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映画『枯れ葉』アキ・カウリスマキ 監督

映画『枯れ葉』2023年・フィンランド/アキ・カウリスマキ監督

ユーモアとノスタルジーに内包された、崇高な人類愛──

ヘルシンキの街で、アンサ(アルマ・ポウスティ)は理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)は酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのか……

アキ・カウリスマキ監督作品のファンにとって、本作は6年振りの待望の作品というだけではなく、まさにアキ節なるものがより一層強く表現されていた、これぞアキ!!!と思わずにはいられない作品であった。

過去の監督の作品である労働者三部作「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」の四作目とも監督自身も口にするように、本作もそのような労働問題や社会問題を作品に込められているラブ・ストーリーに仕上がっている。
だが、本作には過去の三部作にない要素も強く込められている。
現在も続くロシアによるウクライナへの軍事侵攻への監督なりの想い。
本編中、ラジオが流れるシーンで、繰り返し流されていたのが軍事侵攻の実情であった。その内容が本編中の二人の心に落とすものまで、観客も同時に共鳴するかのように描かれている。

わたし自身、ものすごく胸が揺さぶられたのは、アンサが放った戦争に対する吐露だ。
序盤では軍事侵攻を伝えるラジオが流れていても、何も口にすることもなかったが、主演の二人が対峙するシーンになったとき、アンサの感情が露わになる。
はっきりとそれは口に出される。戦争というものは、うんざりなんだ、と。
俳優が言ったセリフだけど、わたしには監督の言葉に聞こえた。
監督なりの、監督にしかできない社会への投げかけだと思う。

ほかにも語り尽くせない魅力が本作にはあった。
これまで以上に音楽が魅力的に多様されているし、監督の映画愛がこれまでの作品で一番と言っていいほど炸裂していた。撮影に関してもこれまで以上に明暗や色調の美しさが本作にはあった。個人的には、最高やん!!!って叫びたくなった。監督の作品では初出演となる、二人の主演俳優も素晴らしかったです。

「ブレッソン、小津、チャップリンへのささやかな敬意を捧げてみた」
監督自身は本作を、そう語った。
まさにその通りなんだけど、それだけではない素晴らしい想いみたいなものが、監督にしかできない形で本作にはありったけ込められているとわたしは思う。

筆者:北島李の

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