見出し画像

ウクライナ戦争で世論はパニック   「非核三原則」「国連中心主義」「専守防衛」  すべて捨てよのショック・ドクトリン      ウクライナ戦争に関する私見11   2022年5月19日現在 

(注)今回は「核シェアリング」はじめウクライナ戦争を契機に出てきた「日本の安全保障政策を転換せよ論」について検証してみた。本来はまったく別の原稿「ロシアが考える勢力圏とは何か」の「まえがき」として書き始めた。ところが、書いているうちにどんどん内容が膨らんだ。あまりに長いので、独立させることにした。本文に入る前にお断りしておく。
(冒頭の写真:NATOで核シェアリングされている米軍のB61-12核爆弾。
2015年7月21日’USA Military Channel ’より)

2022年2月24日のロシアのウクライナ軍事侵攻が国際世論にもたらした反応は「驚き」というより「パニック」と呼ぶべきだろう。恐怖のあまり、理性的判断が停止してしまったような意見が(特にネットで)噴出している。

特に国際安全保障について戦後77年、知的な学習や議論をしない空白が続いてきた日本の大衆世論は、愚論・暴論の嵐である。「ロシアが北方領土周辺で軍事行動を起こす」「北海道に侵攻する」とか「ロシアと中国が連合して沖縄を占領する」とか、もはや「空想」を通り越して「被害妄想」の領域に足を踏み入れている。

一般大衆なら「床屋政談の類」と一笑に付せばいいだけの話だが、与党政治家は政策実現に近い距離にいるので、笑い事ではない。見過ごせない。

その代表として、総理大臣経験者である安倍晋三氏の例を取る(2022年2月27日 フジテレビ『日曜報道 THE PRIME』より)。

(注)安倍氏を取り上げるのは「与党・総理経験者」ということで「右代表」になってもらっただけ。特にひどいわけでも、特に優れているわけでもない。「安倍晋三をやっつけたい」からでもない。また安倍氏の安全保障以外の政策はまったく別の論点なので、以下の議論には一切関係がない。ついでに安倍氏以外で核シェアリングに肯定的な見解を紹介しておく。自民党だけでなく「日本維新の会」「国民民主党」幹部も「議論が必要」と提起している。

自民党・高市早苗政調会長(2022年3月2日の記者会見)
「非核三原則にある核兵器を『持ち込ませず』について有事の際は例外を認めるべきだ」
「危機的状況になった時に核を搭載した米艦船の寄港もさせないのか」

高市氏は1週間後の同年3月9日に「現実には難しい」に修正した。

●菅義偉・前首相
「日本は非核三原則は決めているが(核シェアリングの)議論はしてもおかしくない」
「時代によって情勢をみながらいろんな議論や様々な対応をしていくことは必要だ」(2022年3月14日 NewsPics 【菅 義偉×ホリエモン】)

●石破茂・元幹事長
自民党内で核シェアリングを唱え始めたのは、2017年9月、石破茂・元幹事長あたりが早い。


さて、本題。安倍氏が核シェアリングをマスコミで語った例として次を挙げる。

一言でいうと、安倍氏は「非核三原則」「国連中心主義」「専守防衛」など、これまで日本が国是として世界に掲げてきた安全保障原則をすべて転換、破棄せよと言っている。

(注:安倍氏発言のテキストは下記事に依拠している)

「核武装」=核シェアリングについて。
安倍晋三氏
「NATO(北大西洋条約機構)でも、ドイツやベルギー、オランダ、イタリアでも『核シェアリング』をしている。自国にアメリカの核を置いていて、落としに行くのはそれぞれの国」
「日本には非核三原則があるが、世界がどのように守られているか議論することをタブー視してはいけない」

