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21世紀の組織づくりのスタンダードを打ち立てる──MIMIGURIの知を結集した「新時代の整合性モデル」とは?

MVVの開発・浸透、人事や評価制度の構築、事業目標の管理、採用や人材育成、カルチャー醸成……「組織づくり」と称して、企業ではさまざまな施策が行われていることと思います。

しかしこれらは、組織をつくる断片的な施策にすぎず、組織づくりの本質は、さまざまな組織の構成要素を「整合」させることにあります。

これまでは、組織の整合性を確認するためのツールとして、「ナドラー&タッシュマンの整合性モデル」が使われてきました。しかし、整合性モデルは1980年代のアメリカで開発されたものであり、現代環境に適応するには限界がある。ここまでは、以下の記事で指摘した通りです。

そこで本記事では、ナドラー&タッシュマンの整合性モデルをもとに新たにMIMIGURIが開発した、冒険的組織をつくるための見取り図「新時代の整合性モデル(通称CCM)」についてご紹介します。


大前提:冒険的な組織づくりの鍵である「自己実現」のメカニズム

さて、新しい組織づくりのモデルを紹介する前に、大前提として、組織の中の個人として目指すべき状態として「自己実現」について解説します。

以前書いたこちらの記事では、個人と社会の価値観が急速に変わりつつあり、企業には軍事的世界観から冒険的世界観へのシフトが求められている、ということを書きました。

冒険的世界観において企業は、事業における社会的価値と、従業員一人ひとりの自己実現の両方を探究することになります。

しかしながら、この2つを両立させることはかなりの難題です。同じ志を持って集まったメンバーによるスタートアップ企業ならまだしも、ある程度規模の大きな組織になってくると、事業としてやるべきことと従業員個人のやりたいことは、一致することの方が少ないでしょう。

そこでまずは、そもそも「自己実現」とは何なのか、この言葉の解像度を上げておきたいと思います。

「自己実現」は、マズローの欲求五段階説における一番高次の欲求として紹介される、おなじみのキーワードだと思います。ざっくり言えば、「自分の潜在的な動機や能力を最大限に活かして、それが他者・社会貢献につながっている状態」を表す言葉ですが、これをもう少し抽象化すると「外的価値と内的動機が結びついている状態」と定義できるのではないかと思います。

人は誰しも、「こういうことをやってみたい」「こういう人になりたい」という内的動機を持っています。一方で、人には「こういうことをやって(やらないで)ほしい」と、他者や世の中から求められる役割(=外的価値)もあります。

ところが、内的動機と外的価値は、未熟なうちは折り合いがつかないものです。赤ちゃんは「何でも口に入れてみたい」という欲求を持っていても、親は「危険なことはしないでほしい」と思っていたり、高校球児は「野球を続けたい」と思っていても、親は「勉強してほしい」と思っているように、技術や経験が不足しているうちは、内的動機と外的価値がうまく結びついていることのほうが珍しいでしょう。

内的動機(下側)と外的価値(上側)は折り合わない

こうした場合、自分のやりたいことは諦め、頼まれたことや他者に喜ばれること(=外的価値)を優先する人がほとんどだと思います。あるいは逆に周囲の声を無視して自分のやりたいこと(=内的動機)に固執するケースもあるかもしれませんが、逃避的な行為になりがちです。

企業組織のなかでこうしたパズルを解くことに嫌気が指して、平日は外的価値を発揮することに徹して、土日は自分の好きなことをやるというふうに、内的動機と外的価値を満たす場所や時間軸を切り分けて対処することも多いと思います。これはある意味で仕事とプライベートのメリハリともいえるので、悪いことではありません。いずれにせよ、内的動機と外的価値を「同時に」実現することは、そのぐらい難しいのです。

しかしながら、その中でも諦めずに試行錯誤を続けていると、自分の好きなことをやることで他の人に喜ばれるようになったり、逆に人に喜ばれることが仕事のやりがいにつながるなど、内的動機と外的価値が結びつく瞬間があります。

