2023年に知名度を大きく上げたボカロPの楽曲15選

はじめに

 この記事では、2023年新たに知名度を大きく獲得したボカロPの楽曲にスポットを当て、15曲を紹介する。紹介するボカロPの基準として、YouTubeにおける再生回数を中心に、各SNSのフォロワー数の増加、ボカコレでの順位や公募・コンテストなどでの採用実績、ボカロコンテンツを中心とした楽曲提供などの実績、Billboard JAPANの『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』へのチャートイン実績などを踏まえて、判断する。

 なお、同記事では、VOCALOIDだけでなく、UTAUやCeVIO AI、Synthesizer Vなどを用いた楽曲も、「ボカロPの楽曲」とする。また、ボカロ曲の名義がYouTubeとニコニコ動画で異なる場合、Apple Musicなどの配信で用いられている名義で書くこととする。
 また、同記事内では、2023年間『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』にチャートインした楽曲も一部紹介するが、ここでは楽曲面を中心に紹介する。チャート動向面にスポットを当てた記事は、毎週のBillboard JAPAN 『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』記事や、『Billboard JAPAN 2023年間 ニコニコ VOCALOID SONGS チャート総括』記事で紹介することとする。

01.ゆこぴ「強風オールバック」

 2023年3月15日(金)に投稿された、ゆこぴによる楽曲。ボーカルは、歌愛ユキが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。同楽曲は、3月末から4月頃にかけて再生回数を大きく伸ばし始め、『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では4月12日公開週で初の首位を獲得し、2023年度集計期間内で通算で13週の首位を獲得した。また、2023年間『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では、首位を獲得した。
 YouTubeにおいては、2023年5月に自身初の1000万回再生を突破し、2023年12月時点で総再生回数は7,500万回再生を突破している。また、YouTube『2023年の国内年間ランキング』では、2位を獲得し、2023年YouTubeで最も聴かれたボカロ曲となっている。また、ゆこぴは、「強風オールバック」以外にも、2023年8月投稿「寝起きヤシの木」が1000万回再生を突破しており、作風と人気を確立させ、2023年最も知名度を伸ばしたボカロPと言えるだろうと判断した。

 「外出た瞬間終わったわ」といった曲の掴みが非常に印象的な、日常のあるあるをテーマとした楽曲。イラストのアニメーションは小津が、映像はゆこぴ自身で担当している。
 ゆこぴは、日常のあるある的な瞬間を切り取り、ゆるい空気感の可愛らしくキャッチーな楽曲にするという発想力と楽曲構築力が非常に長けているように思える。また、歌愛ユキの小学生というキャラクター性を最大限に活かし、間奏のリコーダーも楽曲のキャッチーさを大きく底上げさせている。映像面でも、ループアニメーションやネットミームを活かした、インパクトとユーモア溢れる楽曲となっている。
 また、楽曲のキャッチー性やユーモア性やアニメーションなども相まって、様々な形での二次創作も登場している。それに加え、「外出た瞬間終わったわ」から派生したワードである「○○した瞬間、終わったわ」は、『SNS流行語大賞』で3位を獲得しており、SNSや日常などで使いやすいキャッチーなワードであり、それに伴い同曲の話題性も上昇し続けていた。

02.原口沙輔「人マニア」

 2023年8月06日(日)にニコニコ動画に投稿された、原口沙輔による『The VOCALOID Collection ~2023 Summer~』(以下・ボカコレ2023夏)Top100ランキング参加楽曲。ボーカルは、UTAUの重音テトが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。同楽曲は、ボカコレ2023夏Top100ランキングで11位を獲得した。また、9月頃からYouTubeやTikTokでの二次創作が盛んとなり、『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では9月20日公開週で初の首位を獲得し、2023年度集計期間内で通算で11週の首位を獲得した。また、2023年間『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では、20位を獲得した。
 YouTubeにおいては、2023年11月に自身初の1000万回再生を突破し、2023年12月時点でYouTube『JAPAN ウィークリー楽曲ランキング』ではTop10圏内を維持しており、更なる広まりを見せている。
 なお、原口沙輔は、2023年5月までは"SASUKE"名義で活動しており、楽曲提供や自身のオリジナル曲など多方面の活動で知名度を高めていたものの、ボカロPとして前名義以上に知名度を高めたと考えられることを踏まえ、選出対象とした。