2022年2月27日 フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」より

●核シェアリング=「核爆弾投下だけ地元にやらせよう」
そもそも「核シェアリング」(Nuclear Sharing)とは何か。

冷戦時代、ヨーロッパのNATO加盟国がソ連・東欧軍の侵攻を受けることを想定して作られた。アメリカが欧州に核兵器を持ち込んだのは1954年。その国家間の意思決定機構として「Nuclear Planning Group」(NPG)が設置されたのが1966年。つまりすでに56年の運用実績がある。

①現状では「核兵器をシェアさせている」のはアメリカだけ。
②2009年の段階ではNATO加盟国ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコが対象。過去にはカナダ、イギリス、ギリシャも。トルコはアメリカと関係が悪化しているため核兵器の撤去が検討されている。
③参加国は、アメリカと核兵器政策に関する協議と共通の決定をする。参加国単独では決められない。
④核兵器使用に必要な技術設備(特に核搭載航空機)を自国に維持する。つまりNATO側パイロット・要員をアメリカの核爆弾を投下するために使う。
⑤参加国は核兵器を自国の領土の米軍基地に保管する。
⑥非核保有国に保管されている核兵器は米軍が警備する。
⑦核兵器使用に必要な暗号
「パーミッシブ・アクション・リンク」(Permissive Action Link=PAL)は米国の管理下にある。参加国は核兵器の使用をアメリカの同意なしでは決定できない。
⑧ニュークリア・シェアリング協定に基づき、100個の戦術核が欧州に配備されている(2021年現在)。
論拠:
"United States nuclear weapons, 2021," Hans M. Krisensen,
Bulletin of the Atomic Scientists .

⑨ヨーロッパ域内で核兵器を使用するための射程の短い「戦術核」(Tactical Nulcear Weapon=射程500キロ前後)に限定。米露本国間で核ミサイルを撃ち合う「戦略核」(Strategic Nulcear Weapon=射程5000キロ以上)は入っていない。つまり相手国の首都を破壊する「核抑止」には役立たない。

(下)NATOで核シェアリングされているB61-12 核爆弾の動画。飛行機から落とす。

ざっぱくに要約すると「核兵器はあくまでアメリカのもの」「核兵器使用の最終決定権はアメリカにある」「保管・管理もアメリカがやる」という話だ。NATO側参加国は「核爆弾を落としてくる爆撃機の運転をする」という「荷物」を運ぶ「下請け運転手」のような内容なのだ。

なぜこんな取り決めができたかというと、冷戦時代は、敵対していた東西欧州国陣営が「陸続き」で対峙していたからだ。核シェアリングで想定されている「戦術核」は、欧州内を侵攻してくる敵地上軍を止める、その基地になっている都市を破壊することを想定している。

すると、米軍が戦術核を使うと、ヨーロッパの国土をアメリカが核兵器で破壊し、非戦闘員を巻き添えで殺傷することになる。せっかく欧州を守ってあげたのに、アメリカが後々恨まれる。それをアメリカが嫌がった。では「核爆弾投下」という最後の一手だけ「地元国」にやらせよう。そういう順番で決まった。

つまり「核シェアリング」は、欧州での東西戦争で「敵対国の地上軍が陸づたいにやってくる」しかも「欧州を南北に縦断するような長い前線を形成しながら侵攻してくる」ことが前提にある。この長い前線を崩すのは、通常兵器では有効範囲が小さすぎて無理だ。ゆえに「戦術核」という射程の短い核兵器の使用を検討することになった。

日本は周囲が海だ。外国軍が侵略してくるなら、必ず海上をやってくる。そんな日本の地政学的条件で、陸上戦を想定した欧州の核シェアリングをそのまま応用するのは無理がある。

海上を進む軍は陸軍より広く分散する。核兵器を投下しても、全滅させられるとは限らない(海上での爆発は水面下に爆発力が吸収される)。上陸後、陸地で叩こうとすると、日本の国土に核爆弾を投下することになってしまう。

