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おひつご飯四六時中、だしをかける海鮮丼(用意された美味 #1)

これは、食卓に用意されている美味を味わうだけのお話。

「所詮、通りがかったご飯屋さんだ」
私はそうした先入観を抱き、『おひつご飯』の店に入った。
そこはチェーンの定食屋といった風体で、どこか変わったところがある訳でない。「だしをかけて食べる」というおまけがなければただの海鮮丼屋でしかない。ただそのおまけである「だし」に心を惹かれ、私はふらりとその店に入った。
メニューは定番だろう物を選んだ。運ばれてきたものを見た。普通だ。普通の海鮮丼だ。だしが飲めるというおまけ以外、期待しないでいよう。期待通り、普通の海鮮丼だった。
そんな私の心を揺さぶったのは、おまけで付いてきた第二のたれだった。
見た目からしてただの甘いたれだろうと期待せずに口に含み、驚いた。
みそだ。これは海老か何かの味噌が入っている。むしろそれがメインの味だ。想像していなかったそれに、私はすっかり魅了された。
この第二のたれと、だしが、合う。ただの出汁茶漬けが一転、どこかの名物料理のような味に変わる。
美味しいものは、ごまんとある。けれど、この年齢になると、美味しいものだとわかっていて食べる美味しいものがほとんどだ。
美味しくて驚く。もし通り過ぎていたら出会えなかったこの感動を噛み締め、第二のたれをおかわりし、私は店を後にした。
「どうせ今日だって日常の生活でしかなく、驚きや喜びなどあり得るはずがない」そうした思い込みを捨てれば、生活を彩ってくれるそうしたものは、日常に溢れているのかもしれない。

※インスタ再掲

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