 サビ始めの「ビバ良くない!」といったフレーズや、要所要所で差し込まれるSEが印象的な楽曲。スマホの中で重音テトが踊っているのが印象的なMVも、原口沙輔自身で製作している。
 ハード四つ打ちのビートを軸に、様々な楽器の音や突如差し込まれる叫び声などのSEなど、多くの情報量が詰め込まれており、特にサビに差し込まれる叫び声は、同曲を象徴するキャッチーな要素となっている。また、ハードなトラックに乗せられた、淡々と歌い上げるような重音テトの歌声も、同曲の中毒性を大きく高めているように思える。また、キャッチーなワードが詰め込まれ、一聴すると難解なリリック面でも様々な考察が行われている。
 また、同楽曲も、歌ってみたを中心に、ダンス動画などの様々な二次創作が行われている。原口沙輔自身も、自身のSNSで同曲の二次創作に対して多く反応しており、相互で盛り上がりを見せている。

 2023年度チャート集計期間内での『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では、ゆこぴ「強風オールバック」は13週、原口沙輔「人マニア」は11週首位を獲得しており、この2曲が、2023年を特に代表する、ボカロPによる楽曲であると考えている。どちらも、2分弱の曲の長さの中に、キャッチーで印象に残り、日常生活の中でも使いやすいようなフレーズが組み込まれており、サウンド面や映像面でも、一度見たら忘れられないようなインパクトや遊び心があるような要素が組み込まれている。また、映像では、ボーカルキャラクターを主役としたループアニメーションやグラフィックなどであり、歌詞やサウンドとの親和性も相まって、インパクトに残るような映像であり、かつ一枚絵とは違った新鮮さを保ちつつも、二次創作しやすい新たなフォーマットを産み出したという点で、共通している要素も多く見受けられる。
 リリック・サウンド・映像のどれもにインパクトかつ遊び心のある要素があり、かつ歌ってみたや踊ってみたなど、様々な形で二次創作しやすい楽曲であり、YouTubeやTikTokなどによる二次創作の影響も相まって、ボカロを普段聴かないような一般層にまでリーチした、2023年のJ-Popの中でも飛び抜けたキャッチー性を持つ楽曲であると私は考えている。

03.なみぐる「ずんだパーリナイ」

 2023年3月18日(土)にニコニコ動画に投稿された、なみぐるによる『The VOCALOID Collection ~2023 Spring~』(以下・ボカコレ2023春)ルーキーランキング参加楽曲。ボーカルは、ずんだもんが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。同楽曲は、ボカコレ2023春ルーキーランキングで2位を獲得した他、音楽ゲームアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下・プロセカ)とボカコレ2023春のコラボ企画である"ボカセカ"採用作品となり、プロセカのリズムゲーム楽曲として追加された。
 YouTubeにおいては、2023年8月に自身初の100万回再生を突破し、2023年12月時点で460万回再生を超えている。また、なみぐるは、ボカコレ2023夏に投稿した「ずんだシェイキング」が、Top100ランキングで2位を獲得した他、YouTubeでは100万回再生を突破し、ボカロPとしての人気を確立させている。

 2022年に投稿された「ずんだダンシング」から続くシリーズとなる同楽曲。イラストはnekomoが、動画はなみぐる自身で担当している。ファンクなどを主体とした曲調の中に、過去曲の引用や、さまざまなオマージュなどのユーモアなどがあり、そこにかわいらしいずんだもんのボーカルが合わさることで、カオス性とポップ性を大きく上昇させている。動画面でも、リリックに合わせてさまざまなオマージュが盛り込まれており、中毒性を大きく高めている。
 また、楽曲の構成面でも、1コーラスと2コーラスでテンポや曲調が大きく変化し、その中でもずんだもんが曲中を通して歌い続けるので、1曲を通してずんだもんのさまざまな一面が味わえるような楽曲である。

