業界の素人だったからこそ、シンプルでわかりやすいサービスが作れたんだと思う
起業までのことを書いた前回のnoteは12万PVを超え、多くの方に読んでもらいました。ありがとうございます!
今回は「僕らのサービスがどのように生まれたのか?」についてお伝えしようと思います。
おかげさまで僕らのサービス「Funds」は「初心者でも安心して投資ができる」「シンプルでわかりやすい」と多くの方から言っていただいており、累計募集額も400億円を突破しています。
僕らが運営しているのは、ひとことで言えば「企業に間接的にお金を貸すことで、お金を増やせるサービス ※」です。
ただ、もともと僕は、金融に詳しかったわけではありません。
大学も文系だし、数字に強いわけでもない。むしろエクセルを触ったりするのは苦手なほうでした。
そんな金融業界の素人が、なぜ資産運用のサービスを作ろうと思ったのか?
まずはそのあたりからお話ししていきたいと思います。
自分がベンチャーキャピタルだったら?
Fundsは、実は2回目の起業です。
1回目はWeb制作。5年ほど頑張ったのですが思うように伸びず、別の会社に売却しました。
「次こそは成功させたい!」
そこで前回のように「思いつき」で事業を決めるのではなく、きちんとマーケット選定から始めることにしました。
役に立ったのが「自分VC」という方法です。
これはある人に教えてもらった研究方法で、自分がVC(ベンチャーキャピタル)になったつもりで市場を見るというもの。
「TechCrunch」や「BRIDGE」などのメディアにあがっている、注目のスタートアップや資金調達の記事を自分がVCになったつもりで見ていくのです。
「この会社には投資したいな」「このビジネスモデルはすごいな」「この会社はここが弱点だから伸びなさそうだな」と判断していく。
これを毎日やることで、ビジネスを見る目を養っていきました。
インターネットと相性のいい「金融」
新しいビジネスの動向を日々見ていくなかで、アメリカでは「クラウドレンディング」というものが盛り上がっているという記事を見かけました。
クラウドレンディングというのは「クラウドファンディングのレンディング版(企業にお金を貸すタイプ)」で、簡単に言えば「インターネットを使った個人間金融」。銀行などの金融機関を介さない融資の方法です。
僕は直感的に思いました。
「インターネットと金融はすごく相性がいいだろうな」
金融というのは「お金」が媒介にはなっていますが、基本的には「情報」を扱っています。
マーケットの動向や「どこの会社が伸びる/伸びない」といった「情報」に対して「この会社の株は上がりそうだから買おう」とか「この会社は安全性が高い。ここの会社にお金を貸そう」というように「お金」が動くわけです。
金融というのは「お金を融通する」と書きます。
「お金があるところ」から「お金がないところ」にお金を流し込むのが金融。お金の偏在性を調整することが金融の本質だと思っています。そのときに、「情報」というものがすごく大切になってくる。
インターネットが変えたのは、情報の流通です。ということは、同様に金融にだって革命を起こしうるはず。
2012年当時は、まだ金融の世界とインターネットは完全に融合している感じはありませんでした。だからものすごいビジネスチャンスを感じたのです。
すぐに会社を作らず、社員になった
「よし、金融のビジネスをやるぞ!」
……とはなりませんでした。
あまりに金融の知識がなくて、自分が金融の事業をやるイメージがまったく湧かなかったのです。
そんな折、たまたま先輩から「クラウドレンディングの事業を立ち上げるからマーケティングを手伝ってくれない?」と声をかけてもらいました。
マーケティングなら得意です。
マーケティングという価値を提供しつつ、金融の世界にどっぷり浸かって、気になっているビジネスについて学ぶことができるならチャンスかもと思って、その会社にお世話になることにしました。
この時点では、まさか自分が金融業界に入るとは微塵も思っていませんでした。興味はあったし、ビジネスチャンスがありそうだなとは思っていたけれど、自分がやるとは思っていなかった。その能力も知識もなかったので難しいだろうな、と思っていたんです。
しかしご縁あって、金融業界で働くなかで、だんだん金融のことが「自分ごと」になっていくのを感じました。
