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『ジンクラフターズ』デザインノート

クラフトジンが好きなデザイナーたちによる、ボードゲーム『ジンクラフターズ』をつくるプロジェクトがKickstarterで始まりました。この記事の執筆時点では、目標金額の196%となる1,377,309円のご支援をいただいています。
支援いただいた金額に応じて仕様や特典を豪華にできるので、最高なゲームに仕上げるのにご協力いただけると嬉しいです。

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『ジンクラフターズ』は、クラフトジン製造を体験できるボードゲームです。調べた限りではこのテーマを扱うゲームは世界初。お酒が登場するゲームは数多くあるのですが、ジンづくりにフォーカスしたものはないはずです。前例がないのは作り手として嬉しいですが、そのぶん未知数な部分が多いので、クラウドファンディングのプロジェクトとすることで反応を見つつ進めたいと考えました。

嬉しいことに、想像以上にこのコンセプトにピンとくる方は多かったようで、事前登録の受付時から日本国内外のボードゲームファンに加え、ジンやお酒好きな方や飲食店関係の方にも注目いただいております。

おかげさまでチームはやる気に溢れて、現在ゲーム内容の開発はほとんど終わっており、クラウドファンディング中にいただいたご意見や反応を取り入れた上で完成、入稿する予定で進行しています。

本noteはそんな『ジンクラフターズ』がクラウドファンディングに至るまでのストーリーとなる、ゲーム企画のコンセプトやデザイン意図などをまとめたデザインノートです。

企画のコンセプト

『ジンクラフターズ』はジンを作り、ジンの面白さを体験できるゲームとして開発しました。

ミヤザキがゲームを考えはじめるかたちは大きく分けて2通りあります。それは「何をゲームで表現するのか(テーマ)」か「何をゲームでしてもらうのか(システム)」の2つです。『ジンクラフターズ』は前者から考え始めた企画になります。

つまりクラフトジンがオシャレだからゲームつくってフレーバーに乗せましたという企画ではなく、クラフトジンが面白いのでその世界観を体験できるゲームをつくろうという企画です。

僕がジンに興味をもったのは数年前にあるボードゲーム会でクラフトジンを飲ませてもらったことです。僕にとってそれまでのジンは、銘柄を意識せずに居酒屋のジントニックで飲むものでした。しかし分け入ってみたジンの世界は、ボタニカルによって大きく印象が変わる面白さ、食事やシチュエーションに合わせて飲み方を変えられる柔軟性などのバリエーションに溢れており、なんてオシャレなお酒なんだと感動したのです。

本企画がまさにそうですが、今回のようにテーマから始まっている企画は、自分が感動したことを、もっと多くの人に面白いと思ってほしいというエゴが出発点になっています。

なので設計当初に手に取った資料はジンに関する本で、ゲームシステムはそこから考えましたし、ゲームデザインで迷った時はジンの製造方法や歴史、使われる材料などに立ち返るようにしていました。後述もしますが、たとえば「ジュニパーベリー」が大事なアイテムになることは最初から決まっていました。

そして、こうしたエゴとコンセプトをご理解いただけて、同じくジンを愛するJUGAME STUIDIOさんとのコラボレーションで、『ジンクラフターズ』の企画が始まったのでした。

ゲームシステムのコアにある要素

『ジンクラフターズ』はプレイ時間だいたい40〜60分程度、拡張セットを入れて90分ほどの、中量級といわれるボリュームのゲームです。材料を集めて、ジンを作り、蒸留所の評判を高め、もっとも多く勝利点を集められた人が勝者になります。

実はかなり、入れたい要素を削っています。ジン作りの世界はこだわりだらけなので、複雑にしようと思えばいくらでも味を足してボリュームを増やすことができるのです。ですが今回のコンセプトは「クラフトジン面白い!」と多くの人に知ってもらうことなので、特に基本セットではジンづくりの仕上げ部分に要素を絞って、楽しさにすぐに辿り着けるようなシステムにしました。

ジンのつくり方は簡単にいうと「強いアルコールにボタニカルと呼ばれるハーブやスパイスを漬けて香りをつける」こと。とてもシンプル。僕も家で作ったことがあるくらいです。

ジャンルとしては蒸留酒で、通常はもっと工程があるのですが、そうでなくてもOKな自由さがジンの魅力の一つだと思います。

ただしそれでもジンを名乗るお酒が必ず守っているのが、ジュニパーベリーというボタニカルを使用していることです。

ジュニパーベリー

実物を目にしたことがある人はそんなに多くないと思いますが、ジンを飲んだことがある人が実の匂いをかぐと、「ジンの匂いだ!」ってなります。むしろこれが入ってなかったら、同じ製法でもジンではない何かになる、というボタニカルです。

だからゲームシステムも、ジュニパーベリーがなかったらジンを作ることすらできないようにしました。ジンを作れなければ勝利点を得られません。もっと過激に言えば、ジュニパーベリーを軽んじるプレイだとなかなか勝てないゲームになっています。

