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【ショート・ショート】LINEのふたり

俺には、微妙な関係の女性の友達がいる。大学の友人たちからは仲が良い二人だと言われている。人によっては付き合っていると誤解している。

実際、二人は特に付き合っているわけではない。そういう雰囲気になったこともない。

しかし、LINEはほとんど毎日やり取りをしているし、LINEでは姓ではなく名前で呼び合っている。おはようとおやすみのLINEを欠かしたことがない。ただ、毎回、最初にLINEを送るのは俺だ。

(おはよう。まゆ😊)

(うん。おはよう健太)

たったこれだけのやり取りだが、今となっては、まゆからのLINEは毎日の潤滑油だ。

と言っても、関係がこれ以上進むことはなく、気がつくと二人とも大学4年生になっていた。3年生から始まっている就職活動に苦戦し、5月になった今でも内定がもらえていない二人だった。

5月中旬のある日。早朝に目が覚めた。

「寒い・・・」

この時期なのに寒気で目が覚めるというのは尋常ではない。これはやばいかもしれないと思った俺は、体温計を探し熱を測った。

40℃。喉も痛い。頭がぼーっとする。

俺は、嫌な予感がし、コロナの簡易検査もやってみた。

青い線がくっきりでてる。コロナだ・・・。

熱は41℃まで上がった。俺は何もできず、布団の中で寝ているだけだった。まゆへのLINEもできなかった。頭が働かず、文章を書くこともできなかった。まゆからはLINEがくることはなかった。

夜になった、熱はまだ下がらない。家にあったスポーツドリンクで水分を補給した。食欲が全くないので、冷凍庫にあったアイスクリームを食べた。高熱の身にはうれしい冷たさだった。

気がつくと夜11時になっていた。一人でずっと寝ているのも虚しい。とはいえ、まゆからLINEはない。それはそうだ、俺は恋人ではないからだ。

喉が渇いた。水分を補給したほうがいいだろう。

スマホのLEDが緑色に光った。画面にLINEのメッセージが届いたという表示があった。

まゆからだった。

(どうして、LINEくれないの?ずっとまってたのに・・・😢)

熱がまた上がったみたいだ。胸のあたりが苦しくなった。なぜだろう、まゆの声が聞きたくなった。

(終わり)

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