金融業界に足を踏み入れてみると、銀行の融資ではカバーしきれない部分を補う新たな手段として、クラウドレンディングの可能性を実感するようになっていきました。
「上りのエスカレーター」に乗れ
その会社に入ってみて、まず学んだのは「ビジネスにおいて大事なのは、上りのエスカレーターに乗ることだ」ということでした。
かつてやっていたWeb制作の世界は「レッドオーシャン」で、頑張って受注して、頑張って制作して、怒られながら納品して……という感じでした。ひとつ終わったら、また次のコンペに行く。その繰り返しだったんです。
でも、その会社に入って驚いたのは、サービスをローンチしたらユーザーがバババッと登録してくれて、数億円のお金がどんどん集まってきたこと。事業自体も黎明期だったので、メディアにも注目してもらえました。
あれよあれよという間に毎月何億というお金が集まる状況を目の当たりにしました。そのインパクトはすごく強かった。
「ビジネスというのは、こんな感じで成長していくんだな」と思いました。
「安定した会社に投資したい」というニーズ
その会社のビジネスモデルは、簡単に言えば、
融資を受ける企業から金利を受け取り、投資をした個人投資家に分配する
というもの。
融資を受けるのは中小・零細企業が中心でした。なかには信用リスクの高い投資先も含まれていたのですが、とにかく利回りがよかったので、投資家からはすごいペースでお金が集まってきました。
このサービスはニーズもあったし、魅力的だなと思っていました。
ただ一方で「みんながハイリスクハイリターンのサービスを求めてるわけじゃないんだろうな」とも思いました。
というのも、僕はマーケティング担当として、セミナーなどで投資家さんと直接コミュニケーションをとることが多かったのですが、そのときに「もうちょっと知っている会社はないんですか?」とか「もっと安定感のある会社に投資できないんですか?」という話を聞いていたんです。
名前も知らず財務状況もわからない会社に投資する代わりに高い利回りを得るのではなく、そんなにリターンが多くなくてもいいから、知っている会社に安心して投資したい。そんなニーズもあるのだな、と思っていました。
仕組みは玄人好み、サービスは初心者向け
そんななかで、いまの「Funds」のビジネスモデルがおぼろげながら見えてきたんです。
「クラウドレンディング」は新しい融資の方法として、ものすごく可能性がある。一方で当時は、何かしらの理由で銀行からお金を借りるのが難しいような会社に対して、高金利でお金を貸すことがほとんどだった。投資家にリスクをとってもらう代わりに高い利回りを返すビジネスモデルでした。
であれば、仕組みはそのままに「安心して投資がしたい」というニーズに応えるサービスがあればいいんじゃないか? と考えたわけです。
僕自身、投資には苦手意識がありました。
特に株の投資をするとなると、チャートを見ないといけなかったり、ファンダメンタルズの分析をしないといけなかったりする。これは、初心者にとってはやはりハードルが高い。
だから、それこそ「定期預金」のように安心して投資できるサービスがあればいいのに。もっとシンプルな仕組みにすれば、もっともっと多くの人に利用してもらえるんじゃないか? と思ったのです。
投資初心者は「値動き」が怖いのでは?
僕は、あくまで「投資初心者」の目線からサービスを考えていきました。
なぜ、投資に苦手意識があるのか? まず僕は「値動き」が原因なんじゃないかと思いました。
ふだん生活していて、モノを買ったあとに値段が変わることはあまり経験しません。でも、投資商品だけは値段が上がったり下がったりする。100円で買ったものが50円になっちゃったりするわけです。
これは普通の感覚からすると、怖い。
であれば「値動きをなくせばいいじゃん」と思いました。
最初から「期間」も「利回り」も決まってて「投資したら待つだけ」くらいシンプルにしたら、安心して買うことができます。めちゃくちゃ儲かるわけではないけれど、1年なり2年なりできちんと金利が付いて返ってくる。
投資だけれど、ハラハラドキドキしなくてもいいんです。
とにかく資産運用をめちゃくちゃシンプルなものにすれば、初心者でも安心して投資ができるはずだと思ったのです。
「上場企業」に貸せないか?
