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第130回MMS放送(2016/06/24対談) 「『チームビルディングプログラム』を展開し、結果を出せるチーム 作りのノウハウを広げる」楽天株式会社 楽天大学学長 仲山考材株式会社 代表取締役 仲山進也さん

●フェロー風社員(自称)

enmono(三木) はい、ということで第130回マイクロモノづくりストリーミング本日も始まりました。司会は株式会社enmono三木でございます。本日は楽天の仲山さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

仲山 よろしくお願いします。

enmono あと声の出演の――。

enmono(宇都宮) はい、宇都宮です。

enmono 仲山さんと私の出会いは鎌倉繋がりということで。

仲山 そうですね。

enmono カマコンというところでお目にかかって、『iikuni』という鎌倉専用のクラウドファンディングで一緒にサポートメンバーとして活動させていただいています。

enmono 最初にお会いした時にサラリーマンの方ではないと思ったんですね。要はフリーランスでなにかやられていると。

仲山 サラリーマンに見えなかったと。

enmono そうなんです。でも実は楽天という会社の……25番?

仲山 社員番号25。

enmono 社員番号25番目の方だということで、非常に自由な感じでお仕事されているスタイルを見て、すごく不思議というか面白い働き方をしているなと。ご自身もフェロー風社員ということで。

仲山 自称ですね。

enmono(宇都宮) 自称なんですか?

仲山 自称なんです。

enmono そういう楽天という会社にいながら、割と自由な感じで働いていらっしゃる。そのスタイルがどういう風に生みだされたのかということを中心にお話を伺いたいと思います。。

仲山 参考になるかわからないですけども。

enmono 簡単に、学生時代から楽天に入るまでどのような経緯があったのかをお願いします。

仲山 どこから話したらいいですか?

enmono どこ出身とか。

仲山 出身は北海道です。

enmono(宇都宮) 大学はどちらですか?

仲山 日吉に5年間住んでおりまして。

enmono(宇都宮) じゃあ慶應ですね。5年制ですかね。

仲山 5年制じゃないですけど(笑)。4年の時に司法試験を受けていて。

enmono 弁護士を目指していたのですか?

仲山 検事になろうと思ってたんですけど、ただなんとなく思っていただけで、今思えば全然受験対策もできていない状態で、そもそも試験勉強って苦手だなって思って、大学に入る時にも地元の高校の指定校推薦というので大学に入ってしまったので。

enmono あ、そういうのがあるんですね。

仲山 結構田舎のそれこそ旧制中学からあるような高校だと、そういう枠が結構あって。

enmono じゃあ成績よかったんですね。

仲山 まぁ学校の成績は。なので、司法試験落ちた時によくよく考えて、なんのために(検事に)なりたいのかもよくわからない。

enmono (笑)。

仲山 とりあえず法学部に入るとその先に司法試験がある、みたいなのがあるじゃないですか。そのぐらいの動機だし、あとは試験嫌いだったなと思って。

enmono 法学部に入ったのは、推薦だったから入ったんですか?

仲山 遡ると楽天に入るまでにかなり時間がかかりますけどいいですか?

enmono いいですよ。


●少年時代――サッカーを通じて得たもの

仲山 元々子どもの時に、小学校の時に遊びでサッカーをするようになり、『キャプテン翼』が流行っていた頃で。

enmono(宇都宮) その年代ですね。

仲山 クラスのガキ大将がみんなでサッカーやるぞと言いだして、ボールを蹴り始めるんですけど、まぁハマり始めて、まわりの人が飽きた頃に僕はまだ夢中でやっていて、放課後に集まった人で小学校のグラウンドとか近所の公園とかで集まった友達とサッカーをやるというのをずっと遊びとしてやっていて。

仲山 その頃はまだ野球少年団しかなくて、サッカーは大人の指導者がいるような組織はなくて、集まった子どもたちでひたすら暗くなるまで――6時まで公園でサッカーする。まぁゲームしかしないんですけど。基礎練のやり方とかもわからないので。そんな遊びをする中で……人数とかバラバラじゃないですか。

仲山 遅れてくるヤツもいれば、早く帰るヤツもいて、人数が変わったり、チームのバランスとかがたまたまよくなくてすぐ点差が開いて5-0とかになると、片方がヤル気なくなってくるじゃないですか。だからその辺の6時までみんなが『あー楽しかった』と思えるようなバランスをいかに取れるかを工夫しながら過ごすっていうのをやってた感じがあって……。

enmono その辺からもうチームビルディングが始まっているわけですね(笑)。

仲山 今振り返るとですね。

enmono(宇都宮) いかに楽しく。

仲山 そう、いかに楽しく6時まで。で、明日も来たいなと思える状態にしないといけないので、自分だけ勝ちすぎるわけにもいかず。でも最終的にはちょっと勝ち越した状態で帰りたいな、みたいなことは考えますけど。一応、負けず嫌いなので。

enmono(宇都宮) マネージャーとして優秀ですね。

仲山 マネージャーなのかわからないですけど、自分が長続きさせたい楽しみを味わいたいというのはあると思うんですけどね。
仲山 そんなことをやってたり、あとはサッカーのルールって誰もちゃんと知らないわけですよね。で、何年生かになった時に本屋さんでサッカーのルールブックを見つけて、買って読んでみたんですよ。

仲山 そしたら知らないルールが載っていて、次の日からその状態になった時に「これ反則なんだよ」って言ってみたんですけど、誰もそんなルール知らないんだけど、「だって俺、本に書いてあったの読んだもん」って言ったら、みんな「そうなの?」って言いながら従ってくれるようになるんですね。

仲山 そのルールが普及していくんですけど、そんな経験をしながら、世の中にもこういうルールがいっぱいあるようなので、ルール知らないっていうのは損だなと思って、世の中のルールを勉強させてもらえるところがどうやら大学というところにあるらしい。法学部というところらしいと中学生くらいの時に知って、「大学は法学部へ行きたいな」とその時に思ったんですね。

enmono すごいですね。中学生の頃から。

仲山 はい。そんな動機です。で、法学部へ入りました。司法試験あります。裁判官と検事と弁護士があるじゃないですか。弁護士は自分がどっちにつくかで言うことが真逆になる仕事っていうのが、なんかしっくり来なくて。

仲山 「正しい」と「間違ってる」だろうという感じなので。裁判官は「自分は人を裁くほど偉い人じゃないなぁ」と。そういう意味で検事の方がしっくり来るなと。誰か憧れてるような人がいたとかじゃなくて、なんとなく、なるとしたら検事かなと。弱い動機として。
仲山 今となっては落ちてほんとによかったなと思っています。そんなことがあって、試験嫌いだなと思い出して、親に「すみませんでした。就職してみようと思います」って言って。僕はベビーブーム世代なので就職氷河期みたいなタイミングだったので。

enmono 何年生まれでしたっけ?

