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蟹男 10話目

何時だ?


布団のうえの闇に、手をはわせる。


いっこうに、スマホを探りあてれない。


そうしているあいだに、僕は思い出した。


ここが自分の部屋でないことを。



部屋に満ちていたのは、夜ふけ独特の空気だった。


日がのぼるには、まだ随分かかりそうだ。


はんぱな時間に、目があいてしまった。



明日にそなえて、あさまでしっかり眠っておきたい。


僕は、寝やすい体勢を、もさくした。


横むきにおちついて、目をとじる。



剪定をやることが、決まったのはいいとして···


『どうやったら、もどれるか?』だよな。


自分の世界へ帰るために、僕は何をすればいいんだ?



さあ、さて···



やっぱり、この世界に飛ばされる直前におきたことが、関係あるよな。


『僕の場所』で、出会ったあいつ。


どう考えても、あやしいよな。


ハート型のバルーンを、すっぽりかぶった、あいつ。


かりに、あいつのことを、ハートバルーンと呼ぶとしよう。


ハートバルーンが、僕をこの世界へ飛ばした犯人だとしたら···


いったい、あいつはなんなんだ?


·····


寝れんっ!



まどろむ気配がないっ。


そりゃあ、こんなこと考えだしたら、まどろむモンも、まどろまんよな。


あぁ、寝れないパターンだ。


二度寝はあきらめて、開きなおって起きてしまうか···


とりあえず、いったん気がすむまで、考え切ろう。



とはいっても、スイッチをおしたら、灯りがつくわけじゃないんだよな。


しかたない、このまま考えるか。


くらい部屋の、ベッドのなか···


途中で、ねむってしまいそうだけど、それは、それでかまわない。



さあ、さて。



きのうは、色んなことがあったなあ···


ソウは「神様はいるの?」という僕の質問に、「当たりまえじゃん」と返した。


そして、そのあと僕はユグドラシルをみた。


さらには、隠されていた、ナゾの翻訳機能に気づいた。


どれも、インパクトのあることばかりで、取り乱してしまったのだ。


そして、そのときの思考も、インパクトの強さに、ひっぱらてしまった。



まず、神さまだ。


ソウは、ああ言ったけど、本当に神さまはいるのかな?


僕の世界でも、神さまの存在を信じているひとが、「神はいる」と言うことは、めずらしくない。


ソウが、当たりまえのように信じているだけ、のことかも知れない。



ソウは神さまを、みたことあるのかな?


北欧神話の世界ということは、神さまって、オーディンとかか?



そして、翻訳の件。


ソウがあまりにも、当たりまえのように、神さまの存在を肯定し、ユグドラシルなんて壮大なものを、みてしまったあとだったんだ。


だから、翻訳を『神さま案件』と、そうそうに決めつけてしまった。


だけど、神さまがやったこととは、決まったわけではないよな。


しかしあの翻訳、なによりも、意識に上がらないようになっていたところが、魔法のようで、つい···





そうか、魔法か···


この世界に魔法はあるのか?


あるなら、神さまがいなかったとしても、翻訳の説明はつく。


翻訳だけでなく、僕がこの世界に飛ばされたのも。



しかし、僕なんかを、この世界によぶ、理由がわからないんだよな。


翻訳機能までつけて。


人まちがい、とか?


それとも、神さまのたわむれ?



だけど、僕を飛ばしたのは、ハートバルーン以外に考えにくいんだよな。


ハートバルーンが神さまとか?


もしくは、魔法つかい?


でも、ソウとソレさんに、この世界に飛ばされる直前のことを説明したときに、ハートバルーンの姿かたちもつたえた。


けど、ソウも、ソレさんも、ぜんぜんピンときてなかったんだよな。


ソウたちは、神さまを、みたことないからかな?



神さまを、みたことあるか聞いてみよっ。


あしたソウに。


あと、魔法があるのかも、聞かないとだな。


もしソウが、神さまを、みたことがあるのだとしたら、ハートバルーンは神さまではないということか。


でも、北欧神話なら、神さまが複数いるしなあ。


ソウが、全部の神さまをみたことあるってことは、ないだろうなあ。


んー···



あー、あと、飛ばされたのと、翻訳は、ひとそろいじゃない可能性もあるよな。


たとえば、飛ばしたのはハートバルーンで、翻訳は、それをあわれに思った神さまが、僕につけてくれたとか。


それだったら、もとの世界に帰してくれるか。


さらに、可能性でいうと···


この世界に飛ばされたのは、超常現象ってことも、ありえなくはない。


つまり、僕が飛ばされたのには、だれかの意思が介在していない、ということ。


僕を呼ぶワケなんて、考えても思いつかないから、それが一番しっくり来るんだけど···


でもそれだと、ハートバルーンは関係ないってことになる。



たまたま特殊メイクした人が『僕の場所』にいただけで、それとは関係なく、事故的に僕が、異世界に飛ばされた?


