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新政とは、Appleなのか?   「新政酒造」の日本酒が特別な理由

「日本酒を好きになったお酒」は「新政」です。

そう書くと、どこか気恥ずかしさを感じます。ヒットチャート1位の歌手のファンであると告白するのと似た感覚です。「嗜好品」であるお酒には「自分だけが好きなおいしさ〜」ような心情の機微もあるのかもしれません。

でも、おいしいものはおいしい。

日本酒の異端であり先端、熱狂的な支持を集める「新政」について書きます。

新政酒造は秋田県の地酒蔵です。創業は1852年。現存する最古のきょうかい酵母「6号酵母」が採取されたという由緒正しき名門です。
昭和以降、大量消費用のいわゆる「普通酒」を製造・販売していたのですが、8代目の佐藤裕輔さんが2007年に蔵に入ると、大きく方向転換。数々の酒造改革と行い、大ブームとなりました。代表銘柄である「No.6」は現在も入手困難です。

日本酒のイメージがリセットされた!

僕が「新政」を知ったのは、仕事がきっかけでした。編集・ライターとして佐藤社長に取材させていただくことになり、「下調べに」とお店で実際に飲んでみたのです。
別にお酒にこだわる方ではなかった(なんでもよかった)のでそもそも舌ができていないのですが、「日本酒ってこんな感じだろうか」という薄い概念が、ひと口で綺麗になくなりました。
重くないし、軽い、甘い、酸味がクッとくる、とにかく飲みやすい。

…なんだこれは、と。

今でこそ増えた「洋食にもあう日本酒」を知ったはじめのお酒でした。

不思議と、新政を入り口にいろいろ飲むと、それぞれの日本酒の個性が好ましく見えるようになったのを覚えています。

生酛、純米、木桶…すべてがかっこよかった!

そして実際に取材させてもらったのですが、いやー、かっこよかった。佐藤社長のコメントがめちゃくちゃ尖っていたのです。なにしろ普通酒メインの蔵がたった数年で、
・全量生酛
・添加物完全不使用
・木桶復活
など、すごい改革をやっているというだけで面白い。

しかも、この手の話によくでる「お客様のため」「品質の追求」のようなツルンとした話はいっさいなし。

「江戸の酒造りこそアナログの最高峰だ」「6号蔵のアイデンティティを形にする」「現在のニーズに合わせるのではなく、新しい市場を作る」

そう、新政は「自分がよいと思う道」をただただ進んでいるのです。

さらにちょっとマニアックになるのですが、新政の生酛(ざっくりいうと自然の力を使った伝統的な方法)は、ただ「生酛の手法」を取り入れるわけではありません。生酛造りのメカニズムを研究した結果、生酛の代名詞である酛すり(桶とかに米いれて木の櫂棒でぐりぐりしているやつです)を排除。ビニール袋にいれて、数日かけて手でそっと「ゆする」だけの「手酛」という手法をとっているとか。

ただポーズで生酛をやっているのとは、明らかに違う。

この時点で、ほれました。

デザイン、商品名、すべてに「美」がある。

新政の美意識を知るなら、HPをちらっと見れば十分です。

新政酒造
http://www.aramasa.jp/

多くの日本酒蔵のサイトで「心のこもった酒造り」「美しい水と自然に感謝」「匠の技」などといった言葉が踊るなか、新政は「よくわからんけどカッコいい模様」があるだけ。あとは英語です。お酒好きのおじいさんが見ても「?」になること間違いなしです。(僕も?となっています)

それは新政が、新政に共鳴してくれる人だけにメッセージを発信しているから。

商品名にもそのスタンスは貫かれています。

代名詞である生酒は「No.6」。
火入れの定番酒は「Colors」で、使用米によって「エクリュ」「ラピス」「ビリジアン」など。
白麹を使った酸味の強いタイプは「亜麻猫(あまねこ)」、
季節限定の低アルコール微発砲酒は「天蛙(あまがえる)」、
貴醸酒は「陽乃鳥(ひのとり)」

どれもこれも「新政らしさ」が満載です。

ちなみに新政では、日本酒によくある「純米大吟醸」「特別純米」といったスペックは表記されていません。「もう、お酒の評価は既存の枠組みではなくなる」となにかで言っていた気がします。かっこいいぜ。

新政信者が熱狂する頒布会

新政は年に1度、試験的な醸造を行なった限定酒を販売するイベント「頒布会」を行なっており、毎年ファンたちで大いににぎわいます。

普通に買おうとしてもまず不可能。取り扱いのある酒屋さんに通い詰めたり
抽選したりしてやっと手に入れることができます。今も日本酒好きたちのタイムラインで今年限定のNo.6の画像(今年は真っ赤!)が流れてきます。(新政の日である6/6だったらしいです…なんだよ「新政の日」って)

通常の商品ではなく、あえて実験的な限定酒を出し(少しだけ)、ファンたちがそれに一斉に盛り上がる。(よくないけど、メルカリで高値で出ているとか)
一部では「新政信者」といわれるほど、外から見ると異様に感じられる「熱」があります。

僕はそこまで買い詰めるほどではない(環境も経済面も)のですが、熱狂する気持ちはわかります。

味はもちろん最高に美味しい、その上で、新政の「哲学」は、なによりも心地よい酔いを運んでくれるのです。

例えば、新政が取り組んでいる木桶造りは、メリットばかりじゃないはずですし、否定的な話も聞きます(そもそも、欠点があるから金属に変わった)。

でもそれは飲みてからすれば、味がどこにどう影響したか以上に、「新政だから」でいいのです。だって僕たちは「新政」が飲みたいのだから。新政が「こうしたい」といったら、それが正解なんです。


つまり、新政は、Appleだ。


過度に客を見ず、自身の強烈な哲学と世界観で周囲をひきつける。

革新的な方法で、常にファンを驚かせ、熱狂させる。

味、名前、デザイン、トータルで「新政」を感じさせてくれる。

だから、僕は新政に惹かれたのだと思います。(ずっとmacユーザーです)


いまいちど、新政を飲もう

新政で日本酒を好きになり、いろいろなタイプのお酒を飲んで楽しんでいるうちに、いつのまにか新政とは縁遠くなっていました。(近所に新政を買える酒屋さんがなくなったのです)

改めて、新政を飲んでみました。(もっとも入手しやすいエクリュです。本当は今世の中をざわつかせている赤色が欲しかった…)

すると、

この栓…すごくないですか。

他でどのくらい使われているかわからないけど、あまり記憶にない。

高級車が「ドアを閉める音」にこだわるように、
「新政」はこんな細部にまで心血を注いでいる

やっぱり、新政はすごい。




ちなみに、新政がAppleだとすると獺祭はgoogleだと思っています。
GAFAでピンをくるものありましたら、ぜひお教えください。


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もちろん、お酒を飲みます。

ありがとうございます。お酒がさらにすすみます。
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クリーミー大久保(日本酒)

酒を愛するクリーミー大久保です。10数年間、お酒に寄りがちな編集・ライターとして活動してきました。ブログというコミュニケーションの勉強、そして日本酒メディアの立ち上げを目指して、美味しいお話を綴っていきます。

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