仲山 1973年です。そうすると大学卒業しちゃうと就職できないよみたいな話を聞き、よくわかんないけどそうなのかなと思って、自主留年という仕組みがあるらしいと知って、5年生にさせてもらって。で、就職活動を始めてみるみたいなところから始まって。

enmono(宇都宮) 1年間学業はなにもないんですよね?

仲山 一応3年の時には卒業単位を取り終わってたんですけど、5年生になるとちょっとだけ取らないといけない単位数がまた出てくるので、それくらいですね。

enmono 基本、成績はいい方なんですね。

仲山 学校の勉強はちゃんとする方ですね。楽をしたいから。好きなことに文句を言われたくないので。

enmono 自分の考えを強く押し通すというよりは、にゅるっと押し通す感じなんですかね。

仲山 そうですね。あまり人に迷惑をかけたくないので。その方が楽しみやすいかなと。


●楽天入社の経緯

enmono まだ、ベンチャーみたいな社員数20数名の楽天に入られるわけなんですけど――。

enmono(宇都宮) 学校を卒業してすぐだったんですか?

仲山 最初にそうやってわけのわからない就職活動が始まって、それこそ就職対策もしていないんですよ。就職のマニュアル本とかも読まずに始めて。

enmono(宇都宮) 推薦とかがあったわけじゃなくて?

仲山 なにもないので。色々受けに行き始めて、面接をして、「第1志望はウチですか?」と聞かれて、「いや、第1志望っていうのはないんですけども」――。

enmono (笑)。

仲山 って答えたら、かなり落とされて、結局50社くらい回ってみた結果、3社だけなんか知らないけど内定をくださるところがあって、その中の「こっちか、こっちかな……」って思うくらいのところが、一つがサッカーのManchester Unitedの胸スポンサーで、もう一つが鹿島アントラーズの胸スポンサーだったんです。なので、ここはやっぱマンUかなと思ってSHARPっていう会社に。

enmono あっ。そうか、SHARPに入られたんですね。

仲山 はい。

enmono いきなり楽天ではなくてSHARPなんですね。

仲山 で、文系が60人いて、理系は400人くらいいるんですけど、僕は文系の採用で文系60人で研修とか受けたりするんですけど、奈良に配属になり、同じ奈良に配属になった同期がいて、そいつと敷地内で会った時に「どう最近?」みたいな挨拶をするんですけど、結構「うーん、全然」という返事が返ってくる友達がいまして。

仲山 「なんで?」と聞いたらちょっと言えないような仕事があんまりしっくり来ない。足に重りがある。どちらかというと方向性としては愚痴っぽいというよりは「もっといっぱい、思いっきり働きたいんだけどなんとなく不完全燃焼」みたいな、そういう方向性の話なんですけど。

仲山 そんな話をよくしている友達がいて、「わかるわー」みたいなことを言ってたんですけど、そいつが2年目に入った時の夏に、同期に「いんたーねっとのベンチャーの会社に行くことになりました。さようなら」みたいな。「インターネット」も平仮名で書いてあったような2行くらいのメールを残していなくなりまして。98年ですね。

enmono(宇都宮) ああ、じゃあインターネットが普及し始めた頃ですね。

仲山 池田っていうんですけど、彼のことをよく知っている同期が、「池田が行ったのはこの会社だよ」と携帯の裏にロゴマークのシールが貼ってあって、それを見たら日の丸に筆文字で楽天市場と書いてあって、ヤバそうな雰囲気のロゴが載っていて。

enmono(宇都宮) 最初はちょっと怪しかったですよね。

仲山 インターネットにまったく疎い僕にとってはそれがなにを意味するのかもまったくわからず、「ふーん」って言ってたんですけど、さらに1年が経ち、僕は3年目に入って、その4月くらいの時に電話がかかってきて、その池田という友達からいきなり一言目に「どう? そろそろ」と言われて。

enmono (笑)。

仲山 「なにが?」って聞いて。「人足りないんだよね」って言われて。「え? なにが?」「ウチの会社」
仲山 で、「どうなの最近」というようなことを聞いたら「楽しい」って言われたんですよ。おきまりの挨拶が不成立みたいな感じなんですよ。以前は「うん、全然」っていう感じだったのに。ちょっとザラッとしたものを感じまして、「なんだろう?」みたいな。

仲山 ちょっと気にはなったんですけど、でも3年はいようと思っていたので、あと1年はいようと思ってるしみたいな話はしたんですけど、「東京に来る機会とかないの?」と聞かれて、ちょうどその翌月のゴールデンウィークに友達の結婚式に呼ばれて東京へ行くことになっていて「来月ゴールデンウィークに行くんだけど」と言ったら「じゃあメシ食おうよ」と。

仲山 まさにこの渋谷で99年5月2日にごはん食べながら3時間くらい話聞いたんですけど、やっぱりなんの話かまったくわからず。でも「楽しい」って言ってるから気になってはいたものの、「まぁ3年は」って言って、そしたらその友達が「今ウチの会社15人なんだけど、社長が年末までに60人にするって言ってるから、仲山来年の4月でしょ。そしたら100人くらいか……。うーん、20番目と100番目って違うんだろうな」ってボソッと言いまして。ちょっとそれを「確かに」と思っちゃったんですよね。

