見出し画像

【日本一周 九州編12】弥生時代の土地勘


 翌朝、七時半にフロントへ降りていくと、昨日はがらんどうだったフロントのところどころに朝ごはんを食べる人々のすがたが見えた。

無料の朝食。卵をスプーンでほじくると、、


 少し高めの旅館だと、こういう食事の空間には旅行者しかいないから世界が浮ついて見える。けれど、安いビジネスホテルだと出張で訪れたサラリーマンといった日常を過ごす人がいることで、「旅の風景」の視点が落ちついたものになる。その眼の方が土地の雰囲気を掴みやすくなる気がするから好ましい。ちょっとした背徳感もあったり、なかったり。


 朝ごはんとして出てきたのは、エッグスラットという初見の料理だった。この卵がすごいのだ。温玉と半熟目玉焼きの間くらいのいい塩梅で火が通されていて、ちょっと混ぜてからパンにつければもう絶品!「美味しんぼ」で、卵の前菜の究極のメニューとして出てきた”ゆで卵トリュフソース”を食べているような気分になることができた。食べたことはないけど。

卵の究極系


 カウンターでシェフらしきおじさんに「ごちそうさまでした」と食器を返すと、「お粗末でした」と返された。一泊2,000円とは思えない味と対応にひとしきり感動してから宿を出た。

人っ子一人いない朝の入園口


 九時。吉野ヶ里歴史公園が開園するのと同時に入園した。チケット売り場のおばさんたちは弥生人の格好をして働いていた。何も知らずに遭遇すると、すこしびっくりする光景である。しかし、彼女たちにとってそのコスチュームは慣れきった仕事服のようで、特に気に留めることなく接客していた。本当の弥生人のように自然体で。

 吉野ヶ里遺跡で一番印象に残っているのは、ガイドのおじさんである。朝一番の貸し切りの遺跡ではガイドの人もつきっきりで案内してくれたのだが、このおじさんの熟練具合がはんぱなかった。

弥生時代の高級住宅街


 まず、最初に向かった集落の入り口の門には、鳥の彫刻が二つ乗っかっていた。これが鳥居の原型になったという豆知識を流れるように説明してから、「二羽の鳥が乗っている、お値段以上な訳ですよ」とおしゃれなだじゃれを添えてきた。むむ、このおじさん。デキる。

お値段以上 ♪

 その後も、櫓、住居を周りながらためになる知識を教えつつ、「ここはいい男しか通さないんですよ。おや、みんな大丈夫ですなぁ」といった洗練されたジョークをちょくちょく混ぜてきて、沸々する笑いを着実にとっていった。経験値には勝てない。

 住居の中には戦闘用の盾、鎧、矢筒が置いてあった。どのくらい忠実に再現されたものなのかはわからないが。黒、白、赤を基調とした幾何学なデザインは、スタイリッシュで格好よかった。中央の太陽みたいなマークは、スイジガイという貝殻の形をモチーフにしているらしい。人々がデザイン的な図像をどこから拾ってくるのか、その原初的な例を見られた気がして嬉しかった。

スイジガイの貝殻


 櫓からは、馬鹿広い吉野ヶ里遺跡を一望することができた。現代では海までは見えないが、弥生時代には見えたらしい。有明海からも、吉野ヶ里丘陵の山々からも4kmという好立地につくられたのが吉野ヶ里集落だった。

 弥生時代の遺跡となると、建物の数もそこまで多くないからこじんまりしたイメージを持っていた。しかし、蓋を開けてみればそこは、東京ディズニーランド二つが優に入る規模である。

 お堀によって何段階かに渡って外周が拡張されたのもあるが、建物にたいする土地のとり方が現代とまるで違う。土地をこさえて、そこからはみ出さないように建てるのではなく、広い土地に利便性や地位を考慮して家を配置していくという方法は、現代人が地方や国の規模でやっている考え方を集落でやっているように考えられる。

 いや、逆か、弥生人が集落の規模でやっていたことが、古代の都、中世の幕府、近現代の全国へと拡大されていったのだ。稲作による定住化と米の貯蔵によって「格差」は生まれたが、それはまちづくりにおいて現代に通ずるエッセンスとして息づいている。さしずめ王たちの住む内郭は世田谷区かしら。

ここまで高床だとは、、


 祭殿へと向かう道すがら、日本史において知名度の高い高床倉庫の復元と対面したのだが、その高床ぶりには仰天させられた。底上げされた倉庫の床が、ちょうど僕たちの目線ぐらいあるのだ。どれだけ鼠を毛嫌いしていたのか。

質実剛健な祭殿

 最後に訪れた政を行っていたという三階建ての祭殿には、最上階に巫女のマネキンが置いてあった。政といいつつも、この時代は占いによって決められていたのだ。科学の信奉される現代から見れば不確定な要素に思われるが、この時代において人々の心を動かしたのは、再現性によって担保された科学ではなく、祭祀によって担保された呪術的な占いだったのはまぎれもない事実なのである。また、第六感による占いが重んじられる世界の方が、100%の再現性を求める世界よりも、心にゆとりがあって魅力的に思われた。

タケノコ族みたいな権力者の服


 さて、今日の僕たちは、夜には東横イン長崎駅前にチェックインしていなければならない。吉野ヶ里遺跡を1時間で足早に見学すると、古代ロマンを感じるのもほどほどに次なる目的地へ出発した。

・メンバー
明石、尾道


この記事が参加している募集

#休日のすごし方

53,842件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?