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音のふしぎ

理科の教育テレビみたいなタイトルですが。
今回の渡米での大きなミッションの一つだった機材整備。
写真はいわゆるギターのエフェクターというやつです。アメリカでは「ペダル」といいます。これだけ見ても何なのかよくわからないとは思いますが、僕にとっては何物にも変え難い宝物なのです。
ロックバンドで演奏しライブをし録音仕事をするギタリストという人間にとって大切なのは、ギター・アンプ・ペダルの三つです。
ギターがなければそもそもギタリストではありません。
アンプというのは音を出すスピーカーです。これがないとエレキギターはただの音の小さなギターです。
そしてペダルです。これは必要な人と不要な人に分かれるでしょう。なくてもいいという人もいます。それはスタイルや音楽の違いによるのです。僕にはどうしてもなくてはならないものです。

僕は一番気に入っているギターを持ってアメリカに行きました。
どうして気に入っているかというと音が好きだからです。
ギターなんてどれも同じような形をしていますが、音は違います。明確に違います。全然違うのです。僕はアメリカで音楽で生きていくために一番気に入っているギターを持っていきました。自分が一番好きな音、良いと思う音で演奏しないと意味がないと思ったからです。そのギターは僕の音楽人生の大半を一緒に過ごしてきたギターです。
アンプはどうしようか。アンプにも個体差があり、明確に好きな自分のアンプが日本にありましたが、とても大きく重さが20キロ以上あります。流石にそれをアメリカに持っていくことはできませんでした。
そしてペダルです。僕はとてもたくさんのペダルをつなげて使うのが好きです。ペダルをつなぐと何が起きるのかというと音が変化するのです。音色が変化したり、音量が変化したり、音符が増えたり、ノイズを出せたりします。それが好きなのです。ペダル一つ一つは働きも作用も違います。その個々の作用や効果は知っています。でもそれを何個もつなげるとどんな効果が生まれるかよくわからないことが多いのです。それが楽しいのです。おもちゃのようです。何時間でも遊んでいられます。その姿はハタから見ると訳がわからないと思いますが、それが好きなのでどう思われても気になりません。そんなたくさんのペダルを全てアメリカに持っていきました。そしてアメリカをツアーし、録音し、音楽を演奏し作ってきました。

この4年半、それが全て手元を離れアメリカにあったのです。
これは本当に辛いことでした。コロナという不可抗力でどうすることもできないことでした。日本にはサブのギターがありました。同じメーカーの同じ形のものです。でも音は違うのです。気に入っていたアンプを日本に置いてあったのはせめてもの救いでした。ですがペダルは一つもありませんでした。これは本当に困りました。シールドと呼ばれるギターとアンプをつなぐためのケーブルもなかったのです。コロナが大爆発してしばらく経ったあと、営業を再開していた音楽スタジオに行った時はシールドもペダルもレンタルしました。余談ですが日本のスタジオはそんなものまで貸してくれるなんてすごいです。
日本で何とか家を見つけ仕事を見つけお金が入り始めた時に、少しずつペダルやシールドを買い始めました。音楽を作るためでした。今手元にある機材で一番いい音を出すにはどうしたらいいか必死でした。昨年リリースした『PROTOTYPES』『SessionS』『Re-Sing』は全てそうやって作ったアルバムでした。そう考えるとこの三作はとても思い出深い作品です。

4年半の間、いつも「あのギターの音はどんなだったかなあ」といつも考えていました。そして今回やっとギターとペダルに再会し、持ち帰ることができたのです。感激でした。アメリカで再会した時、ギターを鳴らしてその感触を思い出していましたが、日本に持ち帰って、そのギターとペダルとアンプが再び勢揃いしました。この4年半で買い足したペダルも追加されました。それが上の写真です。その音を出した時の興奮は忘れられません。ずっとニヤニヤしていました。ああ、そうだこれだこれだ、これだった、とずっと触っていました。
ただの音です。電気と機械で増幅された信号が鳴っているだけです。そうなのですが、僕という人間の脳や神経や肉体にはゾクゾクするほど響くのです。ただの音なのですがどれでも同じ、ではないのです。不思議です。本当に不思議。演奏する楽器から鳴る音というのは本当に不思議です。何が違うのでしょう。わかりません。ただ違うということだけはわかります。そしてその違いが感覚に与える作用はそれぞれで全く違うのです。不思議です。

兎にも角にも、こうして全ての自分の楽器と再会し、全てを一つにつなげてまた演奏することができます。ここまで完璧な状態で保管してくれていた友人たちには心から感謝しています。彼らがいたからこそ、今のこの喜びがあるのです。
4年半待った甲斐がありました。
さらに楽しく音楽が演奏できそうです。

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