仲山 3年はいようと思っている理由はふわっとした感じなんですよね。でも確固たるものがあるわけじゃなくて、3年経ったらなんか見えてくるのかなみたいな。それと「20番目と100番目」っていうのを比べてみた時に、やっぱりこっちの方が気になるなと思って。「社長って会えるの?」って聞いたら、その場で携帯電話で社長に電話をして「じゃあ3日後の5月5日に」と。

仲山 その頃、東京の祐天寺にオフィスがあって、朝祐天寺の駅前で友達と待ち合わせをして、一緒に朝ご飯をドトールで食べながら「今日ってその社長には僕のことはどうやって伝わってんの?」って聞いたら「んー、一人ゲットしたって言ってある」って言われて「あ、そうなの」と。

enmono ゲットされちゃったんだ。

仲山 「そうなんだ」って会社に行き、三木谷浩史さんという方が出てきて、10分くらい本当に雑談。「休みの日なにしてんの?」みたいな雑談をして、「サッカーやってます」みたいな、そんな話をして「じゃあよろしく」って手を伸ばされたので、まぁこう握り返して。そしたらその友達が入ってきて、「そこのパソコン空いてるから物件でも探せば?」って。で、普通にこう賃貸情報のサイトを見ながら、「東京家賃高っ」と思うみたいな。

仲山 帰りに楽天市場に出店資料請求すると送られてくる資料一式の封筒がありまして、それをもらって帰ったヤツを帰りの新幹線で見てて、静岡にさしかかったあたりで初めて「こういう会社なんだ」。新聞で取材された記事のコピーが入っていたんですけど、インターネットの力で日本の中小企業を元気にって書いてあって、色んな全国各地の中小企業が楽天市場に出店してネットでがんばっているうちに売れてきて仕事楽しいとかいう状況になってますという記事があって、それを読んで「あ、こういうことをやってんのか。面白そうだな」と。

仲山 ゴールデンウィーク明けに会社に行って、「すみません、あの、次が決まってしまったので辞めます」っていう。

enmono(宇都宮) 唐突に? ひと月は必要じゃないですか。

仲山 はい。それで色々ありながら6月20日に辞めることになり、6月21日から楽天に入社、みたいな感じで。

enmono なるほど。これ(画面の写真)出してもいいですか?

仲山 はい。これは入社直後の夏に社員合宿をやった時のですね。

enmono ゴルフ場で合宿をしたんですね。

仲山 その時に楽天に出店していたペンションが軽井沢にあって、その頃はまだ楽天トラベルとかもないので、宿が出店しても普通に楽天市場の仕組みを使って、空いた部屋を商品として登録して注文を受けるみたいな、そういう形でやっていたんですけど、そこにみんなで行って、合宿をしてという感じですね。

enmono そういう流れがあったんですね。


●最初はわからないことだらけだった

enmono(三木) 楽天に入った時のお仕事はどんなことをしていたんですか?

仲山 一番最初は朝会(あさかい)っていうのが毎週月曜日8時から、9時半始業なんですけど、月曜8時からあって、全社ミーティングがあるんです。僕、入社日が月曜日だったので、いきなり最初が朝会だったんですけど、ちょうどこのくらいのテーブルの大きさに20人くらい丸く並んで朝礼みたいのをやるんですけど、1時間話聞いてて日本語なのに8割方意味がわからなくて。

enmono インターネット用語みたいな?

仲山 はい。カタカナはほとんどわからないし、言ってることもなんかわからないし、終わったあと友達に「8割方わからなかったんだけど」「うん大丈夫、そのうち慣れるから」って突き放されて、みたいなスタートだったんですけど。

仲山 で、営業部っていうのがありまして、楽天に出店する新規の出店営業をする部署が営業部。その申し込みをしたあとに、オープンするまでの作り込みをサポートするというのが営業部の仕事で、最初はそれです。

enmono そこから始まったわけですね。そのあとはすごい勢いで成長していく感じですよね。

仲山 そうですね。僕が入社した時に出展数がだいたい500~600くらいだったんですけど……。

enmono ああ、充分すごいです。

仲山 それが6月なんですけど、10月に1,000店舗超えて、年末に1,500店舗くらいになって、そのあとすぐ2,500店舗くらいになるんですけど。僕が入社した翌月にECコンサルタントっていう職種ができまして、新規の出店営業からオープンしたあとのサポートも全部、一気通貫で――それまでは分かれてたんですけど一気通貫で――やるという仕事ができて、入社したのが6月21日で、7月から始まったんですけど、それの一人として仕事を始めてみたいな感じで。
仲山 その頃はまだアナログ、ダイアルアップの時代で……。

enmono ああ、懐かしい。

仲山 電話代かかるから出店してる人たちみんな夜の23時から、テレホーダイっていう定額制のサービスがあって、それをみんな利用するので、夜の23時を過ぎると電話がガンガン鳴り始めるという、それが一段落つくのが24時とか1時くらいで。だいたい2時か2時半くらいに定時として家に帰る。

enmono 朝は何時から?

仲山 朝は9時半から。

enmono なるほど。

仲山 家では6時間は寝たいので、家にいて意識があるのは、寝る前と起きた時の20分ずつ計40分みたいなのが家で意識のある時間で、あとはずっと会社にいるという感じでしたね。

enmono(宇都宮) カタカナ用語が全然わからなかった仲山さん的には、そういう仕事はスッと入れたんですか?

仲山 いや、全然スッと入れないです。毎日まわりの人のしゃべってる内容に聞き耳を立てたりして、「ブラウザってなんだ?」っていうところから始まるんで。「ブラウザっていうのはこの『ネットスケープ』って書いてあるヤツのことなんだな」とか。

enmono(宇都宮) パソコン自体は使えたんですか?

仲山 パソコンは会社に入って、メールとかワードとかは使うようになる、という感じです。

enmono(宇都宮) お客さんとの会話とかはどんな感じなんですか?

