見出し画像

[掌編小説]メビウスの夢空間

うちの父さんて、ちょっとデリカシーにかけるんだよね。
デリカシーにかけるっていうより、人の神経を逆撫でするところがある。

本人は多分、そういうつもりはまったくないんだろうなあ。
だから、罪がないっていうふうにも言えるし、それだけに、たちが悪いとも言える。

ものごとって両面性があるもんね。

両面っていうとさ、どうしてもメビウスの輪を思い出しちゃうんだよね。
紙かなんかの細長いひもをさ、途中で180度ひねって両端をくっつけるとできるやつだよ。

紙でできてるんだから、一見表と裏があるのに、途中でひねりがあるもんだから、ある一点から辿って行くといつの間にか、その一点の裏側に来てるのに気がつくってわけ。

それがどうしたのって言われても困るんだけど、なんか頭の中でひっかかってるんだよ。

似たようなやつでクラインの壺っていうのもあって、これはほんとは壺じゃなくてチューブなんだけどさ。

こっちは現実には存在しないの。これを作るにはさ、水道のホースみたいなチューブ状のものをね、四次元的に裏返して両端をくっつけないとならないんだよ。

四次元的に裏返すのはぼくらには無理。

もしもクラインの壺が存在して、その中を歩けるくらい巨大な土管みたいなものだとするでしょ。

そうすると、例えば右手で土管の壁に触って、その中をずっと歩いていくとさ、ふと気がつくと土管の外側に出てるってわけ。右手はずっと壁に触ってるのにね。こいつは不思議。

こんなことは現実にはありえないし、ちょっとうまく想像ができないよね。

でも、数学的には何も不思議なことじゃないんだよ。メビウスの輪が、ちょっとおもしろいけど、ただ紙紐をひねってつなぎ合わせただけなのと同じで、それがあるとワープができるとか、そういうSFみたいな話とは違うからさ。

だけど、ぱっと見では確かに存在する、裏と表や、外と中が、実際にはうまく区別できないっていうのは、やっぱりちょっとおもしろいよね。

なんかさ、ぼくたちの頭の外と中が、どこかでひっくり返されてつながっててさ、ずっと歩いていくと、いつの間にか現実の世界から夢の世界に入っちゃうみたいな、そんなことがあったら、楽しいと思わない?

いや、怖いかもしれないけどね。

うん、何が現実か分からなくなるっていうのは、確かに怖い話かもしれない。

でも、ぼくにとってはさ、この現実ってやつは、なんかかっちりしすぎてるんだよ。

だから、もうちょっと曖昧になってほしいかなー、みたいな。あれ、これ夢かなって、勘違いするくらいの、ヘンテコな世界だったらいいのになってね。

あー、それでさー、父さんが朝からまたやらかしてくれたもんだから、母さんが大変でさー、ほんとにいやんなっちゃうんだよ。

こういうのがさ、なんかひっくり返ったり、裏返ったりして、もうちょっと曖昧っていうのか、なんとかなってくれないかなー、なんてね。具体的には自分でもよくわかんないんだけどさ。ふう。

☆連作掌編 #ミズモの夢時間
母ちゃんの甘いキャベツ
https://note.mu/tosibuu/n/nbf7b8cd06f97
幼稚園からやり直す
https://note.mu/tosibuu/n/n3b1039bdba85

[おもしろかったら、サポートも大歓迎です]

いつもサポートありがとうございます。みなさんの100円のサポートによって、こちらインドでは約2kgのバナナを買うことができます。これは絶滅危惧種としべえザウルス1匹を2-3日養うことができる量になります。缶コーヒーひと缶を飲んだつもりになって、ぜひともサポートをご検討ください♬