【読んでみましたアジア本】この国の「多様性」「寛容」は宗教だけじゃないと思うんだけどな/加藤久典『インドネシア――世界最大のイスラームの国』

香港でこれを書いている。

香港に来ると、日本にいるときよりもぐっと「東南アジア」が近くなる。最近では地方都市でも「アジア飯」のお店も見かけるようになったが、それでもそれは「独特のムードを漂わせる店」であり、あなたが何らかの理由でその店の常連客ではない限り、「街に馴染んでいる」とは言えないであろう。

でも、香港はにぎやかな通りを曲がったところに、普通にマレーシア料理やインドネシア料理、ベトナム料理の店があり、香港人が舌鼓を打っている。とはいえ、最近では同じように「日本料理」や「韓国スナック」の看板を掲げる店も増えてきたが。そして、それらの多くが香港人の好む食材や味付けにアレンジされていることも否めない。

だが、それはそれなりに香港人のアジア認識の一つになっている。

また、週末になれば、香港の一般家庭で働く「外傭」と呼ばれるアジア系のお手伝いさんたちが、あちこちで集まって食事を採りながらおしゃべりしている(この2月は新型コロナウイルスの大流行でちょっとばかり様相は変わっているけれども)。

わたしが住んでいた1990年代はそのほとんどがフィリピン人だった。公園や中心街の、週末は誰もいなくなるビジネスビル前にピクニックシートを引き、わいわいとにぎやかにすごしていた。それがここ10数年ほどで、ほぼ半数以上をインドネシア人と見られる人たちにとって代わられた。

彼女たちの賃金の目安になっている最低賃金の規定があまり変動しておらず、そのためにすでに「お手伝いさん」業界で長年の信用を確立したフィリピン人がもっと給料の良い中東に向かい始め、「新興」お手伝いさんたちがその他の国から流れ込み始めたらしい。

スカーフをまとった女性たちが週末くつろいでいる姿を目にするようになり、お手伝いさんたちの国籍がじわりと代割りつつあるのと同時に、ふと「信仰」が香港の人たちにどう受け取られているんだろう?と思い始めた。

というのも、フィリピン人にはキリスト教徒が多い。もちろん、それ「だけ」ではないが、圧倒的に多く、彼女たちが集う教会があるとも耳にしていた。一方で彼女たちを雇い入れる香港人家庭は、もしかしたら彼女たちほどの割合ではないにせよ、クリスチャンは多いし、たとえ自分は信者ではないものの、イギリス植民地の影響下にあったこともあり、街には普通にあちこちに教会があるので、そんな文化に慣れている。

だが、イスラム教は長い間、香港人にとってもほぼ馴染みのない文化だった。ヒジャブを被る女性たちを雇用して受け入れた香港人は、どんなふうに彼女たちの宗教や文化を受け入れているのだろう? 共働きの家庭ではお手伝いさんに家庭広東料理を覚えてもらい、食事の用意をしてもらうはずだが、彼女たちはハラルなんて習慣のない香港人の生活の中でどんなふうに雇用主たちの食事を作るのだろう?

香港人側があまりそのことを気にしている様子は感じられない。だが、新型コロナ陽性患者の濃厚接触者として政府の隔離施設に収容されお手伝いさんたちに豚肉が届けられたというニュースも以前あった。これまでは雇用主と当人の間で納得して習慣化されていたものが、公共の話題になったわけである。

家庭向けヘルパーとしてであっても、彼女立ちを受け入れた社会は、これまでとの違いを知らん顔してやり過ごすことはできない時期に差し掛かっていたわけだ。具体的に政府や社会がどう対応しているのかは調べてみる価値はあるな、と感じている。

そして、それは我われ日本人にとっても、いつまでも知らないままでいてはいけないのではないか。「アジア」といえば自分の暮らす街にアジア飯あるよ、レベルでいつまでも喜んでいてはいけないんじゃないか、と思い始めている。

●「これから重要になる」インドネシア


ここから先は

3,357字

¥ 300

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。