仲山 思いっきり手探りでわからないことだらけで、みんなに毎日のように怒られながらちょっとずつ覚えて。ちょっとずつっていうかものすごい勢いで。電話かかってきまくるので、全員で電話を取りまくるっていう全員コールセンターみたいな感じなんですよ。みんな出店したばかりで右も左もわからないみたいな人たちばかりなので、すごいんですよ。

enmono(宇都宮) それが500、1,000、1,500……。

仲山 そのスピードなんで。

enmono(宇都宮) 社員もその勢いで増えていったんですか?

仲山 全然増えなかったですね。だから最初ECコンサルタントは一人80店舗くらい担当だったんですよ。その時点で。それが半年後には200店舗に増えて。

enmono(宇都宮) すごいペースですね。じゃあ「電話繋がんねーぞ」という感じなんですかね。

仲山 はい。これはサポートできていないなという感じが段々精神的に負担になってくる中で、三木谷さんが楽天大学を作るっていう話をし始めて、その話を聞いて、出店してる人たちが講座を受けに来て、いつもこっちが電話口で一から説明しなきゃいけないヤツをまとめて聞いてもらえるっていうのはすごい画期的だなと思って、すごい喜んだんですよね。


楽天大学の登場

仲山 で、その起ちあげ役が自分に回ってくることになり。

enmono 「キミやって」って?

仲山 はい。お正月に副社長から電話かかってきて、「仲山君やんない?」って言われて「はい、やります」と。本当は違う人がやることになってたんですけど、その人が年末に会社を辞めたので。正月明けに「1月20日から始まります」って言われて、「わかりました。どこまで進んでるんですか?」って言ったら「6講座で始まるんだけど、1講座1万5千円で」「中身はどこまでできてるんですか?」「まだ1個もできてないんだよね。じゃあよろしく!」って。

enmono そこから作り始めたんですか?

仲山 そこからです。

enmono 第1回目の楽天大学はどんな感じでした?

仲山 6個の講座が「インターネットショップ成功の秘訣」という総論的なヤツと、「お店のコンセプトを考える」トップページという切り口で、それこそポジショニング。3C分析みたいな話とか、自分のお店・会社の強みはなんだろうとか。そういうものを考えるヤツと。

仲山 あと「商品ページの欲しくなるような価値の伝え方」みたいな話と「メールの講座」と、オークションの機能があったんですけど「オークションみたいな動きのある企画をどう活用するか」と、6つめがなかなか決まりませんでした。

仲山 副社長と色々ブレストをしながら、「なにを伝えたい?」って聞かれて、楽天のコンセプトっていうのは「Shopping is Entertainment」です。そのエンターテインメントっていうのは売り手と買い手のコミュニケーションが楽しいものとして価値があるっていうのが日本の中にはあるので、人はモノを買う時におしゃべりをして、「この人から買いたい」という形でモノを買うというのが一つあるから。

仲山 要は自動販売機じゃなくて――商品をネットにupするんじゃなくて――店をupするっていうコンセプトが楽天市場なので、売り手がお客さんとネット上でおしゃべりをする、コミュニケーションを取りながら商品の価値を伝えて距離感を段々縮めていって、商売を大きくしていく、「Shopping is Entertainment」のそういう意味合いを伝えたいなと。

仲山 その時に「魅力=コミュニケーション量の2乗」というフレーズを三木谷さんが使っていて、要はコミュニケーションを取れば取るほど指数関数的に魅力っていうのは伝わる、共有できている状態になる、そういう発想だったのでコミュニケーション量増大の秘訣というテーマで講座を作りっていう感じで始まって、僕まだその時に入社半年で箔がなさすぎるので会社の講座は創業メンバーが三人――社長は出てこなかったんですけど――やってました。

enmono 全体としてうまく回った感じがありましたか?

仲山 結局うまく回るというか、その頃はなんの仕事をやるにしても全員が必死というか。

enmono そうでしょうね。

仲山 膨大な業務量に押し流されながらも、その中で電話かかってきたり、メールやり取りしたり……それこそ夜中にメールやり取りすると、チャットもない時代ですけど、チャット状態で何往復もおしゃべりをするという関係の店舗さんもいて、「仲山君、月商100万というのはどうやったらできるのかね。今ウチ30万だから想像もつかないんだけど」みたいな話を。

仲山 で、僕らも「どうしたら売れるんですかね。100万も。売れてるお店はこんなことやってますけど」みたいな話を紹介したり。そういうおしゃべりをしてたところが、今はもう月に1億とか2億とか売れるようになってたりというのが、この10何年の間にあって、ずっと僕はそうやって現場で出店してる人たちと一緒にどうやったらもっといい商売ができるようになるのかねっていうのをずっとやってきているので。

enmono 現場で考えながらここまで来たということですね。

仲山 そうです。そこはあんまり変わってないんですけど。なので逆に言うと、仕事してる相手が社内の人よりは常に社外の人のことが多くて。
仲山 あとは僕が今なんでこういうスタイルになっているかっていう話でいうと、最初のスタートの時っていうのはネットショップっていうのは胡散臭いものとか、そういうスタートライン。世の中の認知度的にもそういう感じだったので、いかに安心して信頼してもらえるかっていうところがものすごく重要だったり、きっちり対応しないと相手にしてもらえないというところが大事だったりということだったんですけど。

仲山 段々eコマース自体が軌道に乗ってくると、みんなが欲しそうなものを持ってきて大量に仕入れてきて安く売ってセールかけてという風にするとボンと伸びるみたいな時代になってくると、僕がそれまでやってきた丁寧に売るみたいなノウハウというかやり方みたいなのって効率が悪いとなりますよね。だからもっと効率的に売上を伸ばす手法として、こんな風に売れるものを引っ張ってきて安売りすれば、広告すればいいんです。っていう売り方をするという人たちが成功という流れができて。

enmono 楽天の中でそういう流れができたんですね。

仲山 はい。で、それに乗っていく人とか、あとは新しく入ってきた人はそれが楽天の成功のやり方だっていう風に思うので、そういう人たちが引っ張っていくというか、走っていっちゃうみたいなのを、ちょっとついていけないなと思いながら見てるっていう感じになってきて。


