愛憎の寺葉荘

事件再現描写

某県某所 8月11日 AM 1:22
ハウスシェア物件『寺葉荘』の一室で
八瀬田 京子はベッドに腰掛けて物憂げな表情を浮かべていた。
「はぁ。私、どうすればいいの……。」
大きなため息をついた京子はとりあえずTVをつけてみた。
何度も観たような新鮮味のない深夜のバラエティー番組が垂れ流されている。

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唐突にテレビが切れた。
「え?あれ?」
何度もリモコンの電源ボタンを押すが反応しない。
コンセントでも抜けたかとテレビに近づきテレビラックの中に入ってるテーブルタップを確認したがコンセントは付いている。
「何よもう……。」落胆してリビングまで誰かを呼びに行こうと顔を上げたとき、
真っ黒のテレビ画面に“ナニか“が反射していることに気がつき、鼓動が跳ねた。

空調の音だけが嫌に大きく聞こえる中で背後から衣擦れのような音が聞こえる。
それはバランスボールのような球体だった。
何よりもそれは中空に浮いているのだ。吊り下がってる?どこから?いつの間に?

恐る恐る振り返って恐怖に満ちたその顔で対象を見やる。
理解が追いつかない。
それはどうやら繭のような糸製のものであることに気づいた。
表面はウネウネと波打っており、時折ボコボコと内側から衝撃を発して形状を完全球体からイボがついたボールのように形状を変化させている。

中に何かいる

そう気づいた時には“それ“の鳴動が激しくなっていた。
ボコボコしていた所に数多の亀裂が入り、まるで中からウジが食い破って出てくるかのように白い何かが湧き出てきた。その数 5、10、20 、100…数えられない。
眼だ。しっちゃかめっちゃかいろんなところに視線を向けていたそれが、一瞬にしてこちらを凝視する。

「きゃああああああああああああああああ!!!!」
絶叫を上げた京子であったが
何か触手のようなものが一斉に伸びて京子の首に巻きつくと、一気に締め上げる。

霞む意識の先、全ての目がニコッと「目を細めた」ように見えた。

◻︎⬛︎⬜︎※▪︎⬜︎

「大丈夫!!???京子!!???京子!!!!」
「どいて公子ちゃん!!これで壊す!!!!」

二人の男女がリビングから持ち出した消防斧で施錠されていた扉を壊し、部屋に雪崩れ込んだ。明るい部屋。音はない。窓はしっかりと鍵がかかっている。
異様な静けさが支配する部屋の中、
少し進むと視界に入るベッドに、不自然な体制で横たわる京子を見つけて女性が一人駆け寄った。

「京子!!!京子!!!!しっかりして!京子!何があったのきょ、ウ……??」

頬を叩きながら起こそうとする女性の腕に、ビニール質の何かが当たった。
それは何かの電源コード。首に巻かれ、未だくっきりと赤い跡まで付いていたのだ。

「いやああああああああああああああああああ!!!!い、息してない!息してないよ!!!京子!!京子ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

半狂乱になり目いっぱいに涙を溜めながら、
そのコードを首から外そうとする女性。

だが、
突如バツン!!!という音がして全ての明かりが消えた。
暗闇に閉ざされる室内、女性の絶叫はさらに絶望の色を濃くして響き渡る。

「落ち着いて公子ちゃん!きっとブレーカーが落ちたんだ!
 ガレージにキャンプで使ったランタンもあるしブレーカーもある!こっちだ!」
緊張の声色であるが、いたって冷静な判断の男性の声。
彼は優しく、それでいてしっかりとした意志を感じる力で公子の腕を掴んだ。

二人はガレージへ向かう。真っ暗闇の中でまずは携帯の明かりを頼りにランタンを見つけ、はしごを探し壁に立てかけた。

浴室の扉が開く音と共に、
腰にタオルを巻いただけの半裸の男性が倉庫に顔だけ覗かせて呑気に尋ねてきた

「おいおい、王子。俺のバスタイムを邪魔するなよなぁ〜?てか電気つかねぇし。なんだどうしたんだ?」
「幸一くん!話はあとだ!とりあえず警察と救急呼んでくれ!!」

ブレーカーをあげると、一気に屋内に電気が戻った。

「きゃあああああああああああああああ!!!!」

再びの絶叫。だが先ほどとは違う女性の声だ。

「レイちゃんだわ!」

二人は慌てて京子の部屋に戻っていく。
そこには外れかけたヘッドフォンを気にせず、部屋着姿で腰を抜かしてへたりこみ、失禁する女性が居た。

……。

「はい!ええ、殺人です!人が死んでるんです!!」

呆然としている男女達を尻目に混乱しながらも半裸の男性が警察に電話を掛けるその声で彼らは実感する。
そう、この寺葉荘で殺人事件が起きたのだ。

キャスト

八瀬田 京子(21)
被害者。美人。

太田 公子(22)
寺葉荘の住人。京子とは昔からの友人。
事件当時、キッチンで王子と話をしながら洗い物をしていたと主張。

池田 王子(22)
公子、幸一と共通の友人。住人ではない。
事件当時、リビングで公子と話をしていたと主張。

移木 幸一(20)
寺葉荘の住人。プレイボーイ。
事件当時、浴室で寛いでいたと主張。

九手 礼奈(19)
寺葉荘の住人。音楽活動をしている。
事件当時、ノートPCを用いて楽曲作成していたと主張。

初期宣言

【京子の部屋は事件発生から事件発覚まで扉も窓も施錠されていた。】
【京子は死亡している。】
【京子は他殺である。】
【京子の部屋の施錠は内鍵と本人所持の鍵でのみ行われる。】

八瀬田 京子は人物再構築の対象にはならない。
(現場再構築はその限りではない。)
※真理1破壊後、この初期宣言は棄却される。

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