また、海上は遮蔽物がないので、侵攻してくる相手国軍は航空攻撃から隠れる場所がない。防衛側に利がある。通常兵器の範囲で対応できる。

つまりアメリカが日本と核シェアリングをしても、日本の防衛戦という実戦上は使いみちがない。

●在日米軍基地は核兵器の先制攻撃の標的に
反対に、核シェアリングを実施すると日本にマイナスの副作用も出てくる。

日米でNATO型の核シェアリングを実施すると「在日米軍基地には核兵器がある」と敵国に知らせることになる。もし敵対的な国が日本に攻撃を仕掛けるなら、まず相手の核兵器から叩いておくのが軍事のセオリーである。つまり在日米軍基地は、開戦時の核兵器による先制攻撃の標的になる。

私が敵対国の軍事作戦立案者なら、NATO型核シェアリングはB61核爆弾(冒頭写真)を飛行機で運ぶことがわかっているので、搭載機が離陸できる滑走路のある基地をまず狙う。米軍や自衛隊で滑走路のある基地を開戦前にリストアップして先制攻撃の対象にするだろう。条件を満たす日米軍基地を挙げると、沖縄・嘉手納基地、青森・三沢基地、東京・横田基地、神奈川・厚木基地などの名前が出てくる。

日本が核シェアリングを選べば、相手国にとっては核武装国と同じだ。相手国は、攻撃を仕掛ければ核兵器による報復を覚悟する。それなら、最初から核兵器で相手の核をつぶしておくのが自国の生存のためにはまだしも「安心」だ。

前述したように、NATO型核シェアリングの対象になっている核爆弾は射程(搭載機の航続距離)500キロ=往復1000キロ程度の「戦術核」である。つまり東京・大阪間ぐらいの距離にしか核兵器を運べない。

東京から北朝鮮の首都・平壌までの距離は片道約1300キロ。北京までは2100キロ、モスクワまでは7500キロである(近隣の核武装国の首都ということで名前を挙げたが、北朝鮮や中国、ロシアが日本に軍事攻撃をしそうだとは言っていない)。相手国の指導者が「日本を攻撃したら核で報復されてこちらも破滅するからやめておこう」という「核抑止」にはまったく役に立たない。相手国が攻撃を思いとどまる作用はない。

まとめると、NATO型核シェアリングは
①核抑止力ゼロ
②日本本土が核の先制攻撃対象になる

という現実を招き入れる。

ベネフィット(利得)とロス(損失)を差し引きすると「ベネフィットはほとんどない」という結論に至る。

●核シェアは欧米の政治的利害の妥協にすぎない。
NATOにおいては、核シェアリングは政治的な利点が確かにある。

前述の
①米軍が欧州に核兵器を落として、欧州人の恨みを買うのを避ける。
に加えて
東西陣営の戦争が始まったとき、アメリカが地元国の意向を聞かずに欧州の戦場で核兵器を使う(米露の核戦争で欧州人が犠牲になる)ことを防ぐ。
③東西対立の中でNATO加盟国がバラバラに核武装に走ることを防ぐ。核兵器の拡散を防ぐ。

「核シェアリング」はこうした欧米の政治的利害の妥協にすぎない。日米関係では、上記①②③のような「アメリカが日本と核シェアリングをしなくてはいけない理由」は特に見いだせない。

●アメリカの核兵器による安全保障はとっくに実現している
拙著「世界標準の戦争と平和」に詳しく書いたので繰り返さないが「アメリカの核兵器による日本の安全の担保」は「日米安全保障条約」でとっくに実現している。

日米安全保障条約(1951年締結。1960年改定・10年ごとに自動延長)のキモを一言でいうと「日本に対する軍事的攻撃は、アメリカに対する攻撃と同等とみなしてアメリカは反撃する」(条文では『逆もまた真なり』だが、日本がアメリカを防衛することはあまり話題にならない)である。それは最終的には世界最強のアメリカの核兵器による報復を意味する。