●なにをやっているかよくわからない人に……

仲山 「なんか最近やることなくなってきたな」みたいな時に、テレビで「三木谷浩史さんがヴィッセル神戸のオーナーになりました」というニュースを見て、その時にたまたま社内の合宿があって晩ご飯の時に三木谷さんが僕の目の前だったんで、「はい、サッカー好き(挙手)。神戸、神戸行きたいです」って言ったんですけど、あれは三木谷さん個人でやってる会社のお買い上げで、楽天とはまったく資本関係がない。

仲山 ただ社長が一緒なだけなので。楽天からは誰もやらないよと言われて、「なんだ……」って思ったんですけど、2週間後くらいに秘書から内線がかかってきて「三木谷さんがお呼びです」。で行ったらめっちゃニヤニヤしながら「キミの願いを叶えてあげよう。明日から神戸行ってきて」と言われて。

enmono それはどういう仕事で?

仲山 って聞いたら「なんか開幕準備で忙しそうだから手伝ってきて。2ヶ月かな?」って言われて「わかりました」と次の日から本当に行き、結局1~2ヶ月じゃなくて、なんにもわからないし業界のことがわからないので、みんな忙しそうにバタバタしてるし、なんかできることないかなと思って見回したらオフィシャルグッズとかユニフォームがあったので、売るモノあるんだったらネットで売れるところ知ってるなと、楽天市場に普通に出店申し込みを入力をして。

enmono 社員なのに(笑)。

仲山 届いた申込書に書いてクリムゾンフットボールクラブ代表取締役三木谷浩史っていうハンコを押して。

enmono (笑)。

仲山 で、楽天の三木谷浩史さんに出店申込のFAXを送るっていう。三木谷to三木谷とか思いながら。向こうのグッズ担当の方を店長にして、一緒に結局2004年のシーズン1年間ネットショップを自分でやってみるという体験をして、結構売れてですね。

仲山 ヴィッセルの役員の人がほかのクラブの人の経営者とかで集まる会とかで「ウチ楽天始めたけど、これくらい売れてるよ」って言ったら「なんであのファンの少ないヴィッセルが? ネットでそんなに売れるのはおかしい。ちょっとやってること聞かせて」ということになり、色んなところに呼ばれて話をするみたいなことをやってました。

仲山 それをやっているうちになにが起こったかというとホームとアウェイの感じで東京と神戸を1週間ごとに行ったり来たりするみたいな感じになったんですけど、「会社にいることは期待できない人」という立ち位置が確立して、いなくても誰もなにも困らないという。
仲山 逆に言うとマネージメントでもないし、部下もいなければ、なにをやっているかもよくわからない、そういう状態になって。ヴィッセルの仕事は楽天の人事発令には一切出てこない非公式お手伝いなので、僕のことをちゃんと評価できる人が誰もいなくなるわけですね。三木谷さんしかいなくなる。

enmono(宇都宮) 人事じゃ評価できない。

仲山 部署のマネージャーっていうのはいるんですけど、その人は「自分のコントロール下にはないし」ということなので。そこでなんかサラリーマンとしてはおかしな立ち位置になってしまいまして。

enmono 今も同じ状態・状況なんですか? 評価者は社長なんですか?

仲山 違います。誰も評価はしない。

enmono 誰も評価しない(笑)。

enmono(宇都宮) 自己申告なんですか?

仲山 自己申告もしないです。


●兼業フリー、勤怠フリー、でも正社員

仲山 その後会社に戻ることになるんですけど、2004年のシーズンがちょうど終わったくらいのタイミングで会社へ出社したら役員が来て、「来月から出店者さん向けの月刊誌を創刊することになったの聞いた?」「いや、聞いてないです。めっちゃ大変じゃないですか。紙の媒体作るの」って。「でしょ?」「誰がやるんですか?」「でしょ? みんな忙しいじゃん。年末とかみんな書き入れ時だから、忙しいから仲山やって」って言われて、12月から1月の創刊に向けて。

enmono 1ヶ月?

仲山 はい。というのをやるために会社に毎日行くことになり2005年の1年間は月刊誌をずっと作るという。

enmono 月刊誌って大変ですね。1ヶ月しかない。

enmono(宇都宮) 編集者はいるんですか?

仲山 編集は僕です。制作協力はいます。レイアウトをしてくれたりとか。

enmono(宇都宮) DTPとか。

仲山 そういうのはやってくれる。印刷とかもお任せですけど、みたいなのを1年やって、それを誰かに引き継ぐことになり、あんまりやることがなくなったんです。その時に新卒の採用数がうなぎ登りに増えてて、3人、3人、3人、30人、70人、150人みたいな感じで増えていくんですけど、グループ全社で150人採用する中で楽天市場に60人来ますみたいな。

仲山 「これどうしよう?」みたいなのが、また「やって」っていう。で、1ヶ月まるまる教育係をやるというのもやり始め、それが終わるとまたやることがなくなってきて、新しいことを始めようと考えるんですけど、その頃にはだいぶ組織が大きくなってきて、なにか新しいことを始めようと思ったら「こんなことしたい」「こんな講座を開きたい」といっても話を通さなきゃならない人が10人くらい増えてるんですけど、みんな忙しいからそんな新しい講座とかどうでもいいんですよね。

仲山 それをやったら流通総額はナンボ伸びるのか、くらいしか興味がなくて、「チームビルディングやったからって何パーセント伸びるかなんてまったくわかりません」みたいなことになってくると、どうにもなんにもできない感じになってきて、この感覚って前の会社でモヤモヤしてた時の感じ「また来たな!」ってことがわかって。

仲山 僕、そういうのが合わないなと思ってちっちゃい会社に入ったのに、いつの間にか大きくなってしまう。「そろそろ、かな?」ちっちゃくするのももう無理だし。「そろそろ……(お別れ)」という話をしてみたところ、辞めずに済む方法を考えようみたいなことになって。

仲山 普段出店している人っていうのは全国中小企業の経営者の人が多いんですけど、そういう人たちとチームを作るとか、そのためには理念が大事だよねとかいうのを日々やってるんですけど、なんでみんな社長なのに僕だけサラリーマンなんだろう? というのがまた違和感としてあって、社長視座っていうのは1回社長をやってみないとわかんないなと思って「社長……やってみたいんですよね。でもこの会社で社長って当分無理ですよね」。グループ会社の社長になっても結局上司がいるし、みたいな。そんな感じで話をしてて。

仲山 だからここにいても本当の社長視座は味わえないみたいな話をしたら、「じゃあ兼業フリーで勤怠フリーで、でもまぁ正社員。そういうことにしよう!」ということになって。それだと辞めなきゃいけない理由がなくなったので「わかりました」と言って2007年からその感じに。

enmono(宇都宮) 起業されたんですか?

