見出し画像

インタビュー01 鳥坊主になるまで

柴田智之:東海林くんがうちに来てくれたのっていつだったっけね。去年の終わりか今年の初めか忘れちゃったけど、うちに「柴田」って酒を持って来てくれたでしょう。あの時に飲んで、はっきり一緒にやろうって決まった。僕も東海林くんと一緒に創りたいと思ってたけど踏ん切りがつかなかった、そんなときに東海林くんが家に来てくれて、お酒飲んで話したんだよね。そこで一緒にやりたいっていう話を聞いて、えーって嬉しくなって。

——そもそもの出会いはいつ頃ですか?

柴田:東海林くんは僕のこと随分前に道で見かけてたみたいで。

——道で!? それは役者の柴田智之という認識で?

東海林靖志:そのときは全然。のちのち、柴田智之っていう人だって知った。ロン毛の異様な雰囲気で「誰なんだ!?」っていうのがファーストインプレッション。劇場の近くの道ばたで、何かの時に見かけたんです。
柴田:僕の東海林くんの出会いは「踊りにいくぜ!! Vol.9」(2008年11月)ですね。劇団千年王國を辞めて、すぐに「踊りにいくぜ!!」参加したのを見てくれてるんですね。終わった後に連絡が来て、「師走の助走」(2009年12月)っていう舞踏家の田仲ハルさんと東海林くんの企画を一緒にやろうって言ってくれて。でも、僕はその前に東海林くんのことを見てるんだよね。パトスで福村まりさんと一緒にやってたよね。
東海林:へえ。東福(2007年5月)だ。

——なつかしい。

東海林:あれ見てたんだ。
柴田:でもあの時の印象とその後に出会った東海林くん印象が違う。全然違う人に見える。
東海林:あの時は自分で何がやりたいのかわからないまま、まりさんと一緒にやっていたから。こっちからの提案が全然出せない。作品を創るってことがどういうことなのか全然分からない状態で一緒にやってたから、何回も怒らせちゃったし。あれで変わったかもしれないね。

——東海林くんは役者の柴田智之はどれくらい見てますか。知った時はもうあんまり芝居やってなかった時期かな。

東海林:それこそ「寿」とか「オツベルと像」(2013年)とか。最近になってようやく柴田くんの芝居を観て、衝撃的で。

——一緒にやりたい、と一番惹かれたのはどこですか?

東海林:自分にないものをいっぱい持ってるっていう…。
柴田:お互いに異質な存在なんだと思う。分かんないけど(笑)それが面白いんだよね。
東海林:才能に惹かれるというか。
柴田:きっと僕も東海林くんに自分にないものを感じるんですね。一人でやろうって決めてから、共演者を得るっていうのは初めてですね。
東海林:自分の知らない部分をこの人だったら引き出してくれるんじゃないかみたいな期待がある。もしかしたら僕も相手の何かを引き出せるんじゃないか、それぞれのバックグラウンドが違う分、そういう期待もあったり、実際にそういうこともやっているし。

——一緒にやることになったときにすでに作品のイメージってあったんですか。

東海林:ないよね。
柴田:ないね。その最初に飲んだときに、文通しようって決まった(笑)。どうして文通になったんだろうね。僕はすぐさま彼の印象を殴り書きにした手紙を書いて送ったんだけど、東海林くんからなかなか返事が返ってこない(笑)。メンメさん(東海林の奥様)に聞いたら、「こだわるからなかなか書けないんだと思う」って言ってて、そうかわかったって。
東海林:そんなに何回もはしていないね。効率悪いからメールにしようってなって(笑)。それから文明の利器を利用してね。
柴田:でもね、文通のおかげで、東海林くんて人はこういう人なんだっていうのを発見して、受け入れて、確かめていく、そういう作業でしたね。熱っぽく書いた手紙を東海林くんはいったいどんな風に読んだんだろうかって考えて。返事が来たなと思ったら、紙2枚くらいで、ペンの色が違ったりして、これをこだわって書いたのかと思って読んで、そうなんだねーって思ったり。僕は勝手に、僕の思いで、こんな風に思うよとか見えたよ感じたよって書いて送ることはできちゃう。東海林くんは、根っこを知りたいんだよね。今日も最初の動き(「うちにかえろう」のプロローグとなる輪廻を表すシーン)を稽古してたんだけど、僕の動きは変わらずで整理したものになっていったけど、東海林くんは中心もしくは全体を使ってゆっくり動くことにして。輪廻を表す舞——命が始まる一番最初は塵やガスだったはずだ、って。やっぱり根っこがそこだよねっていう風になるのかなって。東海林くんは根っこがあるから自信を持ってスタートできるんだと思う。お互いに異質だから面白いんだよね。

——東海林くんは柴田が書きなぐった手紙をもらってどう思ったんですか?

