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『赤い蝋燭と人魚』(小川未明)

ーなんという淋しい景色だろうと人魚は思いました。自分達は、人間とあまり姿は変っていない。魚や、また底深い海の中に棲んでいる気の荒い、いろいろな獣物等とくらべたら、どれ程人間の方に心も姿も似ているか知れない。それだのに、自分達は、やはり魚や、獣物等といっしょに、冷たい、暗い、気の滅入りそうな海の中に暮らさなければならないというのはどうしたことだろうと思いました。ー
ー『赤い蝋燭と人魚』(小川未明)よりー

雨が降りそうな春の日、近所の屋内プールへ行きました。お天気の良い時には採光窓から日の光がたくさん入ってきて、水面がキラキラと光を反射して眩しいくらいですが、この日の曇り空では室内全体が薄暗くどんよりとして見え、水中も透明度が薄まります。泳いでいる人も少なくて、気がつくといつの間にか私一人になっていました。

ふと曇り空や日暮れ後の海中は、今日みたいにぼんやりと暗く寂しいのだろうなと思いました。そして晴れた日以外のそんな時間は意外と長いのだろうなぁだなと、ぼんやり考えていました。

朗読の作品を探していると、名作には悲しいお話が多いというところにたどり着きます。漱石の猫も、ジョバンニとカンパネルラも、「幸せに暮らしました」という終わり方はせず、死をもってエンディングを迎えます。『赤い蝋燭と人魚』もそれらの物語同様、最後まで救われないのですが、幸せな物語も数多く手がけるこの作家の一番の代表作として広く知られてます。人魚が纏う文章の美しさに人々が惹かれるだけではなく、悲しい結末が心に触れるということも大きな要因かもしれません。でもそういう陰りは、悲しさと同時に人に安らぎをもたらすこともあるような気がしています。

5月のアドバンスコースは、「日本のアンデルセン」と呼ばれた小川未明の『赤い蝋燭と人魚』です。レッスンでは全編通すことはできませんが、珍しく「先に読んでおいてもらってもよいかなぁ」という作品です。(でも、読まなくても大丈夫。)
新緑の季節、美しく輝く緑を眺めながら、心の物語を読んでみませんか。

5月のスケジュール

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