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駄文1

学生の頃読んだ本に、ダイキリが美味しいBARは良いBAR(うろ覚え)みたいな事が書かれていた。影響されやすい私はふむふむと、お酒の事を全然知らないままそれをインプットしてしまったのである。嗚呼。。

社会に出て仕事にも少し慣れてきた頃、そろそろBARとやらにも行ってみようかなという気持ちが芽生えていた。しかしながら一人でBARに突入するのは中々にハードルが高い。いこっかどしよか考え中~と頭の中でズンチズンチ踊りながらその一歩を出したり引っ込めたりの繰り返し。いまいち決定打に欠ける日々を過ごすうち、私の背中を押すように、仕事でとても嫌な事と出くわした。私は一人でグラスを傾け、カランと氷の音がするあの感じに憧れを持っていた。人生の悲哀をお酒で洗い流すあの感じ。今や!今しかない!と思い立ち、酒の味も種類も大して知らぬまま、ダイキリが美味しいBARは良いBARという言葉だけを頼りにBARに一人行く事を決意したのだった。

当時私が住んでいた街には二つBARがあった。しかも細い路地向かい合って在るのだ。一つはよくあるお洒落なBAR。もうほんとご想像通りのBAR。もう一方は少し影のある内装。90年代アメリカ映画で出てきそうなうらぶれた感じのBAR。主人公より味のある脇役が好きなんだよねぇ~?(めちゃうざい顔)などと宣う私は、逆張り期真っ最中。私は後者を選んでしまったのだった。。

そのドアを開ける。ネットで見た、うらぶれたBARそのものが私を出迎えた。誰もいない。。なんか不安。狭い店内の奥の方にデカデカとスクリーンがあり、なんとも作りの粗い3Dのピアノが宇宙を背景に映し出されている。バーテンダーすらいない。す、すみません。。と声を絞り出すと、少し遅れてオジサンがバックヤードの暗闇からヌッと顔を出した。
「……カウンターどうぞ…」
バックヤードから、のそりと出てきたそのオジサンは、お洒落なバーテンダーとは程遠く、だらしない太り方をしたお腹に、なぜか上は白いランニングシャツオンリーといったいで立ちだった。その姿はまるで、生きる希望を取り上げられた阿笠博士(名探偵コナン)。
私は気を取り直し、阿笠マスターに声をかけた。そう、ダイキリだ。ダイキリが美味しいBARはいいBAR。あの本も言っていたじゃない。こういう所が穴場であり、能ある阿笠は爪を隠すっていうじゃない。
「ないよ」
やはりBARの本質はお酒であって内装だとか見てくれだとかではなく~、、え?
スッと出されたメニュウ表にはカクテルはほぼ無かった。無念。
あ、じゃあ生(ビール)で…。スッと暗闇に還っていく阿笠。そしてカシュッ!と何か缶ビールを開けるような音。。
大学で上京し、二十歳を超えた頃、良く飲んでいた缶酎ハイ、ソルティードック。なんだかかわいい名前と味が好きで、ダイキリの他にその名前は憶えていた。メニュウを見るとあるではないか、ソルティードック!生(?)ビールを飲みほした私は、藁にも縋る思いでソルティードックを注文した。するとマスターが取り出したるは食卓塩。水でジャッとグラスを流し濡れたグラスに塩を少々ファッファッファ~~。本物のソルティードックを知らない私でも、これは違うんだろうなと心のどこかで呟いていた。

私は店を後にし、なんだかんだ仕事のストレスが消えていた事に気づいた。目を閉じると暗闇に浮かぶ3Dピアノと白いランニングシャツ。せめて上着羽織りなさいよと笑いながら私は帰途についた。

なんだかんだで居心地よくって、その後も何度か通いました笑
安いし。
引っ越してからいく事は無くなったけど、今頃どうしてるかな?と、これを書いてて思いました。サンキューアガサ、上着は羽織れ。


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