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イマーシブシアター『RANDOM18』で「没入」できた理由

 2022/8/11 イマーシブシアター『RANDOM18』を観劇してきました。
https://www.egopression.com/

 イマーシブシアターとは日本語で「体験型演劇」や「没入型演劇」と呼ばれ、観客が建物の中で同時多発的に上演されるパフォーマンスを自由に歩き回りながら体験するのが特徴です。

 今回の公演のego:pressionさんはダンスカンパニーで、『RANDOM18』では18名のダンサーがほぼ台詞なし、五階建ての廃カプセルホテル内を縦横無尽に使って、ポストアポカリプスの世界を演じます。また、観客も個々でカプセルホテルの中からスタート。観客は、世界に触れられないという設定を与えられ、演者もこちらを認識できません。

 それを利用して、例えば役者が手帳を取り出したときに身を乗り出してそれを覗き込むと世界がどう滅亡していったかという秘密が書いてある、などが起きます。たまに観客と役者が1:1の状態で隔離されることがあり、そのときに重要な情報が観客にシェアされるようです。

 同時多発的に、もうすぐ赤子が生まれる夫婦、医者とそれに憧れる学生、女優とゴシップライター、シスターと潔癖症などなど、それぞれ「人生!」と思わせるシーンが散りばめられていて、いちいちグっと来ました。
 あと、音響が凄い。絶対、テクニカル大変。あちこちにスピーカーが配置されていて、いまからシーンが始まるよという場所で音楽が流れるように設計されていました。

 見逃したシーンの方が圧倒的に多いながらそれを勿体ないと思うよりも、例えば男子トイレで女子二人が踊るシーンは室内に自分しか観客が居なく、またそのダンスが美しく、自分だけが最高の贅沢をしているという気持ちを強く感じました。

 総じて、とても良い公演でした。見る前は7000円は高いかなと思いましたが、終わってからは「え、それだけで足りた?おっちゃんもうちょっと出せるで?」という気持ちです。

なにが没入させたのか

 公演開始前、携帯電話を切るようにアナウンスされた際、カップルのうちの彼氏が「緊急の仕事の連絡が来るかも知れないから、困る」と抵抗していました。しかしそれを彼女が諫めたので、無事をオフにして臨んでいただけました。

 思えば普通の演劇も、観客にルールを強いています。私語厳禁だし、観客と役者の間には第四の壁と呼ばれる見えない壁があります。この新しいイマーシブシアターでは、新しいルールを観客に与えています。まだ明文化されていないような細かいルールが多く在り、観客は総合的な応用力を必要としているように思います。観客もクリエティブでなければ楽しめないかもしれません。

 では、どんなルールがこの「没入型演劇」を形作り、没入させたのか。

 もちろん廃ホテルという環境はとても良く、サウナなんて匂いが残っているくらいで、その世界そのものとしか言いようがありません。屋上で受ける強風は登場人物と同じ気持ちにさせてくれます。
 観客が干渉しないというルールで作られた本物の環境は大きな要因です。しかし、環境だけが没入を作るわけではありません。

 今回、私がこの公演に対して強く没入を感じたのは、演者が一人でお風呂場で鏡に写る自分を叱咤激励するシーンを目撃したときでした。本人にとっては見られたくないであろうシーンを見てしまった、という衝撃で、物語に強くのめり込みました。

 自分で選択し偶発的に起きたそれを感受するという行為は、その全部を見せられる演劇とは異なり、強い真実感があります。与えられたものではなく自分で獲得した、その違いが没入型演劇の要な気がします。

 イマーシブシアター、ほんと新しい良い遊びですね。大がかりで大変で無駄も多くなるけれど、良い遊びが提案される良い時代になったものだと思いました。

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