東海林:柴田くんは第三の目で世界を見てるんじゃないかって思うくらい、千里眼っていうか、すごく人のこと見てるし感じてるし、かなわないって思った。そんなのもらっちゃったら俺どうやって返せばいいんだろうって(笑)。

——書いてあることは当たってました?

東海林:当たってたし、愛情に溢れてるっていうか、温度を感じる。これが手紙だよな、って。
柴田:そっか、呪われそうじゃなかった?
東海林:人間が詰まってる紙が来た、って感じ。言葉の選び方ひとつにしても、言葉の力も知ってるし怖さも知ってるっていうのを感じて。熱量というか、言葉を専門に扱って来た人との決定的な差みたいなものを感じた。それもあって、今回一緒にやるけど俺は下手に喋らないことにした。それだったら俺が専門に扱って来た身体に徹して、それをぶつける。そっちの方がいいんじゃないかっていう思いに至った。それくらい言葉の力を感じさせてくれた。
柴田:「踊りにいくぜ!!」のときに、ダンスをずっとやっている東海林くんが僕の踊りを見て、「ダンサーだと思った」って言ってくれたんですよ。あれが、むちゃくちゃ嬉しかったんですよね。それがいつまでも残ってるよ。嬉しかったなー。そういうのもあって、いつでも思っている相手としていました。

——構成ができてから、ここまで数回稽古してきましたが。

東海林:今は宿題が山積み。
柴田:そうだね、いっぱい見つけた感じですね。後半は僕が書いた詩だから、詩を覚えて練習すれば何かが伝わるように読むってことはできるんですよ。それに東海林くんが動きをつけるっていうのに今日、挑戦できたんですけど。コンタクトをしながらセリフを喋ってるっていう、非常に、僕も見たことないし、やったことないことが今起きてるっていうのが今日ありましたね。それは僕も楽しみ。あとは、この作品自体が、“関係する”ってことを細かく見せている。出会った同士が、あなたのことを良いと思うって認め合って、こんな思いがあると交感しあう、で何かを一緒にできるかもしれない、と課題に取り組もうとする。そこが詩と身体の融合。僕自身の業とかそういうものにも挑戦する、その結果どこかに辿り着くっていうことを見せる。僕も見たことないし聞いたことないっていう作品になりたいって思ってますけどね。
東海林:やりたいこととか伝えたいことははっきりしてるよね。東海林靖志と柴田智之、個人を舞台において、そっから始まっていって、人と人の関係を結ぶっていうのを丁寧に見せるっていうのがはっきりしてるってことが分かったし、それをいいクオリティで見せるためにはこんだけ考えないといけないよねってのも見つかったって感じだね、今日までの段階で。見つかった分、解消できるってことだから。

——最後にユニット名なんですが、最初は「シバジ」って名前だったけど…。

東海林:あれは僕が。
柴田:かなり確信を持って「シバジがいい」って東海林くんが言って(笑)。僕は名前にこだわりないから、とにかく一緒にやって作品を観てもらうことが必要だから、じゃあシバジでいこうってなったけど、(照明家の)高橋さんに「ダサいね」って言われて(笑)。それで東海林くんが変えた方がいいんじゃないかって。
東海林:それもあるし。俺、シマジくんていう友達がいて、シバジシバジ言う度にシマジくんが浮かんでいて、シマジくんもダンサーだし。あれあれってもやもやしている時に、高橋さんに「シバジにしたんですよね」って言ったら、ひとこと目に「うわ、ダッせ」って言われてうわーってなって。僕は思いっきりブレて、でも柴田くんは「これでいいと思う」って、芯が強いから。僕はもう冷めちゃってたんだけど。
柴田:だって東海林くんがいいって言ったんだからさ!(笑)
東海林:こういう感じで熱く思ってくれてたんだけど、最後の最後で、やっぱりもう一度考え直さないかってなって。で、メールのやりとりで。
柴田:お互いに好きな言葉とか印象のような単語を出して。
東海林:なんかいっぱい出たよね。
柴田:○○坊主っていうのが結構出て来たんですよね。飛ぶ坊主っていうのもあった。でも飛ぶ劇場(北九州の劇団。2009年札幌公演時に柴田がゲスト出演した)とかぶるからやめようかって。飛ぶ坊主いいと思ったんだけど。
東海林:いろいろ出て鳥坊主ってなって。
柴田:(メモを見ながら)あ、いっぱいあった。諸行無常坊主、体育坊主、文科系坊主っていうのもある。義務坊主、なんだこれ(笑)。思考坊主、哲学坊主、思春期坊主、1982坊主、山坊主、空坊主、海坊主、星坊主、坊主坊主っていうのもあるよ。宇宙坊主、南無網坊主…

——その中から鳥坊主に。

柴田:真剣に考えたんだよね。二人で。
東海林:でも良かったと思う。シバジじゃなくて鳥坊主。

                         (取材日:6月1日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?