ムリがあるなあ。


ハートバルーンを、むこうの世界では、すげーリアルな特殊メイクと、思わざるえなかったけど。


異世界にきている、いまとなると、ああいう姿かたちの、生きものだったとしか思えない。



そんで、翻訳のほうは、超常現象では、説明がむずしいよな。


どんな現象だよって、はなしだ。


神がかった、なに者かの手によって、付加されてたとしか思えない。


飛ばされたのも、翻訳も、超常現象というせんはうすいな。



はあ。


まあ、こんなとこかな。



で、僕がもとの世界へもどるために、するべきことは、なんだ?


まずは、情報をあつめることか。


えーと、なんだっけ?


ソウに聞こうとしたこと···


あっ、『神さまをみたことあるか?』と『魔法はあるか?』だ。


メモしておきたいな。


書くものあるのか?


って、さがすにも、灯りからか。


ランプに火をつけるの、めんどうだな。


でも、寝れる気もしないしなあ。



オイルランプに火をつけるには、っと。


暖炉に、うずみ火がしてあるって、いってたな。


さあ、さて···


ガバッ。


ランプに火をつけるには、手間がかかる。


その工程をこなすエネルギーを、捻出するために、僕は上体を勢いよくおこした。


しかし、勢いがよかったのは、動き出しだけだった。


そのあとは、むしろスローリーだ。


まどから入る、月あかりがあかるくて、思ったより部屋のなかが、みえる。


ベッドのうえから、靴のなかに丸めてつっこんである、靴下をとる。


いつもの僕なら、靴下なんかはかずに、クツに爪先たけだけをひっかけるように履いて、用をすます。


かかとを踏んでしまうのもやむなし、と。


だけど、ハアが選んでくれた、クツだ。


そんな、おおちゃくをして、粗末にできない。



僕は、もらい火をするため、居間へいくことにした。


自分のいる部屋のドアを、そろりとあけた。


忍びあしで、あるく。


一歩ふみだすと、床いたの、わずかにきしむ音。


昼間は、こんな音、きづかなかった。


キシィ、キシィ···


時間をかけて、暖炉の前まできた。


暖炉わきの、傘たてのようなスタンドに、火かき棒がささっているので、手にとった。


かんがんで、短くもった火かき棒で、灰のなかを探る。


目がさめたときに、スマホを探したことを、なんとなく思いだした。


スマホはなかったが、うずみ火の炭は、すぐにみつかった。


火かき棒が、ささっていたスタンドに、刃のない巨大なハサミみたいな、道具がある。


閻魔様が、舌をぬくときにつかいそうだ。


その道具をつかい、なれない、手つきで炭をはさんで、ランプの芯におし当てた。


おもったより、簡単に火はついた。


まわりがオレンジいろに照らしだされる。


炭と道具をもどし、また時間をかけてゆっくり歩いて、部屋へかえってきた。


火のついたオイルランプを、机のうえにおく。


さっそく、その机の引きだしを、あけた。


羽ペンだ。


いきなり、みつけた。


羽ペンって、もしかしたら、はじめて実物みたかも。


引きだしを、さらにひくと、ビンにはいったインクが見えた。


黒と··赤まである。


それと、なぜかちいさい刃物。


べつの引だしに、無地の紙があった。


手紙用かな。


書くものが、すんなり見つかった。


話がはやくていい。


少し気はひけたが、勝手に使わせてもらうことにした。


僕は、ハーフリングサイズの机とイスで、さっそくメモを書く。


羽ペンをつかうのは、まちがいなくはじめてだ。


ためしに、紙のすみっこで、線を引いてみた。


シャー。


紙のうえをペン先がひっかくだけで、引かれるべき線が、そこにない。


インクをつけ忘れるなんて、マヌケをおかしてはいない。


つづけて、なん回か引いてみた。


線があらわれたり、あらわれなかったり。


さあ、さて、書くか。

·······

自分の羽ペンのつかいこなせなさに、笑ってしまった。


漢字を書くことは、すぐにあきらめた。


カタカナとひらがなで書くことにした。


それも最低限のことだけを。


『ソウにきく』


『カミさまみた?』


『まほうある?』


あと、なにかあったかな?


