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塩屋、坂道、泉のようなガラス

一年ほど憧れ続けていたガラス作家さんの作品を関西で見ることができるということで、少し前に、兵庫・塩屋のギャラリー「yamne」さんへ行ってまいりました。

お目当ては、栗原 志歩さんの吹きガラス。

JR三ノ宮で普通電車に乗り換えて9駅、がたごと移動します。
新快速の混みっぷりが嘘のように、乗客がまばらでのどかな車内。

ところで、JRもしくは山陽電鉄でこのあたりを東から西へ移動する際は、進行方向に向かって右側の座席に座るのがおすすめです。西からの移動のときは、逆の座席に。
JRの場合、鷹取駅を過ぎて少しすると、対面の窓から須磨の海を眺めることができます。関東の方には、江ノ電で七里ヶ浜あたりを通り過ぎるときの雰囲気、と言ったら伝わるかしら。

もう潮干狩りのシーズンになっているようで、赤と白のパラソルが砂浜にびっしりと立っていてにぎやかでした。

もともとは須磨あたりに住んでいた人間なので、普通電車の車窓から眠たそうに凪いだ瀬戸内の海を見ると、帰ってきたなあ、という気持ちになります。


塩屋駅で電車を降りるのは、実は初めて。
ふつうの住宅街、というイメージを勝手に抱いていたけれど、細い路地にみっしりと飲食店や古着屋が詰まっているエリアがあったり、歴史のありそうな魚屋さんや八百屋さんがあったり、そうかと思えば高台にカフェがあったりと、なんだか探検のし甲斐がありそうな雰囲気です。

TRUNK DESIGNでお昼ごはん

まずはお昼ご飯を。

垂水に拠点を置くデザイン事務所が運営している、雑貨屋さんとカフェが一体になったようなつくりのお店です。

お店は2階だけれど、坂道の途中にあるせいかそれ以上の眺めに感じます。
大きな窓に向いたラタンのソファが、日差しを浴びて気持ち良さそう。カフェでの利用だったらそこにすわりたかったな。

季節野菜のペペロンチーノ

ランチのメインはパスタとスープを選べて、私は「季節野菜のペペロンチーノ」のパスタランチを。
パスタがあんまり見たことない感じの太い麺でした。太さといい色といい、ちょっとお蕎麦みたいな和風の雰囲気。歯ごたえがあって、オイルとの絡みがよかったです。
しっかり焦がされた葱が香ばしくておいしかった!

一緒に行った母はスープランチを頼んでいました。
メインのスープは、じゃがいものポタージュにパスタと同じく葱がはいったもの。
塩気はかなり控えめで、代わりにしっかりとスパイスが利いています。
野菜の甘みをしっかり感じてほしい、という意図を感じるスープでした。

併設されている雑貨屋さんは、ちょっと変わった品ぞろえ。
い草を使ったアクセサリーと、組紐との組み合わせを選べる小さい「おりん」が気になりました。

おりんはカフェでの呼び出し用ベルとしても使われていて、硬質な澄んだ音がとてもきれい。

坂道を登ってギャラリーへ

パスタを消化すべく、坂道の上にあるというギャラリーに向かいます。

坂道、予想以上……!

急勾配をひたすら登る

擁壁工事の最中らしく、車は通行止めになっている様子。
ひと気もないので、「これ、入っていいところなの……?」とちょっと思いつつ、ひたすら登っていきます。
あとからギャラリーの店主さんに伺ったところ、工事前は緑のトンネルができるくらい、木が生繁っていたそう。その光景も見てみたかったな。

もっこう薔薇が自生していました。
立派な藤!
まだまだ登るよ~
海が見えるね

で、Googleマップ上はお店のすぐ近くに来ているのですが、どこに入り口があるかわからないという事態が発生。
右往左往していたら、自転車で颯爽と通りかかった地元の方が「yamneさんに行くの?」と声を掛けてくださいました。
愛されているお店なのだなぁ(そして、迷う人が多いんだろうなぁ)。

ギャラリー「yamne」にたどりつく

どうにかたどり着いたギャラリーは、靴を脱いで上がるタイプ。古民家を改築してお店に仕立てているようで、親戚のお家にお邪魔するような感覚を覚えます。
たたきに整列したお客さんの靴は、見事にスニーカーで統一されていました。あの坂道だものな。

店内は二部屋に分かれていて、片方はカフェのような使い方をされていました。
今回お邪魔した展示のテーマは「架空の朝ご飯と器のお店」だそう。会期中は日によっていろいろなお店が提供する食事を、展示されている作家さんの器でいただくことができたようです。

5名の器作家さんの展示は、焼き物にガラスにと多様。
土を感じるざらりとした器は床の敷物の上に、透明感のあるガラスは窓辺にと、それぞれの世界観を引き立たせるような置き方をされていたのが印象的でした。
磨りガラス越しに柔らかな光を投げる大きな窓にはガラスのモビールが飾ってあって、すぐ外まで新緑の気配が迫っています。
お天気が良かったからか、うぐいすや椋鳥や雀や、名前を知らない鳥の声もたくさんして、森のなかにいるようでした。
こんなところで働くの、楽しそうだな。
通勤はちょっと大変かもしれないけれど。

他の作家さんの器も素敵……、と迷いながら、初志貫徹で栗原さんの器をいただきました。

ガラスを愛でる

何もかも欲しいものばかりだったけれど、台つき碗をひとつと、浅鉢をふたつ購入。
浅鉢のほうは20センチほど、ひとり分のメイン料理や麺類も軽々と盛りつけられる大きさ。これからの季節、活躍してくれそうです。

台つき碗のほうは、上部のまろいフォルムと高台のシャープさのコントラストが素敵。
高台の縁がきらりと輝くのに、うっとりしてしまいます。

家にもとからある量産品のガラスコップと同じ素材のはずなのだけれど、なんだか透明感が段違いな気がします。普通のガラスが冷蔵庫の製氷機で作った氷だとしたら、栗原さんの器は山奥の洞窟でゆっくりゆっくり凍ったつららを削り出して作られたよう。

内部に閉じ込められた細かな泡がまた綺麗なんだ。
表面のわずかな揺らぎに溜まる光と、気泡が落とす静かな影を眺めていると、澄んだ泉をのぞき込んでいるような気持ちになります。

眺めているだけで満足してしまって、まだ料理を乗せられていません。
シンプルなグリーンサラダやお素麺なんかも、この器に盛ればご馳走に変身してくれそうで、とても楽しみです。

おまけ

塩屋の駅すぐそば、魚一商店という鮮魚店で購入したあさりが見たことないほど新鮮で驚きました。
見てこのにょろにょろさ……!

ちょっと愛着がわいてくるレベルのにょろにょろさ

酒蒸しにしたのですがめちゃくちゃおいしかったです。あさりに「甘ーい!」って言ったの初めて。

塩屋、面白い場所だったなあ。今回言及したお店のほかにも、面白そうな場所がたくさんありました。

印象的だったのは、すっごく奥まった場所にあるギャラリーに、お客さんが次々と入ってこられていたこと。
常連さんもいたのかもしれないけれど、私のようにSNSでお店を見つけて来られている方もいた様子でした。
インスタとかってdisられることも多いけれど、「規模は小さいけれど面白いこと」をしている人がきちんと世間の目に触れる、という点で現代では立派な文化の担い手になっているのよね、と感じます。

少し遠いけれど、実家に帰るついでにまた遊びに行きたいな、塩屋。

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次はこちらの記事で紹介されているルートを歩いてみたいです。
海と坂は神戸の醍醐味。

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奈良散歩の記録はこちら


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