仲山 そうですね。その次の年にとりあえず会社を作ってみるという作業をやってみた。起業というか「会社を作ってみた」だけなんですよね。

enmono(宇都宮) え、でも資本とか……。

仲山 資本は1万円で。


●適切な視座を持つこと

仲山 (起業後)しばらくはなにもやることがないので……。

enmono(宇都宮) 資金繰りは必要ない。

仲山 僕の仕事の仕方は例えば講座みたいのをやったりするので、仕入れも必要ないし。

enmono(三木) それは会社の売上として上げるんですか?

仲山 会社の売上というか、なにをやるかも決めずに会社を作っただけなので、なにをやるかをそこから考え始めて、あまりにも手間がかかりすぎて、楽天の中では「効率悪すぎ!」と絶対に実現できないようなプログラムをやり始めました。

enmono それは依頼されてではなく自分で。

仲山 自分で作って。オンラインの私塾なんですけど、お題があってそれを回答するクラスの人たちが10人くらいいて、お題が25個あるんですけど、それを3ヶ月くらいにわたって、みんなが全部に答えていって、それを赤ペン先生みたいな感じでやり取りをするっていうプログラムをやり始め。

enmono それは経営的なお題なんですか?

仲山 例えば一つのお題としては視座の高さ。社長視座と平社員視座、課長視座、部長視座で見えているものって違うよね、という感覚を持てるかどうかは結構大事だと思うんですけど、それをGoogleMapで自分ちの住所を入れてみてくださいと。何メートルとかの目盛りがありますよね。それをマイナスしていくと高いところへ。

仲山 それって視点は一緒だけど見えてる範囲・視野に入ってくるものが変わってくることによって、高い視座から見た状態になることによって、ここで起こっていることの解釈って変わるよねという体験をしてもらうために、それぞれの視点の高さを設定してもらって、その高さで見た時に一番頭を悩ませる喧嘩は誰と誰の喧嘩ですか? みたいなお題をやるんですよ。

仲山 そうすると自分ちの近所しか見えてない時は夫婦喧嘩が一番頭を悩ませる問題ですみたいな話になるんだけど、段々上がっていくと町内同士の争いになったり、県と県の争いになったり、

enmono そのお題は自分で考えるんですか?

仲山 自分で考えてやるんですけど。

enmono それをオンラインでずっと?

仲山 そうです。その当てはめがちょっとズレてると、せっかく県と県を収めているはずなのに、ここに視点が行っちゃって、ちっちゃい争いに引っ張られて、要は現場の問題解決を自分がやってしまうみたいな。ここのポジションの人はそれをやっている場合じゃないんですけどねみたいな体験もあったり。

enmono 面白いですね。


●今いるステージに合わせたやり方

enmono そういう体験をまとめられたのが、こちらに持ってきていただいた3冊の本。

対談後に発売された最新刊

仲山 本当はこれの前に『「ビジネス頭」の磨き方』という本があって、それがお題を1冊の本にしたものなんです。

enmono この中央と右の2冊を買って、今真ん中のを読んでる最中なんですけど、この写真右側の――。

仲山 これはチーム作りの本で、それこそ楽天で商売始めて最初は売上伸ばしたいってなるんですけど。

enmono ECの講座でチームビルディングをするっていうのが最初「なんでそんなことをやってるんだろう?」と。

仲山 違和感がありますよね。ネットでの売り方をやっていると思われるんですけど、元々三木谷さんのお題としては「出店している人が自分で商売を考えて、自分で動けるようにならないと楽天のモデルは機能しない」そういう自走してもらうためのプラットホームを作るのがウチの仕事なんでと言って、考えるためのフレームワークを体系化しろというオーダーだったんですよね。

仲山 そういうのをやっていくうちに、うまく行き始めるところに「最近どうですか?」と聞くと「売り方はわかるんだけど、人数増えてきた割には儲からないんだよね」という話で、人とか資金が。

enmono 会社の経営自体がうまくいかないとECもうまくいかないということですよね。

仲山 しかも中小企業の社長で自分がネットでやってみようかといって自分でやったりとかするんですけど、その人のセンスとかヤル気とか、その人がスーパーマンだったから伸びたっていうのがほとんどで、そうすると人数が30人とか50人になっても結局自分だけが全部を決めてるみたいな状態になってて、ほかの人は発送だけやるとか誰も会社の売上のことは気にしてないみたいな。自分だけという風になったり。

enmono 結局ECなんだけど経営なんですね。

仲山 経営です。

enmono 出口としてのECというアプローチですね。


●常識ってなんですかね

仲山 で、チームビルディングがテーマになってくるところが多くなって。

enmono 今僕、この真ん中の読んでるんですけど、いわゆるECの常識と逆のことを「こうやってうまくいっている」という事例をたくさん。

仲山 常識ってなんですかね。

enmono 高いよりも安い方が売れるだとか。

enmono(宇都宮) 広告を打った方が売れるとか。

仲山 その常識って僕から見ると、「胡散臭いからなんとか信用してもらわなければいけない」ステージの次のステージ、「伸び盛りの時」の売上の伸ばし方なんです。だから、それしか知らない人っていうのは、僕から見ると基礎をすっ飛ばしてテクニック的にやったら伸びてしまうみたいな感じなので。