その前提で、自分がもっているジンのレシピのアイデアに沿った他のボタニカルを揃えていく必要があるので、ジレンマに悩む時が結構発生します。ただ、優先順位が明白でない中でジンをつくっていく流れは実際の試行錯誤にも通じるのではないかと思います。

ゲームデザインのこだわり

『ジンクラフターズ』はプレイ感が重くなり過ぎない範囲で、ジンづくりのプロセスを再現し、体験できるように意図したゲームシステムをコアに置きました。この項ではさらに細かい、ゲームデザインのこだわりをご紹介します

それはプレイヤーに、ボードゲームだからこそ得られる栄養を摂取してもらうことです。

『ジンクラフターズ』に限ったことではありませんが、せっかくいい大人が集まって、そこそこまとまった時間を使うなら、そこでしか持ち帰れない体験をしてほしいと思います。ボードゲームというメディアを通じて、その瞬間にたまたま集まれた人たちだから生まれるセッションを楽しめてこそ、遊ぶ価値があると考えているからです。

そのために必要なのが、意思決定と相互干渉の要素です。

まず意思決定について。自分で考えて決めたことがゲームの勝敗に影響を及ぼしている感覚とも言えます。例えば『ジンクラフターズ』では、どのジンのレシピを製造するかの順番、市場から材料を仕入れるタイミングがそれにあたる要素です。最初は、あまり考えずに持っているカードの材料を揃えていくだけでも十分楽しく遊べます。

ただゲームが進んで慣れてくると、どういう順番で・どんな効果をもつ材料を使ってつくる、他のプレイヤーの狙いまで解像度が上がり、選択肢が広がります。そこまで見えるようになると「どう考えてもこれが正しい」というラクな意思決定はあまりなくなるので、ジレンマに悩むことになるでしょう。

そうすると決着がついた後に、「あーあの時はこっちにしとけばよかったのか〜」「悩んだけど、この選択が勝利の決め手だった」などと振り返ったり、「黙ってたけど実はあの時、このアクションされたらやばかった」なんて語り合うのが楽しいです。これぞ、ボードゲームを直で集まって遊ぶからこその会話ではないでしょうか。

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つぎに相互干渉について。プレイヤー同士がゲーム中に影響を及ぼしあうことです。僕は干渉には、大きく分けて消極的な干渉と積極的な干渉の2種類があると考えています。

消極的な干渉とは、ゲーム全体に対する干渉が結果的に他プレイヤーにも影響を及ぼすことです。
『ジンクラフターズ』では市場に出てきたボタニカルやジュニパーベリーは、誰かが買うとなくなります。なので、わざと他のプレイヤーを邪魔しようと考えなくても、結果的に邪魔したようになることがあります。やられた方は「くそ〜」って気持ちになるかもしれませんが、まあそういうもんだよねと納得もできます。こんな感じが消極的な干渉です。

市場から買われたボタニカルはプレイヤーの手元に入る

一方で積極的な干渉は、他のプレイヤーに対して明確な好意や害意をもって何らかのアクションをし、影響を及ぼすことです。『ジンクラフターズ』にはこれはありません。なぜかというと、かなり人を選ぶシステムだからです。害するために誰かを選ぶって日常で普通はしないですし、大きな心理的負担になってしまう方もいるでしょう。やられた方もいい気はしないかもしれません。
プレイヤーとしてのミヤザキ個人はこうした積極的な干渉が大好物ですが、それを望まない人が多いことも知っています。

とはいえ、積極的な干渉はセッションあたりの喜びをハネ上げるポテンシャルを秘めているのも確かです。そのゲームだけでしかできない、リングの上だけで許された反則技を打ち合う遊びは、愉悦と解放感をもたらします。それを楽しみあえる仲間同士でのプレイは最高の体験です。

そこで『ジンクラフターズ』では、消極的な干渉と積極的な干渉の中庸を目指して、「ボタニカルのシェア」というアクションを用意しました。

通常でしたらジンを完成させるには、自分でレシピの材料となるボタニカルを揃えなければなりませんが、1個だけ他プレイヤーから「借りた」ことにしてつくることもできます。貸したプレイヤーのボタニカルはなくなったりはせず、お礼にストックから2コインを受け取れるメリットつき。

借りる方はちょっとズルができて、借りられた方は相手が得してしまうけど自分も得するので、win-winです。むしろ借りてほしいときだってあるでしょうし、それをきっかけにふしぎな会話が生まれてたりもします。これについては実際のジンづくりであるわけではないと思うのですが、ゲームを楽しくするための味付けとして考えたシステムです。

こんな感じで、実際のジンづくりをベースにしながらも、ゲームとして遊んで楽しくなるような意思決定・相互干渉の要素を加えて『ジンクラフターズ』はできています。

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というわけで、『ジンクラフターズ』の企画コンセプト・ゲームシステムのコア要素・ゲームデザインのこだわりのお話でした。

さらに詳しい情報(プロジェクトの概要、細かいルール、拡張セット、アートワークなど)が気になった方はぜひ、プロジェクトページを覗いてみてください。ページのシェアだけでも大歓迎です!

ナイスプレー!