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【お望月さんの】2023年映画ベスト10

こんにちは! 編集ユニット「お望月さん」です。
我々が2023年に鑑賞した映画作品、137本からベスト10を選出。
それぞれホメホメしていく恒例の企画です。

主な登場人物
お望月さんF
:人当たりの良いサイコパス
お望月さんA:付き合いにくいが常識人
宇宙暗黒神様:見る映画を勝手に決める。誰も逆らえない。

編集部所属者の紹介より

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過去のベスト作品はこちらです。

2022年『ウィリーズ・ワンダーランド
2021年
『モータルコンバット』
2020年
『メランコリック』
2019年
『スパイダーバース』
2018年
『キラーメイズ』


2023年ベスト10

今年の鑑賞本数は、例年よりさらに配信中心になりましたほとんどWOWOW。ベスト作品は2020年以降の作品で今年初見の作品から選定しています。

第1位 『地下室のヘンな穴』

 全問不正解オブザイヤー。 
「性」と「老」を扱った今年を象徴するような作品。監督は『ディアスキン』でおなじみのカンタン・デュピュー。
 本作では、12時間進んで3日若返る「穴」付きの一戸建てを購入した夫婦の話と、日本製のマジカルディックを股間にインプラントしたおじさんの話が並行して語られる。「射精道 (光文社新書)」によると男性の射精願望はいつまでも続き、メンテナンスによってそれをコントロールすることが肝要とされる。しかし、マジカルディックおじさんは腰のものを機械に置き換えたことにより心神の主導権を失いそれが爆発炎上を引き起こす遠因となる。
 フランス映画らしい皮肉と笑いが混じりあった展開、セリフを必要としない幻想的なクライマックス。日本製品への信仰にも近い信頼。謎日本語。すべてが全問不正解、それが正解だ。

第2位 『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』

 劇しい光オブザイヤー。
 ロールをプレイすること、それは個人の意思や役割を越えた劇しい選択に至る場合がある。ロールプレイヤーであれば、誰でも感じたことがある感覚だろう。この作品はゲームの世界を描きそれを再現することに成功している。この世界は人々の選択によって生まれた「生」に満ちた魅力的で不確かな世界だ。プレイヤーとしてダンジョンズ&ドラゴンズの世界に降り立った場合、自分なら何ができるだろうか。何になれるだろうか。

第3位 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

 やさしみオブザイヤー。
 ランドリー、ランドリーバッグ、金魚鉢、鏡、モニター。オープニングで偏執的に描写される無数のマルチバースのモチーフにやられ、優しさに包まれた世界に涙した。自分を規定する規則を破るほど遠い世界にジャンプできるという設定が生み出すオモシロ描写の破壊力は、決して真実のシリアスを邪魔するものではない。

第4位 『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』

 家族オブザイヤー。
 
「お父さんは今日からお母さんです」 
 
近頃、見知った範囲で性自認やクィア、フェミニズム等の社会問題に触れる機会が増えている。本作は、そのような社会問題を当事者の立場から描き、正常な家族について物語る作品である。
 父にとって、社会的な障壁は存在しない。会社からも世間からも医療的にも法律的にも他の家族からも受け入れられ母(父)となる。しかし、そんな母(父)を娘は受け入れることができない。あらゆる障壁や束縛から解き放たれたとしてもそれを受け入れるのは家族の努力があってこそなのだ。家族間にも温度差がある。さっさと現実を受け入れて母(父)とガールズトークに花を咲かせる姉の存在は、本作の白眉だと思う。無理なものは無理なのだ。それでも生きていかざるをえない。

第5位 『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』

 学級会オブザイヤー。
 現実と虚構のモンタージュであらゆる「最低」を描いた映画である。自家製ポルノが流出してしまった被害者女性を吊し上げる学級会が開催され、そこに多重問題国家ルーマニアが抱える複雑な国民性が如何なく発揮される。さすが『コレクティブ』を生み出した国だ。
 不快で最低なフィクションであるが、インターネット学級会的な揉め事エミュレーションの見事さから、ほぼドキュメンタリーとして楽しんでしまった。しかも学級会のエンディングが3パターンある。 お得だ。

第6位 『さかなのこ』

 不審者オブザイヤー。
 ひとつのもの以外を切り捨てる「修羅」の物語でありながら、包み込むようなユーモアとミー坊の好演により調和の取れた「伝奇」として仕上がっている。原作者のさかなクン本人が不審者役を好演。命を散らしながらミー坊を導くギョギョおじさん編が特に素晴らしい。映画のマジックが炸裂している。監督はさかなクンさんにちゃんと演技プランを説明したんですか。
 修羅の存在は多くの近しい人々を不幸にするが、運命に翻弄されたモミヤマの顛末は胸がすくように爽やかでとても良かった。

第7位 『茶飲友達』

 どうしろとオブザイヤー
 
世界には【虚ろ】とでも呼ぶべき盲点が存在する。佐々木マナ(29)は、夢や希望を排水溝のように吸い込み流し去ってしまう存在だ。彼女が訴える「家族ってナニ?」という言葉は非常に深い虚無の境地である。
 高齢者秘密売春組織というギョッとするテーマだけど、雰囲気は穏やかで過不足のない映像の中、無数の演技巧者が身体を張り、ちょっと良い話になりそうなところで【虚ろ】だけを残すという匠めいた作品になっている。
 事前に『ラブ&ポップ』を鑑賞していたことで解像度に深みが出た。今年は、このような作品同士の食い合わせが効果を発揮することが多い。