仲山 そういう人たちは伸び盛りの時はイケイケなんですけど、それが成熟期に入ってくるとそのやり方だと効率が下がってきて、儲からなくなってきて、キャッシュが回らなくなってきて、潰れるところは潰れてしまう。仕入れすぎて潰れる黒字倒産みたいな。

enmono ECにもたくさんあるし飽和しているところもありますよね。

仲山 ずっと売上は伸びていくものの、段々しんどくなってきてみたいな人が、幸せそうじゃなくなってきて、でも売上を伸ばさずにそこで一回自分のやっていることを見直して。

enmono S字カーブがこうなってきたら――。

仲山 次の(やり方)に乗り換えることになるんですけど、「自分の理念ってなんだっけ?」と振り返ったり、「誰でも売れる商品を仕入れてきて売るのは自分の仕事じゃないな」ということを確認して、とりあえず何千商品、何万商品と広げてきたヤツを自分が本当にやりたいとか強みを持っているところに絞りこんできっちりやっていくというスタンスに変えたりとか。そんな形になるところが時代の流れ的に増えてきて。なので、そういう意味で僕から見ると昔やってたことと一緒なんですよね。

enmono(宇都宮) 時代が追いついてきたという感じですか?

仲山 一周して元に戻ってきた感じがしていますね。

enmono(宇都宮) スパイラルアップしてますね。テクノロジーも進歩して、マインドも変わってきてるし。

仲山 まさに。


●マイクロモノづくりに通じるスタイル

enmono そう考えると僕らはモノを作る方の仕事をしているんですけど、結構近いところがあって、これまでの大量生産で大量消費するモノづくりはもう疲れちゃったと。どんどん納期があって、それに合わせてモノを作っていって、でもどんどん利益が薄くなっていく。疲れちゃうので、今後は本当に自分が欲しいモノを作って、それを共感できる人とシェアしながら育てていくみたいなモノづくりだなぁと。それがマイクロモノづくりの考え方なんですけど、まったく僕らの考えと同じ。

仲山 同じですよね。僕も楽天に出店しててお付き合いのある人は小売りの人もいれば、今まで卸しかやってないという人もいれば、メーカーの人もいて、結構印象的だったのが、木彫りのフクロウみたいなのを作っている人がいたんです。その人が楽天で初めて直販をして、買ってくれた人がその頃まだレビューの機能もないんですけど、メールをくれたと。

仲山 「すごいよかった」ということが書いてあって、「ありがとうございます」みたいなコメントが書いてあって、それを読んで「めちゃくちゃ嬉しい!」。今までは業者の人に価格と数量と納期だけで収めることしかしていなかったのが、お客さんからダイレクトに来るっていうのでハマって楽しそうにやるみたいな。そういう姿とかを見ているので。

仲山 あと逆に小売りの人とかが段々大きくなっていくと、ファンの――応援してくれる人たちの裾野が広くなるので、クラウドファンディングができるようになるんですね。オリジナル商品はロットの壁があって今まで作れなかったけど、このくらいファンの人がいて、メルマガを読んでくれて、新しいものが出ましたって言ったら「イイね!」って言ってくれる関係性ができてくると、PB(プライベートブランド)が作れるようになって、要はメーカーになっていくんですよね。

enmono そうなんですよね。

仲山 製造は外ですけど。そういうような流れを見ていくと、なんかこう産業革命から高度経済成長の中でも分業化されていった役割分担が機能しなくなってきて、またグルッと一周回って全部上流から下流まで作るところから直接お客さんに届けるところまで一つの会社としてやるみたいなスタイルに行き着いた人が結構幸せそうだなと。

enmono この本を拝見していて、仲山さんの視点は売るところから入っているんだけど、僕らは作るところから入っている、でも結局同じことをやっているということがすごくわかって共感しました。

enmono(宇都宮) 「ワクワクすること」というのを僕らは理念にしているんですけど、「つまんない」っていうのは伝わるんですよね。そのモノ自体が。買う人ってわかるじゃないですか。

仲山 わかります。

enmono 欲しいんだけど欲しくない。そもそもモノがいらない時代だから。

仲山 だから、なんでApple好きな人がApple買っているかというと、ジョブズのワクワクを買いたいみたいな向きもありますよね。

enmono でもスティーブ・ジョブズさんがいなくなって……。

仲山 そしたらモノとしては同じようなもんなんだけど、ワクワクっていう価値がなくなるんですよね。

enmono 今色んなラインナップ揃えてますけど、どんどんワクワク感が減少している気がします。

仲山 メーカーの人はダイレクトにお客さんと繋がってコミュニケーションが取れる状態を作るっていうのが多分すごく大事なのかなと。

enmono 共創ですかね。3冊目(『あの会社はなぜ「違い」を生み出し続けられるのか 13のコラボ事例に学ぶ「共創価値のつくり方』)の話題になりますけど。

仲山 こっち(『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』)が元々の商売系の話で、こっち(『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』)がチームビルディングなんですけど、これとこれを掛け合わせると、「お客さんとチームになれたら最強だよな」っていう、そういう発想になってきて、お客さんとチームになるというのを色々工夫しながらやってみようという場(プログラム)を作ってみると、うまく行きだすところが現れて。

enmono レモン部。

仲山 レモン部っていうのがあるんですけど、苗木屋さんが始めたレモンを育てる部活動で、普通に売ってたレモンの苗木を「レモン部」っていう風に言って30人くらい募集をかけて、1年間にわたって写真を撮ってもらって成長日記を送ってもらい、そこにコメントをつけてページにupしていくというのをやって、病害虫とかトラブルが出た時にはこうした方がいいですよというサポートとかをしてくれると部員もど素人なのに枯らさずにちゃんとレモンがなったりする。

仲山 そういう部活を始めたことで、素人の人ってこんなこともわかんないんだなって。例えば「葉が元気ないから水やりをして」と書いたら「水やりというのはどのくらいあげたらいいんでしょう?」「何リットルなんでしょう?」と聞かれて「何リットルというかドボドボ、という感じで」というやり取りをしたりしながら、「あ、そうか、ここから伝わらないのか」と。