情報を集めたいのだから···


『物知りのひとはいないか?』とかかな?


えーと。


もーのーしーり、っと。


あと、せっかく、この世界の文字が読めるんだから、本かな。


図書館あるかな?


とーしーよーかーんー、っと。


あと、ソウが神さまをみたことがあったとして、会えるかってはなしだよな。


会えないと、神さまパワーで帰してもらえないないもんな。


あーえーるー、はてな、っと。


···誰にだよ。


かーみーさーまー、っと。


しかし、みたことあったとしても、気軽にあえるとは思えないな。


あえるのなら、ソレさんが、


「別の世界から飛ばされてしまったの!?なら、神さまに会いにいきましょ。なんとかしてくれるはずよ」


とか、言ってくれはずだ。


まあ、でも、ユグドラシルみたいに当たり前のことは、わざわざ言わなかったからな。


でも一応、聞いてみよう。


あとは···なんか、あるかなあ···


とくにないか?


思ったよりメモすること、なかったなあ。


でも、忘れそうで不安になるから、書いとかないと、なんだよな。



あとは、ハートバルーンのことだよな。


ソウとソレさんは知らなかったけど、もしかしたら、誰か知ってるひとがいるかもしれない。


ハートバルーンはソウやソレさん、それにハアとくらべると、姿が異質だ。


口で説明しても、つたわるのか?


ハートバルーンは、僕がさっき勝手につけたなまえだし。


絵に描いて、それをみてもらうのが、手っとりばやいのだけど···


描きたいけど、羽ペンじゃかける気がしない。



あっ!


ソウたちが、寝てるのに、思わず声を出してしまった。


上着っ。


この世界に飛ばされたとき着てた、上着っ。


胸ポケットに、シャーペンはいってるかも。


かけてある、上着に駆けよりたい気持ちをおさえて、しずかに歩く。


胸ポケットをさわる。


生地ごしに、かたい棒状のものがつかめた。


ひとさし指、なか指、くすり指をポケットにつっこんで、3つの指のまん中にはさんで、ひっぱりだした。


シャーペンに、こんなに感動することがあるなんて。


さっそく、新しい紙を引きだしから出して、机において、描きだした。


かける、かけるぞっ。


テンションがあがって、思わずどこかで、聞いたようなセリフが、でてきてしまった。


口にだして言わなかったから、まだ大丈夫だ。


あとで、あのたよりないメモも書きなおそう。


無心で描いた。


僕は、視覚的な記憶力はいい。


ひとの名前は覚えられないけど、顔は一度みたら忘れない。


絵は、物心ついたときから描いていた。



ハートバルーン。


あいつは、腹が虫みたいだった。

肩にもエラみたいなのがあって···


ふくらはぎは、よこが段々になってた。



仕上げに、バルーンのなかにたまってた、ピンク色の液体を表現したい。


台所にあった水を、少しはいしゃくした。


赤のインクのフタに、水とインクをいれてうすめる。


筆は、引だしを探してもない。


シャーペンのほかにも、何かないか、上着のポケットをすべてあさった。


ちいさなビニールに入った、ボタンと布きれがでてきた。


買ったときのまま、取りだしていなかった。


布を巻物のように丸めて、それにうすめたインクを染みこませた。


筆がわり、いける。


ものぐさな性格が、幸いした。


布を指先でおして、色水をしぼり出すように、紙のうえにおく。


さらに、その布でそれを、広げる。


細かいところは、シンを引っこめた状態のシャーペンをつかった。


表面張力でまとまっている色水に、シャーペンの先を突きさして、引っぱるように、誘導する。



できたっ。


あとは、乾くのをまつだけだ。


なんだか、すごく満足した。



空は白みはじめている。


遠くからトリのさえずりもきこえる、気もする。



満足したら、眠気がきた。


僕はするっと、かけ布団と、しき布団のあいだにすべりこんだ。



少し寝とこ。

 
 

 

 


〈11話目につづく〉

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