見出し画像

『台所珈琲の手びき』4刷

10月が暮れていくなか、『台所珈琲の手びき』を再び増刷することができました。初版から200冊ずつ、これで4回目です。本当にありがとうございます。今後も細々と、しかし長くつくり続けて、ちょっとずつ届けることができたらと思っています。

身の丈に合ったサイズで続けられるように、はじめから印刷は「200冊ずつ」と決めて、造りや装丁も無理をしないことにしていました。つくる側にとっても、手にとる側にとっても、気楽なものや構えずに済むものは、なんとなく和むような感覚があって、私たちはそれが好きで、コーヒーだってそうなのだから、やっぱり本もそうしようと。

よくよく考えてみると、ハウツー本のくせに、私たちには大した肩書も資格も経歴もありません。メディアに掲載されるような有名店というわけでもありません。そのへんにある店です。それなのに、こうしていろいろな場所で、いろいろな人が手にとってくださっているということが、本当にしみじみうれしいです。

私は自分のことを、コーヒーの「プロ」だとは思っていません。仕事に誇りがあるとすれば、永遠の素人であるという誇りです。ふつうのことを、ふつうにやれば、おいしく和らぐのがコーヒーです。すごいのは、その「ふつう」をつくってきた歴史の方です。そのはしっこを、ちょいとお借りして、よい香りを漂わせながら、来る日も来る日も「おいしいな~」と言って喜んでいます。

そういえば今日、10月末らしい突然の雷雨が過ぎた後、夕方の裏やぶに今季初のジョウビタキ(雌)が飛来しました。近くで声がしたので、妻とふたりで窓辺に立ち、渡り鳥の姿を探しました。いた!と見上げた先の、淡いオレンジの美しさ。美術館に展示されている芸術作品のすばらしさとは別に、この世には、同じくらい価値のある身近な美しさが、そのへんにたくさんあるように思います。

本書で描きたかった「おいしさ」は、今日のジョウビタキの美しさにも似ている気がしました。ジョウビタキを探すためには、どのような声を聞き分けて、どういう場所から眺めてみるとよいのか。その目線を、平信の調子で淡々と、たよりにしてみたような本です。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?