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マスがブランドを駆逐する

私が住んでいるエリアは一般的には“おしゃれ”と形容される。そして、“おしゃれ”と形容されるエリアには美味しい飲食店が多数あると思われがちである。実際に、「美味しいお店、近所にたくさんあるんでしょ、羨ましいなぁ」とよく言われる。

このあたりに引っ越してきてあと数ヶ月で3年になる。この間に近所のあちらこちらの飲食店に足を運んでみたが、「美味しい、再訪したい!」というお店は限られる。よって、定期的に新しいお店は開拓しているものの、結果的に“いつものお店”に戻ってきてしまう。

そんな中で気づいたのは、“おしゃれなエリア”にあるのは“おしゃれなお店”であり、必ずしも“美味しいお店”ではない、ということ。当たり前のようだが、冒頭に書いた通り、“おしゃれなエリア”にあるのは“美味しいお店”であると思っている人は多い。それはもしかしたら、頭のどこかに「おしゃれなお店は美味しい」という“刷り込み”があり、それにより三段論法的に「おしゃれなエリアには美味しいお店がある」という命題が成立しているからかもしれない。


先日の会食でのこと。

会食相手から“おしゃれエリア”である私の家の近くを指定された。お店探しは私。「近所の美味しいお店リスト」の数少ないお店の中から、1年ほど足が遠ざかっていたイタリアンをチョイスした。

19時少し前にお店に到着すると、まだお客さんは誰も店内にはいなかった。店員さんは私を見て、一瞬だけ不思議そうな顔をした。それでも予約名を告げると、席に案内された。

オープンが19時だから早く来られて戸惑ったのだろうか、と思い、開店時間を確認すると18時だった。会食相手を待ちながら、私は胸騒ぎがした。

時間通りに相手が到着し、飲み物を注文してコースがスタートした。少ししてから他の客も到着した。私たちをいれて4組、お店の3分の2ほどが埋まった。

料理は美味しかった。そこに不満はない。何度か訪問した時からアップデートがあるわけではないが、これはこれで安心感がある。

ただ、気になることがふたつあった。

ひとつはウェイター。声があまりにも小さく、いっていることが全然聞こえなかった。また、料理に関する説明もきちんと覚えておらず、雑に感じられた。さらに、注文も2度ほど間違えられた。前はこんなことはなかったはずなのに。

もうひとつは客層。隠れ家的な雰囲気のある、上品なお店なのに、大声で喋り手を叩きながら笑う下品な客が私たち以外の3組中2組もいたのだ。お店は客を選べないので、こればかりはお店のせいではないし、その日たまたまそういう客が多かっただけの可能性はなくはないが、私はちょっとガッカリしてしまった。

そのときふと、一年ほど前にこの店がとある雑誌に紹介されていたことを思い出した。人気のある雑誌である一方、あまり上品なイメージはなく、掲載を知った時、「予約が取れなくなって変なお客さんが増えちゃうのかな…」と思ったことを覚えている。

それが今では予約は取れるが変なお客さんが多いお店になっているようだ。なんとも悲しい話だ。


その雑誌に掲載されたことがお店にどう影響を及ぼしたのかは正直よくわからないが、上記のような微妙な体験をしてしまった手前、再訪は考えにくい。残念でならない。

仮にその雑誌がお店に悪影響を与えているとしたら、なんとも恐ろしい話だ。きっとお店の方々はすごく喜んだだろうし、友人たちから「あの雑誌に載ったの?すごいじゃん!これから大繁盛するね」といわれたに違いない。結果的にお店にとってネガティブなこととなるなんて、露ほども思っていなかっただろう。


帰り道、私は自分のことに置き換えて考えざるを得なかった。もしçanomaが、ひょんなことから大衆的な雑誌に大きく掲載されたり、有名な人に紹介されたりして、私の意図とは違うところで変な形で人気が出てしまったら…考えるだけで恐ろしい。

とはいえ、それはコントロールしようにもできないことだ。流れに任せるしかない。今のところありがたいことにそういった現象は起きていないが、そんなことを考えると背筋が凍る思いがする。


鳴かず飛ばずでもダメだし、バズるのもよくない…結局のところ、真面目にコツコツやって、徐々にファンが増えていく、というのが一番いいのだろう。

派手さはないけど堅実にやっていこう…と改めて思わされた、そんな夜だった。


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