●日本が核武装すると日米安全保障条約は無意味化する
日米安保条約が1951年に締結されたときの趣旨はこうだ。当時、日本は第二次世界大戦に敗北し、連合国の占領(=主権国家の喪失)を経て、サンフランシスコ講和条約を結び(=戦争状態の正式な終結)主権国家として再スタートする場面だった。

このたび日本は戦勝国による占領を終え、主権国家として再出発することになりました。外交や防衛を含め、政策を日本が自分で決めることができるようになります。

大日本帝国が軍事的に強大になったために、太平洋の覇権をめぐってアメリカとの間に戦争が起きました。

その戦争にアメリカは勝ち、大日本帝国は負けました。しかし、双方とも損害は大きかった。両国とも「二度とやりたくない」と考えています。

アメリカを中心とする戦勝国=連合国は大日本帝国を解体して、新しい日本の基本設計(憲法を含む)を作り直しました。

大日本帝国の経験から考えて、新生日本の軍事大国化はアメリカの国益を損なうと判断します。

ゆえに新生日本の軍事力は最小限に抑えていただくことにしました。
例:1950年に朝鮮戦争が始まり自衛隊の前身「警察予備隊」を創設。

とはいえ、あまりに小さな軍備では、隣接するソ連・中国など隣接する共産主義国に脅かされる可能性があります。

日本が共産主義化国になってもらっては、また敵対することになり、アメリカの国益に反します。

ゆえに、日本の軍事力を最小限にする代わりに、アメリカの軍事力で日本の安全を提供することにしました。

日本が核武装すれば、日本という国の生存保証(核抑止)は日本が保有する核兵器だけで十分である。この日米安保条約の趣旨からすると一目瞭然だが、アメリカが核の軍事力で日本の安全を保証する必要もはなくなる。日米安保条約の趣旨に反する。条約は無意味になる。アメリカが条約を維持する動機がなくなる。国内的にも「なぜアメリカ人の税金と人員を使って日本を防衛するのか」を納税者を納得させられる理由が見いだせなくなる。

安全保障条約を結び、米軍が日本に駐留することで、日本の軍事大国化=アメリカへの脅威になることを防止できる、というロジックをアメリカ側では「瓶の蓋論」という。一例として、当時の在日米海兵隊ヘンリー・C・スタックポール司令官(少将)の発言を挙げる。この論法は、ことあるごとにアメリカ側から顔を出す。

「もし米軍が撤退したら、日本はすでに相当な能力を持つ軍事力を、さらに強化するだろう。だれも日本の再軍備を望んでいない。だからわれわれ(米軍)は(軍国主義化を防ぐ)瓶のふたなのだ」

1990年3月27日付ワシントンポスト紙

このような日本の再軍備警戒論が基調にあるのだから、まして核武装した日本を、アメリカは将来自国に攻撃を加える可能性のある「潜在的脅威」とみなすだろう。いくら日本が「そんなことはしません」と叫んでも無駄だ。「政治的意思は一夜で変わるもの」(政変やクーデーター含む)というのがアメリカはじめ国際社会の基本思考だからだ。

●米軍はとっくに日本に核兵器を持ち込んでいる

1969年、日本の佐藤栄作政権とアメリカのニクソン政権の間で行われた沖縄のアメリカから日本への施政権返還(『本土復帰』。1972年)交渉で、日本側の密使としてヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官と極秘協議を続けた京都産業大学教授(国際政治学)の若泉敬氏(1930〜96)は「返還後も沖縄の米軍基地に核兵器を持ち込むことを容認する」密約(公開しない秘密の約束)があったと、回顧録(下記)で詳細に記している。

ということは、すでに日本の領土に米軍の核兵器はある。NATOでも、敵に投下するとき、核使用の決定や運用はアメリカに最終決定権がある。最後の投下作業だけ米軍がやるのか地元軍(NATOの場合)がやるのか、という違いがあるにすぎない。