04.もちうつね「悶々ふぁんもおらん」

 2023年3月18日(土)にニコニコ動画に投稿された、もちうつねによるボカコレ2023春ルーキーランキング参加楽曲。ボーカルは、初音ミクが歌唱している。同楽曲は、ボカコレ2023春ルーキーランキングで3位を獲得している。
 YouTubeにおいては、同曲の再生回数は45万回再生を突破している。また、もちうつねは、ボカコレ2022秋に投稿した作品「おくすり飲んで寝よう」が、2023年3月に自身初のYouTube100万回再生を突破し、2023年12月時点でYouTubeの再生回数は500万回再生を突破している。その人気も踏まえ、選出した。

 ピコピコした音とリズムが印象的なエレクトロな楽曲であり、イラストや動画も、もちうつね自身で担当している。力強い四つ打ち主体のビートや、言葉のリズムや響きの気持ちよさ、リズムに合わせてキャラクターが上下する映像での表現も相まって、聴いていて自然と体が上下に動いてしまうような中毒性を持ち合わせている。
 リリック面でも、言葉の響きの気持ちよさがありつつも、SNSをテーマとしているような箇所もある。また、「悶々ふぁんもおらん」などのキメフレーズの後の小さな間にも、シンセフレーズやイラストでの演出が差し込まれ、どこかふわふわしているような曲調も相まって更なる中毒性を保っている。

05.Capchii「What's up? Pop!」

 2022年7月31日(日)にニコニコ動画に投稿された、Capchiiによる"プロセカULTIMATE"採用楽曲。ボーカルは、初音ミクが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。
 同楽曲は、プロセカULTIMATEに採用され、プロセカのリズムゲームにおける超高難易度楽曲として2022年12月に実装されることとなった。投稿は2022年であるものの、その難易度や話題性も相まって、ゲーム内に実装されて以降再生回数が急増し、2023年1月に、YouTubeの再生回数は自身初の100万回再生を突破し、2023年12月時点では430万回再生を突破している。また、イベントでのDJとしての出演など、ボカロエレクトロ界隈を中心に幅広く活動していることも踏まえ、選出した。

 楽曲内での曲調やテンポの変化が印象的な、キラキラとしたかわいさ溢れるEDM楽曲。楽曲内のイラストは、みたうが担当している。
 曲中でのテンポの変化や、ハードコアへの曲調の変化、非常に細かくリリックが詰め込まれた箇所など、1曲の中に詰め込まれる情報量が非常に多く、リリックも相まって、感情を抑えきれないような中毒性を持ち合わせているように思える。また、楽曲展開でも全部がサビのような強度を持っており、その中で「What's up? Pop!」とキャッチーなキメフレーズが要所要所で差し込まれることで、曲のポップ性も大きく上がっているように思える。

06.きさら「スターダストメドレー」

 2023年3月19日(日)にニコニコ動画に投稿された、きさらによるボカコレ2023春Top100ランキング参加楽曲であり、第15回プロセカNext採用楽曲。ボーカルは、初音ミクが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。
 同楽曲は、ボカコレ2023春Top100ランキングで3位を獲得した他、第15回プロセカNext採用作品となり、2023年6月にゲーム内での追加がされた。また、YouTubeの再生回数は、2023年8月に自身初の100万回再生を突破した。2023年以前から、プロセカのトークロイド実況を中心に人気を集めていたきさらであったが、ボカロ楽曲で大きなバズを産み出したことを踏まえ、選出した。

 吹奏楽のマーチを軸とした、明るくメルヘンな世界観の楽曲。MVのイラストはきさら自身で、映像は藍瀬まなみが担当している。
 楽曲の盛り上がりに合わせた初音ミクの歌声の変化が印象的であり、サビでのリズミカルで明るく楽しそうな歌声から、2Aでの大人のような歌声への変化など、随所にこだわりを感じられるような歌声となっている。
 楽曲面でも、ストリングスやベル、ところどころでメロディをなぞるマリンバや鉄琴、サビ前のホイッスルキラキラしたような楽器の音が多く詰め込められており、歌詞や初音ミクの歌声も相まって、底抜けに明るくキャッチーな楽曲となっている。

07.サツキ「CIRCUS PANIC!!!」

 2023年5月04日(月)に投稿された、サツキによる第16回プロセカNext採用楽曲。ボーカルは、初音ミクが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。
 同楽曲は、第16回プロセカNext採用作品となり、2023年9月にゲーム内での追加がされた。その後も再生回数を伸ばし、2023年12月に自身初のYouTube100万回再生を突破した。