この内的動機と外的価値が結びつき、まず個人のなかで「整合」がとれている状態こそが、「自己実現」している状態というわけです。

しかしながら、内的動機と外的価値が結びついている状態、すなわち「自己実現」の状態は、長くは続きません。なぜなら、内的動機も外的価値も、絶えず変容し続けるからです。

「相手に喜んでもらえるから」と同じことを繰り返していると、だんだん飽きてきて動機そのものが変わってしまうこともありますし、これまで求められていた役割が外部環境の変化(たとえば生成AIの発展など)によって一切求められなくなってしまう、ということもあります。

内的動機と外的価値のいずれかが変化すると、両者の結びつきはすぐさま解消してしまいます。自己実現の状態を維持するためには、内的動機も外的価値の整合性が途切れるたびに、新たな両立の仕方を求めて探究し続ける必要があるのです。

そしてこうした内的動機も外的価値の探究のプロセスを通じて、人間のアイデンティティは変容していく。私はこれこそが、人間の学習の本質だと考えています。人生というのは、絶えずこの自分の動機と自分の産み出せる価値の結びつき方を探りながら新しい何者かになっていく、アイデンティティの発達プロセスなのです。

MIMIGURIが提案する「新時代の整合性モデル」とは

前置きが長くなりました。それでは、具体的にどのようにして「社会的価値の探究」と「個人の自己実現の探究」を両立する、冒険的世界観を体現する組織をデザインしていけばよいのでしょうか。

そのための羅針盤となるのが、MIMIGURIが前時代の整合性モデルをアップデートするかたちで考案した「新時代の整合性モデル:Creative Cultivation Model(CCM)」です。

MIMIGURIが提案する「Creative Cultivation Model(CCM)」

一見すると要素が多く、わかりづらいと感じられるかもしれませんが、順を追って説明させてください。

中央の軸の一番下には、組織の内的動機の源泉、すなわち一人ひとりのメンバーの「個々の自己実現の探究」があり、一番上には組織としての外的価値の最たるもの、すなわち「社会的価値の探究」があります。その間には「組織アイデンティティの探究」「事業ケイパビリティの探究」の2つが挟まっており、それぞれの要素をつないでいます。

「組織アイデンティティの探究」とは、我々がどのような存在であるか、組織の独自性を表す共通認識(組織らしさ)を磨いていくことです。

「事業ケイパビリティの探究」とは、組織として何をメインの得意技とするのか、複数の事業のコアとなる、企業の強みとなる独自の能力(コア・ケイパビリティ)を磨いていくことです。

組織づくりの本質は、これら4階層の探究の営みを、機能的かつ精神的に整合させることにあります。

このように書くと、「なぜわざわざ4つも要素を結ぶ必要があるのか」「社会的価値の探究と個々の自己実現の探究を直接つなげればいいじゃないか」と疑問に思われるかもしれません。

もちろん、社会的価値の探究と個々の自己実現の探究を"直接"つなげることができるのであれば、それに越したことはありません。実際、人数が少ないスタートアップ企業の初期フェーズであれば、一人ひとりのやりたいことが、イコール、社会に生み出したい価値になっているでしょうから、自然に整合がとれているはずです。

スタートアップの場合は、初期メンバーの自己実現欲求が、社会的価値に直結していることが多い

しかし、これが100人、1000人、1万人と人数規模が膨れ上がっていくと、企業として目指すべき社会的価値(=組織のメンバー全員で協力するからこそ達成できる価値)と、一人ひとりの個人の自己実現の間には、あまりに距離が生まれてしまい、ダイレクトには整合させづらい。

また、組織が成長すれば、事業に直接的に貢献するメンバーだけでなく、人事、経理、総務など、間接部門のメンバーの重要性が増し、人数も増えていきます。間接部門のメンバーの業務は、組織の社会的価値の探究を、文字通り間接的に支えています。たとえば、採用担当者が、自社のらしさにフィットして、自社の強みを支える人材を採用することは、組織の「組織アイデンティティの探究」「事業ケイパビリティの探究」に貢献しています。