実用上の利益がないのに「それでもどうしても核シェアリングしてくれ」と日本が強硬に要求すると「核武装したいから、核兵器の運用技術を盗もうとしているんじゃないか」と逆にアメリカに勘ぐられるだろう。

●核不拡散条約から脱退・国際的な孤立
それでもなお、もし、日本が核武装したシナリオを考えてみよう。

核不拡散条約(NPT=Non-Proliferation Treaty)は第二次世界大戦の戦勝国=連合国5カ国(アメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国=国連常任理事国)しか核武装を認めていない。それ以外の国の核武装はすべて「条約違反」である。もちろん日本の核武装も例外ではない。日本もそれに同意している。1970年2月に署名し、1976年6月国会が批准した。

つまり日本の核武装は核不拡散条約違反になる。不服なら脱退するほかない。

すると同時に、NPTとセットになっているIAEA(国際原子力機関)のプルトニウム査察体制からも脱退することになる。

IAEAは「原子力発電所を各国で使ってもらう代わりに、原発の核物質を勝手に核兵器に転用しないよう見張る」のが使命だ。原発でウラン燃料を使用したあとに出たプルトニウム(核弾頭の原材料)をどれぐらい保有しているのか、核兵器に転用して減っていないか、グラム単位で管理する。毎年立ち入り査察する。

IAEA体制から離脱した国には、ウラン産出国がウラン燃料の原料である天然ウランを売ることができなくなる。すると日本政府が福島第一原発事故後も固執する原発を動かせなくなる。これは太平洋戦争の引き金を引いたアメリカの対日石油禁輸措置と同じ、エネルギー資源禁輸の経済制裁である。

世界191カ国が加盟する条約から離脱するということは、日本の国際的孤立にほかならない。くわえてアメリカの安全保障の枠組みからも離脱するのだから、ますます日本は孤立する。上記のような経済・政治上の国際的制裁を受けることも覚悟するべきだろう。つまり「日本の北朝鮮化」である。

●国連の「敵国条項」発動され軍事介入は合法に
ひとつ注意しなくてはならないのは、国際連合憲章53条に「敵国条項」(enemy clauses)が明記されていることだ。

簡単に内容を説明しておく。

「他国への軍事行動は国連安全保障理事会の許可を取ってください」
しかし
②「第二次世界大戦中に連合国の敵国だった国が再度侵略をしたり、その兆しがあったときには、安保理の許可なく軍事的制裁を取って結構です」
③「敵国」とは枢軸国日本・ドイツ・イタリアのほか、枢軸国に味方したブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドを指します。

この「敵国条項」は、名指しされた日本はじめ「もう時代遅れだからそろそろ削除してくれ」と文句タラタラなのだが、なくならない。今も生きている。

日本が核武装に踏み切ると、周辺で日本に警戒的・敵対的な国は、この敵国条項を理由に、軍事介入を正当化することができる。新政権が核武装を放棄するよう政権をすげ替えるかもしれない。

敵対的な国の核武装は、相手国の国家生存に直接のリスクになる。相手国は「日本に侵略されるかもしれないから予防的に介入したと主張することもできるだろう。こうした日本に隣接していて、軍事介入できる能力を持ち、日本に警戒的な国というと、ロシアと中国が筆頭である。

「そんなことはしません。あくまで自衛のためです」と日本政府が声を枯らして叫んでも、効果はないだろう。大量破壊兵器の保有を疑われたイラクが、アメリカはじめ多国籍軍の軍事侵攻を受け、政権を転覆されたイラク戦争(2003年)と同じ状況が、日本に起きることになる。しかも、日本に軍事侵攻しても「国連憲章に照らして正当」と結論を出されかねない。