仲山 いかに自分が今まで知識のあるお客さん――玄人しか相手にしてこなかったのかということがわかる。今までお客さんじゃない人がなにを知ったら園芸にハマっていくのかとか、ウチの店でずっと買い物をし続けてくれる人になるのかといったところに初めて接して、「なるほどな」って思う。まだまだできることがあるなって気づく。

enmono(宇都宮) 専門家も隣のことを知らないとか。モノづくりは本当にそうなので、設計できる人はデザインわからないとか、マーケットわからないとか。それって一通り全部みんなでやってみると、お互い教え合いになってくるというか。

仲山 みんなで同じことをやってみて、この人はこの辺が得意だからと役割分担が初めて決まっていくみたいなのがチーム作りだと思っているので。

enmono 3冊目の本にはチーム作りとか、あとは共創というのが結構……。

仲山 共に創るの共創。

enmono 最近、大企業もコ・イノベーションとか共創とか言ってますけど、やっぱり繋がる人の中に軸がないと繋がれないんですよね。

仲山 結局強みを持っている者同士、違う強みを持っている人が強みを持ち寄って、チームビルディングもじゃもじゃやると、うまく組み合わさって新しい価値を生み出せますみたいなのがチーム作りなので、うまくいかないよくあるコラボは「ここと組んだら向こうのファンが買うんじゃないか?」みたいな、お互いに相手に集客を依存しているというか。

enmono(宇都宮) 依存を手放さないと。各自が持ち寄るという感じですかね。

enmono バーベキューも、ちゃんと肉とか野菜とか持ってこないと、なにもありませんじゃ参加できませんからね。

enmono(宇都宮) お金だけ持ってきた人だけじゃ……。

仲山 なにも始まらない。お金もみんな持ってこない、みたいな(笑)。


●日本の中小企業の未来

enmono 3冊目、私も買って読んでみようと思います。

仲山 よかったら読んでみてください。

enmono まだまだお話を伺いたいんですけども、そろそろお時間の方が来まして、最後にいつも皆さんに質問していることがあります。「日本の○○の未来について」なにか。○○はご自身で入れていただいて結構なんですけども。

仲山 僕は楽天に入った時に共感したのが、「日本の中小企業を元気に」という理念だったので、「日本の中小企業の未来」ですかね。大企業ってなんで大企業かというと、製造業とかだと装置産業なのでデカくないと装置が持てないみたいなところがあると思うんですけど。

enmono 効率の問題ですね。

仲山 今よくよく考えるとそういうデカくないとできないことって……。

enmono どんどん少なくなってきています。

仲山 どんどんなくなっていくし、あとは「ずっと同じメンバーでやらなければいけない」というのが逆に弊害になる部分があると思うんですよね。変化が激しくて「これ、このメンバーでやらなくても、こっちで違う人も入れた方がいいよね」みたいなこととかがあるから、そういう感じで言うと大きいことの強みみたいのが相対的になくなってきてるというか、むしろ弱みになってきてると思っていて。

仲山 そういう意味で言うと小さいことを強みにできる人たちが活躍しやすくなっているのかなという気がするので、自由な働き方みたいなテーマとちょっと被るところがあると思ってるんですけど、どういうことかと言うと大企業でサラリーマンやってて自分のやりたいことが組織のせいでできないなと思って独立をするみたいなパターンってあると思うんですけど、でも独立したからと言って仕事を大きいクライアントさんに依存をしてたら、それって上司が社内の人から社外の人に替わっただけで。

enmono はい。上司の下請に。

仲山 まったく自由じゃない独立状態だと思うんです。自由な働き方って大きい組織の中にいても自由な働き方があるし。

enmono(宇都宮) こういう事例もあるし。

仲山 独立してても不自由な人もいるので、あとは自分の強みがなんなのかとか、どういう価値を生み出せるのかとか、ワクワクすることってどういうことなのかみたいなので、ワクワクを共有できる人と集まって、公園でサッカーしたいみたいな……メンバーは日替わりですみたいな、そういう状態のプレースタイルを編み出すことができるのは、大企業はなかなか変われないと思うので、中小企業の人の方がチャンスが大きいなと思っています。

enmono(宇都宮) オーナーシップがないと多分無理ですよね。どっかの子会社の中小企業ではまた雰囲気が違うでしょうし。

enmono 結論を言うと日本の中小企業の未来は明るいということですか?

仲山 明るいと思いますけどね。だって、やりたいことをやればいいんですもんね。

enmono(宇都宮) やりたいことを見つけようとしても、見つからない人も多分います。

仲山 「やりたいことをやったらいけない」っていう思い込みってあるような気がするんですよね。「仕事なんだから」みたいな。

enmono(宇都宮) 常識と勝手にこう定義しているだけですもんね。

enmono みんなやりたいことをやっていいんだよ、と。

仲山 「仕事なんだから我慢しないといけないんだよ」っていうのがすごいあると思っているので、逆に自由に働きたいというと、なんか朝寝てたいとか、がんばらないでもいいようにしたい、怠けたいみたいな、そういう考え方の人ってすごい多いなという気がしています。

enmono(宇都宮) 自由になるほど仕事時間が増えたり。

仲山 増えますよね。楽しいからやめ時が来ないし。

enmono(宇都宮) むしろ身体に気をつけなきゃいけないという

仲山 でも精神的には健康だったりするので、あんまり身体壊さなかったりしますけどね。

enmono なるほど、ありがとうございます。「売る」という立ち位置からの見方で色々お話を伺って、僕ら「作る」方なので、でもやってることはすごい近いなという、考え方もすごい近いなという、マイクロモノづくりにぴったりのこの3冊でございますのでぜひ。

仲山 そんな、営業していただかなくても。

enmono よろしければAmazon等で……。

仲山 楽天ブックスで!

enmono あ、楽天! 楽天ブックスで(笑)。

仲山 どこでもいいです(笑)。

enmono ぜひご購入くださいませ。ということで本日は非常に貴重なお話ありがとうございました。

仲山 ありがとうございました。


対談動画


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