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それさなぁ五人の色男

 幼い頃土曜日の夜になるとドキドキしてテレビの前に座ったものである。

 時計の針が午後八時を指すとウグイス色の法被を着たゴリラ顔の大男がいきなり画面に大写しになり決め台詞を放つ。

 八時だヨ!

 全員集合~!!の大合唱が会場に鳴り響く。

 すると軽やかな音楽とともに客席から四人の男たちが賑やかにステージに上がる。

 生バンドの演奏で軽快なテーマソングが流れている。
 
 いつの間にかステージにはその日のゲストのスターたちも並んでいる。

 そして一曲踊り終えたら番組はコマーシャルに入る。

 そこまで一気に見てからさぁ始まったぞぅとワクワクした気持ちになる。
 
 これが私の記憶している小学生時代に最高に好きだった八時だヨ!全員集合のオープニングである。

 この時点で期待値はすでに最大で興奮してくる。

 コマーシャルが明けると定番の生コントである。

 おいっす!とゴリラ顔の大男こといかりや長介がステージの上から客席に声をかける。

 客席からは小さな子どもたちのおいっす!が元気よく返ってくる。

 声が小さいっ、もう一度おいっす~!と言うとそれを上回る金切り声で子ども達がおいっすぅ~!と答える。

 そのやり取りに満足するといつも唐突にお芝居が始まる。 
 
 いかりや長介が学校の先生や大家族のお母さん、アパートの大家に扮して残りの四人が生徒や子どもに扮してコントが繰り広げられる。

 私が観ていた頃にはすでに荒井注はドリフを卒業しており、まだ髪の毛がフサフサで初々しい志村けんの人気がうなぎ上りの時期だった。

 コントの内容はいつも大体同じで高圧的ないかりや長介を前に他の四人がどこまでもふざけるという流れがあった。

 生放送なのでセリフが飛んだり小道具の仕掛けがうまく動かなかったりというハプニングも多くてそこがリアルで面白かった。

 番組の前半を占める生コントが終わるとその日のゲストの歌が始まるがあまり興味のない大物歌手などが出ると退屈だった。

 歌が終わると後半のショートコントが始まる。

 このコーナーは何だか気の抜けたような内容のものが多かったようであまり記憶に残っていない。

 それでも早口言葉やじゃんけん決闘はゲラゲラ笑いながら見ていた。

 中でも鮮烈な印象があるのがヒゲダンスで加藤茶と志村けんが燕尾服に付けヒゲでペンギンのようなダンスを踊りながら登場するとよっ、待ってました!という気持ちになった。

 お笑い番組なのにバケツに水を入れてグルグルと振り回して遠心力で水が落ちないという目からウロコな芸からグレープフルーツを放り投げて剣で刺すという難易度の高いものまで大道芸テイスト満点で渋いものが多かった。

 意外だが番組でこのコーナーが放送されたのは一年程度であったそうである。

 あのBGMとダンスは私と同年代の方ならば脳内で簡単に再生することが出来るだろう。

 後半のショートコントが終わるとあっという間に番組はエンディングになだれ込む。

 生放送なのでその時の残り放送時間に応じてエンディングのいい湯だなの曲のテンポが速くなったり遅くなったりするのも密かな見どころだった。

 加藤茶がいつもの口上を述べてからまた来週~と番組が終わると夢のテレビの時間はおしまいである。

 我が家は九時に寝る決まりだったのでしっかり歯を磨いてすぐに布団に潜りこんでいた。
  
 もっとも興奮してテレビを観た後なのでなかなか眠れずに横で寝ている兄とさっきのドリフについてお喋りをしてゲラゲラと笑い転げたものだ。

 月曜日の教室は当然お前ドリフ観たか?というのが合言葉である。

 誰かかがふざけてヒゲダンスを踊りだすとみんなで輪になって踊り狂ったものである。
 
 どちらかというとドリフは男子人気が高かったので女子はその姿を見てバカみたいと冷めていた。

 確かにドリフのギャグは男子受けするものが多かった。

 それから数年して全員集合が終わるという最終回もちゃんと見届けた。

 私が幼児期から小学生の頃にかけて全員集合から受けた影響は多大なものがある。

 何より夢中になってテレビを観ていた時代が懐かしい。

 ビデオもまだ普及していない時代にちょっとだけでも観逃すまいとテレビに齧りつく緊張感はもう味わう事が無いのだろう。

 そんな事を考える時点でもうピュアな少年時代は遠くになったんだなぁと思うと少し切ない。

 冒頭に書いたいかりや長介、大男説だが実際の彼の身長は175.2cm。

 何だ私の方が高いじゃないか。

 子どもの頃は絶対に二メートルはあると思っていたのだが。

 それだけいかりや長介が幼い私には怖かったんだと思う。

 そんなテレビマジックが通用した時代、それはとても眩しくて。

 出来る事ならば記憶をすべて消してまっさらな状態でもう一度全員集合を最初から観たいものである。

 あんたも好きねぇ。

 

 
 
 

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