わざわざ外国の軍事介入を誘発し、なおかつ正当化してやるような政策を選択するのは、国家指導者として愚かの極みである。

●日本はすでに「潜在的核保有国」
さらに、日本はすでに「潜在的核兵器保有国」(Potential Nuclear Threat)と国際的にはみなされている。

なぜなら、日本には核弾頭を相手国に撃ち込むための2つの基幹技術

①核爆弾の原材料であるプルトニウムとその濃縮技術
②核ミサイルを飛ばす精密ロケット誘導技術
小惑星探査機『はやぶさ』でその高性能ぶりは国際的に証明済み。

をすでに持っているからだ。

「潜在的核兵器保有国」とは「核兵器を持とうと思えば、技術的にはいつでも可能。しかし政治的な計算によって持たないことを選んでいるだけ」の国を指す。前述のように「政治的意思は一夜にして変わる」のが国際社会の共通認識なので、日本政府がいかに声を枯らして「わが国には非核三原則があります」と叫んでも効果はない。

一例を挙げる。2014年3月25・26日にオランダ・ハーグで開かれ、日米含め53カ国首脳が参加した「核安全保障サミット」で、アメリカ・オバマ大統領は日本が保有するプルトニウムの引き渡しを要求した。

この時に引き渡しが決まったのは、茨城県・東海村にある日本原子力研究開発機構(高速炉臨界実験装置)にある「核分裂性プルトニウム290キロ」と「93%の高濃縮ウラン199キロ」である。後者は「ウエポングレード」(93%)とアメリカが定義するプルトニウムである。つまり核兵器にすぐ転換できる。

「核物質がテロリストの手に渡る危険を防ぐ」のがアメリカの説明する公式の理由だった。それなら、日本の治安当局にもできないことはない。しかしアメリカは「プルトニウムそのものの引き渡し」に固執した。

この「核安全保障サミット」の日本側の出席者は、誰あろう安倍晋三総理でだった(アメリカの要求を受諾したのも安倍総理)。安倍総理がアメリカの制止を押し切って靖国神社に参拝したり、核武装に意欲を見せたりしているのを、ワシントンはすでに知っている。基本的にアメリカが「日本がプルトニウムを持っているのは好ましくない」と考えていることがわかる。

(注)日本の核武装についての外国からの視点の例としてイギリスBBCの報道(2022年3月22日)のリンクを張っておく。

そもそも核兵器は「主権国家の生存保証の最後の担保」である。それを「他国とシェアできる」という発想そのものが、国際常識からすれば奇態というほかない。

それは自宅のカギを赤の他人に貸すようなものだ。そんなムシのいい国は現実には存在しない。

少なくとも、アメリカはそれほど日本(あるいは安倍政権)を信用していない。前記のプルトニウム引き渡し事件で明らかである。

以上から結論すると、核シェアリングを含めて、日本の核武装は新たに「得るもの」はほとんどなく(現在でも核保有国と同じだから)「失うもの」がはるかに上回ってしまう。つまりベネフィット・ロスを計算すると、国益の損害のほうがはるかに大きい。

●戦時に軍事インフラと民生用インフラを区別することは不可能

「敵基地攻撃能力」について安倍晋三氏。

「『敵基地攻撃』という言葉にこだわらない方がいい。軍事中枢を狙っている、軍事をつかさどるインフラを破壊していくので、『基地』である必要はない」と語った。

2022年2月27日 フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」より

実は「軍事をつかさどるインフラ」は平時には民生用に使われていることが多い。代表的なものは輸送・通信・電気網だ。

①鉄道・幹線道路・貨物集積所・港湾・船舶
②インターネットや携帯電話の通信基地
③発電所・変電所・送電線

特に鉄道・幹線道路・港湾・船舶は、兵員・兵器や燃料、弾薬、食糧など軍事物資輸送(ロジスティックス=兵站)の基盤である。貨物操車場は軍事物資が集積する基地なので、特に狙われる。

