われる配達サービス取引は、全て当事者であるChompyパートナー・Chompyクルーそれぞれが自己責任で行うものとします。当社は自ら取引を行うものでなければ、Chompyパートナーの代理人でもなく、配達サービス取引の当事者ではありません

まとめ:フードデリバリーのLegal Designマップ

以上を踏まえ、フードデリバリー市場におけるLegal Designをマッピングすると以下のような形になります。

mapping Legal Design図解【フードデリバリー】

いずれのLegal Designも事業者による戦略が見て取れますが、企業法務のプロフェッショナルがサポートする以上、当然のこととも言えます。他方で、個人的には、ユーザと店舗、そして特に配達員の方々が、自分がどのような契約を締結しているのか、万が一のケースにどのような責任を負うのかという点を正確に認識できているのかを不安に思います。少なくとも、フードデリバリーを利用するステークホルダーの方々に、こういった説明が丁寧に行われ、幸せな市場が形成されていくことを願ってやみません。

※本稿の執筆にあたって、図解はチャーリーさんの「ビジネスモデル図解ツールキット」を使用させていただきました。ありがとうございます。
なお、ビジネスモデルと法律上の権利義務関係は図解にあたって異なるルールを適用させたほうがわかりやすいため、図解ルールに異なる点がございます。ご了承ください。



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