 エレクトロスウィングを軸とした、サーカスをテーマとした楽曲。楽曲のイラストは、ききのきが担当している。
 流し込まれるようなメロディや音での密度が非常に高く、特にサビの一気に叩き込むようなメロディ、サーカスをモチーフとしたリリック、ブラスが印象的なサウンドには、まるでショーの中にいるような一気に高揚感で満たされるような感覚がある。
 また、2コーラス目に差し込まれるリリックの通り趣向を変えたDropパートや、アウトロでのBPMを加速していくパートなど、楽曲を通して様々な展開が盛り込まれており、メロディやサウンドでの情報量も相まって、楽曲のキャッチーさを大きく増しているように思える。

08.宮守文学「king妃jack躍」

 2023年4月07日(木)にYouTubeとニコニコ動画に投稿された、宮守文学による『マジカルミライ 2023楽曲コンテスト』グランプリ楽曲。ボーカルは、初音ミクが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。
 同楽曲は、『マジカルミライ 2023楽曲コンテスト』でグランプリを獲得し、2023年8月〜9月にかけて開催された『初音ミク「マジカルミライ 2023」』内で披露され、YouTubeの再生回数は50万回再生を超えている。また、宮守文学は、2023年8月に投稿した、「心泥夢(syndrome)」が第18回プロセカNext採用作品となり、ゲーム内に追加予定である。マジミラ公募とプロセカ公募の2つでグランプリ・採用されたことも踏まえ、選出した。

 ファンクな曲調が印象的な印象的な、トランプをモチーフとした楽曲。特徴的な楽曲タイトルは、小躍りして喜ぶことを現す四字熟語の「欣喜雀躍(きんきじゃくやく)」と掛かっていることを公言している。イラストと動画は、弐渡慎也が担当している。
 ライブ映えするようなホーンの音やギター、ベースラインが印象的であり、その中でラップや三連符メロディーを要所要所で取り入れつつ、踊るようなメロディの初音ミクの歌声が映えるような、初音ミクの声のカッコ良さを全面に押し出したような楽曲である。また、『初音ミク「マジカルミライ」』は今年で11年目を迎え、更なる進化を遂げており、その方向性と楽曲がシンクロしたことも、グランプリに選ばれ、大きく支持を集めた要因として考えられる。

09.isonosuke「バカ通信」

 ボカコレ2023春にニコニコ動画に投稿され、アニメーションMV版は、5月12日(木)に投稿された、isonosukeによる楽曲。ボーカルは、VoiSonaの"知声"が歌唱している。同楽曲は、2023年9月に自身初のYouTube100万回再生を達成し、2023年12月時点でYouTubeの再生回数は280万回再生を超えている。また、『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では、6月07日公開週で3位にチャートインを果たしている。

 主に白黒のピクトグラムで構成されている、数々のインターネットミームが詰め込まれたビデオと、「なんか楽しくなってきた」というサビ始めのリリックが印象的な楽曲。同曲は、ボカコレ2023春に簡易的なビデオでニコニコ動画に投稿されたが、2023年5月にアニメーションビデオがついて投稿されたことで、更に大きく注目を集めることとなった。isonosuke自身で制作しているビデオのクオリティや情報量の多さが、同曲のキャッチー性を大きく上昇させている。
 また、リリックもインターネットをテーマとした、一聴すると楽しそうで無邪気さに溢れた曲調と楽曲であり、そのポップさの中に差し込まれた皮肉的な要素も、同曲の世界観を更に補強している。

10.やかもち「サカサカバンバンバスピスピス」

 2023年6月13日(月)に投稿された、やかもちによる楽曲。ボーカルは、NEUTRINO、A.I. VOICEの琴葉茜・琴葉葵が歌唱している。同楽曲は、2023年7月に自身初のYouTube100万回再生を達成し、2023年12月時点でYouTubeの再生回数は280万回再生を超えている。また、『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では、6月21日公開週で2位にチャートインを果たしている。

