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「えっ?尾身会長逮捕!?」 誤解招いた見出し、どうすればよかったのか 記者が考えてみた

こんにちは。ネット記者を20年近くやっている岡田有花と申します。記事の見出しをつけるのが好きです。見出しをつける専門の仕事もしています。

最近気になった見出しについて考えてみたいと思い、noteを書きました。

尾身会長が逮捕!? 誤解招いた見出し

 今回題材にするのはNHKが8月12日に配信したこんな見出しの記事です。

「尾身会長が理事長の法人建物に侵入 玄関壊した疑いで逮捕」

この見出しを読んだ人はみんなびっくりしました。

尾身会長が/(どこかの)理事長の法人建物に侵入し/玄関を壊し/その容疑で逮捕された

と読めるからです。「尾身会長、どうしちゃったの!?」ってなりますよね。

(↑元記事はタイトルが修正されているため、元タイトルが明記されたツイートをお借りしました。)

実際はもちろん、そんなことはありません。

尾身氏が理事長を務めている独立行政法人の建物に、39歳の男が侵入し、玄関ドアを壊した。そのため、警察が男を器物損壊などの容疑で逮捕した、というニュースです。

NHKの見出しの問題点を解決する

「尾身会長が理事長の法人建物に侵入 玄関壊した疑いで逮捕」

この見出しの1つ目の問題点は、「逮捕された」の主語の候補(誰が逮捕された?)が、「尾身会長」しかないように見えるとです。

なので、逮捕されたのは”尾身会長ではない別の男だ”と示すために、逮捕された主体である「男」を入れてみます

「尾身会長が理事長の法人建物に侵入 玄関壊した疑いで”男を”逮捕」

これで、逮捕されたのは尾身会長とは別の男である、と明記できました。

しかし前半がそのままなので、「尾身会長が、(理事長の法人建物)に侵入した」と読める状態は続いています。

そこで、

「尾身会長が理事長の法人建物に侵入”被害” 玄関壊した疑いで男を逮捕」

「被害」を入れてみましょう。こうすれば、尾身会長は被害を受けた側であり、建物に侵入したわけではないと明記できます。

ちなみにNHKは、批判を受けて、この記事の見出しを後で修正しています。修正後の見出しは

尾身氏が理事長務める行政法人本部に侵入 玄関壊した男 逮捕

となっています。修正箇所は

尾身会長→尾身氏 
 会長と理事長という2つの役職による混乱を避ける

・理事長の法人建物に侵入→理事長務める行政法人本部に侵入
  「尾身氏」と「理事長」が同一人物であると明記
  「法人建物」→「行政法人本部」と修正し、曖昧さ回避

ですね。

「何があったか一発で分かる見出し」にしてみる

元の見出しを離れて、「何があったのか一発で分かる見出し」を考えてみましょう。

まず前提として、新聞やテレビのニュースは、基本的に「逆三角形」でつくられています。時間や紙面の関係で、記事の冒頭だけ報じられるケースがままあるので、重要なことは最初の段落を読むだけで伝わるようにつくられています。

そこで、この記事も、最初の段落にすべての要素があるはずです。1段落目を引用します。

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210812/1000068709.html

「新型コロナウイルスに関する政府の分科会の尾身茂会長が理事長を務める独立行政法人の建物に侵入し玄関を壊したとして、39歳の容疑者が逮捕されました。
調べに対して「尾身会長が嫌いだからやった」などと供述しているということです。」

ここから、記事の要素を分解すると、だいたい4つに分けられます

・1.建造物侵入(または器物損壊)容疑で男が逮捕された
・2.男は、独立行政法人の建物に侵入し、玄関(ガラスドア)を壊した
・3.その独立行政法人は、政府の分科会の尾身茂会長が理事長を務める法人だった
・4.男は「尾身会長が嫌いだからやった」と供述している

この中で、重要な要素だと私が感じたのは
尾身会長(という有名人)が、見知らぬ人に恨まれ、物理的な被害にあったこと。

自分の身を顧みず感染症対策に奔走し、意図せず有名になった結果、いわれのない恨みを買い、物理的な被害まで受けてしまった…。SNS誹謗中傷の物理版、というイメージだな、と感じたので、それを見出しで伝えたいと考えました。

そこで、私が考えた見出しは

「尾身会長が嫌い」 関係先のガラス割った疑いで男を逮捕

です。

NHKが見出しに残した「理事長を務める」「行政法人本部」はまるごと切りました。「尾身会長関連の建物である」ことを伝えるのは重要ですが、それが、「行政法人の本部かどうか」は読者にとってそんなに重要ではないと思ったからです。

逆に「尾身会長が嫌い」は冒頭に追加しました。伝えるべきニュースは、尾身氏という著名人が、逆恨みでいわれのない被害を受けたことだと考えたからです。

また「ガラスを割った」と具体的な行為を明記することで、何が起きたかを絵としてイメージしやすくしました。

ただ、割ったことはあくまで逮捕容疑であり、裁判で確定したわけではないので、「疑い」をつける必要があります。建造物侵入も逮捕容疑だと思いますが、侵入よりガラスを割ったほうがインパクトが大きく絵に浮かびやすいので、こちらを選びました。

各社の見出しを確認する

この見出しを考えたあと、各社の見出しを調べてみると、テレビ系のニュースは「尾身会長が嫌い」を見出しにとっているところが多かったです。

一方で、新聞系は「尾身氏が理事長の行政法人」や「尾身氏理事長の医療機構」を明記しているところが多いですね。行政法人・医療機構であることは、新聞的にニュースバリューが高いのでしょう。


記者が見出しを考えるとき、どんな思考回路なのか、少しでも伝われば幸いです。

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