従来のクラウドレンディングは、銀行からお金を借りることが難しいような中小零細企業に貸すことがほとんどでした。
だからこそ高金利でも成り立っていたのですが、一方でリスクは高くなりがちでした。
であれば、安定した上場企業に貸せばいいのではないか? と思いました。
上場企業は、倒産率がすごく低いんです。過去15年くらいで見ても0.3%ほど。会社は上場すると、監査法人から監査を受けます。財務の情報についても四半期ごとに開示していて、投資判断の材料もいっぱいある。
だから貸し倒れリスクが未上場企業に比べて低いのです。
そこで、上場企業を中心に貸付をすることによって個人投資家でも安定的に資産を運用できるようになるんじゃないか、と考えたわけです。
こんなふうに、あくまで「こういうサービスがあったらいいな」「こういうサービスなら僕でも利用したくなるな」という投資の初心者の目線でFundsを設計していきました。
あたりまえのことを、ていねいにやっていく
・値動きをなくす
・貸付先は上場企業を中心にする
という限りなくシンプルな設計にして生まれた「Funds」は、おかげさまで順調に成長していきました。
実際にこれまで400億円以上のお金を運用してきましたが、元本割れや遅延は1件も起こっていません。
その理由は、サービスの構造上そもそもリスクが低いというのもありますが、裏側で「あたりまえのことをていねいに」やっているからだと思っています。
僕らが貸付先の企業を選ぶ際も「あたりまえのこと」をやっているだけです。
まず、公開されている決算書のバランスシート(貸借対照表)を見ます。すると「その会社がどれくらい現金を持っているか?」がわかります。
次にキャッシュフロー計算書を見ます。すると「その会社から毎月どれくらいお金が出ていっているのか?」「どのくらいお金が入ってきているのか?」かがわかります。
仮に30億円の現金があって、毎年5億円が入ってくる会社があるとします。こういう会社は、当面は潰れる可能性が低い。
もしくは、30億円の現金があって、毎年1億円ずつお金が出ていく会社があるとします。さらに来年はストレスをかけて5億円出ていく可能性を考える。ただこの場合であっても、少なくとも2〜3年は潰れないことがわかります。
Fundsは、そういう会社に貸付するわけです。
本当はもう少し複雑な審査をしていますが、わかりやすくシンプルに言うとそのようなことをしています。
社内には、弁護士や元バンカー、公認会計士などで構成された専門の審査チームがあります。そこでさらに、徹底した独自の審査を行います。
ファンドの期間が1年であれば1年後にその会社がどれくらいのキャッシュを持っているのか? 仮に経済が悪化したとしても生き残っていけるのか? を徹底分析する。そして「問題ない」と判断した場合にのみ、Fundsに掲載し、資金を募集するわけです。
たまに「Fundsは怪しい」などと言われたりするのですが、僕らは本当にごくあたりまえのことを、きちんとていねいにやっているだけなのです。
上場企業がFundsから借りるメリットは?
ここまでお話しすると「でも、上場企業側にメリットはあるの?」 という疑問も出てくると思います。
たしかに上場企業であれば、銀行からお金を借りることはできます。ただ、銀行は大切な預金をもとにお金を貸し出すので、その貸し出しのルールはきっちりと決められています。
「この資金はこういう用途に使ってはいけない」という制限があったり、10億必要な会社に対しても「7億までは貸せますが、3億は自分で用意してください」と言われたりするケースがあるわけです。
過去の実績が少ない、新規事業用の資金の場合などはお金が借りにくいこともあります。
また、ものすごく成長している会社は、成長しているがゆえにどんどん投資が必要になります。だから赤字になることもある。
ただ銀行は、赤字が2期続いたりすると貸してくれなかったりします。せっかく成長中でお金が必要なのに、調達ができないケースが出てくるのです。
そういうこぼれ落ちたニーズをFundsが補完できる可能性がある。
僕らは、銀行とは異なる審査の仕方でお金を貸し出しています。そうすることでこれまで満たされていなかった資金調達のニーズを満たすことができるというのは、けっこう大きなポイントだと思っています。
「御社のサービスは、そのうちゴミ箱になるよ」
今では多くの方に利用していただいているFundsですが、始めたころは否定的な言葉もたくさん言われました。
とある投資銀行出身の方からは、こんなことも言われました。
「僕、ずっと金融の世界でやってきたんでわかるんですけど、御社みたいなサービスはそのうち調達に困った会社がバーッと集まってきて、ゴミ箱みたいになりますよ」
VCさんから調達するときも、意思決定者のなかに金融出身の人がいると、ぜんぜん通過しませんでした。「うちは金融強いんで」みたいなときは、いろいろ指摘されてダメになることが多かったのです。
「ニーズないでしょ?」というのも散々言われました。
「金余りの時代に、なんでわざわざ銀行じゃなくてFundsで調達するんですか?」とか「個人投資家は低い利回りの商品なんて買いますかね?」とか。
金融の玄人筋からはいろいろ言われた。
でも、だからこそ、よかったんだと思うんです。
「無知」こそ大切な要素
つまり、業界から見て非常識だったからこそ、新しい仕組みだったからこそ、業界の玄人からの評判が悪かったわけです。
業界に長年いると解像度が高くなります。いろんな失敗の可能性やリスクが見えてしまう。「過去にそういうのやったけどダメだったよ」「いっぱい失敗してきたよ」とわかってしまう。
僕は素人だったからこそ、業界の慣習にとらわれないで思い切ったことができた。
僕だって、今の知識があったらFundsを始めていないかもしれません。金融への解像度がだいぶ高くなっているので、6年前の僕が相談しにきたら「やめたほうがいいよ」と言うでしょう。
だから当時、僕を否定してきた先輩たちが悪いわけではない。よかれと思って、心配して、ダメ出しをしてくれたのです。
もちろん、その業界やその分野のことをまったく知らずに始めるのは無謀です。でも知りすぎることで踏み出せなくなることもある。新しいことをやるうえで「無知」というのは、実はすごく大事な要素なのかもしれません。
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