【読んでみましたアジア本】2021年を前に読んでおきたい、おすすめアジア本

もう今年もあとちょっと。

もうねぇ、今年はどうしたもんかねぇ、愚痴ばっかり出てきますよねぇ。振り返ってみても、ずるずるーずるずるーと見えない力に引っ張られてここまで来た、というモヤモヤ感いっぱいです。

わたしは取材に出かけられないので、取材アイディアが浮かんでも実行に移せない、試作品も作れない、という中途半端な宙ぶらりんな状態が続きました。

そんな中で今年「やったよ!」と言えるのは、2月に白水社から『上課記 中国離島大学の人生講義』を刊行できたことですね。本が店に並んだのは、全国自粛期間中で出版社の担当者さんも手応えどころかどうやって売ればわからない、という大変なときだったのですが。

この本には大変思い入れがあります。というのも、2年以上前から編集者さんとずっとやりとりして、もうだめかー、と思うほど長いインターバルがあったりして、「読んでもらいたい」と思う気持ちと現実のスケジュールに絶望的になったりして。

確かに翻訳の元になった本は2000年代後半の、地方都市の大学生たちのお話をまとめたもので、「今なぜ?」の感はあるでしょう。10年以上も前のエリートでもない、農村出身の若者たちの苦悩など読んでみて「なんの足しになるの?」と言われるのも覚悟の上でした。

でも、これからまた中国の「今」を追うことになる人が増えるからこそ知ってもらいたい、中国の現実があります。あなたが足を踏み込むのは上海や北京や杭州や深センといった大都市でしょうが、その街を今支えている人たちの多くがこの『上課記 中国離島大学の人生講義』で地方出身であるがゆえに傷つき、環境の変化のあまりの速さに茫然となっていたという事実はぜひ理解していただきたいと思います。また彼らとその家族が置かれた過酷な環境にも。

そして、もっと重要なのは、あそこで描かれた学生たちのほとんどがそのまんま「市井の人」になっているということです。彼らの後ろには何千万、何億という人たちが存在する。そのことを、たとえあなたが中国の大都市に行き来するようになっても忘れないでほしいのです。10年前に描かれた彼らとまったく同じような生活をしている人たちが今もいる。そのことを知るだけで、あなたの中国に対する理解は大きく広がるはずです。

とはいえ、この「読んでみました」も振り返ってみるとやっぱり、今年ご紹介した半分以上が中国(含む台湾、香港)本でした。どうしても、日々転々とする事情がよく分かるので「このときに」と思ってしまうんですよね。あと、その他のアジア本はどうしても「タイムリーな話題」を見つけられない。出ているのかなぁ?と思わざるを得ない。もし、今後「この本おすすめ」というアジア本があれば、ぜひぜひ教えて下さい。

それでは今年の5冊です。

アイリス・チュウ、鄭仲嵐『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』

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