たとえばAI技術を扱うベンチャー企業の場合、機械学習のエンジニアはそこで会社としての社会的価値の探究と個々の自己実現の探究を両立できていたとしても、コーポレート部門の人はその会社にいる意味がわからない(他に会社でも同じ仕事ができる)、というようなことが起きてくる。

そこで、ナドラー&タッシュマンの整合性モデルを「事業」「組織」「職場」の3つの階層に分け、「事業ケイパビリティの探究」と「組織アイデンティティの探究」という2つの媒介変数を挟むことによって、どんな組織のどんな部署の人であっても、メンバー全員が自己実現を諦めずに、この組織にいる意味を感じられる組織づくりの可能性を模索できるのが、このモデルのひとつの意義というわけです。

MIMIGURIのコーポレートサイト用にデザインした別Ver

「事業・組織・業務構造」の機能的整合、「ブランド・組織文化・職場風土」の精神的整合の両立

CCMにおいては、「事業」「組織」「職場」のそれぞれのレベルで整合性を取っていく必要があるのですが、このとき必要なのが「業務構造」「組織構造」「事業構造」といった構造(ハード)の機能的整合と、「職場風土」「組織文化」「ブランド」といった文化(ソフト)の精神的整合です。

組織が大規模になると「事業」「組織」「職場」は整合どころか分断が起きやすい。
これを「構造(ハード)」と「文化(ソフト)」の両面から噛み合わせる。
構造(ハード)は機能的・論理的に整合させる。
文化(ソフト)は精神的・物語的に整合させる。

「業務」や「組織構造」など、構造(ハード)の機能的整合の重要性は、ナドラー&タッシュマンの時代から指摘されていました。

一方で現代では、「企業とつながっていると感じられる」「自社のブランドに誇りを持てる」といった、従業員の主観によって解釈される、感情的な整合性も非常に重要になってきています

そのためこのモデルでは、構造の機能的整合と対になるものとして、文化の精神的整合という軸を置き、事業を対外的に印象付ける「ブランド」、組織が暗黙知的に持っている規範である「組織文化」、職場の雰囲気や人間関係、コミュニケーションのあり方を表した「職場風土」と、それぞれの階層に対応する要素を配置しています。

最も重要なのは、個々の自己実現の探究と社会的価値の探究を整合させることにあるわけですが、その実現のためには「事業」「組織」「職場」のそれぞれの階層で機能的整合かつ精神的整合を噛み合わせる必要がある。CCMは、まさに現代の経営の複雑なバランスを表した見取り図なのです。

CCMを実現させ、組織の整合性を高めるためには、「事業」「組織」「職場」のそれぞれの階層を絶えずデザインし続けることが重要です。それぞれの詳細な解説は別の機会に譲りますが、各階層の要点だけ示しておきます。

事業と職場をつなぐ、中央の「組織デザイン」はCCMの肝になる
事業多角化のシナジーをいかに生み出すか
心理的安全性などの風土ケアにとどまらず、全員の自己実現を尊重する

CCMは、あくまで経営・マネジメントチームの対話ツール

人間の身体において「腰痛だけ取り除く」「内臓だけケアする」という"点"でのケアがあまり意味をなさないように、事業・組織・職場の各階層は密接に絡み合っています。すべてが完全に整合したらゴールということではなく、絶えず変化を自ら生み出しながら、整合を取ろうとし続けること。

そのためには、CCMを客観的な診断ツールではなく、経営・マネジメントチームの対話のツールとして使うというスタンスが非常に重要です。

冒険的世界観にもとづくな組織づくりは、組織のどこにズレが生じているのか、現在の状況を各々が見立て、共有することから始まります。

このモデルの具体的な活用方法については、これからもこのnoteやその他メディアなどで発信していくつもりですが、まずはみなさんの組織で「構造は機能的に整合しているだろうか?」「文化は精神的に整合しているだろうか?」「各現場で自己実現の探究は支援されているか?」「最も整合が切れている部分はどこか?」など内省してみて、ぜひ対話ツールとして使ってみてください。

MIMIGURIは、CCMに基づく組織づくりのコンサルティングを得意としています。ご関心がある企業様はぜひお気軽にお問い合わせください。


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