 2023年6月頃に、SNS上でトレンドとなった古代魚のサカバンバスピスをテーマに作られた楽曲。映像は、やかもち自身で制作している。ネットミームやネット上のトレンド、話題の出来事などをテーマに楽曲やコンテンツを作り、YouTubeやTikTokなどで大きく注目を集めたボカロPは他にも存在するが、同楽曲は2023年のその代表例で言えると考えている。
 繰り返される「サカサカバンバンバスピスピス」の言葉の響きや、「サカバンバスピス」の特徴性をもとにしたリリックなどによる中毒性や面白さ、ノリの良さなどに加え、1分半の長さの楽曲の中に、トークパートなど展開が多数詰め込まれた楽曲展開などにより、楽曲の中毒性を更に底上げしている。

11.マサラダ「ライアーダンサー」

 2023年6月15日(水)に投稿された、マサラダによる初投稿楽曲。ボーカルは、Synthesizer Vの重音テトが歌唱している。同楽曲は、2023年10月に自身初のYouTube100万回再生を達成し、2023年12月時点でYouTubeの再生回数は200万回再生を超えている。また、『ニコニコ VOCALOID SONGS Top20』では、7月05日公開週で3位にチャートインを果たしている。
 なお、マサラダは、楽曲だけでなくイラストや映像面でも自身で担当しており、2023年8月に投稿した「ちっちゃな私」、2023年11月に投稿した「ウルトラトレーラー」ともに、YouTube再生回数60万回再生を突破している。また、コアなボカロリスナーやボカロP内での評価も非常に高いことも踏まえ、選出した。

 嘘をテーマとした、アップテンポでパワフルかつコミカルな要素も含まれた楽曲。イントロやサビのメロディのキャッチーさや、サビ途中でのリズムの変化、コール&レスポンスのリリックなど、キャッチーな要素が随所に詰め込まれている。
 アップテンポな曲調にSynthesizer Vの重音テトのパワフルな歌声が合わさり、非常にエネルギッシュな楽曲となっている。また、リリック面でも、マサラダの視点で聴く人に新たな視点をもたらすようなリリックが要所要所に詰め込まれている。マサラダ自身で手がける映像面でも、リリック面に添いながらも、小ネタの含まれる要素やコミカルな要素が含まれており、楽曲のキャッチーさをさらに増幅させている。

12.内緒のピアス「プロポーズ」

 2023年7月10日(日)に投稿された、内緒のピアスによる楽曲。ボーカルは、CeVIO AIの可不が歌唱している。同楽曲は、2023年9月に自身初のYouTube100万回再生を達成し、2023年12月時点でYouTubeの再生回数は170万回再生を超えている。また、歌ってみたなどの二次創作も多く投稿されていることも踏まえ、選出した。

 繊細さと力強さ、ミステリアスさを兼ね揃えた、リリック内での激しい愛情表現が印象的な楽曲。イラストはgakuが、映像は藤墅。が担当している。
 同楽曲の特に印象的な要素として、可不のボーカルの表現力が挙げられる。熱烈的なリリック面の表現に乗せられた、ウィスパー要素やがなり声も含めた可不のボーカルの表現力、特に、サビ入りのボーカルの強弱の変化や、サビでのがなり声を要所要所に加えた表現は、終盤になればなるほど激しくなる曲調も相まって、楽曲の世界観に引き込んで離さないような力強さを持っているように思える。また、歌ってみたでも、この箇所での表現は歌い手により個性が溢れる箇所であり、同曲のキャッチー性を大きく増している要素であると考える。

13.ゆかてふ「新幹線でひたすら席蹴られるリンちゃん」

 2023年8月07日(月)にニコニコ動画に投稿された、ゆかてふによるボカコレ2023夏ネタ曲投稿祭ランキング参加楽曲。ボーカルは、鏡音リン、コーラスで初音ミクが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。同楽曲は、YouTubeでの再生回数は、2023年9月に100万回再生を突破し、2023年12月時点でのYouTubeの再生回数は470万回再生を超えている。なお、ゆかてふは、ボカロ楽曲以外にも、音楽あるあるネタなどさまざまな動画を投稿しているが、同チャンネルで最も再生回数を獲得しているのがこの楽曲であることを踏まえ、ここではボカロPとして選出した。

