ご免侍 六章 馬に蹴られて(二十話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬達は西国に向けて旅立つが、宿で襲撃を受ける。敵は天狼か!
二十
「権三郎は、まだガキでな。わしが山賊の家から救い出して農家の下男にさせたんじゃ」
祖父の左衛門は懐かしそうに話す。権三郎は、山賊の息子として産まれた境遇からか、やはり農家仕事に、なじめずに山賊の手下に戻って生きていた。すでに死を覚悟しているのか、反抗する気配もない。
「ここらあたりで山賊はどれくらいいるんだ」
「そんなに居ませんよ……」
一馬が、先々の危険性を考えて情報が欲しかった、実際は彼らは山賊よりも猟師として働いている方が多い。山賊は馬鹿な獲物が来たときにしかやらない。
「知られたら終わりですから……今回は楽勝と思って」
「その獲物が、わしじゃったわけか、それは災難じゃな」
一馬は、左衛門のゲラゲラと笑う姿が、地獄の鬼のように見えて仕方がない。目が笑ってないのだ。
「お爺々様、今日はここで泊まりですか」
「……そうじゃな、少し休むか」
病み上がりの老体には長旅はきつい。山賊の家で休むために早々に板床で寝る事にした。
「権三郎の見張りは、私と月華がやりましょう」
捕まっていた女達が食事を作り、解放された安心からか、なにかと一馬の世話する。ベタベタと触られるのは厄介だが、悪い気はしない。
ふと琴音の視線を感じる、ふりむくと怖い目でにらんでいる。
「一馬、にらんでるよ」
月華がひじで一馬をつついた。あわてて立ち上がると女達をふりきって権三郎に縄をかける。
「柱に縛りつける、便所は言えば連れて行く、逃げるなよ」
「……」
山賊の体をあらためて、刃物がないか調べて縄で体をしばり柱にくくりつけた。権三郎が見える所で、腰をおろす。
「じゃあ交代制だね、私は先に飯を食べとくよ」
月華が去ると権三郎がぽつりとつぶやく。
「いつ殺すんです……」
「殺さないと約束しただろう」
「あっしは今までも何人もやってきた、もうおしめいだ」
「……死にたいのか」
「どうせ地獄行きでさぁ」
「少しはいい事をしたら、地獄で手加減してもらえる」
ぽつりぽつりとつぶやく山賊の姿が、なぜか岡っ引きの平助と重なる。父親の藤原左衛門なら、どうしていただろうか……
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