つまり安倍氏の論を現実に応用すると「敵対的な国の鉄道や道路、船舶や港、発電所や送電施設は『軍事インフラ』として攻撃してよい」ということになる。

こうした「軍事インフラ」は、戦時には軍と一般市民が共用していることが多い。すると、鉄道や道路、船舶で避難しようとしている非戦闘員(一般市民)も巻き添えで殺傷することになるだろう。

これはウクライナ戦争でもロシア軍が実行している。2022年4月9日、ウクライナ東部のドネツク州クラマトルスクで鉄道駅がロシア軍のミサイルで攻撃され、避難中の市民ら57人が死亡、109人が負傷した(同10日時点)。


つまり安倍氏の論は、現実に応用すると「日本に敵対的な国なら、非戦闘員の殺傷も是認する」と言っているのに等しい。クラマトルスクでの惨劇を見れば「ウクライナでロシア軍がやっていることと同じことをしても是認される」と主張していることになる。すると「安倍氏はロシアがウクライナでやっている非戦闘員の殺傷を批判する資格を失う」というのが論理的帰結だ。

もし相手国の攻撃力を削ぐため「軍事インフラ」を無力化したいのなら、こうした輸送網や通信・電力網を破壊しない限り、軍事的に無意味である。破壊しても、後方から修理・補充の要員と部品が送り込まれ、たちまち修復されるからだ。

●日本が原発を攻撃することも是認できるのか?
相手国の「軍事インフラ」を実効性を持って無力化するためには、電力供給網を破壊する必要がある。しかし送電線を攻撃してもすぐに復旧される。発電所を破壊しなくては意味がない。

相手国が原発を保有していたら、当然原発も攻撃しなくては「片手落ち」だろう。そこでもし原子炉を破壊してしまったら、ウクライナ戦争でザポリーニャ原発をロシア軍が占領した(2022年3月4日)のよりさらにひどい「核テロ」を日本がやることになる。

ここで小結。「軍事インフラ」を「軍用」と「一般市民用」と完全に区別できるという発想そのものが、軍事を知らない素人の考えである。もちろん、安倍氏が「軍事インフラ」を破壊するためなら非戦闘員の殺傷や原子炉の破壊も構わない、と考えているなら話は別だが。

●国連の機能不全は戦後ずっと同じ

ロシアのように国連安保理の常任理事国が、戦争の当事国の場合、安保理は「残念ながら機能しない」と指摘。「自分の国を自分で守るという決意と防衛能力を強化しないといけない」と述べ、日本が「打撃力をアメリカに頼っている」現状を見直す必要があるとの認識を示した。

2022年2月27日 フジテレビ「日曜報道 THE PRIME」より

これは岸信介首相が1957年に表明してからずっと日本が掲げてきた「国連中心主義」を捨てると言っているに等しい(岸信介氏は安倍晋三氏の祖父)。

歴史を読めば、国連安保理が自国を非難する決議に、ソ連・ロシアは常に拒否権を行使してきた。ハンガリー動乱(1956年)、旧チェコスロバキアへの侵攻(68年)でもそうだったし、2014年のクリミア併合でも同じである。

一方、2003年の米国によるイラク侵攻では、米国とイギリスは「イラクには大量破壊兵器があるのか、ないのか」を国連安全保障理事会が結論を出すのを待たずに、侵攻を開始した。つまり米英両国は国連を無視した。イスラエルを非難する決議はアメリカが拒否権を行使するのが毎度である。

つまり国連を無視・軽視して機能停止させているのは、ロシアに限らずアメリカ・イギリスもずっとそうなのだ。紛争防止に機能するのは、南スーダンやソマリアなど、常任理事国(アメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国)の戦略的利害が絡まないときだけだ。

つまり国際紛争防止に国連が機能しないことは、ウクライナ戦争に始まったことではない。1950年代からずっとそうなのだ。

「国連軍」が編成された数少ない例外である朝鮮戦争(1950〜53年。ソ連は安全保障理事会をボイコット)でも、米国主導の国連軍は紛争防止・停止ではなく北朝鮮軍の南進と軍事的に衝突する道を選んだ。