 新幹線内をテーマとした楽曲であり、楽曲内の動画もゆかてふ自身で担当している。子どもに席を蹴られるところから始まり、次々と増えていき、盛り上がりとカオスさを増していく楽器パートと、それにツッコむ鏡音リンのリリックの展開が合わさることにより、高い中毒性を生み出しているように思える。
 楽曲のピーク時の盛り上がりや、楽曲のオチ、およそ2分間の中での楽曲の展開も含め、コントとしても楽曲としても成立させており、自由でカオスな発想力と、1曲を通してリスナーの心を掴み続ける楽曲展開力を感じさせられる。また、同楽曲はYouTube ShortやTikTokでも人気を集めており、様々なキャラクターに置き換えた二次創作も多数誕生している。

14.海茶「おどロボ」

 2023年8月04日(金)にニコニコ動画に投稿された、海茶によるボカコレ2023夏ルーキーランキング参加楽曲。ボーカルは、琴葉茜、琴葉葵、ずんだもんが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。同楽曲は、ボカコレ2023夏ルーキーランキングで1位を獲得し、YouTubeの再生回数は2023年12月時点で46万回再生を超えている。ボカコレでの実績に加え、プロセカとボカコレのコラボ企画"ボカセカ"の採用作品となり、プロセカへの収録も予定されていることも踏まえ、選出した。

 チップチューン的なサウンドに乗せた、夏祭りをテーマとしたレトロでキャッチーな楽曲。イラストはnekomoが、映像は海茶自身で担当している。楽曲内には、さまざまな小ネタやミーム、オマージュや考察要素も隠されており、さらにキャッチー性を高めている。また、その楽曲の持つ明るさやキャラクター性などから、ボカコレ2023夏開催時には、ファンアートも多数描かれた。
 琴葉茜、琴葉葵、ずんだもんのハモりも、楽曲の持つ明るさを最大限に引き上げており、一度歌い出したらアウトロまで間奏なしで展開し続ける楽しげなメロディとリリックも相まって、ボーカルが楽曲を強く引っ張っているように感じている。

15.大漠波新「のだ」

 2023年11月06日(月)に自身のチャンネルに投稿された、大漠波新による"無色透名祭 Ⅱ"参加楽曲。ボーカルは、初音ミク、重音テト、ずんだもんが歌唱しており、MV内のキャラクターとしても登場している。同楽曲は、YouTubeの再生回数は2023年11月に100万回再生を突破し、2023年12月時点で再生回数は340万回再生を超えている。また、大漠波新は、ボカコレ2023夏Top100ランキング参加楽曲である「あいのうた」が、ボカコレ2023夏Top100ランキングで10位を獲得し、YouTubeでの再生回数は100万回再生を超えていることも踏まえ、選出した。

 力強いサウンドと歌声、リリックのメッセージ性が印象的な楽曲。イラストはOda Koganeが、映像はyuiruが手がけている。ずんだもんのキャラクター性を活かした、ずんだもんボーカルの力強いメッセージ性の楽曲はこれまで少なかったこともあり、楽曲のキャッチー性とメッセージ性を高めているように思える。
 また、ボーカル同士での掛け合いやデュエット、それぞれのボーカルに当てはめられたリリック、初音ミクと重音テトがずんだもんを引っ張り出すような展開も、キャラクターの特徴が最大限に活かされており、ボーカルの展開の多さ、メロディの密度も、楽曲全体を通して一気に畳み掛けるかのようで、大きくキャッチー性を増している。特に、転調し、初音ミクと重音テトとずんだもんのハモりを最大限に押し出すラストサビでの入りは、その歌声やリリックも相まって、より一層力強さを増していると感じている。

まとめ

 以上、2023年度に大きく知名度を上げたと感じたボカロPの楽曲を15曲紹介した。
 ここで取り上げたボカロPは、ジャンルや曲調、作風などは様々であるが、どれも楽曲から感じおれる情報量が多く、キャッチーな楽曲である。また、ボカコレなどの投稿祭への参加や公募への応募を通じて、徐々に実力と知名度を集めていき、満を持して良い成績を残したり、自身初の100万回再生を獲得したりするようなボカロPも見受けられる。
 2024年度も、どんな楽曲が産まれて、どのようなボカロPが更に知名度を上げていくのか、楽しみにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?