第8位 『白いトリュフの宿る森』

 懲りないブザイヤー
 
イタリア ピエモンテ州にはトリュフ掘りの老人がいる。老人たちは犬を友として終生をトリュフ掘りに費やす。夜明け前に森に分け入り、同業者と密猟者を警戒しながら、トリュフを探しだしブローカーに引き渡す職業である。その地味な生活を過剰に盛り付けた構図で描いたのが本作である。
 あまりのあざとさに鼻につくが、やがてこの構図そのものが「過剰に高騰し消費される白トリュフ」のカリカチュアであることに気がつくと、今度は深い悲しみが押し寄せてくる。
 エンドロール目前、これ以上の狩猟は命に係わると宣告されているのに脱出して森へ消える老人の姿に頬が緩んでしまう。なんて懲りないやつらだ。

第9位 『M3GAN/ミーガン』

 ほら言わんこっちゃないオブザイヤー
 
殺人自動人形であるミーガンちゃんが大暴れする「ロボ子が愛してる」亜種……と思いきや捨てられた子供が孤独な子供を世話するシリアスな構図が見え隠れして……というちょっと笑えないかもしれない作品。子育て世代はマストウォッチング。
 ミーガンちゃんの身体能力や所作は見事の一言。もっと見たいので次回作はもうすこしヌケ感をアップさせた「悪のミーガン vs 殺人ミーガン」とか「ミーガン vs サイコゴアマン クレイジーボール大決戦!」とかをやってほしい。

第10位 『林檎とポラロイド』

 宇宙さんオブザイヤー。
 
ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス (竹書房文庫 ば 3-1)によるとギリシャはSF後進国なのだそうだ。現実に追われ、空想に手を伸ばす余裕はなく、夜の夢は現実の延長線上にある。それでも、帰属や公正さが不安定な情勢を絞ることで生まれる傑作も存在する。本作はギリシャSFの要素を全て含んだ傑作であると言えるだろう。
 本作は、一定の割合で記憶を失う人々が発生する国で回復プログラムを受ける男の物語だ。劇中で、1シーンだけ男が宇宙服を着こんでディスコに佇む場面がある。このとき、男は宇宙で最も孤独な存在になっていた。彼が帰る場所はもうないのだと心の底から思い知らされた。

色々なオブザイヤー

風習・オブ・ザイヤー 『マルリナの明日/殺人者マルリナ』

 インドネシアの傑作サスペンス。強盗団を返り討ちにしたマルリナは犯人の首級を片手に旅に出る。マルリナの自宅には夫のミイラが鎮座している。インドネシアのある地域では、大切な人物のミイラを自宅に迎える風習があるのだそうだ。強盗団の男たちは、ミイラに敬意を表するが生きたマルリナに敬意を払うことはない、それが何よりも恐ろしい。

郷愁・オブ・ザ・イヤー 『ANIARA アニアーラ』

 人類に最も有効な猛毒は『郷愁』であるあのころから断絶されたときに人は死ぬ。(はからずも『ラブ&ポップ』である) 閉鎖空間文明のエミュレーションがユニークで文明がどこから廃れていくか、みたいな視点があるとより一層楽しめると思う。 ※無修正のチンチンナブリフェルムが映るシーンがあるのでご注意ください。

没頭・オブ・ザ・イヤー 『PIG ピッグ』

 一般的には異物感のある主人公の人物造形なんだけど、『白いトリュフの宿る森』を通過した我々に隙はなかった。文字通り、全てを投げ打って没頭していたのがトリュフなのだ。命より大切なトリュフ豚を奪われた修羅の悲哀をニコラス・ケイジが好演している。

滞在・オブ・ザ・イヤー『迷子の警察音楽隊 Bands Visit』

 乗るバスを間違えて、異国の知らない町に滞在することになる音楽隊の姿を描く群像劇。この待機時間がたまらなく良く、特にディスコのシーンは美しすぎて涙が出てきた。自分の待機映画好きを明確にしてくれた大傑作だ。

※ Amazon Primeに二つ登録されていますが、鑑賞できるのは『迷子の音楽警察隊』のほうです。

エンディング・オブ・ザ・イヤー 『ラブ&ポップ』

 エンディングテーマは「あの素晴らしい愛をもう一度」。すでに失われ戻らないあの頃を想起させる名曲である。本作ではエンディングテーマにこの曲の劇中カラオケ音源を使用することで「空虚な思い出の前借り」をさせてしまっている。搾取の残酷美に20世紀のナガノを見た。

マン・オブ・ザ・イヤー 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』より、ミゲル・オハラ

 歴代のマン・オブ・ザ・イヤーには、富三郎(漆黒のスネークアイズ)や木村(ブレットトレイン)が選ばれてきたが、ついにアンドリュー小路の牙城を破りミゲル・オハラが受賞することになった。ミゲル・オハラには憩ってほしい。あまりストレスのかからない場所で安らかに……。

未来へ

毎年映画を見る本数を減らす努力をしており、着実に減っている。どんどんヘルシーになって、おもしろい映画だけを見ていこうね。

ところで、テンセント版 SFドラマ『三体』がめちゃくちゃ面白かったので、みんなも一緒に見よう。ドラマをたくさん見て映画の本数を減らしていこう。置き換えダイエットだ。Netflix版の『三体』も見て置き換えていこう。

おまけ:2023年映画ランキング(スコア順)

今年の点数が良かった作品を共有しておきます。年末年始の映画時間の参考にしてね。

スコア4.1以上が対象

おわりです


いつもたくさんのチヤホヤをありがとうございます。頂いたサポートは取材に使用したり他の記事のサポートに使用させてもらっています。