●ショック・ドクトリンであることに注意
戦争やテロ、大災害の恐怖で世論が理性的な判断力を失っている間に、政府が非民主主義的・強権的な政策を通してしまう現象を「ショック・ドクトリン」と呼ぶ。

カナダ人ジャーナリストのナオミ・クラインが2007年の著書「ショック・ドクトリン」で提唱した概念である。元々は「惨事便乗型資本主義」=「戦争や災害、テロなどで人々がショック・茫然自失状態から自分を取り戻し社会・生活を復興させる前に、過激なまでの市場原理主義を導入し、経済改革や利益追求に猛進すること」を指していた。

9・11テロ後にアメリカが作った「米国愛国者法」(USA Patriot Act)が「ショック・ドクトリン」の例としてよく挙がる。

「国家の安全を脅かす行為に関与していると信ずる合理的な理由のある外国人を(無令状で)拘束することができる」
「令状で特定された容疑者について、その使用するすべての携帯電話等の通信傍受を認める」

など、それまでアメリカが国是としてきた「権力からの自由」の基本要素「令状主義」や「通信の秘密」が崩れている。9・11テロ後の米国民の恐怖心ゆえに、平時ならありえないだろう法案が通ってしまった。

ロシアがウクライナに軍事侵攻するという世論のパニック時に、安倍氏が「非核三原則」「国連中心主義」「専守防衛」など、これまで日本が国是としてきた安全保障原則をすべて転換・破棄せよと持ち出すのも、こうした「ショック・ドクトリン」の一種だと考えたほうがいいだろう。確かに「ウクライナ戦争で国民が理性的判断力を失っている」現在は、戦後の日本の安全保障政策を書き換えるには千載一遇のチャンスなのかもしれない。

よくよく考えるなら、ウクライナ戦争の当事国はロシアだ。今のところロシアは日本への軍事攻撃の意思はまったく見せていない。それでパニックするのも、本当はおかしな話だ。

●現職岸田文雄総理は核シェアリング否定

元総理の安倍晋三氏はともかく、現総理はどう考えているのか。

岸田文雄総理は2022年3月2日の参院予算委員会で「(核シェアリングを)政府として議論することは考えていない」と否定した。「非核三原則を堅持していく立場からも、原子力基本法をはじめとする国内法を維持する見地からも認めることはできない」(同)。

ここで岸田総理は「非核三原則堅持」と政府の公式見解を押し通している。前述の佐藤・ニクソン密約では日本政府は「沖縄米軍基地への核兵器持ち込みは容認する」とアメリカ政府に約束したはずだ。

しかし、それはあくまで「密約」。外務省・政府は公式レベルではその存在を否定している。この岸田総理の国会答弁も「米軍はわが国の非核三原則を守っているはず」という「建前」が前提になっている。日本政府の「ホンネと建前」の使い分けという前提で読まなければならない。

(2022年5月19日、東京にて記す)

<注1>今回も戦争という緊急事態であることと、公共性が高い内容なので、無料で公開することにした。しかし、私はフリー記者であり、サラリーマンではない。記事をお金に変えて生活費と取材経費を賄っている。記事を無料で公開することはそうした「収入」をリスクにさらしての冒険である。もし読了後お金を払う価値があると思われたら、noteのサポート機能または

SMBC信託銀行
銀座支店
普通
6200575
ウガヤヒロミチ

までカンパしてほしい。

<注2>今回もこれまでと同様に「だからといって、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を正当化する理由にはまったくならないが」という前提で書いた。こんなことは特記するのもバカバカしいほど当たり前のことなのだが、現実にそういうバカな誤解がTwitter上に出てきたので、封じるために断っておく。


私は読者のみなさんの購入と寄付でフクシマ取材の旅費など経費をまかないます。サポートしてくだると取材にさらに出かけることができます。どうぞサポートしてください。